第34話 おっさん、デカい屋敷に連行される(一悶着確定)
「デカい……なんだこの屋敷……」
おっさんは視界に入りきらないぐらいの館をまえにして、ぶっちゃけビビっていた。
ここはアレシーナのラステオッテ家王都の館だそうだ。自領の本宅はもっとデカいとか……なにそれ、怖い……
「恐れることはありませんわ」
俺の横で、赤い縦ロールをふわりと揺らす聖女アレシーナ。
いや……恐怖しかないんだが。
こんなお貴族様の屋敷に連行されて、しかも「一悶着ありますの♪」とか予告されて。
ガクブルしかせんよ、おっさん。
よく考えたらこの子、ドがつくほどの貴族令嬢だった。そんな彼女の聖騎士となったおっさん。
昨日、学園聖騎士エリクラス隊長にも確認したら、即答で「はい、ボクレンなら問題ありません」という、それ本当に大丈夫なのかよ、って回答が返ってきた。
「ボクレン、聞いてくださいまし」
屋敷の巨大な門の前で、アレシーナが真剣な顔になる。
「お父様は、必ずブロスの後釜である次の聖騎士候補を紹介してきますわ」
「お、おう……」
「全力で叩き潰してくださいまし」
「えぇええ……」
叩き潰すって……
「ちょっと待て。それはアレシーナの為に呼び寄せた人じゃないのか?」
「……そうですわ。でも……ワタクシの聖騎士はボクレンになって頂きたいんですの」
アレシーナの赤い綺麗な瞳が、まっすぐに俺を見る。
どうやら、単なる我儘で言っているわけではないようだな。
「安心なさい。たいした者はできてきませんわ。この短期間では、さすがのお父様でも猛者を集めるのは無理ですから」
そんな楽観視していいのかな。
これほどの館を持つ貴族だぞ。とんでもない人脈を持っている気がするんだが。
「まあ、とにかくおっさんがやれることはやるよ」
俺がそう言うと、アレシーナは微笑みながら頷いた。
デカい門が厳かな音とともに開いていく。
にしても~~お貴族様の屋敷かぁ~~。
いかん、おっさんドキドキしてきたわ。
◇◇◇
「お父様、ご機嫌麗しゅうございますわ」
綺麗なお辞儀をするアレシーナ。たしかカーテシーだっけか?
流石は貴族令嬢だな。
「……帰ったか。侯爵家聖女よ」
執務室なのであろう、机に向かって書面をいじりながら答える髭面の貴族。
この男が、アレシーナの父親ベイロット侯爵か。
それから暫くの沈黙が続く。
ようやく書面から目線がこちらに向いたと思ったら、一声。
「侯爵家聖女よ、新たな聖騎士の件だがすでに候補者を集めておいた」
「はい、ありがとうございます。お父様」
これが親子か? というほど無機質で淡々とした会話が続く。
「ですが、聖騎士はすでに決まっておりますの」
その言葉に、ベイロットの眉がピクリと動いた。
「決まっているとはなんだ?」
「はい、こちらにいるボクレン。彼がワタクシの聖騎士ですわ」
ベイロットがはじめて俺の方に視線を向けた。
まるで路傍の石でも見るかのような、冷たい目。
まあお貴族さまの中には、こんなやつがいたな。
かつて魔物狩りのバイトをクビになったときに出てきたのも、こんな目をした貴族だった記憶がある。
「冗談はよせ。ただのおっさんではないか。こんなやつが、我がラステオッテ家聖女の護衛騎士だと?」
「実力は折り紙付きですわ。それに……先の野外演習でもワタクシの命を救って頂きましたわ」
「こんな木刀を腰に差したおっさんがか?」
「はい、たしかに見た目は少し奇抜ですが、信頼のおける方ですわ」
「信頼だと……」
「ふぅ」とため息をついて、アレシーナを冷ややかな目で見下ろす父親。
「まったく、おまえにもあの女の血が色濃く流れているというわけか」
その言葉に終始大人しかったアレシーナの気配が変わった。
言葉や体の動きには出ていなが、うちから込み上げるものが違う。
父親であるベイロットは気付いていないようだが。
そういえば、アレシーナの母親も聖女で、すでに亡くなっていると聞いたな。
にしても、「あの女」か……
「おまえは我がラステオッテ家の為にのみ動いてれおればいいのだ! くだらんこと言わず、聖女として名を挙げることのみを考えろ! それがゆくゆく我が家の為になるのだ! 小娘の分際でしゃしゃり出るでないわ!」
まるで物でも見るかのような視線をアレシーナに落とす父親ベイロット。
「ですがお父様……」
「おまえは侯爵家聖女なのだ! 当主である私の意向に従っておればよいのだ!!」
随分と揉めているようだが。これがアレアシーナの言ってた一悶着か。
まあ家庭の形は様々だ。
貴族であれば、なおさら家の事が優先されるというのもわかる。
俺は好かんけど、女性を半ば道具のような扱いにすることも現実的には多いのだろう。
なので、あまり人の家庭事情に首を突っ込む気はないが……
「なあ、親父さんよ」
ひとつだけ、おっさんから言わせてもらう。
「なんだ、下郎が勝手に口を開くでない」
俺の事は何とでも言っていいが―――
「侯爵家聖女じゃない、アレシーナだ」
「はあ? 何を言っておる?」
「だから、ベイロット。あんたの娘の名前はアレシーナだ。自分の子供の名前ぐらい、覚えておいたほうがいいぞ」
俺の隣で、ずっと表情の変わらなかったアレシーナが「ふふっ」と笑みを漏らした。
「き、貴様! おっさんの分際で! こんなやつが聖騎士なわけがなかろうが!」
眉間にしわを寄せたベイロットが、怒りの声を露わにする。
おっと、敬語を使えてなかったか。
むずいんだよな。もうおっさんの年になると矯正がうまくいかん。
「お父様、そこまでおっしゃるなら、お試しになられたらいかがですの」
「なにぃい……」
おお、そうだった。たしか事前の打ち合わせでは、親父さんが用意した聖騎士候補がいるんだったな。
「よかろう。私が呼び寄せた者どもが勝てば、私の言う通りにせよ。
―――――――――出てこい!!」
さて、ご対面か。
アレシーナ情報だと、そこまでたいしたやつは出てこないらしい。
重厚な扉が開き、現れたのは……2人の男。
あれ?
なんか……
「はじめまして、アレシーナ様。我は元Aランク冒険者のガードンであります」
え? いま、Aランクって言わなかった?
「お初にお目にかかる、アレシーナ様。わたしは元王国宮廷魔術師団の上級魔法使いシュルジュと申します」
はい? ジョウキュウキュウテイマジュツシって言ったよな?
おい、アレシーナ。話と違うんだが……
俺は急いでアレシーナに視線を向ける。
すると彼女はわずかにぺろっと舌を出して、俺にウインクしてきた。
ぺろじゃないだろ!
「ふふ、さすがお父様ですわ。それだけの人材を即座にそろえるとは」
さすがじゃないんだよぉお……
話が違うんだってば。
「そうであろう。ならば無駄なあがきはやめて、父に素直に従ったらどうだ」
「いいえ、時間の無駄はこちらですわ。ボクレン、2人同時でも余裕ですわ、ね?」
よし、いっかい黙ろうかアレシーナ。
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