15 酒乱の野望
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さて、俺たちの新しい武装ができるまでに二か月となかなか長い間ができた。
普通なら、適当にモチでも狩ってスキル熟練度を上げて、米化粧水を作って金策に走る。
これが無難な考えなのは間違いない。
「それじゃぁだめだ」
しかし、廃人だった俺の思考ではそれでは非効率すぎるという結論がすぐにはじき出され、代わりの案が脳裏をよぎる。
「?なにがだめなの?ネルがきちんと値切ってくれたよ?」
「そうよ、もう少しいけそうだったけど、あれ以上値切ったらあのお店との仲が悪くなっちゃうわ」
「いや、そっちじゃない」
あれをするか、これをするか。
その判断のために、自分にダメ出しをしただけで、ネルの値切り交渉の批判じゃないと苦笑しながら首を横に振って否定し。
「今後の俺たちの方針で、武器ができるまで引き続きモチを狩って米化粧水を量産するか新しいことに挑戦するかの二択で」
素直に考えていたことを伝えた。
「「新しいことで」」
「お、おう、俺もそのつもりだったが、そんなに?」
道具ができるまでの間にほかにやるべきこともしっかりと用意して効率的に動いてこそゲーマーは廃人の領域に足を踏み入れるのだ。
幸い、少し、いや、かなり前向きにネルもアミナも協力してくれるということなので計画を実行しよう。
その形相は幼さを残す彼女たちがしていいような表情ではないような気がするけど。
「必要なのはわかってるけど、さすがに同じことを続けるにしても限度があるわよ」
「そうだよ、ここ最近じゃ夢にまでモチが出てくるんだよ?さすがに、ねぇ?」
「私は夢でカガミモチに追いかけられたわ」
「あ、それ、僕もある」
腕を組んで私、不満がありますと眉間に皺を寄せるネルをリーダーに、隣に立ちこれでもかと大きく頷くアミナ。
まぁ、キャラ育成って極論言えば単調作業を超効率で繰り返すだけだ。
プレイヤースキルの習熟だってそうだ。
ただひたすら同じ操作を体に叩き込んで、それを繰り返して幅を増やしていくんだ。
そうやって単純な動きを身に着け、パターンを増やす。
基礎っていうのはこうやって築かれるわけ。
それに対して不平不満がたまっているのは理解するし、俺も過去に数え切れないほど抱いたことのある不満なので共感もできる。
なのでここらへんでルーティンの味変は必要だという思考も抱くことができる。
さすがにモチが夢にまで登場するという廃人の初期症状ともいえる現象が現れているのなら治療は必須。
「それは諦めろ、このまま他のこともしていけば、自然とほかのことも夢に出るようになって塗りつぶされるようになるから」
そしてそれに関しての特効薬と言えば新たなクエストで塗りつぶすことが最善。
「「ええー」」
俺の対処に少女たちから苦情が出るけど、これは廃人の性なのだから仕方ないとしか言いようがない。
寝落ちする直前までやっていた作業が脳内にこびりつき、それをもっと効率的にできないかと最善策を模索する。
それが廃人脳なんだよ。
「というわけで、別の塗りつぶし作業のためにアングラークエストをしようと思う」
「あんぐらー?」
「なにそれ」
「釣り人のことだよ。まぁ、人ではなく」
この二か月という待ち時間にできる最善のクエスト。
ミスリルで釣り竿を注文しておいて、釣り手を用意しないわけにはいかないよな。
「ゴーレムだけどな」
釣り専用というか、釣り特化のゴーレム作成クエスト。
いや、正式にクエストがあるわけではないが、パーツを手に入れることができるクエストを複数かき集めて結果的にゴーレムが出来上がるという流れなのでそう呼んでいるだけだ。
「それって、ゴーレムの釣り人ってこと?」
「そんなゴーレムがいるんだぁ」
「いるというか、作る」
ゴーレムは大きく分けて二種類存在する。
「え、作れるの?」
一つは埴輪みたいな野生で生息するモンスタータイプのゴーレム。
「作れるというか、前に説明したと思うがアミナの構成だとゴーレムを作ることが前提だからな?」
「アミナ、あなた忘れてたでしょ?」
「あ、アハハハハハ」
そしてもう一つはプレイヤーメイドの魔法生物のゴーレムだ。
FBOにおけるゴーレムの制作範囲の自由度は、それだけで一本のゲームを作った方がいいのではとプレイヤー間でもささやかれたほど高い。
例外として、生体パーツ、生身に近い素材だけは発見されず、すべてのゴーレムが非生物感を拭う姿が作れなかったくらいだ。
多忙型アイドルのコンセプトを説明したとき概要だけゴーレムを作るということを言った筈だが、それを説明したのもだいぶ前の話だ。
仕方ないと言えば仕方ないか。
誤魔化すように笑うアミナにネルは少し呆れているが、FBOのスキル構成が多すぎるからプレイヤーでも時折忘れてしまう。
こうなることも仕方ないと言える。
「もうアミナったら。でもリベルタ、王都にそんなことができるお店があったかしら?私は知らないわよ」
「僕も僕も!ゴーレムって使っている人って見たことないよね」
「俺の知識だとそれなりに、ポピュラーな奴なんだけどなぁ。確かに見たことがないよな」
なので、気を取り直してゴーレムとは何かと説明しようと思ったが、ネルの疑問、そしてアミナの経験。
今まで生活してきてゴーレムを街中で見たことはなく、さらにゲームの中にもNPCで取り扱っている人は表向き存在せず、そしてゲームでもゴーレム専門店は基本的にプレイヤーがメインだった。
「ま、それでも当てはあるからいいんだけどな。ひとまずは移動しよう」
それだと俺以外にプレイヤーがいないこの世界では、ゴーレムを作るためのパーツは手に入らないと思われる。
「どこに行くの?」
「外だと、さすがにこの時間からだとあまり遠くには行けないよ?」
「大丈夫、大丈夫、近所だから」
ガンジさんの店から移動し始め、向かう先は東側だ。
「こっちって何かあったかしら」
「お店がいくつかあったと思うけど、全部ご飯を食べる場所だったと思うよ?」
記憶を頼りに、見覚えのある物を探し、進むとだんだんと周りの風景が変わっていく。
「あった」
「え、ここ?」
「ここって、酒場?」
そしてたどり着いたのはどこぞの西部劇に出てきそうな開き扉を構えた酒場だ。
昼間だというのに、中からは騒がしそうな男たちの声。
盛大に盛り上がっているのは間違っておらず、お世辞にも柄がいいとは言い難い面々が揃っている。
「そうそう、ここにいるはずなんだよなぁ」
原作の進行前だからいない可能性もあるけど、あのクエスト中の話が本当なら間違いなくいる。
「どうする?怖いなら俺一人で行ってくるけど」
「……行くわ」
「二人が行くなら、僕も」
酔った大人の男たちが大声でゲラゲラと笑って騒いでいる姿は、子供にとっては人によっては怖いだろう。
男たちの見た目もいかつければ相応に怖い。
あんまり気にしない俺の方が異常なんだろうな。
そう思いつつ、入らないという選択肢がない俺は、少し緊張している二人を引き連れて扉をくぐる。
キィーっと扉が動く音が響き、何人かこっちを見た。
子供がいったい何の用かと興味を持つ者、すぐに興味を無くして酒を煽る者。
大体この二択に分かれる。
けれど、例外というのは存在して。
「ワシは!!大発明家!ミスターエッグなるぞ!!そのワシが酒をよこせと言っておるのだ!!早々に酒を持ってこい!!」
「うるせぇ!!酒を飲みたければ金を払えって言ってんだよ!!」
酔っ払いのアフロといかつい顔つきの店主が怒鳴り合い、こっちに気づかないという展開もある。
「なによ、あれ」
「うぁ、昼間からあんなに酔っ払ちゃって」
店主に赤い顔で怒鳴り、酒を要求する男をネルとアミナは一瞬で冷めた目で見つめた。
それも仕方ない。
手入れが行き届いていない、中途半端なアフロ。
よれよれでところどころ汚れが染み付いた白衣、なぜか左右違う靴を履き、異臭はしないが不衛生だと思われるような見た目。
店主からしても厄介な客だというのが目に見えてわかり、そしてすぐに拳が飛び出そうなほどイラついているのがわかる。
「あ、いた」
「え」
「まさか」
しかし、残念ながらその目立ち、そして騒ぎ立てている迷惑な客こそが俺が探していた張本人だ。
俺の視線がバッチリとミスターエッグを捉えている。
そのことに気づいた二人が即座に俺を止めるために左右から肩を掴み、ネルとアミナはダメだと首を横に振った。
「リベルタ、あれはだめよ」
「うん、絶対に碌なことにならないのがわかるもん」
少女二人にとって、ミスターエッグはまさに夢を追ってダメで最悪な転落人生を送っている大人の典型例のように見えているのだろう。
「まぁ、そう見えるよなぁ」
ただ、ゲームだと、え、こいつが?と思うようにすっごい見落としやすい有能キャラだったりする。
泥酔しているアフロ男ことミスターエッグに接触しあるアクションを起こすと発生するクエスト。
『酒乱の野望』
この南の大陸でゴーレムを作るにあたって必須級のクエストなのだ。
FBOでこのクエストを見つけられるのは、ゴーレムを作れるという情報を得てさらにどうやって作れるか情報収集を開始し、聞き込みを行うとNPCがこんな噂話を教えてくれる。
『なにやら、変な物を作っている男〝たち〟がいろいろな店に現れるらしい。そいつらの言っていることは嘘か真か。少なくとも現実的なことを言っているわけではない。まぁ、気が向いたら探してみるんだな。飲食店を探れば見つけられるさ』
うん、このクエストが発生するための条件情報だけどさ、この噂話から察せる通り、クエスト複数あるんだよ。
おまけに全員が全員、ここで泥酔し暴れる五秒前のミスターエッグのような奴ばかり。
「でも、ゴメン。これは必要なことなんだよ」
詐欺師に騙されていると言わんばかりに心配しているネルとアミナの気持ちは分かっている。二人には申し訳ないが攻略サイトを見たときの俺も同じ気持ちになった。
今までの信頼がなければ、たぶんネルたちは間違いなく止めていた。
こういう時って、本当に信頼って大事なんだよね。
しぶしぶ、本当に大丈夫なのかと何度も視線で問いかけてくる彼女たちに、苦笑して大丈夫と言い。
二人を引き連れて怒鳴り合いが殴り合いに代わる五秒前に俺たちはその場について。
「店主さん!」
「ああ!?」
迷わずその騒ぎに割って入った。
店の中にいた客たちはまさかその怒鳴り合いに子供の俺が入ってくるとは思わなかったのか、唖然としたり驚いたりと、さらには少し腰を浮かしてこっちに割って入ろうとするか迷う人もいた。
突然の横槍に思わず店主も怒鳴るように俺を見てきたが、俺は迷わず腰につけている財布から銀貨を取り出し。
「これで彼にお酒を飲ませてあげてください!」
「「「はあぁぁぁぁぁぁ!!????」」」
ミスターエッグに酒を奢るのであった。
銀貨一枚、百ゼニ、イコール一万円。
子供が出すには大金、そしていかにもダメな大人に子供が酒を奢ろうとしている光景に、ネルとアミナ、そして店主とさらには周囲の客も驚き叫んでしまっている。
「ちょ、ちょっとリベルタ!?」
「どうしたの!?どこか具合が悪いの!?」
「どこのガキは知らんが、そこの嬢ちゃんたちの言う通りだ!!腹が減ってるのか?それならすぐに何か用意してやるから、そこのアホに酒を奢るなんて冗談だよな?」
ネルが俺の行動に愕然として、アミナが慌てて俺の体を触って具合を確認。
そしてさっきまでの怒りが吹き飛んでしまった店主が俺の正気を心配してくれる。
こうなるよなぁ、こうなってしまうよなぁ。
実際、プレイヤー時代でこのアクションを取った時に周りのNPCから似たようなことを言われた。
「残念ながら、正気です」
周りの奇異なモノを見る目に少し心が寂しくなりつつ、それでもこのクエストを進めるには押し通すしかない。
「ケっケっケっケっケっケっケっ!!!ほら見ろ!!この天才大発明家のミスターエッグの支援者が現れたぞ!!ほら店主!!さっさと酒を持ってこい!!」
唯一、俺の行動を素直に受け止めているアフロの不審者が奇妙な笑いとともに机をたたき酒を催促してくる。
そこに子供に酒代を出させるという嫌悪感も罪悪感も欠片もない。
ダメな大人、その典型例に周りからの視線はさらに冷たくなる。
ああ、悲しいかな。
ネルのなんで?という本気で分からないという疑問の視線。
アミナの、脅されているの?と本気で心配してくれる視線。
本当は優しいのかな?
店主さんが脅されているという言葉を真に受けてそれなら仕方ないかと、ミスターエッグを外道と罵りそうな顔で睨みつけてから酒の準備をする。
俺はこのやり取りを後〝四回〟は繰り返さないといけないのを知っているんだよなぁ。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




