7 レベルとクラス
年内最後の投稿です!
明日も投稿しますのでよろしくお願いいたします!
「リベルタ!」
「お、おはよう」
「うん!おはよう!!」
昨日ネルとの約束を守れなかったからか、今朝はずいぶんと早い訪問だ。
ひいこらと井戸から水を汲み、顔を洗って、この世界の歯ブラシモドキみたいな木の枝で歯を磨き、身支度を整えた直後の来訪。
女の子の支度ってこんなに早いの?
少なくとも、俺よりも早く、下手すれば日の出よりも前に起きているかもしれない。
思わずどもってしまったのは仕方ない。
「はい!これ!」
「これは?」
「ごはん!!」
そして挨拶の次に出されたのは、見慣れた包み。
これはネルのお母さんが作ってくれた弁当袋に似ているが、お母さんと違って包み方が少し歪。
もしや。
「ネルが作ってくれた?」
「ううん、まだ包丁は危ないって言われたから私は挟んだだけ」
「そっかぁ、ありがとう」
「えへへへ、どういたしまして!」
昨日と同じ硬いパンのサンドイッチ。
未だ稼げていない俺にとってこれは貴重な食事、ありがたくいただきます。
「それじゃ、お昼になったら一緒に食べようか」
「うん!」
包みの大きさからみて、二人分はある。
なのでと言ってみたらどうやら正解のようだ。
昨日のご機嫌は直ってくれたようで、ニコニコと笑ってくれる。
「それじゃぁ、今日は何する?」
「お話!!」
「ええと、じゃぁ何を話そうか」
そして今日一日はネルと一緒に過ごすことを約束したから、俺もそれを想定した。
本当だったら昨日もらった竹槍をもって初実戦と行きたかったけど、居候としてできることはやっておきたい。
しかし、前は地図モドキがあったから話には困らなかったけど、何を話せばいいんだ?
この世界のおとぎ話はゲームの中にいくつか出てきたけど、絵本というアイテムはプレイヤーメイドの娯楽品ばかり。
中にはVRという技術を流用してそこで絵の練習をしている猛者もいたからなかなかのクオリティの物があった。
俺も絵が奇麗で衝動買いした記憶がある。
その話でもすればいいか。
「冒険の仕方!!」
「え、冒険?」
「そう!私は将来商人になるの!!だから最初は行商人になって世界中を渡り歩くの!だから冒険の仕方!!」
と、思ってたんだけど、この世界の女の子ってこんなにアクティブなの?
女の子らしいという言葉からかけ離れた話題だけど、手を胸元でグッと握りしめて上目遣いで聞かれて、話題変更という選択肢はない。
「んー、なら、レベルとクラスの話でもするか」
「それ知ってる!!」
この世界で旅をするにあたって物理的な戦闘能力というのはかなり重要だ。
生産職でも、レベルが高ければそれだけで戦闘能力は上がる。
「そっかぁ、じゃぁ問題!!レベルってなぁんだ?」
「簡単!モンスターを倒したり、物を作ったりすると上がる神様からの祝福!!初めてレベルが上がるとステータスっていう加護を貰えるの!!」
「正解!」
「ふふん!!これくらい当然!!」
俺の考えている商人像とネルの考えている商人像はだいぶ違うだろうけど、根本的なところは同じ。
レベル。ゲームではおなじみのシステムでこれを上げることで二つのステータスを上げるBPがもらえる。
ネルの言う通り、この世界ではレベルは神様がモンスターを倒したり、制作物を作ることによって、前者は強さ、後者は制作結果に応じて試練を達成したという体のご褒美で経験値を与えている。
そして主人公もレベルが上がることでステータスという加護が使えるようになってBPを二つのステータスに振れるようになる。
「じゃぁ次の問題はちょっと難しいぞぉ。レベルアップした際にもらえる神様からのご褒美、BPが振れるモノってなぁんだ」
「それも簡単!!ステータスだったら体力と魔力!!あとスキルレベルも上げることができるの!!」
「正解、体力と魔力はともかくスキルの方も知っているんだな」
「ふふん!!すごいでしょ!!」
「ああ、すごい」
クイズ形式なのが楽しいのか、ネルもご満悦。
正解するとその小柄な体を精一杯反らして渾身のどや顔。
子供だからか、容姿が整っているからか見ていてイラつかないのは俺の心にわずかな純真さが残っているからだろうな。
FBOでのステータスシステムがこの世界でも通用することが分かったのは重畳。
子供でも知っているくらいにこのシステムが浸透しているということだ。
もう一つのスキルレベルアップにも使えるのを知れたのも大きい、今後かなり動きやすくなってくる。
「じゃぁ、次の問題!ステータスの体力と魔力の別称はなんていうでしょう!」
「え、えっと」
ならばと、この流れでもう一つ確認しておきたい質問を問題にして飛ばしてみたが、さっきまでの勢いが一気に減速した。
ステータスに関して知っているからてっきりこれも知っている物だと思ったけどもしかしてあまり浸透していない?
必死になってうんうんと唸って、腕を組んで頭をかしげて、目をつぶってと記憶を思い出すための動作を一通りやってみているのがわかる。
「うー、わからない。答えは?」
最後は本当に悔しそうにぺたんと耳をたたんで降参した。
「正解は基礎ステータスだよ。BPが振れるステータスはこの二つだけで、これからどんなスキルを取るにしても、このステータスのどちらかが影響するからそう言われているんだ」
「!それなら知ってる!!体力は剣術とかの体を動かすスキルに影響して、魔力は魔法とか錬金術とか魔力を使うスキルに影響するんだよ!!」
「正解!よくわかったね」
「勉強したもん!!」
俺たちFBOプレイヤーはステータスの体力と魔力を合わせてベーシスステータスと呼んでいた。
これは、ネルがわかる答えだとわかった途端に元気になって説明した通りの効果があるからだ。
体力を上げれば体力ステータスが上昇しそれによって物理系統のスキルの効果が上がる。
具体的に言えば体力を上げることによってHPや筋力、タフさ、素早さ、器用さなどフィジカル的な分野が均等に上がる。
逆に魔力を上げれば魔力系統のスキルと魔力を用いたスキルの効果が上がる。
魔力は、SP、魔攻、魔防、スキル発動時間、スキルリキャスト時間短縮などに影響が出る。
例えば、剣スキルの中にスラッシュというSPを消費して一回だけ斬撃の攻撃力を上げる物理スキルがある。
スキルにもレベルがあるけど、仮に効果量が二倍にするとして、体力が十と魔力一のステータスを持っているキャラならダメージ計算時には二十のダメージになる。
逆に体力が一、魔力が十のステータスのキャラがいるなら、スキルダメージの結果は二になる。
魔法系統のスキルなら逆になる。
こうやって、効果量の差が出るシステムになって物理戦闘系になるか魔法戦闘系になるかでステータスの割り振りが重要になっていくのだ。
「ネルは将来商人になるなら、体力寄りのステータスになるかもね」
「うん!お父さんも言ってた!商人は体力勝負だって!!」
「じゃぁ、立派な商人になるために、頑張ってクラス3まで成長しないといけないね」
「うん!」
そしてレベルと同じくらいに重要なのがクラスだ。
さりげなく、クラスシステムとジョブシステムにも触れたけど、これも子供が知っている程度には一般的なんだな。
「それなら、ここで問題!」
「いいわよ!!」
「元気でいいね。なら、クラスとは何でしょう?」
「そんなの簡単よ!クラスっていうのは……ええと、ええと」
「わからない?」
「わかるわよ!ちょっと説明が難しいだけ!!」
知っているフリをしている感じじゃない。
ちょっと迷って、言葉を選んでいる彼女の言葉をじっくりと待つ。
「クラスは、レベルがいっぱいになった後に、もっと強い敵を倒したり、すごい物を作った時に上がるつぎの強さのこと!!」
「おしい!でも、ほぼほぼ正解だね」
「ええ!どこが違うの?」
その結果出てきた説明は丸印をあげるには問題ないけど、花丸はあげられない解答だった。
完全解答じゃないことに、不満だったのかネルの眉間に皺が寄って、頬が膨らむ。
「違うというより、足りないが正確かな。クラスアップの部分でレベルを限界まで上げる必要性は実はないんだ。クラスごとの限界レベルの九割まで上げれば、自分のクラス以上のモンスターを倒すか、自分のクラス以上のアイテムを作ればクラスアップは可能なんだ」
「ええー、それだと上げなかった分損だよ」
「そうだね、だけど、そうする人もいなくはないんだ。どのクラスでも限界レベルまで残り一割になると途端にレベルが上がりにくくなるからね」
「ムーもったいないのに」
「そう思うなら、ネルは頑張ってあげればいいさ」
「私は絶対そうする!!だってそっちの方が得だもん!!」
「商人らしい考えだね」
「当然!だって私は商人になるんだから!!」
クラスシステム。
これはそれぞれにレベル限界が設定されて、今説明した手順を踏むことで次の段階に進むことができるシステムだ。
初めてモンスターを倒したり、アイテムを作るとレベルが上がりクラス1に入る。
ステータスにはクラス1-レベル1/50といった感じで表示される。
これがクラスアップするとクラス2-レベル1/100と表示され、さらに強くなれる仕様になっている。
ネルがもったいないと言っているのは、クラス1ならレベル45でクラス2以上の敵を倒せばクラスアップできる。
これはパーティー討伐でもできて、強い敵を複数人で倒してもクラスアップは可能になる。
だけど、次のクラスに行けば当然上げ損ねた五レベル分損してしまうのだ。
BPは限られているから、その分だけ強くなれない。
よって損だと彼女は言うのだ。
最初はなんでこんな細分化するようなシステムを取っているのか謎だったけど、後々わかった要素でクソゲー認定を受けるようなことが判明して、納得しつつも憤りを隠せなかった記憶を思い出してしまう。
「ではでは、クラス3まで上げることによって何ができるでしょう?」
その怒りは今は関係ないし、対処法も知っているから問題ないし。
なのでここはしれっと次の話に持っていこう。
すでに出題者と解答者というポジションが面白くなったのか、ネルは元気よくハイ!と手を挙げる。
「神様から試練を受けて、それを達成すると職業が与えられる!」
「正解!」
「やった!!」
楽しみにしている話題だからか、当然と言わず正解できて素直にうれしいと万歳して喜ぶ彼女の姿にほっこりとし。
「じゃぁ、商人になるにはどの神様の試練を受ければいいでしょう?」
その喜ぶ姿がもうちょっと見たいと思って問題を出す。
「商売の神、ゴルドス様!!」
「正解!」
「ふふん!」
神様の名前も俺が知っている名前だ。
これはいよいよだぞ?
似ていない部分は似ていないけど、似ている部分はしっかりと同じ。
「ねぇ!次は?次!!」
「ちょっと待って!考えるから!」
「早く早く!!」
今日は思った以上に、収穫があったかもしれない。
クエストの件もそうだけど、根本的なこの世界のシステムを確認できた。
だったらあれも問題ないはず。
そんな余計なことを考えた所為で、次の問題を考えていなくて、問題を強請られる始末。
慌てて考えようと思ったけど、その前にクーっとおなかの音が聞こえる。
この聞き覚えのある音は。
ジッとネルの方を見ると、顔を赤くしてそっと顔を逸らした。
「ご飯にしようか」
「うん」
ひとまずクイズ大会はいったん休憩。
ネルのお母さんに用意してもらった硬いサンドイッチにかぶりつく。
そして水筒でのどを潤す。
ずっとしゃべりっぱなしだから喉もカラカラ、少し冷えた水は一気に吸収される。
「ねぇ」
「ん?」
「なんで、リベルタはそんなに一杯知ってるの?」
「んー、昔、必死に勉強したから」
そんな、食事の一時。
ネルからしたら、素朴な疑問なのだろう。
見た目同い年の子供でも、ここまで知識を持っているのはやはりおかしいのか。
食べる手を止めてまで、聞いてきた。
さすがに、転生したとは言えないから、嘘ではないギリギリのラインの答えを返すことにした。
実際、この世界に似たFBOを受験勉強の時よりも必死に勉強した記憶がある。
「そうなんだ」
「そうなんだよ」
「じゃぁ、また明日教えて」
「ごめん、明日はさすがに稼がないとダメだから」
「ええー」
「ごめんね」
「むー、いつだったらいい?」
「そうだなぁ、休みの日だったらいいよ」
「休みって、いつ?」
「明日の結果次第かなぁ」
「いつ?」
「あの、ネルさん圧がすごいんですけど」
「い・つ?」
「……三日後でお願いします」
「わかったわ」
その知識を求めてなのか、それともほかに理由があるのか貪欲な少女の圧に折れる中身が大人な子供の俺であった。
読んでいただきありがとうございます。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。
ではでは皆様良いお年を!