第54話 混乱する学園、おっさんがなにかを見つける
◇リンナ副隊長視点◇
学園祭二日目の賑わいは、一瞬で恐慌へと変わった。
さっきまで笑い声で満ちていた学園に、今は悲鳴と獣の唸り声が反響している。
胸を締め付ける焦燥感の中、あたしは剣を抜きながら走っていた。
「西棟付近に魔物です!」
伝令の聖騎士が並走してきた。
「ラウルの隊を向かわせなさい!」と、横に並ぶエリクラス隊長が即座に指示を出す。
「南体育館付近にも魔物出現!」
「ミーシャの隊を!」
矢継ぎ早に飛び込む報告。
次々と仲間たちを振り分けていく隊長の声に、あたしは舌打ちを堪えた。
―――戦力が散らばりすぎている。
しかし、魔物がこれほど広範囲で同時に出現しているのでは、戦力を分散させる以外に手はない。
だが一体どういうことだ? 学園長の【結界】が張られている学園に、魔物が入り込めるはずがない。
そもそも王都にどうやって……
その考えを巡らす間もなく、甲高い悲鳴があたしの耳をつんざいた。
「キャァアアア!」
「リンナ!」と隊長が私を呼ぶ。
視線を向ければ、黒い毛並みの魔物―――ブラックウルフが聖女たちを追い詰めている。
そこまでレベルの高い魔物ではない。
「そこまでだ!」
あたしは跳躍して一気に間合いを詰めると、剣を突き出した。
「――――――聖突風一閃!!」
【加護】によりあたしの剣は緑の風をまとい、鋭い一閃がブラックウルフを貫く。
断末魔の悲鳴を上げて、魔物は崩れ落ちた。
逃げ惑っていた聖女たちが、震える声で口々に礼を述べてくる。
「た、助かりました……! 教室から出たら、急に……【結界】を張る暇もなくって……」
「なんだと!? なぜ教室から出た!」あたしは思わず声を荒げた。
「え……だって、『聖女は全員、中央広場に集まれ』って……」
「誰だ、そんな勝手な指示を出したやつは! 教室に隠れていろ!」
怒声が自分でも驚くほど鋭く響いた。
この混乱の中で、生徒たちを無闇に動かして外にだす? あり得ない。
「落ち着きなさい、リンナ」
エリクラス隊長があたしを静かに制した。
「今、教室に返すのは逆にリスクが高いでしょう。魔物がどこに潜んでいるかわかりませんし」
「……くっ」
確かに、頭に血が上っていた……隊長の言う通りだ。魔物の居場所が定かでない以上、中途半端に動かせば逆に犠牲者を増やしかねない。
なんだこれは、嫌な予感がする……
これは単なる事故では片付けられない。誰かが意図的に仕掛けたものだ。
「我々も中央広場に向かいましょう。途中にいる聖騎士聖女も拾いつついきますよ」
「……了解しました、隊長!」
あたしは剣を鞘にしまうと、怯える聖女たちに声をかける。
「君らもついてこい! 絶対にあたしから離れるな!」
混乱の中で不安と戸惑いが隠せない生徒たちにそう言うと、あたしは先頭を切って駆け出した。
絶対にまもる。それが聖騎士副隊長である私の責務だ。
◇◇◇
◇ボクレン視点◇
「魔物だぁ! ひぃ、こっちにもいるぞ!」
「うわぁ! 逃げろぉ!」
怒号と悲鳴が学園中に響き渡る。
すぐさま別の声が重なった。
『一般市民のみなさんは、速やかに学園より退去してください!』
『聖女のみなさんは中央広場に集まり、次の指示を待ってください!』
やけに通る声だが、聞き覚えがないな。
が、そんなことより……「ギュルウウウ!」という声が付近から聞こえてきた。
俺は木刀を握り直し、近場で魔物と交戦している聖騎士の元へ駆け込む。レイニその他数名の聖騎士がイノシシ魔物と戦っていた。
魔物は俺が急に現れたことに刺激され、牙をむいて襲いかかってくるが―――
「ぬんっ!」
鈍い音と共に魔物は崩れ落ち、動かなくなった。
「な、なに今の……」
「え? 木刀装備なんだけど……」
その場にいた聖騎士たちが呆然と口を開ける。俺も普段からまん人たちだから、詳しくはしらん。
その横で、レイニが肩をすくめて言った。
「あ、この人は変態ですけど、強いので安心してください」
「おい! レイニ!」
なんだその紹介の仕方は! と文句を返しつつもレイニから話を聞く。
レイニたちの話によると、魔物が分散して現れているらしい。彼女たちは犬型を倒して、この現場でイノシシ魔物と交戦に入っていたとのことだ。
「おかしいっすね……」とバレッサがつぶやく。
「さっきのブラックウルフにせよ、いまのレッドボアにしろ単体で現れたっす」
「それが、なにかおかしいんですか?」
ティナがバレッサの言葉に首を傾げた。
たしかに、あいつらは基本的に群れで行動する。一匹だけ紛れ込んだのならわかるが、おそらくある程度の数が学園にいる。
「そうだな……魔物の気配もキレイなほどに分散しているぞ」
「やっぱり何かがそう仕向けているように思えるっす」
バレッサが、険しい顔をしつつ顎をさわる。
なるほど、つまり誰かがこの魔物たちを連れてきて、なにかしら企んでるってことか。
「でも、怪しい感じの人はいまのとこ見かけてません」
「わたしも同じくですぅ」
ティナとレイニが口を揃えた。
いや……
「変なやつなら―――そこにいるぞ」
俺は少し離れた木をビシッと指をさした。
ティナが俺の行動に首を傾げる。レイニは「あ……もしかして」となにかに気付いた様子。まあ、少し待ってくれ……2人とも。
俺は小石を拾って、再び木に向かって声を張った。
「いち、にい、3人か。
――――――おい、おまえらなにやってるんだ!!」
と同時に石を投げる。
『―――いてぇ!!』
「「なんかしゃべった!?」」
驚きの声を上げる、ティナとレイニ。まわりの聖騎士たちも何事かと視線を声の方へ向ける。
『な、なんでわかったんだ!』
『遮蔽魔道具で完全に見えないはずなのに!?』
『こら声を出すな、馬鹿もの!』
……隠れてるつもりらしい。だが気配がダダ漏れだ。
「不心得者が、学園祭にまぎれこんでるみたいだな」
「先輩、お手柄っすよ。たぶんこいつらが、犯人っす」
バレッサたちも敵を認識したようで各々獲物を構える。
よし、んじゃま……ひと暴れしますか。
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