第57話 アレシーナ視点、絶望の爆炎に立ち向かう聖女たち
学園祭の2日目、中央広場はすでに戦場と化していた。
吹き飛ぶ聖騎士たち、悲鳴を上げる聖女たち。地面の下から唸るように響く轟音―――まるで大地そのものが牙を剥いているかのよう。
ズズズズズズ!
地中を突き進むような音がワタクシの耳を揺らす。
前に出たからこそ、より鮮明に聞こえてくる。
「またくるぞ! ――――――避けろォ!!」
リンナ副隊長の怒声と同時に、地面が裂け土煙の中から眩い閃光が炸裂する。
轟音とともに衝撃波が広がり爆炎が迫る。
「聖女よ、我が声に応えよ。その加護、清き氷の吐息を授け、敵を封じよ!
――――――氷華剣舞!!」
エリクラス隊長の【加護】!
隊長は咄嗟に氷の剣を振るい、凍てつく氷結で炎を相殺する。しかし爆発そのものは止められず、隊長自身も吹き飛ばされてしまった。
「た、隊長!」
「リンナ、大丈夫です……敵に集中しなさい。これは地中からの攻撃です」
吹き飛ばされながらも、受け身を取りすぐに起き上がったエリクラス隊長。
さらに隊長はこの攻撃を地中からのものと認識を改め、周囲の聖騎士に即時伝達する。
さすが隊長、ですがその隊長ですら対処困難な攻撃であることも再認識させられた。
考えなさいアレシーナ。いかなるときでも冷静に……
この攻撃……あきらかに聖騎士のみを狙っていますわ。中央に固まる聖女へは一度も爆発が起きていないですもの。
つまり、人為的なもの。バレッサさんたちの報告によれば、魔道具を使った侵入者がいたと。
そして地面の爆発……エリクラス隊長が氷結させた際に、筒のようなものが地面からわずかに見えましたわ。すぐに爆発したので一瞬の出来事でしたが。
つまり、これは魔法ではなく魔道具による攻撃。
大地を泳ぐ魔導の兵器。こんなもの聞いたこともありませんわ。
ですが……聖騎士を狙うというのであれば。
「ティナ!」
隣にいる小さな聖女に目を向けて、その震える手をギュッと握る。
「【結界】を張りますわ。ワタクシたちで、皆を守りますわよ!」
「ひ、ひぃぃ……アレシーナおねぇ様、やっぱり怖いですぅ!」
「ティナ、勇気を振り絞りなさい。あなたの力は人を守るためのものでしてよ!」
前にでなければ、最前線で【結界】を張ることはできない。出来ればティナに無理はさせたくないですが……
ワタクシだけの【結界】では、あの火力と爆発力は防げない。
ズズズズズズ!
地を這うような音……来ましたわ!
「天を照らす聖なる光よ、闇を切り裂き、絶望を払う盾となれ!
我が祈りに応え、我らの歩みを阻む邪悪を退けよ。
顕現せよ――――――結界!」
光りの壁が前線のワタクシとティナ、そしてその場の聖騎士たちを囲む。
ティナも泣きそうな顔で必死に両手を突き出し、私の【結界】に自身の【結界】を重ねてきた。
綺麗で厚みのある壁ですわ。やはりこの子には才能がありますわね。
光の壁が迫り来る爆炎を受け止めた。轟音とともに瞬間的な重圧が一気に【結界】を圧迫する。
くっ……凄まじい力ですわ。
ティナもなんとか踏ん張っている。
それでも―――
「きゃあっ!」
魔道具の直撃に耐えきれず、ティナの叫びと共に私たちの【結界】は砕け散る。爆風が押し寄せ―――
ワタクシは咄嗟にティナのうえにかぶさった。
やはり2人の【結界】では無茶がすぎたのか。
お腹に力を入れて―――この子だけでも守らないと……!?
爆風がこない?
目のまえには光の壁がある。しかも三重【結界】ですわ。これって……
「わ、わたしたちもやるわ!」
「馬鹿にしてたけど……今は一緒に戦わせて!」
「くっ……早く後方へ……長くはもたない!」
倒れかけた私を支えたのは、かつて演舞で私を嘲笑った上級生の聖女たちだった。
その必死な目に、少しばかり胸が熱くなった。
ふふ、こんな死地に出てくる気概があるなんて、さすがワタクシとやりあった方たちです。
……そうですわね。皆が繋がっている。こなんことで折れるわけにはいきませんわ。
「いいでしょう、いったんさがりますわよ!」
聖女たちの【結界】で爆発の衝撃波を幾分か相殺できたこともあり、前線にいた聖騎士やワタクシたちはいったん後方にさがることができた。
例の3年生たちも、なんとか後方に戻ってくる。
「聖女アレシーナ……なんて無茶を」
「ああ、だが助かった。あたしたちも直撃を避けることが出来た」
エリクラス隊長とリンナさんが、再び前線に目を向ける。
「いっそのこと、あたしら聖騎士も聖女たちと固まってしまってもいいのかもな」
「ふふ、それは出来ないことぐらいわかっているでしょう、リンナ」
そう、聖騎士しか攻撃しないというのはワタクシたちの推測でしかない。
固まったところを、例の爆破でドンということもじゅうぶんあり得ますわ。
ですが、ティナとの二重【結界】さらには上級生の三重【結界】でも、地中の攻撃を完全に防ぐことはできなかった。
しかもたった一発に対して。
敵はすでに何発も土中の攻撃を仕掛けてきている。さらに聖騎士のみなさんは、敵の攻撃の合間をついて地面に様々な攻撃を仕掛けるも、手ごたえは一切なし。
このままではじり貧ですわ。
なにか策を……
「ふはぁ~ん、王城の分厚いフカフカのベッドに戻りたいですぅ」
ティナのボヤキに、まわりが少しばかりホッとした表情になった。
まったく、この子はすぐに気を緩ませて……いえ……分厚いですって?
「やってみる価値はありそうですわ。さあ、休憩は終りでしてよティナ」
再び前に出たワタクシは、早速【結界】の詠唱を開始する。
「え? アレシーナおねぇ様……これって」
そう、ワタクシが作りだしているのは正方形の板。おおよそ【結界】とは呼べるような形をなしていない。
展開面積を出来る限り絞り、小さく、しかし分厚い板を構築する。
「ティナ、広く張るのではなく、厚く……ですわ!」
「は、はいっ!」
ワタクシほどではないにせよ、ある程度の大きさまで縮みはじめたティナの【結界】。
やりますわね、おそらくは理屈でなく感覚でやっているのでしょう。まったく、将来強力なライバルになるかもしれませんわね、この子。
さて、これで【結界】のメドはつきました。だけど、もうひとつの難題をクリアしないといけない。
【結界】を分厚くしたはいいが、肝心の爆発を防ぐ場所に【結界】を構築しないとまったく意味がない。
あの魔道具のような筒は魔力を推進力に変えて、地中を突き進んでいるようですわ。
ならば……
集中力を増して、全体に視線を配る。
拾うのは魔力の流れ。つい最近まではこんな芸当はできなかったのですが、朝練で魔力錬成を重ねていくうちに、感じ取ることができるようになりましたの。
大地を流れる微細な魔力の波。わずかな膨らみと揺らぎ―――そこに、大きな揺らぎを感じる。次の攻撃の兆し。
ワタクシは全神経を研ぎ澄ませ、攻撃が迫る地点へ瞬時に【結界】を集中展開させた。
「ティナ! ワタクシの【結界】に重ねなさい! ―――来ますわよ!」
地面を突き破り、カッという轟音と共に【結界】は悲鳴をあげ、きしむ。
踏ん張りますわよぉおおお! ワタクシに負けじと、ティナも必死に声を張り上げる。
「おねぇ様ぁああ! ティナも負けませんっ!」
さらに背後から優しい力が重なった。
「アレシーナ、私も加勢します! 【治癒】ならマルナたちが頑張ってくれてますから!」
「セシリア!」
清廉な声とともに、聖女たちの凝縮された【結界】が重ねられた。三重の【結界】の板が、爆炎を周辺に四散させる。
「……ふぅ……これでなんとか一発は耐えられますね。アレシーナ」
セシリアの問いかけに「ええ」と答えようとした刹那……
「……っ」
ガクンと身体が痙攣して、地面に手をついたワタクシ。
全身に熱が巡ったような感覚……
「お、おねぇさま!」
心配そうに駆け寄ろうとするティナに手をあげて、大丈夫と制止させる。
手から漏れ出る微弱な魔力が見える。……赤いですわ。なんですのこれ……たしかレッドドラゴンとの戦いでも似たような感覚が……
魔力に集中しすぎて疲労が蓄積したのか、理由はわかりませんが。
今はそんなことよりも、地面の脅威に集中ですわ。
完全に押さえ込むことはできませんが、直撃を防ぐことができましたから。
休む間もなく地面は唸りを上げ、次の攻撃が迫って来る。
攻撃の間隔が短くなってますわ……。
汗が頬を伝う。とにかく一発ずつ対処するしかない。
ワタクシ、ティナ、セシリアの3人がかりで、先ほどと同じように対処している最中―――
「アレシーナ、危ない! 下がって!」
セシリアの叫びが響く。
次の瞬間、地中から現れた別の筒が突如突き上がった。ワタクシへの直撃コース。
―――避けられない。
でも諦めない……だって、これだけ時間を稼いだのですから。
そろそろですわよね。
「――――――ぬんっ!!」
聞き慣れた掛け声とともに、
ワタクシに直撃するはずだった筒は、まるで叩き潰された虫のように地中で爆ぜ、地表で鈍い衝撃だけを残して消え去る。外への爆発は一切広がらなかった。
フフ、やっと来ましたわね。
セシリアが、ティナが、聖女たちが、聖騎士たちが注目する中。その声が響いた。
「アレシーナ、大丈夫か。待たせたな!」
土煙の中から悠然と現れる1人のおっさん。片手に木刀を握りしめた、ワタクシの聖騎士。
「―――さあ、学園祭の邪魔をしたツケ、まとめて払ってもらうぞ!」
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