第40話 木刀おっさん、王城にいく
「ふはぁ……でけぇええ」
おっさんの視界に広がるのは、ドデカイお城。
「待てぃ! 貴様、なに用だ!」
そしていきなり門で衛兵にからまれた。
「えっと、王様に呼び出されたんだ。入っていいか?」
「はぁ? おっさんが昼間から何を寝ぼけている? 飲みたいなら市街地へ行け!」
いや、酔っぱらってないけど。
門からして入れん。
「さすがに王城のセキュリティは強固だ……これはやはり帰った方がいいな。うん」
回れ右しようとすると、左右から美少女2人にがっちりと両腕を掴まれた。
「はいはい、ダメですからね。ボクレンさん」
「まったく、ワタクシの聖騎士はもっと堂々とですわ」
セシリアとアレシーナだ。
「まったく……貴様というやつは」
そう言いながら、王様からの手紙を衛兵に見せるリンナ副隊長。
「こ、これは大変失礼いたしました!」
「ど、どうぞお通りください!」
くっ……そんな紙切れ一枚で通していいのか。
おっさんが刺客だったらどうするんだ。
という俺の思いは誰にも理解されず、グイグイと両肩を掴まれたままデカい城に入って行く。
「ふはぁ……大きな中庭だな」
聖女学園の中庭も大きいが、こちらはその上をいく。
手入れの行き届いた花壇に噴水、荘厳な庭園がごとく左右に広がって行く圧巻の風景。
絵にするなら、こういう場所を描くんだろう。
そして城内の視線がおっさんに集まる。
すげぇ見られてる……。
「ふふ、木刀刺したボクレンがかなり珍しいんですね」
先頭を歩くエリクラス隊長が声をかけてくれた。
「今回の試合は非公開です。城内でも知っている人間は少ないのでしょう」
ふむ……まあ、大事にされていないだけマシか。
完全公開で人が来まくったら、おっさんちびっちゃうからな。
やがて辿り着いたのは円形の闘技場。
「ここが、試合場か」
大きな円形の闘技場は石畳が敷き詰められており、淵にはぐるりと装飾がほどこされている。
でてくるものすべてが立派だな。
俺たちが指定の場所に到着すると、すぐに人が寄って来た。
「お持ちしておりました」
「学園聖騎士隊長、エリクラス殿ですな」
「はい、本日はお招き頂きありがとうございます」
「して、ボクレン殿はどちらに……」
「ええ、こちらに」
隊長が俺に視線を向ける。
「いや、従者の方ではなく。……あ、もしかして遅れておられるのか?」
おっさんここにいるよ。
「いえ、こちらが学園聖騎士のボクレンです」
「ええぇ……このおっさ……じゃない。はぁ……な、なるほど」
ほらぁ~~やっぱおっさんここに来ちゃダメな人じゃん。
出迎えた人も、びっくりだよ。
しばらく動揺が隠せない様子だったが―――
「……あ、陛下がお見えです。それに、王子殿下と王女殿下もご一緒に」
出迎えの人が、ぴしっと背筋を伸ばして報告した。
その瞬間、場の空気が一気にビシィッと引き締まる。
角笛の音が高らかに鳴り響き、石畳の通路を黄金のマントを翻した王様が悠然と現れる。
その隣には凛々しい王子と、華やかな王女。
うわぁ……ほんとに来ちゃったよ。マジで……来なくていいのにぃ……。
エリクラス隊長とリンナ副隊長が、いつにもましてピシッと姿勢を正す。
そして両脇のセシリアとアレシーナが、俺に呟く。
「大丈夫ですよ、ボクレンさん。堂々としていれば、きっと立派に見えます」
「ワタクシの聖騎士ですもの。胸を張ってくださいませ」
2人の天使に励まされるが……
おっさんは今にも逃げ出したいのが本音。
「……あれが、ボクレン殿か。なるほど、たしかに噂とは……違うな」
王子が遠くから見下ろすような視線で呟いた。
「ふふ、なかなか面白そうな方ね」
王女の方は口元に扇子を添え、上品に笑っているが―――
あれだ、絶対これ「珍獣を見る目」だ。
そして、ついに王様が口を開く。
「そなたが、ボクレンか」
「は、はい……ぼくへ……あっ、学園聖騎士のボクレンです……」
噛んだ。
そりゃ噛むさ。相手は王様なんだぞ。
「うむ、話は聞いておる。演習ではよくぞ聖女たちを守ってくれた。今日はその力、しかと見せてもらおう」
「……あい!」
よし、返事すらまともにできなかった。
こうしておっさんは王族一同が見守る中、闘技場のど真ん中に立たされることになった。
あ、そういえばおっさんの対戦相手はどこだ?
緊張しすぎて、まったく周りが見えてなかったからな。
「あちらが剣聖さまですよ」
セシリアの視線のさき……エリクラス隊長と談笑しているじいさまがいた。
俺の視線に気づいたのか、こちらにゆっくりと向かってくる。
真っ白い髭面に、白髪。うむ、情報通りのじいさまだな。
次第にその姿は大きくなっていき……
ええぇ、これじいさまなのか!?
胸板すげぇ、腕ふとい、筋骨隆々やん! 年齢詐称じゃないのか!
でもすげぇ髭ずらに白髪だな……じゃあ、じいさまか。
「ボクレン殿、ようやく会えたのう」
ええぇ、なんか満を持して会えたみたいなセリフ出てきたけど。
おっさん、いっさい知らんのだがこの人。
にしても……なんか既視感というか懐かしい感じがする。このじいさま。
「ぼ、ボクレンだ。……です」
「ふははっ、よいよい。こちらで呼び立てたのだ。わしにかしこまる必要はない」
「そうか、それは助かる。どうも田舎育ちで固い言葉は苦手だ」
「ふむ、エリクラスの言う通り面白い男だ。
―――わしは、元聖騎士ガスティーク。今はただの孫娘大好きじじいじゃ」
朗らかな笑みを浮かべるじいさま。
だが、その奥には燃えるような闘志が湧きあがりつつある。
なにが孫娘大好きじじいだ。やる気満々じゃねぇか。
俺たちは闘技場にあがり、向かい合った。
「ボクレンさん、頑張ってください!」
「ワタクシの聖騎士、気合ですわよ!」
「ボクレン、いつも通りでいけ!」
俺の天使2人に、副隊長殿が声をあげてくれた。
王族ご一行もセシリアたちと同じく、闘技場の奥にある観覧席に着席している。
周辺にはなんか壁が見えるな。誰かが【結界】を張っているようだ。
準備万端ということか―――
さて。
俺は静かに木刀を抜いて、構えた。
じいさまも剣を抜く。なんか凄まじく綺麗で高価そうな剣だ。
次の瞬間―――
「――――――ぬぅうううう!!」
なんだ!? じいさまの身体が輝き出したぞ?
「あ、あれは! おじいさまの【加護】? いきなりですか……!」
観覧席からエリクラスの声が響いた。
「ふぅうう、ボクレン殿、これがわしの【加護】―――戦神降臨!
ようは身体強化の【加護】じゃ。全盛期とまではいかんが、これで貴殿といい勝負ができるじゃろう!! まいるっ!!
―――――――――ぬあああ!」
瞬間で俺の前に肉薄するガスティーク。
速いっ……!!
「ぬんっ!」
俺も瞬時に木刀を振り向く。
木刀と剣が交差した瞬間―――
闘技場がミシっと音を立て、空気が歪む。
双方獲物は交差したまま、微動だにしない。
いや、すぐには次の動作に移れなかったといった方が正しい。
いい勝負ができるだと……
重い一撃だったぜ。
久しい感覚だ。
ああ、思い出した。既視感があると思ってたんだが理由がわかった。
オヤジか……このじいさま、死んだオヤジと同じかんじがする。
そうかそうか。
この感覚か。
こりゃ久しぶりだぜ! おっさん燃えてきた!
どれ。
ひとつ――――――胸を借りるか!!
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