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第26話 セシリア視点、才能のかたまりと努力のかたまり

「……うっざ」


 レクラが吐き捨てる。その瞳の奥には凍てつくような冷気を宿していた。


「もういいや。あまりのクソ具合に興が冷めたし。さっさと終わらせよう~~っと♪」


 レクラの右手が頭上に上がる。

 魔物に指示を出す気ですね……なんとかしないと。


 そう思った矢先、鋭い風とともに何かが割り込んできた。


「――――――聖突風一閃(ストームスラスト)!」


 リンナ副隊長です!

 風の魔力を身に纏い、突風のごとくレクラめがけて風の剣を突きたてる。

 ……っていうか私に見えたのは、リンナさんの残像だけ。凄まじい速度です!


 レクラさえ倒せば、魔物たちは復活しなくなる。


 そうすれば希望の光が見えて……!


 ――――――ドゴォオオ!!


 耳をつんざく衝撃音。

 私のすぐそばで凄まじい揺れ。そして地面にめり込んでいたのは……


 え?……ウソ……これ、リンナさん!?


「な、なんでリンナさんが弾き飛ばされたの……?」


 それはレクラの方に視線を向ければ、すぐに理解することができた。

 黒い壁がレクラを覆っている。

 リンナ副隊長は、この壁に激突したんだ。


「キャハハ、ざんねんでしたぁ~~正面衝突してやんのぉ~~」


「け、【結界】……? でも彼女は聖属性魔力を失ったんじゃ……」


「そんなクソ魔力が無くてもぉお~~魔法陣と魔力係数を計算すればどうとでもなるのよぉ~あ、オツムが空っぽのあんたらには無理かぁ~キャハハ~~」


 つまり魔法を作り出したってことですか。

 しかも、既存の魔法防御壁(マジックシールド)ではなく、聖女の【結界】と同等レベルの魔法を……。

 やっぱりこの人は、とんでもない。常識外れの天才だ。


「……ゴホッ……ッ、はぁ……ッ……」


 私の腕の中で、ビクッと身体を震わせたリンナさん。

 まだ息がある!


 ポーション……はダメ。吐血が酷くて流し込めない。そもそも意識がほとんどないです。


「セシリアさん、おどきなさい! ―――治癒(ホーリーヒール)!」


 アレシーナさんの【治癒】により、吐血はなんとか止まったリンナ副隊長。

 ですが、全回復にまでには時間が必要です。


「クフフ~~一番の使い手も使いものにならなくなったねぇ~~

 んじゃそろそろ~~フィナーレといきますかぁ~~ほらぁ~魔物たち総攻撃ぃいい~♪」


 なんとか押し止めていた各所の聖騎士さんたちが、数の暴力で押され始めた。

 リンナ副隊長が各所のサポートに立ち回れないのも影響している。


「あ、そうだ~。そのクソ聖騎士の息の根止めとかないとねぇ~」


 レクラの手が私たちの方に向けられる。

 周辺に魔法陣が多数出現して、中からあらたな魔物たちがぞろぞろと這い出してきた。

 他の聖騎士さんたちは手一杯。ここにいるのは、私とアレシーナさんに重症のリンナ副隊長。


「―――ブロス! 魔物たちを止めなさい!」


 そうか! 聖騎士ブロスさん、アレシーナさんの護衛聖騎士。

 彼は近くにいたはずです。


 ―――!?


 え? あの人なんであんなところに??


 彼は聖女アレシーナの近くではなく、戦場の外にいた。


「ひぃいいい~~副隊長すらやられたんですぞ! なにが止めなさいだ!」


「な、なにを言ってますのブロス! 早くこちらで戦いなさい!」


「なにを寝ぼけておる! くそぉ~侯爵令嬢につけば甘い汁がすえるはずじゃったのにぃ! こんなもん割が合わんわぁ~!」


 そう言い捨てて、彼は森の中に消えていった。


「キャハハ~~! 聖女のくせに聖騎士に逃げられてんじゃん! まじウケる! ケッサクだわあぁ~おなか痛いわぁ~! ~~キャハハハハハ!」


 私はアレシーナさんへ顔を向けることができない……

 だって聖女と聖騎士は唯一無二のパートナーなんですから。


 状況は悪化する一方です。

 なんとかしないと。


 容赦なく迫りくる魔物たち。


 膝の震えがさっきから止まらない。

 脳裏に幼いころのスタンピードがフラッシュバックする。

 過去を思い出してる場合じゃないのに。


「――――――結界(セイクリッド・バリア)!!」


 私達の足元に魔法陣が展開される。この声は―――

 アレシーナさん!?

 リンナ副隊長に【治癒】をかけながら……まさか二重詠唱ですか!


 だが、展開した魔法陣に黒い魔法陣がかぶさり、書き換えがはじまってしまう。


「……クッ……なんでですの……」


 アレシーナさんの綺麗な【結界】が消えていく。さらには同時に【治癒】の魔法陣までも……


「そ、そんな……うそ……ですわ」


「キャハハ~~心折れちゃったぁ~~ほかのザコより多少出来た程度で天狗になっちゃてたのかなぁ~」


 アレシーナさんが地面にうずくまり、いつもの覇気が消えていく。

 私なんかよりも、ずっと諦めなかった、ずっと踏ん張っていたのに。


 この人ですらダメなら……私なんかじゃ……。

 なんて…………絶対思わないっ! 


 ボクレンさんはいつも言っている。なんでもいいからやってみろって。


 私の目の前で書き換えられていく魔法陣。


 本当にすごい技術です。でも、ちょっと待って。


 これって―――


 目の前で魔法陣が書き換えられた……

 だから書き換えの過程をじっくり見ることができた。


 やっぱりこれって。


 できそう……


 まともな魔法が使えなくて。必死にあがいて。

 ずっと魔法陣を勉強して、何度も何度も構築して、何度も何度も失敗してきたから。


 普通に魔法が使える人は、ここまで観察しないのかもしれない。でも……私には。

 全ての工程が頭に入ってきた。



 ――――――やってみる!



 書き換えらえたアレシーナさんの魔法陣に、私の魔法陣を―――


 構築速度や展開の手順をレクラのやったように真似て。

 私の身体から、黒と白が入り混じったいつもの魔力がたちあがり、魔法陣を形成していく。


「――――――結界(セイクリッド・バリア)!!」


 私の声とともに、光の壁が立ち上がった。


 うそ……できちゃった。


 しかも今まで展開した【結界】よりも、はるかに大きい!


 もしかして、アレシーナさんの魔法陣がベースだったから?

 彼女の綺麗な展開方式をなぞったことで、発動のタイミングや魔力の流れが今までとは違うものになった。


 つながった……気がする……


 なんだか、感覚がどんどんクリアになっていく。


 しかも心に余裕がある。そして脳が、身体が、まだまだやれるって言ってるような。


 じゃ、じゃあ……これも!


 もうひとつの機能していない【治癒】の魔法陣にも、私の魔法陣をかぶせてみる。


 ――――――!?


 ええぇ……できちゃった。

 まってまって、私はそもそも【治癒】が一度も使えたことがないのに。


 そばにいたアレシーナさんは事態が呑み込めず、新しく形成された魔法陣に釘付けだ。

 そして……


「…………ああぁ?」


 レクラが怒気をはらんだすさまじい視線を私に浴びせてきた。


「てめぇなんだ……それ。あたいの魔法陣になにをしてる?」


 魔物たちの動きを止めたレクラが、こちらに歩を進めてくる。


「……あなたと同じことをしたんです」


 レクラの眉間のしわが、みるみるうちに深くなった。


「同じことだぁ?……こういうとかぁ!」


 レクラが再び黒い魔法陣をかぶせて、書き換えを仕掛けてきた。

 だが、その黒い魔法陣が私の魔法陣にかぶさる刹那―――


 ビシッという音とともに、レクラの魔法陣がはじけ飛んだ。


「……なぜだ? あり得ない……その、まだらな魔力……てめぇまさか……

 ―――――――――ま、いいや」


 レクラは口から出かかった言葉を飲み込み、制止させていた魔物たちに指示を出した。


「おまえら、さっさと終わらせな―――いけっ!」


 再び襲い掛かって来る魔物たち。

 さきほど私が構築した【結界】で一時しのぎはできているが、解決にはならない。

 この戦いを終わらせるためには、レクラ自身を倒すか、周囲の瘴気をすべて【浄化】してレクラが新たな魔物を生み出せないようにして彼女を無力化するか。そのどちらかしかない。


 レクラ自身は、リンナさんの攻撃を弾いたあの黒い結界に守られており。倒すのは至難の業。

 かといって【浄化】を使おうにも、そもそも魔物たちが健在でまずはこの膨大な魔物を倒さなければならない。


 せっかく魔法の手ごたえを感じたばかりなのに。


 またなにも出来ないの……

 またあれが起こるの……


 かつてお母様を守れなかった、忌々しい記憶である魔物大量発生(スタンピード)が脳裏に浮かぶ。


 そんな私のなかに、ひとつだけ希望の光があった。


 私の聖騎士。


 ……ボクレンさん。


 でも、ここに彼はいない。


 大量の魔物に押されて、中央に押し込めれ始める私たち。

 誰もが満身創痍。よくここまで踏ん張ったといえるほどだ。


「グルウゥウウ!」

「ギュアァアアア!」

「ゴルォオオオ!」


 取り囲む魔物たちの唸り声がどんどん大きくなっていく。


 くぅ……諦めちゃダメ。


 なにか……なにかないの!


「………ギュラ……ンッ……」

「………キャン……ッ……」


 あれ? これなんの声です?


 なんだか魔物たちの様子がおかしい。


 奥の方からすごい風切音が聞こえてくる。

 と同時に魔物たちが声を上げては静かになっていく。


 そうおもった瞬間―――



 ―――――――――ゴオォオオオオオオ!!



 なんか黒い塊が、私たちの目の前を通り過ぎていった!


 なにあれ!?


 直線上にいた魔物たちは、まるで風船が割れるかのようにパンッパンっと破裂していきます!


「……こ、甲羅だ……まったくあいつめ……ようやく来たか……」


【治癒】をかけているリンナさんが目を開いて、声を絞り出した。


 リンナさんの言うあいつって……!


 黒い甲羅が吹き飛ばしていった魔物の残骸から人影が現れる。

 それは徐々に大きなってきて……


「おお、けっこういい感じで飛んでったじゃないか。アダマン甲羅」

「たく、こんなことできるの先輩だけっすからね~」

「ひぃいい、甲羅で魔物プチプチってしてったぁあ、もうこの人やだぁ~~」


 3人の声……


 バレッサさんにレイニさん、そして―――



「――――――ボクレンさん!!」



「待たせたなセシリア。さて、こっからは俺たちのターンだぞ」




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