第51話 おっさん、メイド聖女に昇天しかける(セイントメイド喫茶だとぉ……これはヤバい)
「ふぅ、いい天気だな」
雲ひとつない青空に、心地よいそよ風の吹く聖女学園中庭。
今日は待ちに待った学園祭初日である。
「約束通り、今日は一日わたしの護衛ですよ♪」
そう言って得意げに腰に手を当てるのは、第三王女ティナ。
少し前の王城晩餐会でなんだかんだあり、今日は護衛という名目で学園祭を一緒に回ることになった。
にしても……本当に来ちゃったよぉ。
マジで護衛も1人もつけずに。馬車はティナを降ろすと、サーっと帰っていったし。
「どうしたんですか、ボクレン様? 早く行きましょう♪」
屈託のない笑顔を浮かべて、俺の手を引くティナ。
ま、くだくだ悩むのもいかんな。切り替えるか。
彼女は半年前に聖属性魔力を発現しており、来年にはこの聖女学園に入学する予定だ。ならば、学園祭をいい思い出にしてくれたら、この子も来年がより楽しみになるだろう。
「よっしゃ! 今日は一日楽しむか。ティナ!」
「はい! ボクレン様!」
てなわけで始まったティナ王女のエスコート。
まずは軽く屋台を見て回る。
揚げ菓子に焼き串、甘い果実ジュースに占いの出店まで並んでいて、学園祭の賑わいはまるで王都中央市場みたいだ。
学生たちが呼び込みの声を張り上げるたび、ティナは興味津々で立ち止まっては俺の袖を引っ張る。
「ボクレン様! 見てください、この飴細工! 食べると舌の色が……」
ぺろっと出したティナの舌が、カラフルに染まっていた。
う~~ん、普通にかわいい。
あちこちで立ち止まっては食べ、見て、笑う。
王女と庶民のおっさんが並んで歩くなんて妙な取り合わせだが、案外悪くない。
それに、彼女も普段はここまで自由にはできないんだろう。舌を出したり、道端で食ったりなんてまずできない経験だろうな。
―――と、ふと聞こえてきたのは妙なざわめき。
何やらひときわ長い行列ができている。
「なんでしょう、あの人だかりは……?」
「なになに……ええっと、『セイントメイド喫茶』って札が出てるな」
メイド喫茶? あれ、どっかで聞いたような……
首を伸ばす俺とティナ。さらに視線を凝らした瞬間、俺は息を呑んだ。
行列の先に書かれた小さな文字。
「担当:マシーカクラス」
「あ、ああ! そうだった……ここは」
俺とティナは列に並ぶ。
待つことしばし、やっと順番が来て案内された教室の扉を開けると―――
「お帰りなさいませ、ご主人様♡」
「遅いですわ、旦那様♡」
――――――うぉおおおおお!!
俺の目の前に現れたのは―――
黒と白のフリルがひらめくメイド服に身を包んだ、聖女セシリアと聖女アレシーナだった。
「こ、これが……聖女メイドというやつか……」
セシリアはふんわりと微笑みながら、白いレースのカチューシャを頭に載せている。
フリルのスカートが膝丈で揺れ、長い銀髪と絶妙にマッチしてまさに理想の「癒やし系メイド」そのものだ。
一方アレシーナは……。
赤みがかったツインテールを揺らし、堂々と仁王立ち。だが、胸元のリボンをやや引き気味に押さえて、実は少し恥ずかしい感を出している。
その仕草が絶妙に破壊力満点で、言葉にするなら「お嬢様系ツンデレメイド」とでも言うのだろうか。
そして特筆すべきは……胸元あきすぎぃいい。
2人のご立派なものが、コンニチワして今にも出てきそうではないか。いや、目のやり場に困るけど……もう俺の眼球が言う事を聞かない。
「な、なんだこれ……完成度が高すぎるだろ……」
そしてさらに奥には―――
慌てて転びそうになるマルナと、知的な雰囲気をまとうクリスティまでもが、同じメイド服で給仕をしているではないか。どの仕草もすばらしい。
だいぶと前に同じ趣向の店に入ったことがあるが、そことは次元が違う。
「メイド聖女! かわいすぎるぅうう!」
あ……おっさん、思わず叫んでしまった。
いや、叫ばずにいられるか。こんなの国宝級だ。
「ムうぅう……ボクレン様! はしゃぎすぎですっ!」
すかさずティナが頬をふくらませて抗議してくる。
「わたしという護衛対象を差し置いて、どこ見てんですか……ぷんっ!」
いやいや王女様、今ばかりは許してくれ。これは国を揺るがすレベルの衝撃なのだ。
ティナはぷくっと頬を膨らませるが、その姿がまた子犬みたいで可愛い。
ははっ……この子も来年は聖女か。
「ティナも負けずにかわいいぞ」
「えへへぇ~~本当ですかぁ~~わたしもメイド服着ちゃおうかなぁ」
マジか! それは是非とも……って! いかん! いかんぞ、おっさん。
王女にメイド服着せたとかバレたら、おっさんガチで打ち首にされてしまう。
名残惜しくお出迎えの余韻に浸っていると、別のメイド聖女がテーブルに案内してくれた。
ふはぁ~~スカートみじけぇええ……なんだここは。おっさんを興奮死させる気か。
テーブルについて、水を一気飲みするおっさん。
「う、うまい! これは聖水なのか!?」
「そんなわけないですよぉ……もう、ボクレン様さっきからワクワクしすぎですよぉ」
若干呆れ顔のティナだが、まあ許してくれ。おっさん、高揚が抑えきれない。
しばらくたって、メイド聖女たちが料理を運んでくる。
目玉はもちろん―――オムライスだ。
俺の知識が正しければ、例の儀式が行われるはず……
「それでは……おいしくな~れ、です♡」
「わたくしの魔法を授けますわ……さあ、おいしくおなりなさい♡」
セシリアやアレシーナが、ハートを描くようにケチャップをかけながら唱えてくる。
マルナもクリスティも、しっかり俺のテーブルに来て「おいしくな~れ♡」をしていく。
……なんだこれ。
ヤバい……おっさんちょっと天国に逝きそうになった。
メイド聖女オールスターのおまじないを浴びたオムライスなんて、神の祝福を超えている。
俺は真剣に思った――全財産をここにつぎ込んでもいい。いや、つぎ込もう。
―――その時。
「変態は退店してもらうぞ」
聞き覚えのある声だ……おいおい、まさか……
振り向けば、そこにいたのはリンナ副隊長。
しかも―――メイド服姿で。
「おいおいおい……リンナまで……!?」
リンナは不慣れなフリル姿で、ぎこちなく他の客を接客していた。
「き、貴様……じゃない……ご、ご、ご主人様……こちらの席にすわれ!」
おおぉぉ……!? 1人だけ別次元の接客しとる……
でも、顔を真っ赤にして客をぶった切る姿は逆に新鮮すぎる。
「な、なんだろう……でもなんかいい……」
恥じらうリンナと、荒っぽい言葉遣いのギャップ。
なるほど……これはファンがつくぞ。実際、他の客席でも「リンナ様ー!」みたいな声援が上がっている。
そんなリンナと視線が合った。
「な、なんだボクレン! ジロジロ見るな……へ、変態っ!」
「うぉおおおお! きた! リンナ様、変態のひと声きたぁああ!」
「オプションに罵声ってあるのか?」
「いや、裏メニューだろ!?」
周りの席から次々に野郎どもの嬉々とした声が上がる。
「う~~む……これはこれで……アリだな」
コアなリンナファンが確実に育っていることを実感しつつ、俺はオムライスを頬張った。
こうして、学園祭の初日は大満足のまま夕方を迎えるのであった。
歩きながらも、ずっと余韻が頭に残る。すげぇ店だった。
「ボクレン様ぁ~~」
ああっ! やべぇ……夢中になりすぎて、あまりティナのこと構ってなかった。
「わ、悪かった。夜の魔法演舞はちゃんとエスコートするから」
「ふぅ……まあ、いいですけど。そういえばアレシーナさんが出場されるんですよね? 聖女魔法演舞」
ああ、そうだ。
俺の天使が輝く時間だな。
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