2 有能
カウントダウン!
書籍第二巻とコミカライズ一巻発売まであと6日!!
円満退職という俺の出した条件を達成したからには、こちらとしてもバミューダを迎え入れることに関してはしっかりと応えないといけない。
「バミューダって、本当に有能だったんだな」
「これでも一軍の将でした。これくらいの事務仕事はできて当然です」
「わ、私よりも手際が良いですわ」
「商人の私でもこんなに早く計算はできないね」
なので、神殿でしっかりと契約して、裏切りや情報漏洩のリスクを防いだ後に、ひとまずステータス強化無しで仕事を振ってみたところ、サクッと仕事を終わらせてみせた。
FBOでも裏切りさえなければ、有能といわれるだけの手腕だ。
「ふむ、ここはいい職場環境ですね。仕事でやるべきことがしっかりと明白です。おまけに書類の書式が均一化しているのもいい、さらに部署ごとの連絡手段が確立し連携がとりやすい。前の職場は派閥争いと足の引っ張り合いでこのように円滑に滞りなく仕事を進めることはできませんでしたね」
おまけに、このフライハイトの組織運営のやり方を瞬時に把握している。
「何より、足を引っ張る輩がいないのがありがたい。低能なくせに無駄に足を引っ張ることだけには有能な輩がいないのがいい。ストレスを感じず、しっかりと職務をスムーズに遂行できる」
その職場環境の良さを一番体感でき、実感したのはもしかしてバミューダが初めてかもしれない。
言ってはなんだが、この男と他の面々を比べると今まで働いて来た環境が段違いだ。
暗躍が当たり前の世界に身を浸していると、この街の明朗な情勢は楽を通り越して彼にとっては空白に近いのではないかと勘繰ってしまう。
「あの魔導列車は物流の合理化で人員削減におおいに役立ちます。さらに、後進の育成にも力を入れていることも良いです。裏切りの心配が無いように神の契約ができることもメリット……この街の運営環境と比べたら前の職場はクソですね」
今までまとめ役として運営に携わっていたエスメラルダとジンクさんが目を見開くほどの事務処理能力。
きっと、反吐を吐くくらいに面倒だった組織内の足の引っ張り合いを御して雇い主に有能さを示し続けてきたバミューダが、その枷がなくなったらそりゃ、気楽になるし、本気を出せばこれくらいの仕事は朝飯前か。
「バミューダの職務の権限に関しては追々って感じで、ひとまずはエスメラルダのサポートで頼む。彼女も外交関連で動くことが多いし、学校の報告を受けたりして人手が足りない。過不足なく、情報をまとめて伝えてあげてくれ」
「かしこまりました。お任せを」
頭の中で、この都市の能力を駆使したバミューダの理想を描いていそうだが、しばらくは大人しくしているだろう。
それを放置したままでは厄介なことになりそうだから、定期的に彼の常識を壊すようなお祭り騒ぎに巻き込んで、バミューダの描くイメージを覆し続けねばならないな。
この街を楽しませてこっち側に引きずり込めば、普通に頼りになるユニットだからなぁ。
なんか、こうして話しているとFBOの時よりは擦れていない感じがするし。
「何か、質問とかある?もしくは意見とかでもいいよ」
「では、人員の補充に関してお願いを。今はエスメラルダ殿とジンク殿と私、そして元商人の方々でこの街の運営をしておりますが、率直に言ってこの街は将来的に人口が増え、大都市になることが見込まれます。現状の運営に関しては問題ありませんが、このままでは人が増えた際の対処ができません」
「それはどこの部署でも一緒なんだよなぁ。どうにかしようと、子供たちの教育をしているんだけど」
「リベルタ様の判断は間違っておりませんが、予想が甘いと言わざるを得ません。おそらくですが、半年以内に大規模な人員の流入が起きると予想されます。そのために早急に即戦力を補充するか、早めに子供たちを現場に投入し慣らしておく必要があるかと」
そう思いつつ、事務仕事をやって感じたことを聞いてみれば、バミューダはすかさずこの街での最大の懸念を指摘した。
それも、この街にいる誰よりも的確にデータで予測し、誰よりも危機感を抱いているように感じる。
「子供の現場投入か……ガトウさんの報告では、一応読み書きと簡単な計算ができる子供が数名出た程度だけど。それで現場に入れられる?」
「育てます。エスメラルダ殿とジンク殿、そして私にそれぞれ側付きにして、教育を施せば三カ月ほどで最低限の仕事はできるようになるかと。また、現場に抜擢されたということで、子供たちにもやる気が出るいいきっかけになると私は思います」
俺としては、まだまだ教育課程の子供を現場にいきなり投入することに関して言えば、正直反対だ。
人手不足なのは事実だが、まだまだ実践投入できない人員を放り込んでも現場が混乱するのではと考えてしまうからだ。
「いずれはジンク殿を含め商人出身の事務方は、輸出や輸入部門の方に異動するはずです。そうなれば、街の運営の人手が致命的に不足するのは必定。であれば、まだ余裕のある今のうちに、後を引き継ぐ者たちに専門知識と仕事の意識を教育しておくことがよろしいと判断します」
しかし、それは問題ではないとバミューダは言う。
現場を見て、そして必要な理由を語る。
内容は筋が通っているし、俺が難色を示している部分もカバーすると言っている。
「エスメラルダ、ジンクさん。二人はこの意見はどう思う?」
「私は、賛成しますわ。引き取った子供の中には働いてもおかしくない年齢の子もいます。政治関連をいきなり任せることはできませんが、事務仕事を経験させることは将来の役にたちますわ」
「私も賛成かな。いきなり何もかもできるとは思っていないけど、読み書きと計算ができるなら任せられる仕事は十分にある」
「ふむ、なら、ガトウさんと連携してテストを実施しよう。それが一次試験で二次試験は三人にガトウさんを加えて面接って流れで。採用人数はエスメラルダ、ジンクさん、バミューダの三人にそれぞれに二人ずつの合計六人でどう?」
現場が問題ないと言っているなら、反対する理由はない。
だが、さすがに最低限の能力は求めないとダメだということで、テストを実施することは譲れない。
「そうですわね。それが妥当ですわね」
「うん、私はいいよ。バミューダさんはどうだい?」
「それで結構です。試験内容に関してはいかがしましょうか?」
「三人で協力して作れる?」
その事に関しては、三人とも了承してくれた。
「承りましたわ」
「わかった、やってみるよ」
「お任せください」
「うん、じゃぁ。頼むよ」
エスメラルダが最初に頷き、そしてジンクさんとバミューダが同意することで、試験的ではあるが、子供たちの現場投入が決定した。
これで事務関連に関しては問題ない。
「お館様、その人員補充に関しまして我ら御庭番衆でも幾名か声をかけたい子供がいるのですが、よろしいですか?」
そしてこの手段が取れるというのなら、警備関連の方でもスカウトしたいという声が上がるのも必然。
この執務室に来る際に、一緒に来たゲンジロウが話に入ってきたのはおそらく事務方に取られたくない子供がいるのだろう。
「バーゼのこと?」
「はい、それ以外にも幾人か」
真っ先にあがるのは、ここ最近学校が終われば熱心に御庭番衆の詰め所に通い、鍛錬をしているバーゼだ。
俺のFBOでのイメージだと、バーゼが刀を使っている姿はあまりないのだが、御庭番衆の面々が教えるのは刀や槍、そして弓などだ。
このままいくと千手のバーゼではなく侍バーゼが爆誕する。
戦う才能に関してはゲンジロウが即答で欲しいと答えるくらいだ。
ゲンジロウたちの教えをどんどん吸収し、レベル無しである現状でもかなりの戦闘力があると判断されている。
根が真面目、そして目標は俺の側付きの護衛騎士になることだと豪語しているから意識も高い。
「わかった。いいよ。ただし、事務方としっかりと話し合うこと。スカウトしていいのは六人までだ」
「おお!ありがとうございます!」
御庭番衆の方も人手が足りない。
この程度の人数では焼け石に水だけど、誰も彼もスカウトして現場で育ててしまうと学園の意味が無くなる。
実際じっくりと学園で育てた結果も用意しないといけないしね。
「あと、これはエスメラルダたちにも言えることだけど、採用した子供たちはあくまで見習いとして扱って。情報管理は徹底して、教育記録は残してくれ」
「わかりましたわ」
「承知しました!」
このタイミングで、将来の御庭番衆を育てるのもいいか。
この街で人手が足りているのは、職人たちくらいか。
その職人たちも、将来的には人手不足になるかもしれないから油断はできないけど。
「・・・・・」
そして人手不足筆頭のエンターテイナーたち。
ストリートチルドレン出身で、ペトラが教えている子供たちは俺のことを慕ってくれているけど、そのまま情報収集部署のエンターテイナーに放り込むことはさすがに躊躇われる。
しかし、事務方と御庭番衆に人員補強をしておいて、一番人が必要な部署に補充をしないのは問題だ。
「仕方ない、動くか」
となれば、ここは俺が一肌脱ぐしかない。
「何をするつもりですの?」
「エンターテイナーの人員補充、少し心当たりがあるんだ」
信用と信頼が無ければ情報部門は任せられない。
そう考えるとジュデスとシャリアを含めたエンターテイナーたちを迎えられたのは幸運だったと言える。
「ということで、1人でちょっと街の外に出てくるから。その間街の運営よろしく!」
「お待ちになって、貴方から監視の目を外したら一体どんな騒ぎを引き起こすかわかりませんわ!」
しかし、その彼らが今じゃ激務で疲弊している。
レベリングしていても疲れないわけではない。
神殿の巫女たちとの合コンの日はかなり元気だったけど、終わったら少し落ち込んでいたな。
その後交際を始めたって話は聞かないし、さすがにプライベートの時間は確保しないといけないと雇い主的に思ったわけだ。
「大丈夫大丈夫、ちょっと、裏界隈で義理堅い組織のボスとお話ししてくるだけだから」
「それを聞いて安心できる要素がどこにありますの!?」
「義理堅い?もしやリベルタ様が取り込もうとしているのはハーゲッツですか?」
「お、バミューダは知っていたか」
「私の居たところでも噂にはなりましたが、生憎とマーチアス公爵閣下の性格とハーゲッツでは相性が悪く、仕事を依頼することはできませんでしたが、その仕事の質と実績、そして組織の性質は調べました」
なので、ちょっと頑張って動いてこようかなと思ってさらりと重大事項を言って出かけようとしたが、さすがに許してくれないか。
がっしりと俺の腕を掴んだエスメラルダの手からは、絶対に離さないという覚悟を感じる。
だって、情報関係を取り扱うとなると、自然とそっち界隈の人たちと接触しなければならないだろう?
そうなると多少の危険は伴う。
「エスメラルダ殿、リベルタ様が引き込もうとしている組織が私の知っている組織だとすれば、リベルタ様お一人で行くのが最良です。下手に従者などを引き連れていけば信用されず、最悪、会うことすら叶わず闇に潜られてしまいます」
「・・・・・リベルタ、そうなのですか?」
「まぁ、そうだな。特にイングリットやエスメラルダみたいな貴族組はダメだな。それに、あそこのトップは少し変わっていてな。使者を送ってアポは取れないんだよ。来るなら組織のトップが独りで来いっていう流儀でな」
裏界隈に独りで足を踏み入れる。
普通に考えればNGなんだけど、やらねばならない時がある。
「確かに、あの組織に接触するのを諦めたのはその点もありますね。マーチアス公爵閣下は他人を信用しませんので、その信用しないという空気を察せられて向こうも接触してきませんし」
そんなバミューダの言葉に背中を押され、次の目的地が決まるのであった。




