1 学園都市フライハイト
新章突入です!
学び舎、それは日本では子供たちが義務として、また権利として通うことを求められる教育施設であり、教育を通して道徳と知識を持った人材を育成する機関だ。
「皆、今日は集まってくれてありがとう」
しかし、それは日本だけの話で、この世界での学校は家に地位と金が有り、子供が働く必要がなく時間に余裕のあるごく一部の人々しか入ることが許されない狭き門だ。
そこに平民が入るには、とてつもない努力か、とてつもない幸運が必要になる。
その理由はなにか。
答えはいたってシンプル。
上流階級による、知識の独占と支配階級の確立。
その一言に尽きる。
その支配階級にくさびを打ち、罅を入れることを俺は今からしようと思う。
「今日はこの開拓村改め、学園都市としての方針を決めるための会議を開催する」
それも、自分勝手な人材欲しさに始めるのだから、俺も業が深い。
最初にできた開拓村をあらためて「学園都市」として、村から都市へと規模感を訂正したのは、つい先日のこと。
大神殿での事件からすでに三カ月という月日が過ぎ、その間、邪神教会を警戒しつつ防衛体制を強化してきた。
城壁の拡張は一旦中止して、内部の建設に集中した。
名称を学園都市へと変更したのは、この都市に巨大な神殿が建立されたからだ。
安置された神像は、八十四柱。
それは世界中の神殿を探し回っても見つからないほどの数だ。
それをすべて収容するとなるととてつもない規模になり、学園用に確保していた敷地の一部を神殿用に転用することになった。
おかげで、第二城壁内のレイアウトを修正することになったが、その結果として満足できる神殿ができたのもまた事実。
ドンたちの建設グループには苦労をかけるね。
その苦労と挙げた功績に報いて労うために、酒蔵はしっかりと作るから勘弁してほしい。
「さて、そんな栄えある第一の議題だけど」
この会議場に集まっているのは、この学園都市の運営に関わる主要人物たち。
「ええっと、散々後回しにしてきたこの都市の名前を決めたいと思う」
「本当に今さらよね」
「ねぇ、いっつも開拓村って言ってたけど、もう村じゃないよね」
パーティーメンバーにして、この学園都市の最強戦力。
赤髪をおさげにし、狐の耳をピクリと反応させた少女商人のネル。
彼女の豪運には何度も助けられ、そしてこれからもよろしくお願いしますと頭を下げる未来を確信している。
そしてネルの隣に座る、栗色の髪を編み込み、オシャレに目覚めた鳥人の歌姫アミナ。
現在進行形で歌唱力は成長を続け、「ライブ」という名の精霊たちとの交流により、この世界では手に入りにくい貴重な精霊石を大量ゲットできるアイドルだ。
これのおかげで、魔道具作りには困らない。
将来的には彼女たちも幹部ということになるが、今は見習い。
俺の補佐という名目でここにいる。
少女ではあるが、最古参という少し不思議な立場の彼女たちの言葉に、一斉に笑いが起きる。
「仕方ありませんわ。散々提案してきた私たちの案を、リベルタが受け入れてくれませんでしたもの」
「そうでございますね」
「いや、さすがに俺の名前を使ったり、もじったりするのはちょっと……」
アミナのさらに隣に座り、笑いがひと段落したタイミングで肩をすくめて発言するのは、パーティーメンバー兼、この都市で外交を担当してくれている公爵令嬢のエスメラルダ。
自慢の金色の髪を撫でつつ、今日も今日とて悪役令嬢のような出で立ちのドレスを身に纏い、苦笑をこぼしつつも付き合ってくれる。
さらにその隣には、薄い青色の髪をお団子のようにまとめ、常にメイド服を纏っている補佐のイングリット。
無表情でありつつも、最近はよく感情を表に出せるようになってきた。
そんな二人は貴族としての経験を活かして、外とのつながりを維持してくれている。
「そのおかげで、いつまでも開拓村と名乗り続けることになっていたのですから。私も神殿とのやり取りで苦労しましたよ」
そして、この世界の神々とのつながりを持つ神殿とのパイプ役兼、パーティーメンバーのクローディアが、あきれ顔で俺を見る。
世界中を旅し見識を広げてきた経験を活かし、相談役としての立場もある。
俺もちょくちょく相談して、お世話になっている。
「恥ずかしいし……」
「いや! 御屋形様の偉業とも言えるこの都市に、御屋形様の名を冠することは恥じるべきことではござらぬぞ!」
クローディアの言葉から顔を逸らしていると、勢いよく立ち上がる男がいる。
西洋ファンタジーのような装いが多い中で、和服を着こなす侍。
剣だこまみれの手を握り、熱弁するのは、歴史が変わり狂人から熱血漢へと変わったゲンジロウだ。
この学園都市の兵力の総責任者でもある。
「はいはい、ゲンジロウさん落ち着けって。俺はリベルタの気持ちはわかるぞ」
「んー、僕はゲンジロウさんに賛成かな? だってその方が未来に残る感じがしていいし」
ゲンジロウの隣に座っているのは、諜報部の責任者となったジュデスと副責任者のシャリア。
「エンターテイナー」という、定期的に全裸になってしまう集団を取りまとめている二人。
貴族の坊ちゃんだった頃と比べ、落ち着きが増して貫禄が出ているが、それでも時折ツッコミ体質が出てしまうジュデス。
そして可愛い仕草で首をかしげる、見る者たちが皆魂を奪われる美貌の持ち主だが、中身は男というシャリア。
「私としても、わかりやすい名前というのは扱いやすいんだけどね。ドンさんはどう思う?」
「ワシは変な名前にならなければどっちでもいいわい」
そして最後の一角、上座に立つ俺の向かい側の席に座るのは、ネルの父親であり、商店街を取りまとめ、今は財務を担当してくれているジンクさん。
レベルを上げたおかげでだいぶ若返り、今では三十代中ごろの見た目になっている。
その隣にいるのは、建設の責任者となったドワーフの長、ドン。
生活が安定してからはドワーフの象徴たる髭の手入れを怠らず、艶のある髭を撫でている。
「ホホホ、名は体を表すとも言うがの。この集まりの象徴たる名前だ。じっくりと検討するのもいいとは思うがね」
「んー、僕は自由に魔道具を作れればどんな名前でもいいよ」
「もう、あなたったら」
元冒険者のガトウの好々爺たる笑いが漏れる。
老いて夢を諦めかけた時に、俺が「もう一回花を咲かせてみないか」と誘った経験豊富な指導者だ。
レベルが上のジュデスやシャリアですら、経験の生き字引として頼りにしている。
レベルを上げたことで、すでに自らの夢を叶えられるようになっているが、今も俺に協力してくれている。
将来的には、学園の校長になることが決まっている。
ガトウの隣にいる夫婦は、ガトウの紹介でこの学園都市に来てくれ、魔道具や道具全般を作る工房のまとめ役となったパーシーとその妻のフェルト。
工房長の立場はパーシーだが、経営的なセンスは欠けている。
実際、この会議も俺が頼んで出席してもらっているが、当人もこういう場が不向きだという自覚がある。
その欠けた部分を埋めてくれるのがフェルトだ。比翼連理のような二人は、今日も仲睦まじい姿を見せている。
これが、この学園都市の幹部会の主要メンバーだ。
ここに外部協力者のエーデルガルド公爵閣下や、外交官として来る予定のエスメラルダの妹イリスが加わる。
今はいないが、神殿には大司教が一名派遣されることが決まっているし、結界の巫女も数名派遣されるとクローディアから聞いている。
将来的に来そうな顔ぶれで言えば、東の領地に旅立ったバミューダも数に入るのだろうか。
その頂点に立つのが、この世界で知恵の神ケフェリによって孤児と思われる子供に転生した俺、リベルタというわけだ。
「だけど、名前を決めると言っても私たちの案はすでに出したわよね?」
「えっと、リベルタ君の名前をそのまま使った案に、ちょっと変えたネルの案の『リベルターラ』。僕の案の『リベッタ』」
「私の案の『リベータ』も提案しましたわ」
「僭越ながら私も、『リベル』という名を提案させていただきました」
「私はシンプルに『リベルタ』という案を推薦しましたね」
本題である都市の正式名称だが、すでに彼女たちの案は出そろっている。
ネル、アミナ、エスメラルダ、イングリット、クローディアの案は、どれも俺の名前から取っている。
「拙者も御屋形様の御名を推しましたぞ!」
「俺はパスした。そういうネーミングセンスはないんだよ、昔から」
「僕は『リベッタ』って案を出したね」
戦力組は、ゲンジロウは俺の名前推し、ジュデスは放棄、シャリアも俺の名前をもじっている。
「私は少し捻って『リーヴ』という名を提案したね」
「ほほほ、なんだかんだ言ってリベルタ君の名前に近いものになってしまいますな。わしも似たようなもので、『リータ』と名付けました」
「まぁ、ここにいる人全員、リベルタさんに世話になっている人ばかりだからね。自然とそういう形に近づく」
「そうですね。私たちもやはりそのイメージが強くて。『リーベー』という案を出しましたし」
「ワシは面倒だからそのままリベルタ様の名前で良いと思うんだがの」
誰かが意図的に合わせているわけではなく、ジンクさんも、ガトウも、パーシー夫妻も、ドンも、全員が自然とそうなってしまうのだ。
「というわけで、私たちの案は出したから、あとはリベルタが選ぶか新しい案を出せばいいと思うわよ?」
「そうだね」
あらためて話し合い、良い案を出してもらおうと思ったのだが、全員が全員こういう流れになってしまった。
「というか、リベルタの案をまだ聞いてないじゃないか」
「そうだぞ♪ 僕たちばかりに案を出させておいて、君が出さないのは筋が通らないぞ♪」
「うっ、だって俺が言ったら、じゃあそれでってなりそうな気がして」
「実際、リベルタ君が提案したら私たちはそれでいいと思うだろうしね」
「そうですな。この街は御屋形様が拙者たちを率いて作った街ですからな」
俺が「こういう名前にすればいい」と提案したら、即決で賛同されそうでなかなか口に出せない。
ジュデスとシャリアの言葉に、思わず本音を漏らすと、ジンクさんとゲンジロウは力強く頷いた。
「それでいいのではないですか? よほど変な名前であれば私たちが反対しますよ」
この世界は封建制度が一般的だ。
すなわち、合議制や民主主義という思想が浸透していない。
だから、クローディアの言うように「主が決めたことに、何のおかしいことがあるのだ」と首をかしげるのが普通なのだ。
「……本当にいいのか?」
そのことに違和感を覚えているのは、俺だけ。
ある意味、これも一つの民主主義か。
俺に決めてほしいという総意を受け取り、最後の確認をする。
全員が頷くのを見て、俺は腹を決めて考えていた名前を告げた。
「フライハイト」
俺は「自由」という言葉が好きだ。
だからこの「リベルタ」という名前をキャラ名に使っていた。
イタリア語で自由という意味で、語呂と音感が好きで使い続けていたのだ。
「フライハイト」は、ドイツ語で自由という意味。
「フライハイト。うん、なんだかいい響きの名前ね」
「そうだね、僕も好き」
結局、自分の名前に近い意味合いを付けている時点で、俺も皆と大差ない。
「聞いたことのない言葉ですが、どういう意味ですの?」
「『自由』って意味がある。この学園都市もそういう場所になってほしいと願ってね」
その由来は語らず、俺は笑ってごまかすのであった。




