第37話 おっさん、美人聖騎士たちと飲みにいく(天国のち→??)
ぽつぽつと灯る学園の街灯。
赤く染まる夕空の下、俺は鼻歌交じりで学園の正門に向かっていた。
アレシーナとセシリアはすでに聖女寮に戻り、残された俺には予定はない。
で、これからどこへ行くかって?
決まっている。エールを一杯やりにいくのだ。
今日は気分を変えて、いつもと違う店にしてみようか。
表通りのいつもは素通りしてしまうお高めな店。おそこに入っちゃおうかなぁ~~。
おっさん何を余裕ぶってるんだって?
そんな金あんのかって?
―――あるんですよ。ここに。
俺は金貨の入った袋を持ち上げ、ジャラリと鳴らしてニヤリ。
そう、特別ボーナスである。
思わずスキップの一つも踏みたくなる。
あ、ぶっちゃけしちゃってるな.おっさんスキップ。
まあ、夕暮れだしそこまで人もいないし……
「貴様ぁ……」
いたよ……真正面に。
綺麗な黒髪をさらりと流し、凛とした瞳で俺を射抜く女。
「なんだその変態踊りは!」
だれが変態踊りや。
「違うぞリンナ。俺はちょっと浮かれてただけだ」
「浮かれてもいいが、学園での変態は控えろ」
だから変態じゃなくて、おっさんスキップだって。
やけに絡んでくるな。
あ、さては……
「一緒に飲むか?」
ボーナスが出たやつには、たかりに行くってのが世の常。
「な! なんで貴様と2人きりで……(ま、まあいいけど)」
「んん? 行くってことか? あ、ちなみに今日はボーナス出たから俺のおごりだぞ」
「……わかった」
「なにモジモジしてんだ。トイレだったら学園ですませとけよ」
「ち、違うわぁ!!」
リンナに思いっきり足を踏まれた。
いや、だってお店によってはトイレは混むからな。と思ったんだが。
ま、一悶着はあったものの俺とリンナは学園の正門まで来たのだが―――
「あれぇ~~お二人で珍しいっすね?」
声の主はバレッサ。後ろにレイニもいる。
「おう、今からリンナとな」
俺はジョッキを煽るポーズを取った。
「へぇ~~デートっすか」
「ええぇ、リンナ副隊長とボクレンさんって……そうだったんだ!?」
「―――違う!! 断じてない! あり得ない!!」
……凄い形相で否定するな、リンナのやつ。
まあ、おっさんなんかとあり得んことぐらい、誰でもわかるじゃないか。
これはバレッサのネタだよ。
お、そうだ。
「バレッサとレイニもどうだ一杯。今日は俺のおごりだぞ」
「わぁ~い、いくっすいくっす~」
「え、じゃじゃ私も行きますぅ~」
「くっ……二人とも止めたほうが良い。この変態と行ったら、ど、どさくさに紛れて尻とかさわられるぞ!」
いや、さわらんがな。
そんなんしたら、おっさん一発アウトだ。
「あれぇ~やっぱ2人で行きたいんすか? リンナ副隊長?」
「ええぇ! そ、そういうことなの? やっぱりぃいい!」
「―――なぁあああ! ないないないないない、絶対にない!!」
「だって、先輩と二人っきりで行きたいんっすよね?」
「ち、違う! こい! バレッサもレイニもこい!
―――あと、おまえらもこい! 全員こい!! 拒否はゆるさん!!」
なんだ……リンナのやつ。周りの聖騎士を片っ端から誘い始めたけど。
続々と集まり出す、美人聖騎士たち。
こりゃ、いつもの黒豚亭は無理だな。
◇◇◇
「うわぁ~~綺麗なお店っすね~~」
「わぁ~~メニューも豪華ですよぉ」
「ボクレンさんは、なににしますか~? あ、エールか」
俺たちは王都の表通りにある、ちょっとお高い店にいる。
なんだかんだで、結局クラス全員の聖騎士がついてきた。
いつもの黒豚亭は人数キャパの問題でダメ。
かといって、そこらの店にするにも……この子たちが美人美少女すぎてあまりにも目立ちすぎる。
しかもその中におっさん1人とか……なんか周りの目もすごくいかがわしい感じで見てくるからな。
なのでいつもは行かない、というか行ったことのない大通りの店に入ってみた。
ここなら個室がある。
「ああ、俺はエールでいいよ。みんな好きなものを頼んでくれ」
「「「「「はぁ~~い」」」」」
俺は冊子になっている立派なメニューをチラ見した。
…………エール一杯5000ゴルドだとぉ!?
黒豚亭ならば、ちょい飲みセット(エール+おつまみ2品)で500ゴルドだぞ。
いや、今日はもういいんだ。
そもそもこの特別ボーナスは、俺だけの手柄で得たものじゃない。
みんなの協力があってこそのものだ。
だから―――
「遠慮はいらん! ――――――財布はすべておっさんがもってやる!!」
「「「「「わぁ~~い」」」」」
美人美少女たちのテンションが上がる。
うんうん、これでいいんだ。
俺は目の前に運ばれてきたエールに手を伸ばして、一気に喉に流し込んだ。
―――うめぇええ
シュワシュワたまらん!
さすがは5000ゴルド。
安価なやつもいいが、これはこれでこくがあって喉ごしもいつもと違う。
さらにこのグラスにも仕掛けがあるのだろう。
キンキンの冷え具合がいっこうに変わらず飲める。つまりいつでもキンキングビグビだ。
おっさんがテンションを上げていると、向かいの女性騎士は静かにグラスを口につけていた。
「どうしたんだリンナ。いつもみたいに「―――エール追加だ! ジャンジャンいくぞ!」って飲まないのか?」
―――ガッ!!
痛てぇえ!
無言で思いっきり足を踏まれた。
ああ、そうか。今日は部下が勢揃いしてるからな。副隊長としては、あまりはっちゃけるわけにもいかんのか。
副隊長ともなると大変だな。
「ボクレン……聖女アレシーナの件だが」
そんなリンナが静かに口をひらいた。
「おお、どうした?」
「いや……貴様が聖騎士になったと聞いて驚いたぞ」
「うむ、なぜ俺を指名したのか良く分からんが、彼女のたっての希望だからな」
「ふん、そうだな。貴様のような変態を指名するなど……あたしも理解不能だ」
俺は変態ではないぞ。
が―――
「たしかに、アレシーナほどの聖女が俺を指名するとはな」
「ああ、だだ彼女は卒なくこなしているようで、まだまだ脆いところがある」
たしかにリンナの言う通りかもな。
あの子は無理をしている節がある。自身の聖女としての力、それに家庭における立ち位置など。が、それも含めてアレシーナという子なんだが。
「まあおっさんのやれる範囲で務めてみるよ」
「ふん……ま、ボクレンなら……大丈夫かもな」
そう言うとリンナは持っているグラスをグッと煽った。
「ああぁ~~また二人っきりの世界にひたってるぅうう~~」
レイニか。
けっこう酒も入っていい感じになってるじゃないか。
「……二人っきりだと。レイニ!」
「はゃい! 副隊長ぅ!」
「チビチビ飲むのはやめだ! あたしに付き合え! さあぁ~~おまえらぁあ、飲むぞぉ!!」
おお、リンナも素が出てきたな。
「先輩~~こっちのテーブルにも来てっス♪」
「おお、そうかよし! おっさんいっちゃうぞ~」
こうして俺たちは、飲んで食って大いに楽しんだ。
宴もたけなわかと思われた頃……
「ああぁあ! 木刀のおっさんイラァ~~!!」
ベロベロのマシーカ先生が乱入してきた。
またかよ……
「なにちょっといい店でぇ~~若い子はべらしてんのさぁ~~わたいもまざるぅううう~~
――――――エール100杯追加ラァアアア!!」
それからめちゃくちゃになった……
リンナは絡みモードに変わってしまい。しきりに「脱げ脱げ」叫ぶ脱衣騎士と化した。
さらにはその他の聖騎士たちも全員猛烈に飲みまくり始めた。
酒が入ったのかみんな近い。俺の膝の上に座る奴まで現れた。おい、おっさん男やぞ。
みんなそんなになんか溜まってたのか。
だがまあ……
今日ぐらいはいいか。
この個室は防音魔法がかけられているらしいし。
好きなだけ食って、好きなだけ飲んで、好きなだけ騒げ。
俺はそんなみんなの楽しそうな様をさかなに、エールをグッと飲み干した。
ぷはぁああ……最高やな、これ。
数時間後……
みんな大満足で店を出る。
俺は会計のために、店のレジに向かった。
素に戻ったリンナが「ああぁ、あたしは皆のまえでぇ……」と頭を抱えていた。
まあまあ、たまには素のリンナも見せていいと思うぞ。
レジで会計を待つ俺に、リンナが言う。
「そうだ、ボクレン。貴様、明日はエリクラス隊長の元へ行け」
そして、請求額の記載された紙を受け取るおれ―――!?
「おい、聞いてるのかボクレン。朝一で行けよ。隊長の呼び出しだからな」
ああ、わかった。
だが、そんなことよりも重大なことがある。
高級そうな紙に記載されたこの数字……
おっさんの特別ボーナス全部飛んだ。
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