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第20話 聖女セシリア視点、ちいさな一歩。でも……それは確かな変化

 ◇セシリア視点◇



 森に風切り音が軽快に響く。


「グルゥウ……」

「ほいっ!」


 ボクレンさんが肩の力も抜けたように、木刀をひと振り。

 ドスンと音を立てて倒れる魔物。その場に溜まった瘴気が、紫煙のように地面を這う。


 演習が行われているこの森の魔物は、学園長が張った【制御結界】によってある程度の動きが制限されています。

 強力な魔物はいないうえに、制御のかかった魔物たち。


 初の課外授業ですから、学園も出来る限りの備えをしてくれています。

 そもそも魔物を見るのが初めてという生徒も多いですし。


「お、セシリア。ここ、また出てるぞ」


「は、はいっ!」


 ボクレンさんが指さす先には、瘴気の黒いモヤが漂っている。

 このモヤはすぐに空気と同化していくが、消えたわけじゃない。

 いつの日か、新たな魔物を作り出す種になる。


 だから聖騎士が魔物を討伐した後発生する瘴気は、【浄化】しなければならない。

 それは――――――聖女にしかできない役目です。


 私は小さくうなずくと、詠唱を開始して魔法陣の構築を開始する。


「……この地を穢すものよ。聖なる光のもと、その罪を悔い改めよ」


【浄化】の魔法は、聖女のみがもつ聖属性魔力の制御と魔法陣の精密な構築が求められる高度な魔法です。


 魔力の制御はボクレンさんが誘ってくれた朝練で、だいぶ良くなってきたはず。


 魔法陣の構築は……学園に入ってから。いえ、入る前からずっと努力を重ねて学んできました。


 でも……


 魔力の流れが乱れたのか、魔法陣が完全構築される前に霧散していく。

 いつもの淡く白と黒がいりまじったようなくすんだ光も四散する。



 ……また、うまくいかない。



「次ぃ。ほいっ!」


 また一体、現れた魔物をボクレンさんが木刀一振りで倒した。


「セシリア!」


「っ……はいっ!」


 だが、またも魔法は発動しなかった。

 それでも、ボクレンさんはそんな私を何も責めない。


「セシリア、君は魔力もあるし知識もじゅうぶんあるんだ。あとは実戦経験を重ねるのみだ、なんども試して身体に染みつかせるぞ。反復だ」


「まぁ、こんな感じにな」と気楽に木刀を構え、同じリズムで魔物を片付けていく。


 ……この人、なんでそんな軽く……木刀の振りもいつもの「ぬんっ!」ですらない。


 誰よりも簡単に魔物を倒し、涼しい顔をして「次いってみようか」などと言うこの聖騎士のおじさんは、実際には凄まじいことをしている。


 周りの聖騎士さんを見ればわかる。こんなリズムよくポンポン魔物を倒している人、ボクレンさんだけだ。

 なにか特別な力を使うわけでもなく、無理しているわけでもなく。


 その背中はまるで、ずっと繰り返してきた日常の延長のようにどこまでも自然だった。


 そんなときだった。


「―――きゃっ!?」


 森の茂みが大きく揺れ、血走った目の魔物が一体、突進してくる。


「ギャルゥウウウ―――!!」


 さっきまでの魔物とは明らかに違う目つき。

 深い殺意が私に刺さり、身体がゾクっと震える。


【制御結界】が機能していない?


 他の生徒が逃げ腰になる中、私は思わず足をすくませた。

 かつてスタンピードでお母様を失った時の感覚が、わずかに蘇る。


「ギユゥウウルゥウウウ―――!!」


 ―――こっちにきます! 【結界】をはらないと!


 唯一私の使える聖魔法【結界】。自分のまわりにしか張れないけど、この魔物と生身でぶつかったらどうなるかぐらいは、私でもわかる。


 はやまる鼓動と、緊張感。


「っと、こっちにもいたか―――ぬんっ!」


 ボゴォッ!


 ボクレンさんが魔物の突進する軌道に立ちふさがり、木刀を片手で持ったまま。

 ――――――ひと振り!


 しかしそれだけで、魔物は地面にめり込んで動かなくなる。


 私の目の前に残ったのは、微かに揺れる木刀の余韻と、消滅していく魔物から漂う瘴気。


 震えが止まらない……でも、やらなきゃ。

 これができなきゃ、【浄化】に特化した聖女なんて夢のまた夢だ。


 恐怖と焦りが入り混じる中で、無我夢中で詠唱を開始し魔法陣を構築する。


 ……あれ?


 なんだろう、これ。


 いつもと違うかんじがする。

 具体的にどう違うと言われると、なんとも言葉にするのが難しいけど……魔力の流れを「理屈抜き」で感じ取っている? みたいな。


 あの魔物の命が終わった瞬間。

 それとともに立ち上る瘴気。


 さっきまでと見えていた風景も違う気がする。

 そして、それを包み込むように「こう」魔力を流せば―――



「……光よ……どうか、この地の穢れを祓いたまえ―――

 ――――――浄化(ピュリフィケーション)!」



 その瞬間……。

 バッと、身体の魔力が放出されたかと思うと、

 魔法陣に魔力が通い、わずかに、わずかにだが、瘴気の一部が消えた。


「っ……で、できた……!」


 まだ瘴気は残っているけど……でも、はじめてできた!


 そっか……私、魔法陣にばかり気が向いていた。より緻密に正確に構築してから魔力を流し込む。でも、さっきの感覚は魔力と魔法陣が一体化したみたいな……ちょっとうまく言えないけど。


「お。やったじゃないか、セシリア。よく頑張った」


 ボクレンさんが笑いながら、ぽんぽんと私の肩を軽く叩く。

 私は消えていく白と黒の光りをみて、ほっと息をついた。


 と同時に、少しばかり目頭が熱くなるのを感じる。


 まだまだなのに……でもなんだか身体が心が全身が、ドキドキしています。



「―――ちょっと、そんな中途半端でなにを満足してますの!」


 そこへ刺すような声が飛んでくる。

 アレシーナさんだ。彼女はすぐに【浄化】の詠唱をはじめた。


 詠唱から魔法発動までよどみなくながれる所作。


 きれい……


 私が見惚れていると、あっという間に瘴気を浄化してしまった。


「す、すごい……」


 思わず声が漏れた私に、キッと鋭い視線を向けてきた聖女アレシーナ。


「聖女ならばこのぐらいできて当然ですわ! あなただけに構っているひまはありませんの。さあ~~ケガをした人は申し出なさい、わたくしの【治癒】をかけてあげますわ!」


 そう言いながら、彼女はこの場を離れていった。


「ははっ、あの子はいつも嵐のように来ては去って行くな」


「そうですね。でも……本当にすごい人です」


 だけど、なんだろう。


 今までは羨ましい憧れるという気持ちがあったのに。

 彼女を見るたびに焦りが湧き上がっていたのに。

 劣等感も無いと言えばウソになるけど。


 でも、今はそれよりも……



 嬉しいの方がつよい。



「お、もう昼か。これで演習は終りみたいだな。さあ、昼飯にするか」

「そうですね、ボクレンさん!」


 まだまだ足りない……でも。


 今日はこれでいい。


 素直にそう思えた。




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