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1話③ 「ぼくの夢は」




⚫︎ピーチ

「やったあ〜!!

可愛いっ☆」


 ミツルをぬいぐるみにしたピーチは、ピョンピョン跳ねて喜んでいる。




⚫︎ガク

「ミツルくん!!!」


 ガクは、ぬいぐるみになったミツルに手を伸ばそうとする。



⚫︎ガク

「……コータくんとミツルくんが!」


 ……だが、フミレに手を掴まれて引っ張られる。



⚫︎フミレ

()()()って言われたでしょ……!

あの人は助ける、後で必ず……!」


 声を震わせているフミレは、ガクの手を引きながら全力で駆け出した。


 彼女はさっき4人で走っていた時よりも、数段速かった。さっきまで最後尾を走っていたとは思えない速さだ。



⚫︎ガク

(……そっか、フミレさんはぼくよりも足が速くて運動も得意だった……。

さっきまでのフミレさんは、わざと遅く走っていたんだ……。

もしもの時に自分が犠牲になろうとして、一番後ろに……)



《正しい人間になれ》


⚫︎ガク

「……!!!」


 唇を噛むガクの脳裏に響くのは、昔誰かに言われた言葉。




⚫︎ガク

(何をやっているんだぼくは……!

女の子に手を引いてもらって、気を遣われているなんて……!

情けない、自分の足でちゃんと走れ……!!

それが今この場で正しい選択のはず……!!)


 ガクはフミレの手を離そうとする。



⚫︎ピーチ

「わたしの夢は、

世の中を可愛い物でいっぱいにすること!!

だからアンタたちも、さっさと可愛くなりなさ〜い!」


 しかし、ピーチが杖を構えて追ってきている。

このままだとすぐにまたあの攻撃が飛んでくる。



⚫︎ガク

(! 

……夢……ぼくの夢は……)


 その発言を聞いて、ガクの心に電撃が走った。




⚫︎ガク

(ぼくは……。

ぼくの夢は漫画とかアニメとかゲームのように、【世界を救うヒーローの主人公になる】ことだ……。

今のコータくん、ミツルくん、フミレさんみたいに人のために行動できるヒーローに……。

でも、ぼくは運動はあまり得意じゃないし、勇気も度胸もない……。

だから――自分のような能力の低い人間でも、ヒーローになれる存在として、文具ロボの【STA(エスティーエー)】を考えていた。

いつかそのうち、本当に世の中にそう言った物が生まれて欲しいと願いを込めて、妄想に(ひた)って……)



 ピーチが放ったハートの光線が、ガクへと一直線に向かってくる。


 

 それに気づいたフミレが、ガクを自分の前に引っ張ろうとした、その時。



⚫︎ガク

「!」


 ガクのズボンの右ポケットに入れていたシステム手帳が、勢いでポケットから飛び出した。


 宙を舞う手帳が、ハートの光線を浴びた。



 そして――




 ピーチの光線を浴びた手帳が、ぬいぐるみとは違う別の物体に変質した。物体は3()()に分裂していく。



⚫︎ガク

「――あれは!」

 

 ガクの両目にあふれんばかりの光が宿る。



 現れたのは、人間よりもやや大きめのロボットだ。


 【鉛筆型】と【消しゴム型】と【鉛筆削り型】の3機。

ガクが手帳に書いていたあの妄想と同じ物だった。



⚫︎ピーチ

「何よ、コレ!?

可愛いけど、わたしが求めてるのはコレじゃない!」


⚫︎ガク

「……STA」


 ガクは足を踏み出し、3機のロボットの内の1機、鉛筆型のロボットに向かっていく。



⚫︎ガク

「ぼくが考えたロボットだ……!

【ラピス】、装備(イクイップ)!!」


 ガクがそう叫んだと同時。


 鉛筆型のロボットは一度、本物の文具サイズに小さくなった後、ガクの周囲を高速で何度も旋回。


 そして、鉛筆型のロボットは元のサイズに戻り、その中にガクを収納した。




⚫︎フミレ

「…………何が起こっているの……?」


⚫︎ガク

「フミレさん、ぼくは戦うよ。

ぼくの考えた力、この【ライトラピス】で!」



 【ライトラピス(通称ラピス)】。

赤いキャップが付いた青い鉛筆型のロボット(STA)。


 鉛筆の芯の部分はバーニアになっていて、黒い炎を吹き出している。赤いキャップの下がバリアで覆われたコックピット。魔女の(ほうき)を彷彿とさせる、横向きに宙を浮かんだSTAだ。

また、名称の【ライト】というのは、光の【light】ではなく、【書く】という意味の【write】である。



⚫︎ガク

(アニメのキャラが出てきたのと同じで、ぼくの妄想が、今現実になっている……。

……理由はよく分からないけど、今ならぼくの夢――主人公に……ヒーローに!)


 コックピットの中は非常に狭く、自転車のサドル部にヘルメットを装着したガクが座り、両足をペダルに掛け、両手はハンドルを握っている。


 ハンドル下部に自転車がブレーキをかける時のレバー、ハンドル右部にベル、ハンドル左部にギア、右下には自転車がライトを点灯させる時のスイッチと思しき物が取り付けられている。

このように、内装はほとんど自転車に付属している簡素な部位しかなかった。



 コックピットの外側の横に、ウサギの目のような緑の暗視ゴーグル仕様のカメラアイが左右で一つずつ存在。

これによって、ガクの視界はほぼ360度近く見えている。


 ちなみに、文具そのままの形状で人が入れるサイズのロボットにしているため、みんなが知るロボットの一般的な形状とは違って、【手足】は存在しない。

これらの特徴は、全て他の2機のSTAにも共通している。




⚫︎ガク

(コータくんは、【2階から飛び降りても平気】な体をしている……。

助けにいくのはフミレさんを守って、ミツルくんと読奈(よみな)さんを戻してもらってからだ……。

ごめん、コータくん!

すぐには行けないけど、きっと大丈夫だって信じてる……!)


 ガクはハンドル右部のベルに目を向ける。

自転車のベルは中心に丸い出っ張りがある。STAにおいては、これがスイッチの役割があった。



⚫︎ガク

「よし、行くぞ!

まずは――」


 早速ガクは、ベルのスイッチを押した。



 ……すると、パカッとベルが開き、小型の液晶画面が表示された。


 これは、サブモニターだ。機体のHPとエネルギーの残量、他には【ギア1】という文字が映し出されている。

その文字の下には、【バリア・シュート】という表示。



⚫︎ピーチ

「何なのよ! 

そんな(まが)い物の可愛さなんて、壊してあげるんだから!!」


 液晶をタップしようとするガクよりも先に、ピーチが虹色を帯びたピンクのレーザーを放ってきた。



⚫︎ガク

(――フミレさんを避難させようと思ったけど、その暇がない……!

だったら……!)


 ガクは左手をカチッと上に動かして、ギアを3まで上げる。すぐさま液晶に近づけていた右手をハンドルに置いてハンドルを前方――ピーチの方角へと傾け、自転車を漕ぐ要領でペダルを足で回転させた。



 ……その途端に。


 夜の学校の廊下に、1本の青いイナズマの線が(はし)った……。



 ラピスが猛スピードで動いたのだ。


 ガクが考えた3機のSTAにはそれぞれ特性があり、このラピスは【機動力重視】の機体である。



 ラピスは、ピーチのレーザーを赤キャップのバリアで弾きながら全力で突進。



⚫︎ピーチ

「――あああっっ!!」


 ピーチのボディに、自分が放ったレーザーが跳ね返り直撃。


 更に、追い討ちとばかりに高速で迫るラピスの赤キャップバリアの打突が炸裂。ピーチは廊下の遥か先まで吹き飛ばされた。



⚫︎ガク

(すごい、本当に動いた……!

そして――速い……!!

全部、ぼくの考えた通りなんだ!

Gやその他の内部衝撃を無効化するように設定してて良かった!

狭いけど、息も苦しくないし!)


 ガクはサブモニターを一瞥(いちべつ)した後、ギアを4に上げて再びペダルを漕ぎ出し、ラピスを前方に動かす。

ギアを上げればその分速度が上がるが、HPとエネルギーの消耗が激しくなる仕組みになっている。



⚫︎ガク

「『Bring(ブリング) it(イット) on(オン)』!!」


 ラピスはジェットコースターを軽々と超える速度でぐんぐんと廊下を駆けて、場外に吹き飛んだピーチへと向かっていく――



⚫︎ガク

(このスピードならこんな廊下、一瞬のはずなのに……まだピーチの元までたどり着かない……。

ピーチの魔法か何かで、学校の形状や空間がおかしくなっている?

ぼくたちが急に2階にいたのもそういう理由なのかな……?)


 そう思案しているうちに、廊下の端――行き止まりが見えてきた。ラピスのカメラには、壁にめり込みもがいているピーチの姿が照らされていた。




⚫︎ピーチ

「く、で、出られない……」


 ガクは構わずピーチに向かって突っ込む。



⚫︎ピーチ

「!?

きゃあああああああ!!!」


 迫ってくるラピスに気づいたピーチは、両目を見開き泣きながら大きな悲鳴を上げた。




 そして、迫るラピスはそのままピーチの体の――




⚫︎ピーチ

「………………えっ?」


 目の前で動きを止めた。



⚫︎ガク

「……きみはどうしてこんなことをするの……?

プリティブリスは、正義のヒロインだったはずだよ……」


⚫︎ピーチ

「………これが正しいことだからに決まってるじゃない!!」


⚫︎ガク

(本当にそれが正しいことなの……?

人を襲うことが……?

それは()()()と同じ考えじゃないの……?)


 ピーチの返答が理解できないガクは質問を止めて、強めの口調でピーチに指示をする。



⚫︎ガク

「きみがぬいぐるみに変えた、ミツルくんと読奈さんを戻して。

あと、この学校も何だかおかしくなってるから、それも」


⚫︎ピーチ

「………………………………嫌よ!!

わたしは悪くないもん!!」


 大泣きしながらも、ピーチは首を縦に振らなかった。



⚫︎ガク

「……だったら、必殺技を使うよ……。

きみにトドメを刺すことになっちゃう……」


 ガクはサブモニターの【バリア・シュート】の文字に指を近づけながら、降伏を促した。


⚫︎ガク

(ぼくは人を……彼女を傷つけたい訳じゃない……。

ただ、彼女に傷つけられた人を助けるには、こうするしか……これが正しいはず……)



⚫︎ピーチ

「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌ああああああああああああああ!!」


⚫︎ガク

「!?」


 泣きじゃくるピーチの体がピンクに発光。

衝撃の波が、ラピスをどこかに押し出していく。



⚫︎ガク

「…………何だ!?」


 流されるラピスのカメラに、学校の光景がグルグルと目まぐるしく流れ込む。


 ガクは自分がどこに向かっているのかも分からなくなり、機体を動かしたり、必殺技で逃れようとあがくが、その状況をどうすることもできなかった。



⚫︎ガク

「動かない……!!」


 ガクはピンクの衝撃波に流されていった。



 途端に、ガクの胸からあふれてくる感情の海。



⚫︎ガク

「ミツルくん、ぼくを守ってくれて、ありがとう!

今度はぼく自身の手で、きみを助けるから!

読奈さん、体育館から置いてきてごめん!

絶対に助けに行くから、待ってて!

フミレさん、ぼくの手を引かせてごめん!

クラスのみんなと、先生たちと、逃げ延びて!!

コータくん、きみは丈夫な体だ! 

無事って信じてる!

2組と3組のみんなも、早く学校から離れて!!」


 ガクは、せめての抵抗とばかりの咆哮(ほうこう)を上げ続けた。



 ……やがてその声は、ピンクの波にかき消されていった――




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