第59話 長官唯一の誤算、それは木刀聖騎士のおっさん
◇長官視点◇
「一番魚雷着弾!―――前方の聖騎士を撃破!」
報告と同時に前線の聖騎士どもが爆炎に包まれ、土煙の中で吹き飛んでいく。
地鳴りとともに、甘美な叫び声が響いた。
「よし、続けて二番発射!」
本艦より、ズズズという発射音が艦内に響く。
地中を這う魔導土魚雷が獲物を求める獣のように突き進み、再び閃光を伴って炸裂。
爆炎に巻かれた左舷の聖騎士たちは、ひとたまりもなく地に伏した。
「クハハハっ! 見たか、これぞ魔導技術の勝利だ!」
これだ、これなのだ! 俺が見たかった光景は!
俺は高らかに笑う。
「剣や盾など、時代遅れの遺物にすぎん! 旧世代の聖騎士どもなど、この新兵器、魔導潜水艦G201の前には塵芥同然よ!」
最高の気分だ。
「潜望鏡に新たな影を視認! 聖騎士です!」
「魔導ソナーでも確認、数6名!」
一部の聖騎士どもが、集まり始めたか。
むぅ……放った魔物を全て始末するには早すぎる。近場にいた隊が異変に気付いたのかもしれな。
まあいい―――
「増援といってもわずか6名だ! 攻撃続行!」
「三番、四番、魔導土魚雷―――装填完了!」
「発射せよ!」
再び土を裂き進む二本の魚雷。
「三番魚雷着弾!―――右舷の聖騎士を撃破!」
そうだ、これでいいのだ。
さて、聖騎士どももあらかた片付いたか。本艦を浮上させて、聖女捕獲に……
「ちょ、長官っ!」
「なんだ騒々しい」
「四番魚雷、せ、聖女の【結界】に防がれた模様、聖騎士への被害は軽微!」
「なんだと……?」
ありえん。魔導土魚雷は【結界】ごと粉砕するはず。大聖女の【結界】ならともかく、ひよっこ聖女どもの【結界】などで防げるものではない。
俺は苛立ちを噛み殺す。また開発部のやらかしか? 規定値の火力を保持しろと散々言ったのに、ムラのある魚雷を作りおってからに。
「一番、二番、魚雷再装填完了!」
いいだろう……
「よし、一番はいつも通り聖騎士へ。二番は―――前に出た聖女に向けろ」
「えっ、よろしいのですか? 聖女を直接攻撃など……」
「かまわん! どうせ奴らは後方にうじゃうじゃいる。一人二人消えても問題なかろう。むしろやつらの士気を叩き折る絶好の獲物だ!」
俺の命令通り、魚雷が発射される。
「一番魚雷―――またも聖女の【結界】により爆散!」
「二番魚雷―――聖女直撃コース!」
「潜望鏡より視認、【結界】が展開されている様子はなし!」
やはりな、一発防ぐのでギリギリなのだろう。
俺は口角を吊り上げた。
「くひひひ……仕留めたぞ、小娘! 爆ぜろォ!」
カウントが始まる。
「着弾まで―――五、四、三……」
だが。
「どうした? 報告せんか! 聖女は吹っ飛んだのか!」
「い、いえ! 爆音と振動を確認……ですが、聖女および聖騎士に損害なし!」
「なに……?」
「魔導土魚雷は地中深度十で爆発した模様! 外部から正体不明の強烈な圧力で地中に押し戻された可能性が……」
「馬鹿な、そんな芸当……重力魔法でも使われたか? いや、それでもあの深度での爆散は……」
どこのどいつか知らんが、ふざけた真似をしてくれる。
「よかろう、正体不明だろうが関係ない。叩き潰すまで! 次弾発射だ!」
「了解!―――三番発射!」
我らが魔導技術の恐ろしさを思い知らせてやるわ。
再び地中でうねりをあがる土魔導魚雷。
魚雷本体に小型の土属性フィールド発生装置を装備、さらに魚雷の中には爆発性の高い魔力を圧縮、そして直進軌道だけでなく、目標を追尾できる自動土中航行技術。
これは我らの研究成果の結晶なのだ。
絶対に負けぬ最強の魔導兵器なのだ!!
「―――三番魚雷、またしても土中に押し込まれました! 爆発不十分!」
何だとぉ……
続けて発射した四番も同じく、何者かに粉砕される。
馬鹿なぁ!
いったい地上になにがいるんだ?
伝説の聖騎士か? 歴戦の勇者か?
潜望鏡からの報告が艦内に響く。
「ちょ、長官! 前方に敵影!……お、おっさんが、木刀を持ってます!」
「はあ!? くだらん冗談はやめろ! 再度目視確認せよ!」
おっさんだと? なにを言ってるんだ? こいつ、ちゃんと視力検査を受けているのか?
「い、いえ……長官。やはりおっさんです!」
「なんだと! よく見ろ!」
「なんど見てもおっさんです!」
ぬぅうう……ふざけやがって!
「一番、二番を同時発射だ! おっさんごとき、粉々に爆砕しろぉおおお!!」
二本の魚雷が同時に発射される。
最高技術を詰め込んだ魔導兵器を二発同時だ。
おっさんだか木刀だか知らんが、完全に木っ端みじんにしてくれる。
「―――全弾命中!」
程なくして着弾点から、ズーーンと船体まで揺れが届く。
よし、この威力……フハハどうだ。
「魔導ソナーに反応あり! ―――おっさん健在! ダメージ皆無!」
「潜望鏡にて目視確認! 二発とも木刀で……叩き壊されました!」
「な、なんだとぉおおお!? なぜだ! ありえん、魚雷再装填! い、いそげ!」
信じられん……魔導土魚雷を木刀で粉砕するだと!?
意味が分からん。
「あれ?」
「どうした、潜望鏡でおっさんの位置を確認しろ!」
「それが、おっさんが巻き上げた粉塵で、視界不良であります!」
「―――おっさん、ロスト!」
ぐっ……位置が分からんのでは、魚雷を発射できん。
「ソナー! 位置を特定しろぉ!」
「魔導ソナー探針音に反応あり! ……っ、長官! おっさんが……」
「どこだ!」
「――――――頭上です! 本艦の真上にいます!!」
「なんだとぉ!」
「おっさん、木刀を……振りかぶっています!」
そして、ゴゴゴゴッ―――という凄まじい地鳴の直後―――
艦全体を叩きつける轟震。
魔導地震計の針が振り切れ、機関室の警報が鳴り響いた。
「直上より強烈な衝撃! 船体損傷多数!」
「ば、馬鹿な……土属性の大魔法でも、ここまでの揺れは……! あれは、本当に人間かぁあああ!」
次々と報告が飛び込む。
「第二、第三、第九区画に亀裂!」
「―――船尾損傷! 土漏れ発生! うわぁああ!」
「こ、こちら機関室!―――土属性魔力フィールド、出力減退! 魔導エンジン、魔力漏れ発生!」
「長官! このままでは周囲の土圧に耐えられません! 船体崩壊の危険あり!」
馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁ!
木刀のおっさんごときに本艦が……
「……くそぉおお!」
俺は戦闘帽を叩きつけた。
「本艦はこれより浮上する! ――――――地上戦闘の用意だ!」
「緊急浮上、全バラスト解放!!」
「総員、地上戦闘準備! 繰り返す、総員地上戦闘準備!」
まさか……たったおっさん一人のために浮上する羽目になるとは。
「おい、たしか例の新型が積んであったな」
「はっ! 一体のみ試作機ですが」
おっさんめ、こうなったら―――地上で決着をつけてやる!
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