第5話 木刀おっさん、気づけば聖騎士に推薦されていた
「なあ、セシリア」
「はい、なんですか? ボクレンさん」
「まだ着かないのか?」
「ふふ、今日中には到着すると思いますよ」
馬車に揺られて、もう一週間。
えらく遠いところに住んでたんだな。こりゃセシリアも護衛を頼む訳だ。
まあ、道中は魔物に襲われもしたが、俺と新人冒険者たちで問題なく撃退できた。
なぜかやたら懐かれて、飯の時間まで一緒に取る仲になってるけど。
と、思ったところで馬車が止まった。魔物じゃなさそうだが……?
「おお、着いたのか?」
にしてはただの道だな。数日前から大きな街道に入ったが、ここはかなり整備されている。
「いえ、違いますねボクレンさん。おそらく通行待ちだと思います」
セシリアの言葉と同時に、後方から蹄の音が近づいてきた。馬のかける音、それに馬車もいるな。
その集団は俺たちの馬車の横を通り過ぎていく。
格式高そうな馬車を、騎乗の騎士数名が守るように並走している。
「うおっ、聖女さまの馬車だぜ」
「ってことは、まわりにいるのは聖騎士かよぉ……」
「すげぇ……かけぇええ、オーラが違うぅ」
俺と同じく幌の隙間から様子を伺っていた4人組が、興奮の声を漏らした。
わかる、俺もちょっとテンション上がってる。
「あの紋章は、聖女オーレリアさまとその聖騎士隊のみなさんですね」
「へぇ~聖女さまに聖騎士か」
光輝く鎧、風にはためく旗印。騎士たちはみな引き締まった表情で、まさに"絵になる"ってやつだ。
たしか、この国を建国したのも聖女と聖騎士だったけか? 聖女さまは馬車の中で見えんけど、聖騎士はどいつも……ほぇ……強そうだぁ。
「先頭を駆けるのは、聖騎士リオルガさまですね」
「凄いな、見るからに歴戦の騎士って風貌だぞ」
「はい、リオルガさまは王国でも10本指に入る実力の持ち主です。たしかキングオーガの討伐に向かっていたはずですから、無事に完了したようですね」
「マジかよ……すげぇな」
キングオーガなんて、いかにもヤバそうなやつを倒したってのか。
おっさんとは住む世界が違う……。
などと思っていたら、また別の一団が現れた。
「まあ、あちらは聖女システリアさまと聖騎士のみなさんですね」
「ええぇ……また聖女さまかよ……にしても詳しいんだなセシリアは」
「はい、紋章は授業でも習いますので」
セシリアの通う学校ってそんなことまで教えてくれるのか。
俺の通ってた田舎学校なんて、メインは読み書きにちょっとした計算とかだったぞ。
「こっちの聖騎士はごつくていかついなあ。強そう……」
「はい、聖騎士ゴリアスさまですね。たしかアースリザード討伐に向かわれていたはず……こちらもその帰路のようですね」
なにこの道……凄そうな人たちがバンバン通るじゃないの。
俺のいたド田舎ではまず見ない光景だな。
ようやく一行が通り過ぎたので、俺たちの馬車も動き出した。
「ふぅ~~なんか緊張したな」
「ふふ、ボクレンさんなら大丈夫ですよ。じゅうぶん聖騎士にも見劣りしませんから」
銀髪を揺らして、ニッコリと良く分からんことを言うセシリア。
……いや、それはさすがに買いかぶりすぎだ。
でも、嬉しそうに笑うセシリアを見ると、反論するのも野暮に思えてしまう。
まあ、この子はこれから色々学んでいくんだ。
そう思いながら馬車に揺られること、さらに1時間ほど。
「さあ、ボクレンさん。そろそろ目的地ですよ」
おお、ようやくか。長かったぜ。
進行方向に街並みが見え始めた。んん……?
「なあセシリア、見間違いな気がするけど町の奥にでっかい城があるんだが?」
「はい王城ですよ」
「……おうじょう!? おいおい……セシリアの行ってた大きめの町って……王都だったのかよ!」
「はい、ボクレンさん。ルハルト王国、王都グランセントです♪」
俺の住んでいる国でもあるルハルト王国。その発祥は聖女と聖騎士の夫婦が作ったとか。そういえばオヤジも昔、王都に行ったことがあるとかいってたな。
いやぁ……にしてもまさか王都に来ることがあるとはなぁ。ド田舎暮らしの俺にとっては一生に一度のイベントだな、こりゃ。
帰りの馬車賃がクソ高そうぅ……。
「私の通う学校は王都にあるんですよ」
王都の馬車付き場で降りた俺は、セシリアに連れられて学校へ向かった。
同乗していた4人組は名残惜しそうにしていたが、その場で分かれた。冒険者ギルドへ行くようだな。
まだまだ若気の至りな部分はあるが、根はいいやつらだ。いつかは立派な冒険者になるだろう。
そして、しばらくしてセシリアの学校に到着。
「ふはぁ~~立派な学校だな」
綺麗な大理石の外壁に包まれたクソデカい建物。中庭にはデカい銅像が建ち、奥にはなんかばか高い塔もある。
完全に城。いや、王城の次に立派な建物だろこれ。
おっさんが通った、ド田舎の木造平屋校舎とは訳が違う。
なんか気後れしているおっさんをグイグイ中に連れ込むセシリア。
「お、おい。セシリア。おっさんが入っちゃマズいんじゃ……」
「ふふ、大丈夫ですよ」
その笑顔がすごく無邪気だから困る。
だって……まわりの目が絶対大丈夫じゃないんだよぉ。
すれ違う人全員が、俺を二度見しているんですよぉ。
そんな視線に耐えながら案内されたのは、事務棟のような建物。
「はい、ボクレンさん。この紙に必要事項を記入してください」
「え? なにこれ?」
「先日言いました、お仕事の登録用紙ですよ」
ああ、いいバイトがあるってセシリアが言ってたやつか。
たしかに今の手持ちじゃ帰ることもできん。
それに王都なら、いろんな仕事が山のようにあるんだろう。
記入して提出すると、事務員さんが書類を確認し、俺の顔をジロジロ見てきた。
そういや仕事内容聞いてなかったな。学校関係の仕事だろうか? いやでも俺は教師になどなれんし、まあ雑用係とかなのかな?
「……あの、セシリア殿。本当にこの方で?」
「はい、間違いありません!」
「ええぇ……本当ですか……」
なんだろ、なにか不都合があったのだろうか。
とりあえず事務員さんが、すんげぇ目で俺を凝視してるんすけど……
「あの、セシリア殿。しつこいようですが、本当にこの方で間違いないんですね?」
「はい!」
「本当に本当にいいんですね? 失礼を承知で申し上げますが、普通のおっさんに見えますけど?」
「はい、大丈夫です!」
「なんか木刀を腰にさしてますよ、いいんですね??」
「はい、ボクレンさんしかあり得ませんから!」
おい、大丈夫かよこれ。
なんの話かわからんが……その事務員さんの言ってることは正しいな。俺は普通のおっさんだ。
やっぱりこんなおっさんは、募集対象じゃないのでは?
「ふぅ……わかりました。では学園聖騎士隊に書類を渡します。正式な承認は隊長がくだされますので、それまでは中庭で待機してください」
「はい、ありがとうございます。さあ、行きましょうボクレンさん」
うわぁ、なんかセシリア強引にねじ込んでないか、大丈夫なのかこれ。
おっさん怖くなってきた。
「お、おいセシリア。で結局、俺の仕事ってなんなんだ? この学校でおっさんにやれることは、そんなになさそうだぞ」
「はい、ボクレンさんには聖騎士になってもらいます!」
ああ、なんだ教師とかじゃないのか―――って
はぁああああ!?
「い、いや……ちょ、ちょっと待てくれセシリア。意味がわからん」
「聖女には、自分の護衛聖騎士を推薦する権限が与えられていますから」
へぇ?
聖女?
聖騎士?
推薦??
「ふふ、ここは聖女学園です。そして、わたしも聖女ですよ。正確には聖女のたまごですが。これからもよろしくお願いしますね、私の聖騎士さま」
はい? ちょっと何言ってるかよくわかんない、この子。
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