第33話 おっさん、聖女アレシーナの聖騎士になる(2人目)
「俺がアレシーナの聖騎士にだと?」
「そうですわ」
聖女アレシーナ。
身の丈はすらりと高く、燃えるような赤の縦ロールは彼女の強気でプライドの高い性格そのままに、いつもピシッと完璧に整えられている。
その瞳もまた髪に負けぬほど深紅で、見る者を射抜くような力強さを宿している。
聖女っていうか聖火って感じがするな。
「ワタクシのような聡明で優雅な聖女に選ばれるなんて、あなたはとっても幸運な方ですわ」
一切の迷いなく言い放つアレシーナ。
ええぇ……おっさんは一切希望してないんだが。
おっさんの何を気に入ったんだだろうか。クレープ奢っただけだぞ。あ、あとは朝練の時にスカート捲った(事故)ぐらいか……
選ばれる要素が全くないな。
「というか、俺はすでにセシリアの聖騎士だぞ?」
「問題ございませんわ。聖騎士が複数の聖女についてはいけない、という決まりはありませんの」
そうなん?
俺はチラッとセシリアに視線を向けた。
そんな俺の天使が口を開いた。
「アレシーナさん、確かに複数の聖女担当というのは聞いたことがあります。ですが、なにも無理やりボクレンさんを指名する必要はないと思います。あなたであれば、新たな聖騎士候補を迎え入れるのは容易でしょうし」
「ふふ、セシリアさん。随分と素敵なお顔ができるようになりましたわね」
たしかに、セシリアはアレシーナに苦手意識がある感じがしていた。
彼女との魔法における実力差が、いやがおうにも劣等感を感じずにはいられなかったのだろう。
またアレシーナも結果を求めるタイプなので、セシリアにもどかしさを感じていたのかもしれない。
そんな2人の関係性も、野外演習を経て大きく変わった。
セシリアが才能を開花させて、アレシーナが彼女を認めたからだ。
いや……認めてはいたんだと思う。
言葉がキツメなので誤解されがちだが、アレシーナはセシリアを最大のライバルと見ていた節があるからな。
「なにも四六時中ボクレンを拘束する気はありませんの。必要な時に来てもらえば結構ですわ」
学園の制服に包まれたその豊かな胸元をブルンと揺らすアレシーナ。セシリアといい勝負である。
たしか歳はセシリアと同じはずだから、16歳ってことか。
16歳ッてこんなに育つものなのだろうか。
「どこ見てるんですか? ボクレンさん」
セシリアにつねられた。
いかん、意識がいつのまにか膨らみにいってた。
「必要な時だけ? そんなんでいいのか?」
気を取り直して、会話を続ける。
「ええ、流石に後から来てかすめ取るなんて無作法はしませんわ。普段はセシリアさんについてくださいな」
う~ん。良く分からんな。
そこまでして、おっさんを推す意味があるのだろうか。
まあ俺を評価していくれているのは嬉しいが。
「ところで、アレシーナは目標とかあるのか? こういう聖女になりたいとか、何かを手に入れたいとか」
「欲しいものは、権力ですわ!!」
即答かい……
「なんだ、いいお肉でも食べたいのか?」
「そうですわ! なんだかんだでお金は必要ですわ、だから王都の高級焼肉にっ……て違いますわっ!」
おお、ノリつっこみしてくれるやん。
単にお堅い貴族聖女ではないな。
「……ボクレンさん」
セシリアからお叱りのお言葉がきた。
「真面目なお話をしますわ……ここだけのお話です。いいですね」
アレシーナの真剣な眼差しに、俺とセシリア、それにマルナとクリスティもコクリと頷く。
「ワタクシの目標は教会の改革ですわ」
え? なんか凄い言葉出てきた……
「改革というのは?」
セシリアが、言葉を挟む。
「今の教会本部は派閥争いに、利権の取り合い、裏金での魔物討伐など腐敗がどんどん進行してますの」
セシリアたち聖女も所属する教会。
まあそんな巨大な組織だ。
色々とあるんだろうな。
アレシーナの言葉に、クリスティは深く頷き、セシリアとマルナはあまりよく理解していない顔だな。
「そんな……裏金だなんて」
「普通に横行してますのよ。もちろん教会ともなれば、様々な外交や立ち回りを要求されますわ。そこは致し方ないですが、最近の教会は度が過ぎておりますの」
えらく詳しいんだな。
まだ16歳だろうがさすが有力貴族の娘。全容を把握することはできないが、情報は多少なりとも入ってくるようだ。
「つまりアレシーナはそんな教会を変えたいってことなんだな」
「ええ、そうですわボクレン。もちろん容易い道ではないことは百も承知ですわ。ですが、動かなければなにも変わりませんわ」
なるほど、多少語弊があるかもしれんが、それで権力か。
「そのためには学園を首席で卒業して、さらに実績を積みますわ。それ相応の地位を得なければ、意見すら言えませんもの」
この子はこの子なりの目標がある。自分の理想に努力を重ねているんだな。
「そのためにも、ボクレン。あなたにワタクシの聖騎士となってほしいのですわ」
そこまで必要としてくれるのか……
俺はいいが……あとは―――
セシリアに視線を送る。
「はい、私は構いません。ボクレンさんが決めてください」
そうか……なら―――
「わかったアレシーナ。君の申し出を受けよう」
「まあ! 良かったですわ♪」
気品あふれる笑みをこぼした美少女。
セシリアとはまた違った魅力だな。
「アレシーナさん、これだけは覚えておいてください。私がボクレンさんの一番の聖女ですから」
「ふふ、言うようになりましたわねセシリア。ワタクシの目標は果てしなく高いですわよ。半端な事をしていれば一番手の座から引きずり降ろしますから、覚悟なさい。
……あと、さんはもう不要ですわ」
「うん、わかったよ。アレシーナ」
にっこり微笑む合う2人の聖女。
ということでおっさんは、聖女セシリアと聖女アレシーナの聖騎士となった。
多少強引なところはあるが、根は素直でいい子だ。
まあ、やる以上はしっかり守ってやる。
そして、翌日―――
「え? ここどこ?」
俺はアレシーナに連れられて、王都の貴族街に来ていた。
目の前にクソデカい屋敷がドーーーンと構えている。
「ワタクシの実家ですわ!」
「なぜゆえに実家??」
「いまからお父様に会ってもらいますわ」
「ええぇ……マジで? なんでおっさんが……」
「だって、ボクレンを聖騎士にする許可を頂いてませんもの!」
ませんもの! じゃねぇ!!
そこ一番大事なところちゃうん? 無許可で進めてたたのかよ……そんな状況でおっさん行ったら、マズいんじゃないの?
「もちろん一悶着はありますわ! でもボクレンなら大丈夫ですわ!」
一悶着確定してるぅう!
うわぁあ……揉めるのか? なあぁ揉めちゃうのぉお?
「ふふっ、ボクレンなら木刀振っておわりですわ♪」
んなわけないだろう……
やっぱこの子、強引だわ。
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