1話① 「ぼくの夢は」
第1話です。
本作は1話1話が長いので、複数回に分割しています。
主人公は3人いて、まずはじめは『ガク』からです。
全話共通の特徴として、キャラクターが多いので、誰がセリフを喋っているのかわかるようにしています。
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北海道某市に存在する――【歌羽小学校】。
8月3日の20時。
まだ夏休みは終わっていないし、夜なのにこの学校の6年生たちはグラウンドに集まっていた。
その理由はこの学校の行事で、6年生の夏休みに学校でキャンプをすることになっていたからである。
男女別々に仲の良いメンバー同士での班を作り、班ごとにテントを張って、その日の夜を共に過ごす。
他にも班でバーベキューを作って食事をしたり、キャンプファイヤーやフォークダンス、肝試しなども行われる。まさに夏の風物詩。
そんな小学校の最後の夏休みの思い出作りとして、1クラス16人構成の6年生は各々楽しんでいた。
* * *
⚫︎???
「カイロ、ロッチ、エージ!
ガク見なかったか?」
6年1組の生徒たちに、明るい声が次々とかけられる。
⚫︎カイロ
「え?
知らないよ」
⚫︎ロッチ
「あいつはこういうわいわいした行事とか苦手じゃねーか?」
⚫︎エージ
「1人でどっかに行って時間潰してるんじゃねーの?」
⚫︎???
「まじかよ……。
ジオならわかるかな……。
……ん?」
少年の視線の先にあるテントの中に、僅かに明かりが見えた。
⚫︎???
「確かあれって5班の……。
――!」
少年はそのテントに向かって駆け出した。
* * *
⚫︎ガク
「よし、いいぞ!
ここをこうして……」
LEDランタンを点灯させたテントの中で、寝っ転がってミニ6サイズのシステム手帳に何やら書き込んでいるのは、
『一法 学(通称ガク)』。
内気であまりクラスに馴染めていない二次元オタク。平凡な顔立ちをして地味だとよく言われる。
ガクが書いている手帳には、小型の【鉛筆削り】の下手くそなイラストと、鉛筆削りの部位ごとに細かくメモが入れられていた。
⚫︎ガク
「もう少しでこの機体は完成だ……!」
彼は食事を速攻で済ませ、キャンプファイヤーもフォークダンスも適当に参加した後は、テントにこもってずうっと手帳に謎のイラストを書き込んでいた。
⚫︎ガク
「でも、まだこれで3機目……もっと作って――」
その時。
外からバイーンと激しい音がしたので、ガクはびっくりして反射的に顔を上げた。
⚫︎???
「ガァクゥゥ〜!」
⚫︎ガク
「うわああああ!!!」
テントのドアを叩きながら貼り付き、恨み言を言うように唸っているクラスメイトの姿を見て、ガクはびっくり仰天。心臓がバクバクと波打った。
⚫︎???
「……はぁ、はぁ。
ガク、探したんだぞ!
お前と同じ班の奴らも知らねえって言うから!」
荒い息を吐くそのクラスメイトは、ドアを無造作に開けて文句を言いながら、ずかずかとテントの中に入ってくる。
⚫︎ガク
「コータくん、ど、どうしたの……?」
⚫︎コータ
「どうしたもこうしたもあるかぁ!
【肝試し】、おれたちのグループの時間だってのに、
お前が全然来やがらねぇから……!」
『四丹 校太(通称コータ)』。
運動神経が滅法高く、遊びと悪戯が大好きなクラスのムードメーカー。年がら年中、タンクトップにハーフパンツで、野生児のように髪を伸ばしている。
⚫︎ガク
「……あ!
もうぼくたちの番だったんだ……!
ごめん、忘れてた」
⚫︎コータ
「〜ったく、ほら行くぞ……って、ん?」
コータはガクが持っている手帳に気づいた。
⚫︎コータ
「……何だよ、それ?」
⚫︎ガク
「あ、これは、えっと、その……」
ガクは手帳を咄嗟に隠そうとするが、
⚫︎コータ
「見して」
⚫︎ガク
「あ!」
機敏なコータに取り上げられてしまった。
⚫︎コータ
「………………」
コータは、ガクがまだ数ページしか書き込んでいない手帳を静かに眺め、書き込みが入った全ページに目を通していく。
⚫︎ガク
(み、見られちゃった!
どうしよどうしよどうしよ!
どう言い訳を……)
⚫︎コータ
「お前、面白いモノ書いてんじゃん!!
何で隠してんだよ、勿体ねぇ!」
⚫︎ガク
「……えっ?」
秘密を知られてパニックになっていたガクの瞳に、キラキラと輝く少年の瞳が映る。
⚫︎コータ
「……コレ、全部お前1人で考えたの?」
⚫︎ガク
「……う、うん……。
最近、そういう妄想にハマってて……」
それは、ガクが1人で考えた妄想の世界。
魔法の力が宿った文具が『Stationery Armor(以下STA)』というロボットに変形し、乗り込んで戦うというもの。
操縦方法は、自転車を漕ぐ要領で行える。ペダル、ハンドル、ブレーキレバー、ギア、ベル、ライトなどの簡易的な部位のみで機体に設定された全ての機能を行なうことができるため、操縦することはそう難しくはない。
全方位を見渡せるモニターや、文具というファンシーな見た目に反しての頑丈な装甲、強力な必殺技、Gや衝撃への耐性、酸素も完備された魔法の文具ロボット。
もし、このロボットが実際に存在していれば、誰でも扱えるということをコンセプトに、ガクは頭の中を膨らませて創作していた。
コータはグイッとガクに顔を近づけ、戸惑っているガクにサムズアップをしてニイっと笑った。
⚫︎コータ
「こういう面白そうなことは、おれも混ぜろよ!
ガキでいられる内に好きなだけ楽しんでおくのが、おれのコリシーだからな!」
⚫︎ガク
「ポリシーだよ……」
* * *
⚫︎コータ
「みんな、悪りぃ!
遅くなった!」
⚫︎ガク
「ごめん、みんな!
ぼく肝試しのこと忘れてた!」
肝試しの集合場所である玄関の入り口で、1人の男の子と2人の女の子が待っていた。ここにいる3人と、ガクとコータを入れた5人が肝試しのグループである。
肝試しのグループはテントの班とは別のメンバーで、完全にくじ引きで決まっていた。
⚫︎ミツル
「別に良いよ。
ちゃんとメンバーが無事に揃ったんだから」
『八京 満(通称ミツル)』。
学業も運動も抜群に優れ、性格も真面目で温厚なクラスの優等生。高身長で端正な顔立ちをしていて、男女問わず人気者(モテているかは不明)。年齢に似合わない低い声の持ち主。
⚫︎クラブ
「ガクくん、やっと来てくれた……。
うふふ…………」
『三葉 読奈(通称クラブ)』。
グラマラスな体格で、メガネを掛けたロングヘアの読書好き。黒いゴスロリ風なワンピースを着用している。闇がありそうな独特の世界を持っていて、クラスの大半は彼女に少し恐怖を抱いている。
⚫︎フミレ
「………………」
『七竹 文零(通称フミレ)』。
同じく読書好きの、クールなストレートヘアの女子。左右が白と黒で分けられたフルジップのパーカーを着用している。ヘッドホンで周囲の声を閉ざし、常に孤高の存在。口数も非常に少なく、いざ喋ると冷たく素っ気ない言葉を発して、周囲を容赦なく遠ざける。
* * *
ガクたちは、先生から注意事項が書かれた紙、肝試し用の校舎のマップ、懐中電灯を一つずつ手渡され、夜の校舎へと足を踏み入れた。
⚫︎ミツル
「マップに書かれた通りに、夜の校舎を進む。
マップに記載されていない教室や、職員室等には絶対に行かないこと。
みんなで協力して、グループメンバーが欠けることなくゴールすること。
……だってさ」
リーダーのミツルが、コータの持つ懐中電灯の光で照らされた注意事項を読み上げる。
⚫︎コータ
「ミツル!
何か様になってるな、お前!
女子の前だからか〜?
王子様よ〜」
コータがグイグイと腕でミツルをどついてからかう。
⚫︎ミツル
「別にそんなんじゃないよ……!
後、もうそれは止めてくれ……!」
ミツルが赤面すると、コータはニシシと笑い、
⚫︎コータ
(こういう多人数でやるイベントがあまり得意じゃないメンバーが多いからよ、うちのグループは。
だからまとめるの大変かもしんねぇけど、一緒に頑張ろうぜ……)
ミツルにそっと耳打ち。ミツルは仕方ないなという顔でスッと頷いた。
* * *
それから、コータの提案で5人は円陣を組む。
⚫︎コータ
「まずは、2階の音楽室に行けば良いんだな!
よっし、張り切っていこうぜ!」
こういう時に場を盛り上げるのはいつもコータの役目だ。懐中電灯を持っている彼はグループのみんなを景気付けようとする。ホラーの演出でお馴染みの、懐中電灯の明かり以外は真っ暗で無音の、悄然とした校舎に彼の元気な声が響いた。
⚫︎フミレ
「先に行ってる」
⚫︎コータ
「あ、おい!
フミレぇ!!」
たかが肝試しごときで円陣など馬鹿らしいとばかりに、フミレは早々に円陣を解き、スタスタと早歩きで行ってしまった。
⚫︎コータ
「はぁ〜。
アイツ、いっつも困った奴だ……」
⚫︎ミツル
「ぼくたちも追いかけよう。
みんなで行動しないと」
⚫︎コータ
「しょうがねぇなぁ!」
コータとミツルがフミレを追って駆け出したので、ガクもそれに続こうとする。
⚫︎ガク
「えっ!?」
しかし、ガシッと強い力で背後からガクは掴まれ、引き寄せられる。ガクの背筋がひんやりと凍った。
⚫︎クラブ
「ダメ、ガクくんはわたしと一緒に行こう?」
⚫︎ガク
「よ、よよ、読奈さん……………?
む、胸が……」
⚫︎クラブ
「うふふふふ……」
クラブに捕まった。
クラブはいつからか、ガクの前だと嬉しそうになる。
去年の冬……いや、秋くらいからだったような気がする。何故彼女がそうなるのかはガクにはわからないが。
ガクの全身に寒気が襲いかかる。
……が、クラブとの距離の近さと、クラブの小学生にしては大きな胸がガクの背中に当てられたことによって、ドキドキと赤くなった顔のみに暖気が吹き荒れる。
⚫︎ガク
(人と……特に女の子と話すのは、苦手だけど……。
読奈さんはその中でもかなり変わってて、すごい苦手だ……)
ガクは自分を抱き寄せてきて怪しく笑うクラブが、今自分たちがいる、必死に恐怖を演出しようとしているこの校舎よりも遥かに怖いと感じていた。大柄な彼女の体格と、そこからの距離感の近さが怖さをより強めていた……。
* * *
その後、どうにかメンバー全員は合流。どうにか一緒に行動しながら最後のポイントの体育館までやって来た。
途中、途中に先生たちがお化けの仮装をして、驚かせてきたが、このグループのメンバーは全員、その手のものに強い耐性があったようで、ビビることは誰一人として一度もなかった。先生たちのショックそうな心の声がガクに伝わってきて、気の毒にとは思ったが。
⚫︎ミツル
「……今まで通ったポイントの情報をまとめると……。
この体育館のステージの裏にある札を取って、入り口に戻ればクリアみたいだね」
⚫︎ガク
「うん……。
全然怖くもなかったし、簡単だね」
⚫︎コータ
「よっしゃ!
じゃ、手分けしてその札を探そうぜ!」
⚫︎フミレ
「ふん……」
⚫︎クラブ
「ふふ……」
5人がステージに上がって札を探していると。
キューーン!!
⚫︎ミツル
「……?
…………何の音だ?」
4人は一斉に高音がした背後を振り返った。
そう、4人は。
4人の背後には、誰もいないし、何もない。
ただのシーンと静まり返った暗闇の体育館が広がっているだけ。
⚫︎コータ
「どうせ、センコーたちが何か仕掛けたんだろ」
⚫︎ガク
「……ね、ねぇねぇ……」
ガクはコータの肩を指でトントンと叩きながら、全員に震え声で呼びかけた。
⚫︎ガク
「読奈さんがいないよ……」
⚫︎ミツル
「何だって!?」
確かに、さっきまで一緒にいたクラブの姿がない。
どこを見回しても、どこに懐中電灯の明かりを向けても、人の像を捉えることができないし、人の気配もない。
⚫︎コータ
「おい、クラブ〜!
お前まで幽霊のフリしなくていいから、出てこいよ〜!」
コータが叫んで呼びかけても、状況は何一つ変化がなかった。
それから、しばらく札はそっちのけでクラブの捜索をしていると、
⚫︎フミレ
「っ!」
入り口付近を調べていたフミレが、僅かに声を上げた。
⚫︎ミツル
「どうしたんだ!?」
男子3人はフミレに駆け寄る。
彼女は無言で指を真っ直ぐに伸ばして、何かを示している。
暗くてよく見えない。コータが懐中電灯の明かりをその方角に向けた。
体育館の入り口の戸のわきに、一つのぬいぐるみが転がっていた。
黒い長髪にメガネを掛けたスタイルの良い少女のぬいぐるみ。アニメのキャラクターがぬいぐるみになったように可愛く作られているが、その姿は誰かにそっくりだった。
⚫︎ガク
「……えっ?
これ、読奈さん……?」
⚫︎コータ
「まじ……?」