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第21話 スタンピードのはじまり(おっさん無自覚の加速もはじまる)

「よし、撤収準備!」


 野営地にリンナ副隊長の声が響く。

 午前で演習は終りだ。午後は半日かけて森を出る。

 みんなテントを畳んだり、荷物の準備にいそしむ。


「ボクレンさん、こっちを持ってください」

「わかった、セシリア」

「ありがとうございます! これで演習も終わりですね」


 セシリアご機嫌だな。

 今朝とは別人のような声のトーン。そりゃそうだ。

 はじめて【浄化】魔法が発動したからな。そりゃウキウキもするだろう。


「ウッホン、おやぁ~~聖女セシリア殿は随分とご機嫌ですなぁ~」


 ガチャガチャと高級そうな鎧を鳴らしながらやってきたのは……


「お、ドロスじゃないか。お疲れさん」


「吾輩は、ブロスだっ! なんども間違えるな、おっさん!」


 うむ、いつもの元気なツッコミが返ってきた。

 こいつとの挨拶はもはや定番になりつつある。


「ウッホン、ところでセシリア殿もようやく魔法が使えたとか。といっても微々たるものでしたか。我が聖女アレシーナお嬢様に後始末をしてもらわねばならん程度の」


「そうだ、凄いだろ。今夜のエールはうまいぞ! どうだブロス、おまえも一杯つきあうか?」


「ぐっ……だ、誰が貴様と酒など……高貴な吾輩が、地べた這いずる木刀おっさんと杯を交わすわけなかろうがッ!」


 プイッと横を向いて、去って行くブロス。

 撤収作業は手伝わないようだ。そのデカい図体はなんのためにあるんだよ。


「ボクレンさん……」


 セシリアの顔が沈んでしまったかな……?

 ブロスのような連中はどこにでもいるからな。適当に話しておきゃいいんだが。


「こっちの荷物は準備できましたよ♪」


 ……全然だいじょうぶだった。


 一歩前進出来たことの喜びが、何にも勝っているようだ。


 ずっと越えられなかった壁に悩まされてきた彼女にとって、今日は特別な日だろうしな。

 そんな俺の天使が言う。


「ボクレンさん、私……あと少しで、なにか繋がりそうなんです」

「そうだな、俺もあと少しだと思うぞ」


 セシリアが魔法を使えたのは、魔物がちょいと暴れた直後だった。

 あの緊張感が、彼女の感覚に変化を与えて無意識に魔力を使うことができたのかもしれん。

 あと一歩、なにかより強いきっかけがあれば……花開くかもしれんな。


 ま、焦ってもしゃーない。

 今はこの小さな一歩を、一緒に喜べばいい。そして夜は上手いエールをやるんだ。


「は~~い、みんさ~~ん。準備はできましたね~~~リンナさんおねがいしま~す」

「よし、出発だ!」


 なんて、少しよだれが垂れそうになっていたら、リンナ副隊長の号令がかかった。




 ◇◇◇




 移動を開始して30分ほどが経った。

 おっさん今回もしんがりポジションである。


「ボクレン、例の場所が近いぞ!」


 隊の先頭を歩くリンナから声が飛んできた。


「んん? 例の場所?」

「ほら、リンナ副隊長とボクレンさんが倒したアダマンタートルですよ」


 斥候から戻って来たばかりのレイニが、俺に耳打ちしてくれた。


「ああ、レイニが尻もちついてた場所か!」

「もう! 違いますぅ! そんなこと思い出さなくていいですからぁっ!」


 レイニが顔を真っ赤にして、口を尖らせている。ちょっとかわいい。

 学園聖女たちはもちろんのこと、女性聖騎士たちも負けず劣らずの美人・美少女揃いだからなぁ。


 ―――んで。

 えっとなんだっけか……あ!


「おお、そうだった! あれだ、カメの甲羅な!」

「な、なんで忘れてるんですかぁ~~アダマンタートルですよぉ?」


 いや、だってカメだろ。


 普段はインパクトもクソもないから、すぐ忘れるんだが今回は違う。


 借金返済には遠く及ばないが、多少の足しにはなるかもしれんやつ。

 少しばかりウキウキしながらレイニと談笑していたら、手をつままれた。わりと強めに。


「ど、どうしたセシリア……?」

「別になんでもないですっ! ボクレンさんはもっと私の護衛に集中してくださいっ」


 少しばかり頬を膨らませる、俺の聖女さま。

 そんな怒る場面あったか?


「先輩って、ほんとブレないっすよねぇ~」


 バレッサまで良く分からない事を言い出す。


 そうこうするうちに……甲羅の場所に着いた。



「ボクレン! 甲羅はすばやく回収しろよ。すぐに隊に戻るんだ!」


 リンナの声に返事をしようとした時。


 ――――――むっ!


「……くるぞ、リンナ副隊長!」


「……魔物か、ボクレン!」


 素早く俺の反応に気付いたリンナが、隊を止める。


「後方から……5体、いや10体ほどか」



「―――魔物がくるぞ! 後方グループの聖騎士まえへ! 残りは聖女を守れ!」



「なんか変だな」

「……ボクレンさん、なにかおかしなことが起こっているのでしょうか?」


「ああ、セシリア。魔物の気配がいきなりすぎるんだ」


 そう、例えば俺のいた森では魔物なんてどこにでもいる。

 だから極端なはなし、気配なんて年中感じている。

 遠くにいるかすかな気配、近くにいるつよめの気配。様々な感覚がまざるってのが森なんだが。


「ここの魔物は、いきなり湧いて出てきたみたいな感じがするんだよな」


「湧いてでる……ですか?」


「ボクレン、おしゃべりはあとにしろ。あたしも前にでる」


 隊の先頭からこちらに来たリンナが、剣を抜く。

 後方グループにいる俺とバレッサ、レイニに数名の聖騎士も前にでた。


「なんでぇ……学園長の【制御結界】内なのに……」

「昨日もこんなことがあったよね」


 若干その場で動揺が走るが、まあ……この気配は。


「大丈夫だぞ。たぶんたいしたことないやつらだ」



「「「ガルゥウウウウ!」」」



 唸り声と共に現れたのは―――やはりか。


「あ、アイアンウルフぅ……!?」

「あれって、ブラックウルフの上位種じゃ……」


「総員気を抜くな! 油断すると一気にやられるぞ!」


 いや……なんちゃらウルフとか名前は知らんけど。


「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」


 俺は出てきたやつを片っ端から叩き落とす。

 これ、ただの犬だろ。


 みんなやけに慎重な対応で数匹と対峙していたので、俺は残りを全部叩いていった。


「ふはぁ……ぼ、ボクレンさんすごい……」


 声のした方を向くと、レイニが尻もちをついていた。

 気を抜きすぎだぞ……そりゃこの魔物はおっさんでも余裕なザコだけど。


「よし、ボクレンもみんなも良くやった」


 俺がレイニに呆れていると、数匹を仕留めたリンナが剣をおさめる。


 が……


「リンナ、まだ剣を鞘に収めるのは早いようだぞ」


 再び10体ほどの犬が現れ、交戦状態にはいる。


 またかよ……なんだこれ。


 俺は犬をポンポンしながらも、集中して全体の気配をさぐる。


「くっ……数が多い。【制御結界】はどうなっている!」


 リンナが剣を振りながら叫ぶ。


「リンナ副隊長ぉ、魔物出現ポイントでもないのに……なんでこんな大量の魔物がぁ!」

「なんらかの理由で【制御結界】が機能していないとみていいだろう。いくらなんでもおかしすぎる」


 リンナとレイニの会話を聞きつつも、ポンポンと木刀を振るう俺。結界のことはよくからんが、なんだこの急に気配が出てくるやつ。


 気持ち悪いな……


 なにか自然の摂理というか、流れに反しているような。


「ふぅ、これで全部か。みんな無事か! ケガをしたものは聖女の【治癒】を!」


 リンナの号令に各自治療したり、装備を確認するみんな。


「ボクレン、途中休憩ははさまずに一気に森を出る」

「ああ、なにか異変が起こっているのなら、それでいいと思うぞ」

「しんがりは重要だ。貴様は魔の森での経験を活かして、後方の聖騎士たちをまとめてくれ」


 リンナの真剣な眼差しを受けて、頷いた俺だったが。


 そうもいかんようだな。


「リンナ、また気配だ」

「くっ……またか……次々と。では対応次第すぐに出発す……」


「さっきよりは多少いるぞ。100……200、まだ増えているな」



「な―――それはもはや魔物大量発生(スタンピード)ではないか!!」



 リンナの大声に、一斉に聖騎士と聖女たちがこちらを向いた。


「え、さっきより多くない」

「ていうか奥にもいっぱい影が見えるんだけど……」

「な……なによこの数は……しかも、この森にはいないはずの魔物……」


 ザワザワと動揺が隊列全体に伝播しはじめる。

 そんな中、俺はリンナの肩をポンと叩いて言った。


「よし、ここは俺に任せろ」


「……いいんだな、ボクレン」

「いいも悪いもない。俺はセシリアの聖騎士だ。俺の仕事は彼女を守ること、そして俺たちのやることは隊全体の聖女を守ることだろ」


 少し間を置いてから、再び口をひらくリンナ。


「わかった。頼んだ」

「ああ、了解だ」



「―――総員きけぇ! 魔物の大軍が後方から押し寄せている。直ちに移動を開始し、一秒でも早く森を抜ける。余計な荷物はこの場で捨てろ! いそげ!」



 リンナの指示で、装備を整えた聖騎士と聖女たち。


「よし、ボクレン、バレッサ。お前たちは残って魔物の進行を出来る限り食い止めろ!」


「あいよ!」

「はいっす、わぁ~先輩と魔物がりっす~」


「レイニ、おまえもボクレンたちに同行しろ!」

「は、はい! って。わたしもですか!?」

「止めきれないと判断した場合はすぐに戦場を離脱して、本体に合流。あたしに報告しろ! 斥候能力に秀でたおまえだから頼むんだ」

「ふはぁあい!」


 なるほど、俺たちが全滅したら次の壁を出すってことか。

 聖女をなんとしても守り切る作戦。さすが副隊長なだけのことはある。


「ウッホン……! リンナ副隊長、ちょっと待って欲しいのである」


 そこへガシャガシャと鎧の音を立てた聖騎士が、横槍を入れてきた。


「なんだブロス。おまえも残りたいのか?」

「ふん、おっさんは黙っておれ。リンナ副隊長、魔物を止める部隊は副隊長と吾輩以外の聖騎士を総動員すべきですぞ」


「何を言っている。あたしの決定に文句があるのか、ブロス」

「いえいえ、吾輩は合理的な提案をしているだけですぞ」

「合理的だと? いますべての聖騎士を残したら、誰が聖女たちを守る? 進む道にも魔物がいる可能性は高いんだ」


「ふぅ……他の聖女ですと? そんなものは、どうでもいいのである! この場での最重要事項は侯爵家のご令嬢である、聖女アレシーナお嬢さまの安全であるぞ! こんなおっさんと町娘の騎士ごっこだけでは、数秒も持たないのである! つまり肉壁として不十分なのだ」


 おい、誰が肉壁だよ。


 おっさんだって、並の冒険者ぐらいの活躍はできるからな。


「……貴様ふざけるな。あたしは聖女全員を守り切る。あとな……

 だれが数秒ももたないだと?」


「この木刀おっさんでありますぞ!」


「なにをくだらないとこと言ってんすか、このアホ騎士は? 先輩がいれば100人力っす」

「ふぁああ……こ、こわいけど。ボクレンさんがいれば……まあ……もしかしたらぁ」


 バレッサとレイニが一斉に声をあげた。

 そして、リンナがブロスに鋭い視線を放つ。



「ブロス……貴様はこの数カ月、ボクレンのなにを見ていたのだ。

 あいつが大丈夫と言ったら、大丈夫なんだろう。


 ――――――よし、総員、移動を開始する!!」



 動き始めた聖女と聖騎士たち。


 一塊となり動く一団のなかから、1人の少女が俺の元に駆けてきた。


「ボクレンさん……また一緒に朝練できますよね」


「ああ、もちろんだセシリア。俺はおまえの聖騎士だぞ、こんなもん余裕だ」


「は、はい!」


 そう言って一団の中に消えていく小さな聖女。



 さぁて……おっさん、ちょいと暴れますか。


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