3 裏組織
カウントダウン!
書籍第二巻とコミカライズ第一巻発売まであと5日!
さてさて、今日は久しぶりに一人旅っと。
転移のペンデュラムを持って、あとは徒歩という名の全力疾走。
裏組織に接触するにしては気楽な足取りなのだが、気負った方が面倒なので深く考えず行動する。
『ハーゲッツ』
FBOでは割と有名な組織で、斥候系のネームドが何人か所属する裏組織だ。
暗い過去を持った面々が組織の中枢にいるから孤児院の支援とかしている善良な一面もありつつ、組織的にはがっつりと違法行為にも手を出している。
ただ薬や人身売買はご法度の組織。
主な収入源は情報屋、それもかなりアングラな方面での情報を取り扱い、さらに用心棒もしている武闘派でもある。
あとはちょっとした夜のお店の経営とか、カジノの運営とかしていたなとゲーム時代の情報を思い出しつつ、王都に転移してから南西方面に進む。
エーデルガルド公爵家とマルドゥーク公爵家の領地の境。
その線上に位置する、小さくもなく大きくもない、中規模の街が目的地だ。
街の名はハンデベルト。
エーデルガルド公爵家とマルドゥーク公爵家が、お互いに領有を主張し合っているという非常に政治的バランスが微妙な街で、治安に関してはお世辞にもいいとは言えない。
かといって致命的に悪いかといえばそういうわけでもない。
なにせ、この町を裏で支配している組織があるからだ。
「ふむふむ、絶妙な栄え具合に、程よい寂れ具合。これぞハンデベルトだな」
そんな町に子供一人で入っていくのはおかしいかもしれないが、この世界には小人族という俺にとっては便利な種族がいる。
槍を背負った冒険者風の小柄な人物が入ってきても、子供かと呼び止められることもなく、街に入るための税金を支払えばあっさりと入ることはできる。
市場に足を延ばして状況を見れば、前にペーネさんが軟禁されていた街と比べればこっちの方が栄えていると断言できる程度には商人や住民の動きがある。
品ぞろえは平々凡々。
極めて良い物があるわけではないが、悪い品があるわけでもない。
ザ・平均な市場を満足気に見学しつつ、ここからが少し面倒。
「使えるかなぁ」
ハーゲッツは、本当に表に出てこない地下組織。
表との遣り取りには代理人を置いて、組織本体との間にはさらに複数の仲介人を隔てて、守秘を徹底している。
敵対した相手には、正面から挑まず徹底的に暗躍による暗殺を行う。
じりじりと首を絞めて、殺すような手段を選ぶ。
正面からの戦闘であれば勝ち目があるが、さすがの俺でも四六時中警戒し続けるのは難しい。
致命傷となる毒を盛られたら、さすがに死ぬ。
そんな奴らに接触するとなると、しっかりと手順を踏みお客さんになることから始めないといけない。
下手に裏技を使うと、どこでその情報が漏れたかと勘繰られて、それ以上は関係が進展しなくなる。
なので、正攻法という名の手順を踏む必要があるのだが。
「お、あったあった」
まずは町中を散策して、とある酒場を見つける。
表通りからちょっと逸れた、寂れてもおらずほどほどに繁盛していそうな如何にもこの街らしい酒場。
中に入れば、客が数名こんな昼間から酒を飲んでいる。
「いらっしゃい、何にする?」
「ご飯やってる?」
「簡単な奴でいいならな」
「じゃぁ、それとつまみの豆、あとはこの後仕事だから酒以外の飲み物よろしく」
「あいよ」
店員のおっさんは腹の脂肪が目立つが、腕はゴツい。
あれで殴られたら痛そうだなぁと思いつつ、一見の客の俺でも普通に商売はしてくれている。
周囲の客からも一瞬視線を感じたが、小人族と思われたのかそれ以上の視線は感じない。
食事が来るまで、時間はそうかからなさそう。
あえてそういう料理を頼んだのだから、当然と言えば当然か。
「待たせたな。全部で十二ゼニだ」
「はい、これで」
「ちょうどだな」
出てきた料理はパンとスープ、そして腸詰だ。
さらにそこに、果実水みたいなものと豆がセットになって出て来た。
「これ以外にないな?」
「ああ、食事に関しては。別の方でちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
少々強面の店主さんは、忙しくないからしぶしぶと言った感じで立ち止まってくれた。
そんな彼に銀貨を一枚差し出すと、ニッと笑ってさっさと受け取ってポケットにしまった。
「この町に物知りな人がいるって聞いてね。どうやれば会えるか知りたいんだ」
「・・・・・物知り、物知りねぇ」
「ああ、いろいろなことを知っているって」
一見すれば店主の反応は心当たりが無いように見えるが、この店主がハーゲッツの表の顔の一人であるのは知っている。
そしてハーゲッツも少し難しめの情報収集をすれば、冒険者みたいな人間であれば辿りつける程度の情報は流している。
「確か、西の方にある古書店を開いているじいさんが色々と知っているって聞いたことがあるな」
「なるほど・・・・・他にもいたりするかな?」
「あとは薬屋のばあさんだな。あそこの店はこの町が開拓されて作られたころから代々続く店だ。この町のことだったら色々と知ってるぜ。大通りの方にあるからすぐに店の場所はわかるぜ」
「ありがとう、参考になったよ」
その手順に従えば、物知りな人を紹介してくれと質問すると、古書店のじいさんと、薬屋のばあさんの話を聞きだすことができる。
情報収集を怠ると、普通に古書店の方に流れてそこで高い本を一冊買わされて終わりになるが、もう一歩踏み込むともう1人紹介される。
そしてまた情報収集を怠っているとこっちが正解だと言わんばかりにその店に向かって高い薬を買わされて終了。
どっちも不正解じゃん、って思って諦めると一生ハーゲッツの元にはたどり着けない。
とりあえず、出された料理を食べながら周囲を警戒する。
この店に一定の人数がいるのは、相手の情報収集能力を見極めるためだ。
スープを食べ終えたころに1人の客が席を立ち、外に出る。
パンを食べ始めたところに新しい客が3人入って酒を注文する。
腸詰を食べ始めたころに2人の客が連れ立って店を出ていく。
豆を摘まみ、そして果実水を飲めば、客が1人入ってくる。
「・・・・・」
店を出るのは引き算、店に入るのは足し算、酒を注文するのは掛け算で、元の店にいた客の数が俺を含めて5人だから。
5から1を引いて4、そこに3を掛けて12、そこから2人引いてさらに1を足して、答えは11と。
食事をしている間に暗号を送るって、正直どうかと思うけど、これがあるからバレていないっていうことなんだよな。
さて、さっきのじいさんばあさんの話にこの11という情報がカギになる。
「ごちそうさま」
「おう、〝夜もまた来い〟」
「そうさせてもらうよ」
店主さんに挨拶をして、店を出てとりあえず向かうのは古書店の方だ。
そしてその道中で俺の側を通り過ぎていく人の数を数える。
1人、2人、3人と数え。
「すみません、ちょっといいですか?」
「あ?」
「古書店の場所を知りたくて、道案内お願いできます?」
11人目に声をかけ、そして12ゼニを手渡す。
「・・・・・いいぜ、ついて来な」
飯の値段が合言葉とか、ゲームではこれを発見するのにとてつもない苦労があったんだよ。
毎回毎回、気まぐれで店主が値段を変えるから何かあるとは思っていたが、店の客の出入りと仕草、その2つを組み合わせてようやく接触の入り口に立てる。
話しかけた男は金を受け取って、すぐに左の路地に曲がって入って行く。
その背についていくが、ここで1つ注意点。
普通ならこのまま彼について行けばいいのかもしれないが、FBOがそんな優しい世界なはずもなく、そして裏組織がそう簡単に会えるわけもなく。
「ここかぁ」
「ああ、中にじじいがいる」
何度か路地を曲がった先に、古びた看板を掲げる古本屋はあり、男が通り過ぎたタイミングで俺が立ち止まり、その店を見上げると男も立ち止まって振り返り頷く。
ここが1つ目の目的地の古本屋だ。
「ありがとう、これでお酒でも飲んで」
「へっ、わかってるな」
そして店主と同じように銀貨を1枚渡すと、ニッと男も笑って立ち去っていく。
「さてと」
その背を見送ることなくそのまま中に入ると。
「いらっしゃい」
半地下になっている店が姿を現し、左右に広がる本棚と、入り口からまっすぐ正面に見えるカウンターに座る老人が、眼鏡をランプで光らせて声をかけてくる。
「どんな本がほしい?」
「酒場の店主さんの紹介できました。薬屋のおばあさんに送る本が欲しいんですけど」
そんな彼に迷わず近づき、そしてどんな本が欲しいか聞かれれば、迷わず次の手順に繋がる物を所望する。
「・・・・・これだ」
「お値段は?」
「18ゼニ」
「わかりました」
「23ページのしおりは取るなよ」
「わかりました」
店主は俺の変わった注文に、眉1つ動かさず古書店にふさわしい本を背後にある本棚から取り出しそのまま俺に渡す。
この世界の本は基本的に高価だ。
18ゼニで買えるはずがない。
でもそれでいいという店主に、注意を受けつつ金を支払って店をでる。
そして。
「よう、目的の本はあったかい?」
「ええ、次は薬屋に案内してほしいんですけど」
さっき立ち去ったはずの男が、店の前にいた。
あの時のチップが効果を発揮したわけだ。
あそこで払わず、そのまま店に入っていたら彼は立ち去り、本当の薬屋への道のりが閉ざされる。
「わかった」
最後の道案内。
そこに金銭は絡まず、そのまま男は案内を始めどんどん表通りから離れた道を突き進む。
スラムではないが、それでも日当たりが良くない道には、風体が怪しい人間がどんどん増えていく。
男の案内が無く、1人で歩いていたたらこの男たちに絡まれていた。
そしてこの本を奪うために襲われていただろう。
そういう二重三重の警戒網があるから、この組織は今まで生き残ってきた。
「ここだ」
そして案内されたのは、路地裏にぽつんと佇む、営業しているのかも怪しい店。
かろうじて看板で薬屋とわかるだけで、店先の掃除もしていない小汚い店だ。
そこに男は案内し、そしてここでお別れだとさっさと立ち去ってしまった。
そして残された俺はといえば、迷わずさっさと店中に入る。
「・・・・・いらっしゃい」
そしてそこには黒いローブを纏い、そのローブのフードで顔の隠れた人物が一人でいた。
「何をお求めで?」
声がしゃがれていて、声だけで聞けば老婆とわかる。
体も前かがみで腰が曲がっているのではと思わせる。
「この本の23ページ目の薬が欲しいです」
「ほうほう、それを見ても?」
「はい、しおりは外さず見てください」
「・・・・・わかった。ついて来な」
しかし、店主に本を渡しそしてページを指定、しおりに手をかけた瞬間に古書店の店主の言葉を伝えると、しゃがれた声が一転、若々しい女性の声に変わった。
フードの奥から見える眼光は鋭く、俺を観察しているのがわかる。
背筋がしっかりと伸びると、俺よりも身長が高かった。
そのままカウンターから店の奥の扉に近づくと、その扉ではなくその隣の石壁をノックし始めた。
コンコンコンと一定のリズムで、その回数は23回。
きっちりと回数を叩いた後、数秒待つとその石壁は形を変えて、徐々に人一人が通れる入り口を作り出す。
「この先にあんたが求める物知りがいるよ」
「ありがとうございます。夜には店に戻って食事をとらないといけないので早めに戻ってきますね」
「ああ、そうしな。長居はするんじゃないよ」
その道に踏み込む際に、しっかりと伝言を残してからその入り口に入る。
そして俺が入ったのを確認すると壁は元に戻り、入り口は塞がる。
そうして俺の目の前には松明の灯りだけが照らすダンジョンが現れるのであった。




