第9話 ドキドキ♡セイントガード♡ なんか♡いっぱいでてきた!
「はぁはぁ……」
「ふぅ……ふぅう……」
そこかしこから、美少女たちの吐息が漏れてくる。
―――いや、変なことが起きてるわけじゃない。
ただ聖女たちが走っているだけだ。セシリアいわく、別のクラスによる体育の授業がはじまったらしい。
訓練所を使うようなので、俺とセシリアは端のほうに移動した。
邪魔しちゃ悪いからな。
だが……全員ランニングをはじめたもんだから。
いや、身体を動かすことは大事だ。それは聖女だろうが同じだろう。
それは分かる。分かるが……!
なんやねん、これ!!
ちょっと目のやり場に困る。いや、困るどころじゃない。
これはもう、おっさんがここにいるのはアウトだ。ていうか、男全員アウトだ。
しかも妙に艶っぽい声が漏れてきて……マジでいかん!
そんなわけで、やむなく悶々としてしまっているおっさんだったが。
「あら、ここにいましたかボクレン」
やっときた。
エリクラス隊長とリンナ副隊長だ。
ふぅ……とにかくこの場を離れたい。一刻も早く。
なんか隣のセシリアも、聖女ランニングがはじまってからご機嫌ななめだし。
「貴様ァ……なんだそのエロ顔は! まさか邪なことを考えているのではあるまいな!」
「むぅ……ボクレンさん。あなたは私の聖騎士です。それなのに私以外の聖女を見ちゃうんですか?」
なぜかセシリアまでリンナ側に回ってる。おっさんの味方じゃないのか。
「な、ナニイッテンダ。ソンナワケナイダロウ」
「貴様ァア……なんだそのカタコトはぁ!」
うぐっ……完全否定できない。
だって俺、健全なおっさんなんだもん。
「はいはい、そこまでです。ボクレン、事務棟に向いますよ」
隊長の言葉に救われた俺は、喜んで隊長のうしろについて行った。
背後から刺さるような視線を感じるが……気にしないぞ。
ついたのは事務棟と呼ばれる建物の一室。
「ここで、制限魔法とやらをつけるのか?」
「いえ、それはまた別の場所でやります。いまは担当教諭の聖女さまが授業中ですから」
どうやら学園で制限魔法を使用できるのは、先生聖女のひとりらしい。
ならなんで事務棟に来たんだろか?
疑問に思った俺に、袋一式を差し出す隊長。
あけてみると……おおっ!
「ボクレンの隊服です。護衛任務に就く際は着用するように」
「おお……」
「貴様、それを着る以上は学園聖騎士の自覚をもってだな……おいっ! 聞いているのか!」
「かっけぇええ」
「ふふ、時間もありますし。さっそく着用してきなさい」
「はいです! 隊長殿!」
数分後―――
「わぁ~~ボクレンさんカッコイイですぅ」
「まあ、似合ってますよ。ボクレン」
「ふん……おっさんにしてはまあまあだな」
おお、女性陣の反応は上々だ。
深い青を基調としたロングコート風の隊服。
腰に巻かれた革ベルトに、相棒の木刀をすっと差し込む。
「うむ、やはり相棒が腰にいるとしっくりくる」
「むぅ……貴様なぜ木刀なんだ。剣も支給されるのに」
「ボクレンさん、まるで木刀聖騎士ですね♪」
鋼の剣もあこがれるが、やはり相棒の方が落ち着くからな。
にしても……ああ、テンション上がる。王都に来てよかったかもしれん。
胸には、なにやらかっこいい紋章がついている。
「それは学園聖騎士隊の紋章ですよ、ボクレン」
「おお……この1番という数字は?」
「それは学園聖騎士の1番隊という意味です。聖女セシリアのクラスの聖騎士は1番隊ですよ」
なるほど、学園聖騎士隊のなかでグループ分けされているということか。
視線を上げると、リンナがしかめっ面をしていた。どうした?
「リンナは何番隊なんだ?」
「貴様ァ! リンナ副隊長とよべ!」
「そうですよボクレン。リンナ副隊長はあなたの直属上司なのですから」
「ええ! 俺の上司なのか」
「紋章を良くみなさい」
ああ……たしかにリンナの紋章には、1番の数字が刻まれている。
「そうだったのか。ではこれからよろしく頼む、リンナ!……副隊長!」
「ふん、不本意ながらも隊長の命令は絶対だ。それに貴様の監視も必要だしな!」
「ハハッ、まあそうツンツンするな。俺はリンナ……じゃない副隊長殿のひたむきさには敬意を払っているんだ」
「くっ……まずはその礼儀知らずから叩きなおす」
「ああ、頼りになる上司がついてラッキーだな、俺は」
「ぬぅ……ベラベラと余計な一言を……あ、あたしの隊は特に厳しいからな。ビシバシいくから覚悟するんだな!」
なんか顔が赤いな。
どうやら俺の上司は褒められるのが苦手らしい。
◇◇◇
俺たちは魔法棟と呼ばれる施設に足を運んでいた。ちなみにエリクラス隊長は別件があるとかで、リンナ副隊長にバトンタッチされた。
ここは主に魔法の実験や、生徒たちの魔法訓練などをする場所らしい。
「あら~~あなたが聖女セシリアの聖騎士さんなのねぇ~」
「ああ、俺がボクレンだ……です」
ぬぅ、なんか敬語は慣れん。
「まあ~~ド田舎くさいしゃべり方ねぇ~でもワイルドで個性的ぃ~いいわぁ~~」
「はい、マシーカ先生。ボクレンさんはとっても良い人ですから」
「そうなのねぇ~セシリアが決めたのなら~~いいんじゃない~」
出迎えてくれたのは、ゆったりした口調の聖女マシーカ先生。
セシリアが所属するクラスの担任だそうだ。
「よし、ボクレン! そこに立て!」
リンナ副隊長が、部屋の中央を指さした。
いよいよ、例の制限魔法とやらをおっさんにほどこすってことか。
うっ……おっさん、緊張してきた。
「はぁ~~い、じゃこれからぁ~|純潔守護禁欲システム《ドキドキ♡セイントガード♡》を付与しま~す」
……なんかヤバそうな名前のきた。
「この魔法を付与されるとぉ~~聖女を害することはできなくなりま~す」
「ちなみに害するとは、具体的にどんなことを想定してるんだ?」
「そうですね~~命を奪うとか~お風呂覗くとか~あとは~あんなことこんなことするとか~キャ♡ このハレンチおっさん~」
いや、俺なんもしとらんがな。そこまで変態ちゃうし。
しかし、こんな美少女の園だからな。まだまだ得体のしれないおっさんを警戒するのは、当然といえば当然か。
「私は、ボクレンさんを信用してますから。特に不要なんですけど、やならないと聖騎士になれないから」
「聖女セシリア……その考え方は危険だ。相手は野獣のような、おっさんなのだから」
「そうでしょうか? リンナ副隊長」
ぱちぱちと瞬きをしながら、小首をかしげるセシリア。
まるで子猫のような仕草に、おっさんは思わず頬が緩んだ。
「そうだな。俺もそんなことするつもりは、まったくないけどな」
「どの口がいうんだ……常にはぁはぁしてる貴様は特に必要だ!」
いや、はぁはぁまではいってないぞ。
あくまで、妄想までだからな!
「貴様ァ! 妄想でもアウトだぁ!」
なにも言ってないのに……おっさんの心読まないで。
「はいはい~そこまでですよ~始めますから、リンナ副隊長と聖女セシリアはさがってくださ~い」
杖を取り出した聖女マシーカが、なにやらブツブツと呟き出した。
詠唱を開始したようだ。
「これは、マシーカ先生にしかできない魔法なのか?」
「ごく一部の聖女さまにしかできないな。特殊な聖魔法で、聖女マシーカはその第一人者だ」
詠唱しているマシーカの変わりに、リンナが答える。
「ふぇぇ……マシーカ先生ってすごいんだな」
「あたりまえだ。ここはごくわずかな者しかなれない聖女が集う学園だ。その教師ともなれば、なにかしらの分野に秀でているか、特殊な能力をもっている」
う~~む。
やっぱり、おっさんには場違いなところじゃなかろうか。
このマシーカ先生もすげぇ人のようだし。
俺、普通の人がちょっと努力した程度のおっさんなんだけどな。
などと思っていると、俺の立つ地面がひかり輝き始めた。
なんだろう? なんかの模様みたいなものが描かれていく。ああ、もしかして魔法陣というやつか。
「さあ~~~いきますよ~~
――――――|純潔守護禁欲システム《ドキドキ♡セイントガード♡》~~♡♡♡」
なんか♡♡♡いっぱいでてる!!
おっさん♡♡♡まみれになってる!
♡♡♡が俺を埋め尽くしたかと思ったら、一斉に弾けとんだ。
「はぁ~~い、付与完了で~す♪」
「え? これで終り?」
「そうですよ~~」
「もっと、全身刺すような痛みを感じるとか。3日は動けなくなるとか。そんなんじゃないの?」
「貴様ァ! そっち方面の変態だったのかぁ!」
いやいや、そっち方面ってどっち方面だよ。
じゃなくて、オヤジの鍛錬で魔法を出す魔道具を使った、魔法とのぶつかり稽古とか、けっこう痛かったけどなぁ。
オヤジ、容赦なく魔法を浴びせてきたぞ。
どうやら魔法にもいろいろ種類があるらしいな。
これは痛くないやつらしい。
「では、これより聖女を害する行為をしようと思っただけで~罰が発動しますからぁ~~注意してくださいね~」
マシーカ先生がにっこり微笑んだ。
「ちなみに罰とは、なにが起こるんだ?」
「ふふ~~男性の股間にある~~大事なものがぁ~~ギュギュギュ~~~~ってされますよ~~」
マジかよ……
「そしてぇ~~最終的にもげますぅ~~♪」
それはアカン!! ガチでヤバい!!
聖女おそるべし……
「お、なんか地面に模様が残っているぞ」
「それはぁ~~魔法陣です~そこから大気にある微量な魔力を吸収して~半永久的に制限魔法を発動し続けますぅ~♪」
「すげぇな……」
「はい~だってぇ~~学園はじまって以来の天才であるぅ~わたしの10年をかけた研究の成果ですからぁ~~」
う~~む、聖女の中でも天才が長年かかってあみ出した魔法なのか。
「魔法陣は数分で透明化しますからぁ~気になりませんよぉ~」
「ちなみにこの魔法って、解除できるのか?」
だっていつまでも股間に不安を抱えて生活したくないからな。
もちろん、邪な気持ちがあるわけじゃないぞ。
「は~~い。もちろん解除はできますよ~。わたししか解除魔法は使えないですけどねぇ~。まあ……」
「まあ?」
「ぜったいにあり得ないですけどぉ~~その魔法陣を破壊すれば理論上は解除できますねぇ~ぜったいにできませんけどぉ~」
へぇ~~この魔法陣をか……
「その魔法陣はいかなる物理攻撃、魔法攻撃も受け付けないよう組んでありますからねぇ~10年かかった研究の成果ですぅ~」
そいつは凄い。
どれ。少し腰に力を入れて―――
「―――ぬんっ!」
木刀で叩いてみた。
まあ俺なんかの木刀ごときじゃ……
―――バキッ!
あっ!? なんか嫌な音したんだが……
「まあ~~ボクレンがぁ~信頼を勝ち取れば~~隊長が解除の指示をだすでしょうからぁ~~仕事に励むようにって……!?
―――――――――なんか、魔法陣われてますけどおぉおお!!!」
あ、ヤバイ……
「え?え?え? ちょ……なにこれ? 木刀で? 木刀で! 木刀で!?」
うお、落ち着いてくれ。
「ううううううウソでしょ! どどどういうこと? これあり得ないわ! ぜったいないわぁ! ないわぁ!」
マシーカ先生がすごい早口になってる。
さっきまでのゆったり口調は、どこいったんだよ。
「貴様ァ! そこまでしてエロい事したいのかぁ!」
「ええぇ、そんなんですか、ボクレンさん! 私以外の聖女に手を出すんですか!」
「天才のわたしが10年かかって組んだ魔法陣なのよ! 木刀でパンっとかあり得ないでしょ! ねぇねぇねぇ!」
ちょ、まって。なんか全員の誤解が酷い。
おっさんはその後、時間をかけて3人を落ち着かせた。
木刀で魔法陣がわれるわけないだろ、ってことを何十回と説明する。
そして、最終的に「そうだよね」ってな雰囲気に落ち着いた。
そう、これはたまたまマシーカ先生が、ちょっとミスったんだ。
よくよく考えたら当然の結論だ。
てことで、俺には改めて|純潔守護禁欲システム《ドキドキ♡セイントガード♡》が付与された。
ふぅ……やっと終わった。
3人も疲れ果てたらしく、すこし水分補給をしにいった。
1人ぽつんと部屋に残された俺は、床に目を落とす。
足元でグルグルと回転する模様が目に入る。
まったく、人騒がせな魔法陣だぜ。
だいたいこんなおっさんの一振りで、大聖女の魔法が壊れるわけないだろ―――「ぬんっ!」
―――バキッ!
「…………」
よし、俺は聞いてない。なにも聞こえなかった。
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