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第10話 初出勤だが……おっさん素振りしかしていない気がするぞ

「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」


 王都にきた翌朝。

 俺は中庭で木刀を振っていた。いわゆる朝練だ。


 聖女セシリアの推薦と副隊長との模擬戦、さらには制限魔法の付与を経て……

 おっさん、晴れて聖騎士になったのである。

 |純潔守護禁欲システム《ドキドキ♡セイントガード♡》については、もしかしたら付与されてないかもしれないけど……。


 だが、おっさんは決めたから。

 聖女セシリアの護衛聖騎士として、しっかり仕事をまっとうすると。


 だから付与されてようがされてまいが関係ない。


 てか、ぶっちゃけ「もう一回かけて」とか言えない。

 またマシーカ先生が変になるかもしれんし。



「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」



 ……ふぅ。


 やはり素振りはいいな。


 適度な汗をかいた俺は、自室に戻る。

 学園内に寮が完備されており、しかも無料。持ち金が心もとないおっさんには、助かる限りだ。


 目の前に立派な寮が見えてきた。

 この建物は学園聖女たちの寮だ。女性聖騎士たちもここに住んでいるらしい。まあ、有事の際には聖騎士が近くにいる必要がある為、当然のことではあるが。


 そのデカい寮を通り過ぎて……


 小ぶりな建物がみえてきた。


 ここが、俺が暮らす男子寮である。


 普通に平屋の一般家屋に近い感じ。

 ここに学園関係者の男性は集約されている。

 事務員から教師まで、そしてわずかながらも男性聖騎士が俺以外にもいるらしい。


 まだ誰とも会ってないけど。


 部屋に戻り、隊服を身にまとい、腰に木刀を差して―――



 さあ、おっさんの初出勤だ。




 ◇◇◇




「ボクレンさん、おはようございますっ!」

「ああ、おはようセシリア」


 純白の清楚な制服に身をつつんだ、小さな天使が微笑んだ。

 女子寮のまえでセシリアと合流した俺たちは、授業の行われる本館へと向かう。


「今日の授業は午前が本館で、午後が魔法棟です♪」


 セシリアが今日の動きを教えてくれた。

 魔法学園の本館では、座学などの基礎授業を魔法棟では魔法訓練などの実技を習うらしい。


「にしても、ご機嫌だなセシリア」

「はい! だって今日からずっとボクレンさんと一緒ですから♪」


 やだ、おっさんそんなこと言われたら、張り切っちゃうじゃないの。


 そして本館について5分後……



「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」



 俺は学園の中庭で木刀を振っていた。

 誤解しないでほしい。いきなり仕事放棄しているわけじゃないぞ。


 基本的に聖騎士は授業中は教室に入らないらしい。

 その間は学園内にいれば良いとのことだった。なにかあれば駆けつけられるように。

 てなことを、昨日リンナ副隊長がすごい早口で言ってたのを思い出した。


 そんなべっとりってわけでもないんだな……

 ずっと一緒とか言われて、少しテンション上がってた自分が恥ずかしい……


 よっておっさんはすることがない。

 だから素振りしているというわけだ。決してサボってるんじゃないぞ。


 そして1限目が終了する頃に本館前に移動。

 セシリアが元気よく出てきた。


「ボクレンさん、今日習ったのはですね……」


 セシリアが目を輝かせながら、習った内容を報告してくれる。

 この子は授業が好きなんだろうな。言葉がどんどんあふれ出てきてしょうがいないといった感じだ。


 むぅ……かわいすぎる。


「……セシリアさん」


 控え目な声がしたのでそちらを向くと、制服に身を包んだ子が少しオドオドしながら立っていた。


「マルナ、どうしました?」

「……あの……さっきの授業でわからないことがありまして……」


 麦のような色をした柔らかな茶色の髪から、ビクッとしながら顔をのぞかせる少女。


 教科書を握りしめている彼女は、セシリアと同じクラスの聖女マルナだそうだ。


「ああ、ここですね……これは」

「……はい! なるほど……」


 セシリアとの会話に入ると、緊張していたマルナの表情が少しずつやわらぐ。

 見ず知らずのおっさんがいたから、緊張していたのかな。


「ふたりは仲がいいんだな」

「はい、マルナは入学してはじめて出来たお友達ですから♪」

「……そ、そんな平民のわたしが友達なんて……」

「またそんなこと言って、聖女に貴族も平民も関係ないですよ、マルナ。あとさん付けはいらないです」

「……うん。そうだねセシリア」


 なるほど、マルナという少女は平民らしいな。

 んん? ってことはセシリアは……?


「そういえば言ってなかったですねボクレンさん。私は貴族なんですよ」


「え、マジかよ……!」


 知らんかった。

 でもよくよく考えたら、王都への旅賃や俺への護衛報酬も支払ってたし。

 私服も上等なの着てた気がする。


「ふふ、ボクレンさん。貴族といっても田舎男爵の娘ですよ」


「そうだったのか……いや、セシリアは気さくで貴族のような雰囲気がしなかったもんだからな」


「はい、収穫時期には領民のみなさんと畑に出ますし。そんな王都の上級貴族とは違いますから。だからなにも気を遣うことはないですよ」


「うむ、わかった」


 俺の返事に満足したのか、セシリアは銀髪をふわりと揺らして再びマルナとの会話に戻っていった。

 しかしそうか。よく考えたらこの学園、お貴族様がけっこういるような気がしてきた。

 おっさんド田舎育ちだからな。あまり目立たないようにしよう。



「お~い、ここにいたっすか聖女マルナって……あれ? もしかしてボクレン先輩っすか!?」


 んん? この声は……


「おお、バレッサじゃないか!」


 学園聖騎士の隊服に身を包んだ20歳前後の女性が、駆け寄って来た。

 黒髪にぴょんと一本アホ毛が飛び出ている。


「うわぁ~~お久しぶりっす! その隊服ってことは、先輩も聖騎士になったんすか」

「ああ、なんだかんだでな。おっさんには分不相応かもしれんけど」

「ふふ~~その腰の低い感じ、昔と変わらないっすねぇ〜」


 聞けばバネッサは1年前に聖騎士となって、今は聖女マルナの騎士として活躍しているらしい。


「あの……聖騎士バレッサさんとボクレンさんはお知り合いなのですか?」


 俺たちが昔ばなしに花を咲かせていると、セシリアが興味津々でたずねてきた。


「ああ……彼女は昔やっていたバイト仲間だよ」


 5年ほどまえか、ミリスより少し離れた中規模の都市で魔物狩りのバイトをしていたことがある。

 弱い魔物ばかりで楽だったにも関わず、けっこう給料が良かった。特別ボーナスなるものももらったし。


 だが、そんな好待遇が続くはずもなく。元締めであるお貴族様が気にくわなかったのか、おっさん一方的にクビにされてしまった。

 たぶん、クソ弱い魔物しか狩らなかったから、給料泥棒だと思われたのだろう。

 だって、弱いのしか出てこないんだもん。運がなかったんだな。


 バレッサはそのときの仲間で、病弱な妹のために頑張って働いていたっけな。


「そうかそうか、バレッサは頑張って聖騎士になったんだな。てことは今度は俺が後輩だ」

「いやぁ~~いいっすよ。先輩は先輩っすから」


 バイト時代は、先輩先輩と懐いてくれたんだよな。懐かしい。

 そんなバレッサが、セシリアの近くによってなにやらヒソヒソと話をしている。


「ところで聖女セシリア……(先輩のことわかってて推薦したっすか?)」

「はい、バレッサさん(命を救って頂いて、このひとしかいないと思って……)」

「あ~~しょっぱなから先輩ムーブ見ちゃった感じっすか(なら多くは言わないっすけど、たぶんその想像の斜め上をいくっすから、心臓に注意っすよ)

「はい……(王都へ来るまでにだいぶわかったつもりですが……それほどなんですね……覚悟しておきます)」


 なんか2人でゴニョゴニョ言ってるな……っとリーン・ゴーンと音が鳴る。


「おっと、話すぎったす。2限目の鐘っすよお二人とも」

「大変、聖女マルナ。いそぎましょう!」


「じゃ、先輩。あたしも用事があるんでいくっす」

「ああ、またな」


 去っていく3人を見送り、静けさが戻った―――

 ……さて。


 素振りするか……。



「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」



 中庭でひたすら木刀を振るうおっさん。


 おっさん、ただ黙々と素振りを続けて気づけばもう1時間。少しばかり調子でてきたかと思われた頃……


 ―――リーン・ゴーン♪


 鐘の音が鳴った。


 ふと顔を上げると、本館から元気よくセシリアが出てくる。その隣には―――また知らない少女。背筋をピンと伸ばし、気品と落ち着きを漂わせつつも、どこか柔らかな笑みを浮かべていた。


「セシリア、お疲れさん。お友達かい?」

「はい、ボクレンさん。こちら聖女クリスティさんです。私のクラスの委員長さんですよ」


「はじめまして、クリスティと申します。セシリアさんの聖騎士さまに、一度ご挨拶をと思いまして」


 綺麗なおじぎをする委員長聖女のクリスティ。

 育ちのよさがにじみ出てるな……この子も貴族なんだろうか。


「ああ、ありがとう。こちらこそよろしくな」


 俺も頭を下げて彼女に一礼をする。

 これでいいのかなんて知らん。親父がたま~~にやっていたのを真似てるだけだ。


「すまんな、俺は儀礼的な事は良く分からん。だが、これが俺だからどうしようもない」

「ふふ、セシリアの言ったとおりの方ですね」


 クリスティが上品にクスリと笑った。


「ん? 俺の話なんてしてたのか」

「はい、朝からセシリアに色々聞かされて、勝手に盛り上がってしまいました」

「盛り上がる?」

「ええ、魔物討伐のお話や魔の森に住んでいたお話です」


 盛り上がる話かそれ? 

 というか、俺の話なんて聞いても退屈だろうに。


「なので、委員長としてご挨拶というのもありましたが、実際どのような方かの好奇心の方がまさってしまいました」


「そうか。まあ見たまんまだよ。ただのおっさんだろ?」


 この子の担当聖騎士のほうが、間違いなく凄いと思うけどな。


 和やかに談笑が続く中、背中に気配を感じた。

 すさまじく殺気を帯びているじゃないか……



「貴様ァ……聖女クリスティにまで手を出す気かぁ!」



 昨日さんざん聞いた声だ。


「なるほど、副隊長が担当聖騎士ってわけか」


 リンナが目を吊り上げて、俺とクリスティの間に立つ。


「ふん、まあいい。聖女クリスティ安心しなさい。こいつにはすでに鎖をつけていますから」

「ええっ!(ギク!)」

「なんだ? まさか忘れたとはいわせんぞ。貴様には|純潔守護禁欲システム《ドキドキ♡セイントガード♡》を付与しただろう」

「そ、そうっすね……」


 それたぶん、ぶっ壊れてしまってるんだが……


「なんだ貴様、さっきから怪しい動きをして?」

「エ? ソンナコト……ナイゾ?」


 やばい、また魔法陣を壊したのがバレたら、クビになるかもしれん……


「だ、大丈夫だ。俺は聖女を守る聖騎士なんだからな」

「……ふん、まあいい。ボクレン、貴様が血迷って聖女たちに手を出そうものなら―――その股間がもげるだけだ」


 ……おい。


 ちょっとまて、こんな純情無垢な少女たちの前で、おっさんの股間の話とかするんじゃない。

 変態だと思われるじゃないか!


 セシリアとクリスティが頬を赤らめて、なんか俺の方をチラチラ見てくるじゃないの。


 いや、俺の股間はもげないからね!!

 何もしないから! ぜったいしないから!


 そんな羞恥に震えていると、また鐘が鳴った。

 お、次の授業か。

 教室へ向かおうとしたクリスティが、スッと俺のそばにきて小さな声で呟いた。


「ごめんなさい、ボクレンさん。リンナ副隊長も悪気があって言ってるのではないのです。仕事に熱心な方で……責任感が強くて……」


「ああ、もちろんわかっている」


「はい……」


「クリスティ、君には良い聖騎士がついてる。それはおっさんの目からみても明らかだよ。さあ、授業に行っておいで」


「は、はい!」


 あの子の反応を見るだけでも、リンナへの信頼の高さが良く分かる。

 でなきゃ、いちいち俺になんか話てこない。


 リンナは必死なんだな。

 別にそれでいい。

 おっさんがすぐに受け入れらえるなんて思っちゃいない。

 ゆっくり俺のことを知ってもらえるように、俺も自分の仕事をまっとうする。


 それだけだ。


 てなことで、おっさんまたひとりになった。


 そんじゃま、素振りすっか。



「ぬんっ!」「ぬんっ!」「ぬんっ!」



 またまた中庭でひたすら木刀を振ること1時間。


 ―――ゴーンン♪


 鐘が鳴った。今までとは少し違う音だな。

 本館からにこやかに出てきた天使が口を開く。


「ボクレンさ~~ん! お昼ですよ! いっしょに食べましょう♪」


 えぇ……俺、朝から素振りしかしてないんだけど。


 やってること森に住んでた頃と一緒じゃないか……こんなんで給料もらっていいのだろうか。

 そんな「これでいいのか?」みたいな顔をしたおっさんに、天使はくすりと笑った。


「午後はボクレンさんにも出てもらいますよ」


 え、そうなん?


 何をするのかはわからない。だが、このままじゃ本当に給料泥棒だ。


 よし。


 午後はおっさん頑張るぞ。


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