第61話 アレシーナの覚醒
◇アレシーナ視点◇
――――――冷たいですわ。
足元から這い上がる氷の感触に、ワタクシは歯を食いしばった。
ゴーレムの放った【絶対零度システム】、広場一帯が氷結に閉ざされ、聖女も聖騎士もみんな動きを封じられている。
敵兵がたくさん船から降りてきた。
足元を固められたワタクシたち、つまり聖女を捕まえるため。
彼らの目的は聖女の聖属性魔力。それをエネルギーの元にしているらしい。
ボクレンに船を浮上させられたからか、彼らも焦っている。多少傷ついても、聖女たちを強引に引きはがすつもりだ。
そんな物みたいな扱い……絶対に許せない。
と息巻いたものの、身動きを封じられて抵抗する有効な手段もない。そもそも聖女は攻撃魔法が使えない。物理攻撃に秀でているわけでもない。
フフ……「ない」「ない」ばかり言ってますわね。
足元の感覚が、じわりじわりと失われていく。
ボクレンが隣で木刀を構えたまま、氷に覆われた地面をじっと見据えていた。
その瞳からは、諦めの気持ちなど微塵も感じない。
彼の大きな背中を見た瞬間、胸の奥に熱がこみ上げた。
そう、ワタクシにだって……やれることがあるはずですわ。
ここ最近、ずっと気になっていた変化。
小さく息を吸う。
その瞬間、胸の奥で「チリ」と火花が散った気がした。
やっぱり、これって……
ワタクシは頭に浮かんだ言葉をそのまま口にした。
「……燃えて」
その途端、赤い炎がぽつりと目の前に芽吹いた。
ほ、本当にでましたわ……
ワタクシの周囲で炎はゆらりと揺らめき、やがて身体全体を包み始める。
もっと強く……強くですわ!
そう念じた瞬間、あふれ出す―――止まらない熱量。
全身から赤い炎がじわじわと広がり、凍り付いた広場を照らし始めた。
「ちょ、長官。こ、これは……!?」
「ば、馬鹿なぁあ! 聖女が聖属性魔力以外の属性を発現するなど……聞いたことがない!」
長官と呼ばれる男の叫びが耳に届く。
そう、彼に言う通り聖女の力は聖属性魔力のみ。そう教わってきた。
でも、ワタクシの内から溢れるこの赤い魔力は、まぎれもなく――――――炎。
「フフ……常識なんて、ワタクシには関係ありませんの。誰かさんと同じですわ」
詠唱が、自然と口からこぼれる。
「燃え盛れ……我が命のごとく。すべてを包み、浄め、焼き尽くせ―――」
赤い魔力が体から噴き出して、炎に姿を変えていく。
「くっ、クソ! たかが小娘一人。火魔法を使えようが、絶対零度の氷が溶けるわけがない!」
溶けるわけがない……果たしてそうかしら。
ワタクシの中に宿るこの心は、まだまだ大きくなりますわよ!
広場全体に赤い炎が一気に広がった。
「ば、馬鹿な……氷が……!?」
氷が溶けていく。
広場を覆っていた極寒の氷がジリジリと赤熱に侵され、ついには水蒸気を上げて崩れていった。
「あり得ん……! ドラゴンの炎ですら溶けなかった、我らの氷結がぁあ!」
長官の絶叫。
けれど、確かに溶けている。ワタクシの炎が皆を縛っていた氷を砕いていく。
「だ、だが、これほどの炎。貴様ら自身もただではすまんだろう」
たしかに熱は激しく、氷以外のモノへも間違いなく影響を与える。
強引な方法であることは否定しません。
「フフ、ご心配には及びませんわ」
赤い炎にちりばめられている緑の光。
「ま、まさかこの光は……!?」
その通りですわ。
聖女として培ってきた本来の力、【治癒】の光でしてよ。
「火属性の魔法と同時に【治癒】を二重詠唱していたというのかぁ!」
赤い炎と柔らかい光が混じりあい熱とともに、癒しの温もりがみなさんを包み込む。まるで、灼熱そのものが聖なる光に昇華したように。
「これが……ワタクシの力――――――治癒の炎ですわ!」
もちろん、みなさんに負担を強いていることは間違いない。
いくら【治癒】効果があろうとも炎なのですから。ですが……
「多少の痛み程度で、音を上げる軟弱者はここにはいませんの!」
聖なる輝きを帯びた炎により、凍りついた大地は完全に元の姿に戻った。
片膝をつくもの、肩で息をするもの、やはり相応のダメージは残っている。
ワタクシは隣のセシリアに視線を向ける。あの長官と呼ばれている男なら、おそらくは―――
「ぬぅううう! 魔導機械兵GR2! 【絶対零度システム】再度起動だぁ! そんなボロボロで同じことはできまい!」
やっぱりですわ。
巨大な魔法陣が再び私たちを包んでいく。
「―――セシリア!」
ワタクシの声が届く前に、彼女はすでに行動を起こしていた。
「――――――んんっ!」
セシリアの瞳が鬼気迫る勢いで、展開する魔法陣を見据える。野外演習でも見た光景。
「ちょ、長官! 【絶対零度システム】が……!?」
「な、なんだこれは! 誤作動か!」
誤作動なんかじゃありませんわ。
そう、魔法陣の書きかえ。
そして書きかえられた術式は、ワタクシでも覚えがあります。
セシリアが詠唱をはじめた。
「慈悲深き聖光よ、我が祈りを聞き届けたまえ。穢れし痛みを祓い、清らかなる癒しの救済を
――――――治癒!!」
凍結の冷たい魔法陣が、やがて緑色の光を帯び治癒の魔法陣へと姿を変える。
溢れ出す癒しの光が、聖騎士・聖女全員の体力を取り戻していった。
フフ、やっぱりこの子は凄いですわね。
「……み、皆さん、これで回復します!」
そう言ったセシリア自身は、かなりつらそうな表情ですわ。
これほど巨大な魔法陣を書きかえたうえに、【治癒】として使用したのですから。
「ちょ、長官、こ、これは!?」
「ぬぅうう、小娘ぇ! な、なにをしたぁ!」
焦りの色を隠せない軍服たち。余裕が無くなってきましたわね。
まあ……それはワタクシもですが。
あと少しだけ―――
「さあ……次の炎は、優しくはありませんわよ!」
ワタクシは再び両手をかざす。
今度は癒しではなく、純粋なる破壊の炎。
「罪深き影よ、今ここに裁きの時が来た―――
聖炎よ、汝の名のもとに邪を焼き尽くせ!
――――――聖炎の審判!」
轟音とともに、炎の奔流が魔導ゴーレムを襲う。
「ば、馬鹿な!? 聖女が、攻撃魔法だとぉ!!」
灼熱の奔流はゴーレム胸部に埋め込まれた魔石を直撃する。
バキィンと甲高い音を立てて魔石が砕け散り、ゴーレムがぐらりと揺れた。
「長官っ! 魔石損傷! 【絶対零度システム】使用不能!」
「――――――くそがぁああ!」
長官が血走った目で叫ぶ。
「こうなれば力でゴリ押しだ。魔導機械兵GR2! 聖騎士ども皆殺しにしろ! 聖女も攻撃対象にしてかまわん。息のある奴だけ捕らえろぉお!」
もう魔力は使い果たしましたわ。ワタクシの攻撃では魔石の破壊までが限界……
ふらっと倒れそうになるワタクシの背は、優しく受け止めれた。
「アレシーナ、セシリア。本当に良く頑張ったな。あとはおっさんに任せろ」
隣に立ったのは、木刀を握るボクレン。
あの大きな背中が、再びワタクシたちを守るために前に出る。
「ええ……ワタクシの聖騎士さま」
あとは頼みましたわ。
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