第35話 Aランク冒険者に宮廷魔術師だと……木刀振れば大丈夫ですわ
くっ……話が違うんだが。
場所は屋敷の広大な庭。
まさに今、模擬戦が始まろうとしているのだ。
が、早くも問題が発生した。「たいしたのは出てこないですわ」だと。
おっさん、ちょっと油断してた。
「お、おい。アレシーナ」
俺は横を歩くアレシーナの袖をちょいと引っ張る。
「ボクレン、落ち着きなさい」
「いやいやいや、Aランク冒険者に宮廷魔術師だぞ」
これが落ち着いていられるか。
ヤバいぞ。間違いなくおっさんより強そうだぞ。ていうか強いだろ。
「まったく……所詮は「元」ですの。たいしたことありませんわ。そしてボクレン、あなたは現役の木刀でしてよ」
現役の木刀ってなに!?
そんなツッコミをしている間に、戦場に到着してしまった。
「では、二人同時に相手するということで構わぬな」
「はい、お父様。もちろんですわ」
うわぁ。勝手に話し進んでるよぉ。
「ふん、こんなおっさん。前座ですなシュルジュ殿」
「そのとおりだガードン殿。さっさと片付けて、我らどちらが聖女様の騎士に相応しいか雌雄を決しようではないか」
よし、おっさんはどこの会話にも混ぜてくれそうにない。
とりあえず木刀を抜く。
ガードンとやらは剣か。シュルジュというのは魔術師というだけあって杖かと思えば、こちらも剣。
細身のレイピアのような剣だな。
「さっさと終わらせよ! ―――はじめ!」
「――――――ぬんっ!」
先手必勝ぉおお!
敵が強敵の場合は、その力を発揮させる前に先制の一撃を与える。
上手くいけば隙が生じるかもしれんからな!
俺の狙いはガードンというAランク冒険者。振り抜いた木刀は、寸分違わぬ精度で―――
って! すげぇ勢いで後方に跳びやがった!
かわされた!?
俺が木刀を振りぬいたと同時に、瞬足でバックステップを取りやがった!
ぐっ……手ごたえはあったんだが。
ガードンはグングン俺と距離をとっていく。
足が全く地についていない!
すげぇ……Aランク冒険者ともなれば、移動術も未知なのか。
そのまま庭の奥にある分厚い壁をクッションにして、ガードンは止まった。
てか……めちゃくちゃ遠いとこまで跳んだな。これを一瞬で詰める自信があるんだろう。
これが奴の得意な間合いなのか……クソ、攻撃の想像もできない。
だが、ガードンはさらに俺の予想の斜め上をいった。
――――――ドシーン!
顔面から地面いったああ!
うつ伏せだと!? 寝た?? これ、どういう構えだ!
おっさん見たことないぞ!
そこで俺はハッと気付く。
ヤバい、ガードンに集中しすぎてた。
もう一人の男シュルジュがこんな隙を見逃すはずがない!
………って、おい。
なんかシュルジュという男が固まっていた。
加えて口をポケ~と開けている。
さらに後ろのベイロットも同じく口が開いていた。
なるほど、おっさんに興味なしってことかよ。
「―――ボクレン! その男は戦闘不能ですわ! もうひとりに集中なさい!」
ええ、マジで……
なんだ、実は緊張でもしすぎてたのか。しかしAランク冒険者が……
まてよ……元だぞ。
元と言ってもピンキリだ。
つまりブランクが長すぎたんだ。このガードンという男。
そもそも、冒険者を辞めてから戦闘職にも就いていなかったのだろうな。
なるほど、アレシーナの言う事はあながち間違ってもいなかったということか。
俺は残りのもう一人―――シュルジュに向けて木刀を構えた。
「ひ、ひぃいい! な、なんですか、このおっさん!」
シュルジュは持ってた細剣を俺に突き出して、詠唱を開始した。
「――――――二連撃水球魔法!」
「――――――中級雷撃魔法!」
おお、剣を杖のように使っているのか。
魔法がいっぱい飛んできたぞ。
「ぬぬんっ! ぬんっ!」
木刀を振るたび、魔法が弾け飛ぶ。
雷も、水球も、木刀一本でかち割っていく。
「がぁ!? ば、ばかな……私の魔法を木刀で……あ、ありえない!
これならどうだ!――――――中級火炎魔法!!」
俺めがけて火球が飛んできた。
多彩な魔法。そして連発できる技術。
さすが宮廷魔術師だ……が!
「――――――ぬんっ!」
火球は俺の一振りとともにかき消えた。
「はわぁああ! な、なぜぇえええ!!」
こいつもブランクがありすぎる。
魔法の威力がまったくないからな。こんなんだったら、俺の森にいた雷や火球を吐くトカゲの方がまだマシだ。
いくら宮廷魔術師とかいっても、随分と魔法を使って無かったのだろう。
というか、前職は残業まみれで鍛錬する暇もなかったのかも。
そして、クビになり。今回の募集に望みを賭けてきたと……わかる。わかるぞ。
おっさんも、聖騎士になる前はおまえと一緒だったよ。どんだけ面接で落ちたことか。
だが……
俺は後ろに立つ、アレシーナをチラリと見た。
この子の聖騎士になると、決めたんだ!
「――――――ぬんっ!」
シュルジュという男も、先ほどの奴と同じように庭の壁まで飛んで行った。
「同情で、この子の聖騎士を譲る訳にはいかんのでな」
俺は木刀を一振りして、腰に刺し父親のベイロットに視線を向けた。
おい……。
まだ固まって口をポカーンと開けていた。
頼むから真面目にやってくれ。
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