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10 襲撃

 

「さてと。それじゃぁ、報告を聞こうか」

 

 色々と驚かせつつ、どうにか王家と公爵家の大使の受け入れを終了した。

 エスメラルダには明日も送迎をお願いするが、ひとまずは俺が成すべきことは終了したと言って良い。

 

「で?何があった」

 

 街はすでに寝静まり、俺たちも普段ならおやすみなさいとベッドに入って寝ている時間帯にようやく戻ってきたジュデスから、イングリットと2人で話を聞く。

 

 アミナとネルは就寝、エスメラルダは明日の王都との往復転移に備えて準備している。

 

「クローディアがここにいないってことは、現場の方で対応しているってことだと思うんだけど」

 

 そしてクローディアはまだ、フライハイトに戻ってきていない。

 その状況から察するに、襲撃事件は思ったよりも大規模だったということか。

 

「ああ、クローディア様には俺たちの代わりに救援隊の代表として向こうの現場指揮官との対応をお願いしている。俺たちだと表側には出れないからな」

 

 その予想が当たっているのは良いことなのかと聞かれれば、悪いと答えるだろう。

 

「相手勢力は?」

「一見すれば、普通の盗賊団だよ。ただ、その数と装備が異常だった。団員はわざわざこの大陸の東西南北それぞれの地方からかき集められていて、スキルスクロールや武器を供与されてだいぶ強化されていた」

「・・・・・体のいいトカゲのしっぽというわけか」

「そういうことだな」

 

 襲撃されたのは、空路で来ていた飛竜部隊ではなくやはり襲撃しやすい陸路の部隊。

 わざわざわかりやすく、レンデル王家の家紋までしっかりとつけた馬車を使用して、騎士団に護衛された使節団だというのに、移動している最中を襲ったということは、明確に相手を理解して襲撃したということか。

 

「盗賊の大半は殲滅、盗賊団の頭は捕縛。尋問しているけど碌な情報は得られていないな」

「遠くから監視している奴らはいなかったのか?」

「いなかったな。使い魔を使われるとさすがに俺たちでも見つけることができないからな。小型の魔獣とか蟲とか使われたら本気でわからないよ」

 

 盗賊を使ったということで、考えられる線が貴族か邪神教会かわからなくなった。

 

「背後関係は見つからず、か。しかし、王家の馬車を襲撃するリスクを理解していないのかそいつらは。仮に成功してもその後騎士団を派遣されて地獄を見るのはわかりきっているんだろうにな」

「見るからにいい武器と強力なスキルを得て、俺は強いと勘違いした感じだったぞ?襲撃したときは最初の方は押してたからその勢いで勝てると思ったんだろうなあ」

 

 エンターテイナーたちが見つけられなかったとなると、元からいないか監視の目を隠しているか。

 彼らとて万能ではない。

 

「実際そのまま襲われ続けたら結構やばかっただろうな。騎士にも怪我人が出てたし」

「死者は?」

「それはゼロ。御庭番衆を引き連れたクローディア様が駆けつけてそこからは一方的な蹂躙よ。ちぎっては投げちぎっては投げって、あっという間に盗賊を倒して回ってたよ」

 

 エンターテイナーの索敵能力や隠密能力は高いけど、それでも襲撃場所が開けた場所じゃなく、山道の途中ということで、敵の隠れる場所はいくらでもある。

 はるか遠くから監視されたらさすがに見つけることは難しいか。

 

「で、結局は大半の盗賊たちは討伐。頭目も捕まり、国としては治安の回復に一役買った事件になったわけ」

 

 ジュデスも何もしてこなかったわけではない。

 体中を泥だらけにするほど、山中を走り回って敵の痕跡を探し回ってきたのだ。

 

 その証拠は彼の格好に如実に表れている。

 

「目的は?」

「第五王女を拉致して身代金を奪って、別の大陸にトンズラってのがあいつらの計画だったらしい」

「・・・・・できると思っていることが末恐ろしい」

「リベルタならできるんじゃないか?」

「まず、大勢で襲撃なんて阿呆のやるような事はしない。バレずに侵入して誘拐、これに尽きる。正体がわからないことこそが最強の隠れ蓑だ」

「おお、怖い」

 

 だからこそ、ジュデスの冗談に対して俺も半分冗談で返す。

 できるできないの話というのなら、いくつものスニーキングミッションをこなしてきた俺にこの世界で侵入できない場所はないとだけ言っておこう。

 

 肩をすくめ、おどけているジュデスは真剣な顔に戻る。

 

「それで、どうする?今回の件はさすがに誰かが裏で糸を引いてると思うぞ。それを調査するか?」

「したいところだが、きっかけも無しじゃ時間がかかりすぎる。孤児の受け入れも近い。そっちの方に人手がいるからな。今回の件は様子見だな」

 

 今後の襲撃の動機に関しては、俺たちとレンデル王国の関係を揺らがせることが目的だろう。

 有体に言えば、示威行為だろう。

 

 レンデル国王の行動に反対するという意志を俺は感じた。

 

「いいのか?敵さん、俺たちとレンデル王国の関係が深まることを良しとしていない輩なのは間違いないぞ。今回の件だけで済むとは思えないぞ」

「こっちの最大の弱点は人手の少なさだからな。そっちの調査に人手を割いてその間に別の事件を起こされたらまた後手に回ってしまう。それに、ここまでの規模と予算をかけた輩がこれで諦めるとは思えないからな。逆襲するなら次のタイミングの方が本丸まで迫れる」

 

 となると、今回の件は邪神教会というよりは貴族たちの行動のような気がする。

 邪神教会に関しては先日の神山襲撃事件から戦力が回復しているとは思えないし、神殿からの追撃の手が緩んでいるとも思えない。

 

 となれば、今回は邪神教会の支援をしている貴族たちの行動と見た方が良さそうだ。

 

 問題は東か、西か、どっちからの行動か。

 

「そういう考えならいいけどよ」

「すまんな、お前たちには負担をかける」

「そういうことなら、人員補充頼むぜ。休みを取れるようにはしてるけどけっこうカツカツなんだよ?」

「考えてはいるんだけど、なかなか当てがなくてな・・・・・脱衣癖のある集団への人員補充が」

「そっちかよ」

「そうじゃないと今のお前たちと一緒に過ごせないだろ?」

 

 こういうことをするのは性格的に西の方が可能性が高いのだが、東の可能性も否定できないし、他の不満を溜めている貴族たちの可能性もある。

 何事も知っているというのは必ずしも有利に働くわけではない。

 情報が多いとたまに判断に迷う時がある。

 

 その迷いを晴らすために、現場の生の情報が必要なのだ。

 

 ジュデスへ軽い冗談を言えば、彼も笑顔で笑って。

 

「もしくは、女装に興味のある奴でもいいぜ?変装能力が高いとこっちも潜入工作員としては実際役立つし、シャリアを見ていると男と女を使い分けられる強みって言うのは実感できるしな」

 

 冗談に乗ってくれる。

 

「そんな都合のいい人材がいると思うか?」

「脱衣癖があって、女装が出来て、信頼できる・・・・・いるのか?」

「心当たりがいたらスカウトしているよ」

 

 悩みすぎない空気に感謝しつつ、それでもやるべきことが重なることに溜息を吐きたい気持ちになる。

 

 御庭番衆もそうだが、エンターテイナーたちへの人員補充も急務になりつつある。

 情報部は信用できる人材で固めたいから難しいんだよな。

 

 しかし、このまま手をこまねいているわけにもいかない。

 

「学園も人が増えると、いよいよ今の俺たちだけじゃ監視の目が足りなくなるぞ?外部委託するわけにもいかないだろ?」

「んー、頼りになる人を育てるために人を入れるがその所為で人手が足りない。鼬ごっこだな」

 

 どうするかと、頭を捻る。

 FBOの知識の中にこれを改善する方法は、いくつかある。

 

 しかし、それをするにはきっかけが必要なクエストばかり。

 原作前だとそのきっかけとなるイベントがそもそも未来にあるのだから発生させることができないのだ。

 

 警備面では精霊たちのおかげで人手不足を解消できたが、諜報面となるとさすがに精霊を頼るわけにもいかない。

 

「会長!会長!大変大変!」

「なんだ?」

 

 どうするかと悩んでいると突如として、執務室の窓が叩かれる。

 イングリットが手早く、窓際に近づき確認するとそこには精霊がいた。

 

 それを見て、イングリットが窓の鍵を開けて招き入れると黒い影が飛び込んでくる。

 

「侵入者捕まえた!ゲンジロウが来てほしいって!」

 

 闇の精霊が伝令として飛んできたのだろう。

 送り主はゲンジロウ。

 

 内容は侵入者という物騒な話。

 

「このタイミングか」

「こっちが本命だったってことか?」

「その可能性はあるな。王家の馬車を襲撃して油断させてその隙に侵入ってことだろうけど」

 

 大規模襲撃を囮にした、フライハイトへの侵入作戦。

 警戒心を煽りつつ、それでもやるという大胆さに関心はするが、それでもこっちの警備の方が上手だ。

 よほど自信があったのか、それともただの阿呆か。

 警備に引っ掛かって捕まえられたのなら、その正体を知ることもできるか。

 

「相手が悪かったな、闇さんが警護しているこのフライハイトに侵入するとか」

 

 闇を司る上位精霊がいるこのフライハイトに、夜に侵入するなんて俺でもやりたくないわ。

 難易度がバグっているレベルじゃないんだよ。

 

 昼間はともかく、夜という闇が包んでいるこのフライハイトは全てが闇の精霊の知覚領域に変化する。

 

 さすがに全域を覆うことはできないだろうけど、それでも警備網としては隙間ができないほどだ。

 

 正直、侵入するなら昼間の方がまだチャンスがある。

 

 そこに、御庭番衆の警備隊が加われば霊長類最強の女性が警備してくれる安心感が加わるわけで。

 

 こんな深夜でも、侵入者に対して万全な行動をとることができる。

 

「まったく、残業は悪だというのにな」

 

 寝る前で良かったよと愚痴をこぼしつつ、伝令に来てくれた闇の精霊の案内の元、イングリットとジュデスを引き連れて軍施設がある階層の拘置所に向かうと。

 

「御屋形様、夜分に申し訳ありません」

「判断しにくいことが起きたってことなんだろ?いいよ、ゲンジロウは職務を全うしているだけだ」

「はっ」

 

 そこには険しい顔のゲンジロウと厳戒態勢の御庭番衆とエンターテイナーたちがいた。

 どうやら、捕まえたのは一人ではなくもっといるようだ。

 

 複数の気配を牢屋の中から感じる。

 

 たった1人でも過剰戦力になりかねないゲンジロウのほかにも集まっていることに、まずは驚き、それほどのやつを捕まえたのかと思い、牢屋の中で拘束され椅子に座る存在たちを視界に収めると。

 

「あれま、フェーダ族じゃないか」

 

 俺は再び驚く。

 

 それは黒い人。

 肌もそうだが、手抜きと思えるような目玉も、歯も、爪も、髪も、人間としてのすべてのパーツが真っ黒という、FBOの中でもかなり特徴のある部族。

 

「御屋形様、こやつらを知っておられるので?」

「ああ」

 

 昼間の格好は体を全て布で覆って、体を見せないようにしているという特徴のある部族だが、夜になるとその布を取り払うという夜行性部族でもある。

 その特徴的な姿故に、過去に邪悪な存在なのではと勘違いされて迫害対象になり、その歴史から部族以外には人間不信な一面もあるため外部との接触がほとんどない。

 この大陸のごく一部の山中の土地に隠れ住み、侵入者が来たら即座に隠れてしまうという習性で、種族的に隠密性能が高い。

 

「こやつら、闇に紛れ込み城壁を登っているところを闇の精霊たちが見つけてくれまして、光を当て声をかけようとしたら一斉に逃げ出しまして」

「ああ、それはダメだ。この人たちはシャイなんだよ。いきなり光を当てて声をかけたら反射的に逃げ出しちゃうんだ」

 

 FBOでは発見しても高速で逃げ出すことで有名な一族。

 見つけられたら相当幸運だと言われる部族だ。

 

 しかし、なぜフェーダ族がここに?

楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。


コミックスがついに発売日決定!!

さらに第2巻のカバーイラストも公開!

絵師であるもきゅ様に描いていただきました!!


今回はエスメラルダと背景に這竜を描いてもらいました!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
夜中になると脱ぎ出す......?
はぐれメ◯ルみたいな存在じゃ無いんだから(;´∀`)
うん、後は信用できるかどうかだけだね!
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