2話③ 「伏魔殿でも」
⚫︎コータ
「――そうだ、この鉛筆削り!
ガクが書いていた手帳だ!
文具ロボット【STA】とか書いてた!
まさか……コレ、ロボットに変形するのか……?」
それは、ガクが妄想で書いていた鉛筆削りによく似ていた。ガクの下手くそなイラストよりも洗練されてはいるが。
⚫︎コータ
「乗り込むには、機体の名前と装備って叫べばいいんだっけ……?
コイツの名前は確か……」
竜巻で回るコータは、記憶を辿るために目を瞑って脳みそもフル回転させる。
――そして、しばらくの思考の後、
⚫︎コータ
「――!
【オーネ】、装備!」
機体名称を思い出したコータは、発光する鉛筆削りを強く固く握りしめて、竜巻の中で声を響かせた。
鉛筆削りの光が大きくなり、周囲を覆う竜巻を一瞬で掻き消した。
⚫︎カメリア
「え!?
どうして!?」
驚くカメリアの瞳には、空に浮かぶ直方体の黄色と緑の小さな箱が映っている。
更にその箱の上で、目が渦巻きのカズとエージがぐったりしている。
⚫︎コータ
「おおっ、スッゲェ〜!
本当に乗れたぜ!」
覚醒した鉛筆削りロボットの中。
ヘルメットを被るコータが、心底楽しそうにコックピットのサドル部に座って体を上下させている。搭乗と同時に、パイロットにヘルメットが装着される仕組みになっているらしい。
⚫︎コータ
「ガク〜〜〜〜!!
見てるかあぁあ〜!!
お前の考えたロボットが現実になってるぞ〜〜!!」
コータは360度のモニターを見回しながら、ガクを探して声を張り上げる。
【ダストオーネ(通称オーネ)】。
底面は緑で、それ以外は黄色の鉛筆削り型のSTA。
削り穴の部分はバーニアになっている。中心部の1本のボルトで留められた装甲の真下に刃。更にその下にコックピットが存在。このボルトは余程のことがないと外れることがないので、1本だけでも防御面が脆いという訳ではない。
オーネはそのまま、地上にズシンと大きな音を上げて着地した。
地面が激しく震動。衝撃の波が砂嵐を起こし、カメリアの視界を遮る。
ガクが乗ったラピスよりも、オーネは遥かに重量があるようだ。
⚫︎コータ
「エージ、カズ!
上にいるんだろ?
無事か!?」
⚫︎エージ
「うぅぅ〜ん……な、何とか……」
⚫︎カズ
「きもちわるい……はきそう…………」
とりあえずは無事のようだが、このまま2人がオーネの上にいたままだと危険だ。
⚫︎コータ
「エージ!
カズを連れて、遠くに離れてろ!」
⚫︎エージ
「お、おう……。
…………って、何でお前その中にいんの?」
⚫︎コータ
「説明は後でゆっくりしてやる!
面白いことになってきたぜ!!」
エージは状況を理解できていないながらも、カズを担いでオーネから降下、学校と思しき建物の入り口の方へと避難していく。
⚫︎コータ
「ガク、よくわかんねぇけどおかげで助かった!
サンキュな!」
コータは両足をしっかりとペダルに置き、ハンドルを握る両手に力を込めて、臨戦態勢に入る。
⚫︎コータ
「操縦方法は自転車と同じ……って書いてたよな……!
ガクよ……今から動かすから、近くにいたら見とけ!」
⚫︎カメリア
「何なのよ!
あれは!?」
視界をようやく確保できたカメリアが狼狽えながらも、炎を飛ばしてきた。
⚫︎コータ
「っと!」
コータは前進しながら、迫り来る炎の弾をガードするようにハンドルを斜めに傾ける。
すると、オーネがその方角ピッタリに駆動、機体前面をフルに使って炎を弾くことに成功。
⚫︎コータ
「よっしゃ!」
⚫︎カメリア
「何よ、何よぉぉ〜!
そんなヘンテコな箱にあたしが負ける訳ないんだから!」
カメリアがステッキからどんどん火炎弾を発射してくる。
⚫︎コータ
「おらおらおらおらおらあっ!!」
その度にコータはハンドルを動かしてさばいていく。
……だが。
⚫︎コータ
「コイツ結構、動きが遅いな……!
ハンドルも思ってたより重たい……!」
オーネはラピスとは違って機動力には秀でていない。一つ一つの動作のスピードが遅いので、連続的な行動は向いていない。
更にオーネは正面と背面が短く、側面が長いという形状故に、正面だけで攻撃をさばき続けるということは、防御範囲が狭いので次第に対応が難しくなってくる。
⚫︎コータ
「!!」
……やがて、火炎弾の連撃をさばききれなくなり、オーネは直撃を受けてしまった。
⚫︎カメリア
「ほら見なさい!
あたしの方が強いのよ!!」
カメリアがドヤ顔で得意がる。
オーネは後ろに吹き飛び、その後は地面を滑っていきながら動きを止めた。
⚫︎コータ
「悪りぃ、ガク……食らっちまった……!」
内部衝撃を殆ど吸収するというSTAの特性上、機体がダメージを受けてもパイロットにはそのダメージは入らない。だが、機体そのものにはHPが設定されている。それがなくなればお終いだ。
⚫︎コータ
「……そーいや、必殺技あるんだよな?
どーやって、使うんだっけ……?」
記憶とハンドルの周りを探っていると、ベルがコータの視界に入った。
⚫︎コータ
「そーだ!
コレだ!!」
コータはベルの出っ張りを勢いよく押した。
……すると、ベルがパカっと開き、中からサブモニターという名の小さな液晶画面が映し出される。
サブモニターの液晶画面には、【ギア1】という数字の他に、オーネの残存HPとエネルギーがゲージで表示されている。エネルギーは満タンから殆ど減っていないが、HPの残りは7割を切っていた。
⚫︎コータ
「今の攻撃をあと2、3回食らったらアウトかよ!
負けらんねぇ!」
サブモニターの画面の下に、【ドライ・ブレード】という必殺技名の表示。
⚫︎コータ
「いくぜ!
必殺――【ドライ・ブレード】!!!」
コータは熱く叫んで、液晶の技名の部分をタップした!
直後、オーネの上面中心部を留めてあるボルトが外れ――装甲が開いた。
そして内部から、2輪の歯車が付随されてある大きなブレードが出現した。
ブレードはカブトムシの角のようにオーネの先端に取り付き、開いた上面部の装甲が再びボルトで締め付けられる。
⚫︎コータ
「おおっ、でっけえ剣!!
オーネの何倍もあるぞ!」
光沢を放つ、圧倒的な質量の鋼の刃。
【ドライ・ブレード】の雄々しき姿に舞い上がるコータは、迷わずオーネを再起動させてカメリアに突っ込む。
⚫︎コータ
「おおおおおおおお!」
⚫︎カメリア
「そんな物!
ふざけんじゃないわよ!」
カメリアが炎を細長く鋭利な形状に変化させて、こちらへと飛ばしてきた。それはミサイルのように多方面からの波状攻撃。
⚫︎コータ
「回転切りだああああ!」
コータはギアを3に上げた後、オーネをその場に静止させ、ハンドルだけをグルングルンと回し続ける。弾力性のあるハンドルを船の舵を取るように軽やかに回していく。
オーネがハンドルの動きに合わせて、その場から一歩も動かずに回転。
飛んでくる炎のミサイルを、先端の【ドライ・ブレード】の巨大な刀身と2輪の歯車が切り払って防いでいく。
⚫︎カメリア
「――っ!!」
⚫︎コータ
「わははははははは!
こりゃいいや!」
【ドライ・ブレード】を振り回すコータはご満悦。
初めて操縦するのに、充分に乗りこなしている。
⚫︎カメリア
「焦ったい!
だったら、これならどうよ!」
カメリアは振りかざすステッキに力を込める。
彼女は火炎弾を、家一軒分程度の大きさにまで増幅させ、オーネを自棄気味に焼き尽くそうとしてきたのである。
⚫︎カメリア
「えええええええい!!」
一目見ただけではっきりわかる。
例え今のオーネのHPが満タンだったとしても、一発食らえばアウトなのが。
――これが、カメリアの切り札らしい。
⚫︎コータ
「おい、カズゥ!
ここが福真殿でも関係ねぇよ!」
⚫︎カズ
「!?」
コータは視界から外れているカズに向けて叫んだ。その声は、離れた所で身を隠すカズにもしっかり聞こえていた。
⚫︎コータ
「確かに、おれたちはヤバいことに巻き込まれたかもしれねぇ……!
でもよ、だからって怯えてばっかりいるよりも、開き直って何とかなるって思ってる方が――」
コータはハンドルを思いっきり真上に上げる。
先端の【ドライ・ブレード】もその動きにリンクして、直立する。
⚫︎コータ
「世界が広がって楽しいぜ!!!」
コータはハンドルを下げながらオーネを前進させて、炎へと飛び込んでいく。
カメリアの一撃に重ねるように。
そうして振り下ろされた【ドライ・ブレード】は、それよりも質量が大きなカメリアの火炎弾を、綺麗に跳ね返した。
火炎弾は真っ直ぐなコースを描いて、カメリアに向かっていく。
⚫︎カメリア
「――な!?」
ドオオオオオオオオオオン!!
物凄い爆音と爆風で辺りが炎に包まれる。
辺り一面、瞬く間に焼け野原だ。
オーネは攻撃型の特性を持つSTA。火力は3機存在するSTAの中で随一。
……しばらくして、炎の中からシルエットが現れた。
周囲の炎や煙が晴れて、先程の光景に戻っていく。
⚫︎カメリア
「く、く、うぅぅ……」
黒焦げ度合いが更に増したカメリアだ。
身体をプルプルと震わせ、涙を必死に堪えている。
⚫︎カメリア
「……こ、今回はこれくらいにしといてあげる!
勘違いしないでよ!
早く帰らないと、アイツに嫌味を言われるだけだから!!
決して負けた訳じゃないからね!!」
と、悪役のテンプレな捨て台詞と、意味不明な言い訳を吐き散らかした後、カメリアは風のような速さでどこかに走り去って行った。
⚫︎コータ
「………………あ?」
その姿がなんともマヌケだが、愛嬌もあって。
⚫︎エージ
「追わなくていいのか?」
いつの間にかエージが出て来ていた。
その背後には、不安げな表情のカズもいる。
⚫︎コータ
「……なんか、アイツの相手してるのが、馬鹿らしくなった……」
⚫︎エージ
「お前がそこまで言うなんてよっぽどだな……」
興醒めしたコータは、サドルの後ろの壁にドサっともたれた。
疲れたという動作とは裏腹に、その口元から笑みがこぼれて止まらなかった。
⚫︎コータ
「へへっ……ありがとよ、ガク……!
こんなカッコいいロボット、考えてくれて!」