第56話 地を裂く土魚雷、魔導潜水艦G201(グラウンドクラーケン)の恐怖
◇長官視点◇
地中を突き進む、一隻の船。
「深度三十、魔導エンジン異常なし!」
「土属性フィールド、安定稼働中!」
クフフ、学園の強力な【結界】も、この魔導潜水艦G201の前にはただの壁だな。簡単に通過できたぞ。
「長官、格納庫にいた魔物は全て地上へ放ちました!」
「聖女たちは中央広場に集まりつつあり! 聖騎士どもは各地で魔物と交戦しています!」
よしよし……計画の第一段階は順調だな。
奴らの守りをばらばらにして、聖女どもを中央に集める。そこを一気にかっさらう。
クハハ、これだけの聖女を頂けば、聖属性魔力の燃料は取り放題だ。
『偵察陽動部隊! なにがあった? 応答せよ!』
『―――応答せよ!!』
「どうした、問題か?」
「先行して侵入した3名からの通信が途絶えました! なにやら木刀とおっさんがどうのと……その後通信不能に」
……木刀? おっさん?
そんな暗号はないぞ。意味がわからんな。
むぅ……にしても気付かれたか。まさか遮蔽魔道具を見破るとは……聖騎士どもめ、やりよる。
だが、やつらの戦力は分散された。陽動部隊の役目は十分に果たしたといえるだろう。
「長官、いかがいたしましょう?」
陽動作戦が成功しているとはいえ、囮として放った魔物の数もレベルもたいしたことはない。グズグズしていると学園聖騎士どもは再集結するだろうし、王国の騎士団も動くだろう。
時間稼ぎも有限……そろそろ頃合いか。
「よし―――総員戦闘配置! 雷撃戦用意!」
俺の号令に、鋼の艦内に緊張が走る。「戦闘配置」の警報が鳴り、魔導パネルが淡く光を放ち、兵士たちが慌ただしく動く。
「魔導ソナー探針音反応あり! 聖騎士、前方6名・距離百二十、左舷2名、右舷3名・距離百五十!」
ククッ……広場にいる聖騎士は、たったの11人か。
「よし、攻撃準備! 目標、まずは前方の聖騎士どもだ!」
「―――魔導土魚雷装填完了!」
「一番発射管ひらけ!」
「二番発射管ひらけ!」
艦内に響く金属音が、俺の胸を心地よく震わせる。
ふふふ……ついに来たか。本艦の真価が問われる時が。
地上の戦闘は囮に過ぎぬ。本命はここ、深き地中よりの雷撃戦よ。
「フハハハハ! 覚悟せよ聖騎士ども! 我らが最新鋭の魔導技術……その身体で存分に味わうがいい!」
◇◇◇
◇アレシーナ視点◇
中央広場は聖女で溢れていた。
ワタクシとセシリア、そして同じクラスメイトの顔も何人か見える。
「な、なんで学園に魔物がいるんですか……」
「ワタクシにもわかりませんわ。とにかく【結界】を張りますわよ、セシリア」
なにが起こっているのか理解できずに混乱する者、怯える者も多い。ここはワタクシたちが先頭を切ってまとめなければ、ますます混乱してしまいますわ。
そこへ一塊の影がこちらに近づいてくる。
「おねぇ様っ!」
「アレシーナさん、セシリアさん、無事だったっすか」
ティナですわ。それにバレッサさんやレイニさんたちも。
無事で良かった。ワタクシは胸の奥で小さく安堵の息をもらした。
「遅いですわよ、ティナ! でもよく頑張りましたわ」
「は、はいっ……」
そこへエリクラス隊長とリンナ副隊長が合流し、他の聖騎士とともに広場の周囲に防衛線を展開していく。すぐさまワタクシたちも加わり、倒された魔物へ【浄化】の魔法をかけていった。
散発的に現れる魔物たち。
ワタクシとセシリアは、エリクラス隊長をはじめとする聖騎士隊とうまく連携をとれている。ボクレンとの森での経験が役に立っている。
中央広場にいた魔物はあらかた討伐された。そこまで強い魔物ではないですし、隊長たちの敵ではないですわね。
「ふぅ……よし、これでいったん落ち着いたか」
リンナ副隊長が、額の汗をぬぐいながらつぶやく。
その瞬間だった。
ズズズズズズズ―――!!
「―――っ!?」
奇妙な音が聞こえたかと思えば、地面が激しくうねり、突如として爆発が巻き起こる。前方に展開していた聖騎士たちが、轟音と土煙の中で吹き飛ばされた。
「な、なんですの!?」
「敵の攻撃です! 聖女は負傷者を! 聖騎士隊は周辺を警戒!」
エリクラス隊長の声が響いた時には、ワタクシは駆けだしていた。セシリアも同じだ。負傷した聖騎士たちを抱き起こし、すぐさま【治癒】をかける。
「大丈夫です、すぐに治りますから!」
「せ、聖女セシリア……感謝します……」
だがその言葉とは裏腹に、セシリアの表情はかたい。
それもそのはず、傷が深すぎますわ……ワタクシの目のまえで瀕死の聖騎士が吐血する。
マルナたちも駆けつけたので、いったん爆発地点から中央に聖騎士たちを運ぶ。周囲の聖女たちと協力して【治癒】を重ねた。
だが、休む間もなく再び爆音が地を揺るがした。
「きゃああ!」
「うわああっ!」
またもや外周を守っていた聖騎士たちが吹き飛ばされる。爆風と土塊が広場を覆い、悲鳴が重なる。負傷者が増える一方で、中央を守る戦力がどんどん削がれていった。
「ぐっ……! いったいどこから攻撃してるんだ!」
リンナ副隊長や他の動ける聖騎士たちは、必死に上空を見ている。
たしかに、上からの攻撃に見えますが。魔力自体は下から感じられましたわ。
それに爆発前のズズズという音。
もしかしたら……
うしろから複数の駆ける音。
後方から新たな聖騎士たちが駆けつけてきた。
「ミーシャ隊戻りました! 報告、魔物は―――おっさんが片づけてくれています!」
「おっさん……? ああ……ボクレンですわね」
思わず口元が綻ぶ。胸の奥が熱くなる。
彼が頑張ってくれているおかげで、増援が来やすくなりましたわね。
「ふふ……さすがですわ、ボクレン。ならば、わたくしたちも負けてはいられませんわ!」
ワタクシは振り返り、仲間に声を飛ばした。
「セシリア、マルナ、クリスティ! 負傷者の治療はお任せましたわ!」
「はい!」
「任せてください!」
ワタクシはティナに視線を向けた。
彼女は唇を震わせ、目を潤ませていた。足もとがすくみ、先ほどから一歩も動けずにいる。
「ティナ! 行きますわよ!」
「え、ええぇ!? お、おねぇ様、わたし……怖いです……」
情けない声。けれども―――それは未熟ゆえの正直な感情。だからこそ、私は叱咤する。
「泣き言を言わない! ここで踏ん張らなければ未来はありませんのよ!」
「ひぃいいん……わ、わかりましたぁ~! な、何をするんですかぁ~!」
ワタクシは彼女の肩を強く掴み、真っ直ぐに見据えた。
「あなたの【結界】の腕は確かですわ」
「へっ?」
「止めますのよ―――あの爆発を! ワタクシとあなたの【結界】で!」
ティナの瞳が大きく見開かれる。
「いま気合を入れなければ、全員死にますわよ! 聖女ならば、覚悟を決めなさい!」
私の声が響いた瞬間、ティナの頬を涙が伝った。けれども彼女の瞳には、次第に決意の光が宿っていった。
さあ、どこのどなたか知りませんが、あなたたちの思い通りにはさせませんわよ。
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