30 EX 次代の神 14
リベルタの超高難易度の試練の突破。
それは神界中を驚かせるほどの大偉業。
こんなことはできないだろうと、とある神々の仕掛けた悪ふざけがとんでもないスパイスになり、今神界ではその話題で持ち切り。
この試練を突破して見せたリベルタには、神々から惜しみない称賛と祝福の意を込められた神の欠片が送られた。
ここまでなら何らおかしくない、当然の話。
しかし、この試練が元々神々の日ごろの退屈を紛らわすための悪ふざけであり、それが今回の試練に限っては三柱がちょっとした好奇心で介入した悪乗りから、神界全体を巻き込む熱狂に変わったという話ならどうなるだろうか?
「「「反省はしている。だが、後悔はない!」」」
「ほう、私の使徒を殺しかけたというのにそんな軽い態度か?」
リベルタが普通のこの世界の住人であったのなら、その偉業は神界の神々の間では娯楽の噂話となり、しばらくは暇を潰せる話題となり続けても、それでおしまいとなっただろう。
だが、娯楽にした対象が次代の主神を決めるための競い合いの鍵となる存在であったとしたらどうだ?
特殊なロープで雁字搦めにされて、逆さまに吊るされている三柱の神。
その上には冷徹な眼差しで見下す知恵の女神。
ここは天空の箱庭。
次代の神々が下界を見るための場所。
その箱庭の淵に吊るされている。
祭りの神『デンデン』、享楽の神『ババベ』、道化の神『クラウ』は必死に脱出しようとしているが、特殊なロープで拘束されているために抜け出すことはできない。
本来であれば次代の神の候補者以外がこの空間に立ち入ることは許されない。
だが、今回三柱の神が悪乗りしてやらかした内容が内容故に、裁判ではなく損害を被りかけたケフェリの私刑が許可されてこの場に連れてこられた。
悪乗りにも限度はある。
「うわ、南の完全にキレているよ」
「気持ちはわかるのである。吾輩もあんなことをやられて脱落しようものなら」
「そうですね、完全に今回はやりすぎです」
「そうですねぇ」
同情の余地は無し、裁きは知恵の女神の手にゆだねられた。
他の神々も完全に傍観者となり、どういう結末が下されるか見守っている。
「お前たちに関しては、殺すこと以外は許可されている。そこで何が一番苦痛かと私は考えた」
楽しむことに権能を全振りしているこの三柱が生半可な罰で反省するとは限らない。
下界への追放も考えたが、この神々の場合は普通にそれを楽しみそうで見送った。
実際、ロープで縛られぶら下げられているというのにへらへらとした表情を隠そうともしない。
どんな苦境でも楽しむことが彼らのモットー。
そうなってくるといよいよどうやって罰を与えるかという問題になる。
「一億年ほど、ただ穴を掘り埋め直す作業に従事させることも考えたが、お前たちには効果が薄いと判断した」
「え、それって普通に狂わない?」
そこは知恵の女神の面目躍如。
ありとあらゆる拷問の方法を網羅し、その中でもこの三柱に効果的な物を模索した。
まず最初にあげられた方法にアカムは口元を引きつらせた。
無意味な単調作業を延々と繰り返す、それだけでも気が狂う。
それを効果無しと判断するケフェリの怒りはよほどのことだ。
「次に考えたのは、ありとあらゆる苦痛を与えることだ。古今東西問わずの拷問だ。幸いそれに協力してくれる神が数柱申し出てくれたが、それもお前たちは痛みを楽しむだろうから却下した」
「いや、いかに神であろうと苦痛を延々と続けられるのは厳しいのである」
次に考えたのは、シンプル・イズ・ベスト。
死ぬか死なないかの瀬戸際を見極めて苦痛を与え続けることだ。
人間もそうだが、神も痛みは嫌悪する。
しかし、それは一般神だけで、武神などの存在は痛みというモノを感じはするが苦痛と感じるようなことがないので効果が薄くなる。
この三柱は痛みすらも楽しみに変えてしまう。
ゴルドスは、ドン引きと言わんばかりに三柱を奇異な物を見る目で見つめている。
「労働をさせることも考えた。ああ、全ての神々の雑務を一身に受け持ってもらうことも考えた。実際、この希望を出す輩は多かったよ」
「そうしてくれると私も助かりますね」
「だが、その程度の労働、お前たちなら片手間に終わらせるだろう?」
さらに、労働刑ということも考えたが、楽しむことに全振りしたような神々ではあるが、能力はある。
その能力を駆使すればこの世界の神々の雑務を片手間で終わらすことくらいはできる。
故にこの罰は、一番効果がないモノと判断した。
そもそもの話、この三柱はどのような事象でも楽しむことに変えてしまう。
故に、反省させることは困難を通り越して無理と判断せざるを得ない。
「先輩、どうするんですかぁ?この三柱を反省させるなんて、上の神々でも難しいですよぉ?」
ニヤニヤと笑う三柱の神々に対して、呆れたとため息を吐くパッフル。
流石に無敵過ぎないかと言いたげな視線に、ケフェリはしてやったりとニヤリと笑う。
「ああ、どんなことでもこいつらは楽しんでしまう。だが、考えてみろ。何かを与えるからこそこいつらは楽しむ」
ケフェリの眼光に宿る怪しげな光、その目には絶対に容赦しないという誓いがある。
「そうだけど、それだったら大概の罰はダメじゃない?」
ある意味で究極のドM集団だ。
そんな存在たちに対して、どうしようもないだろとアカムは言う。
「だからこそ発想の逆転だ。あるじゃないか、ちょうどいい罰が。それこそ悪意があるのではと言うくらいにふざけている物が、それを有効活用させてもらう」
「まさか」
しかし、ちょうどいいと言わんばかりにケフェリが指さしたのは設置されてから誰一柱として触れてこなかったガチャボックス。
「ああ、この箱庭ではいままで完全に腐っていたがこいつらと言う雑用係が手に入ったのだ。有効活用させてもらおう」
「「「チョトマテェエエエエエエエ!!!」」」
依頼内容が神々からと言うことで理不尽極まりないモノばかり、それゆえに触れてこなかったが、身代わりがいるのなら話は変わる。
「知恵の女神ケフェリ!お前はそれでいいのか!!その依頼は我らが丹精込めて考え貴君らに依頼したものだぞ!!」
「知らん、ふざけているとしか思えん内容ばかりだ。それに言ったであろう?殺さなければ何をしても良いと」
嫌な予感を感じた祭りの神デンデンが叫び、制止しようとした。
なにせ、ケフェリが取り出した紙の束を見てしまったから。
その紙の束を持っているケフェリの表情は暗黒面に落ちたかと言わんばかりに、怪しげな眼光と悪だくみをして面白いと言わんばかりの笑みを浮かべている。
「コンチクショウ!!何をしてもいいってわけじゃないだろ!」
必死に体を逸らして、上を見ようとした享楽の神ババベは、その紙の束に見覚えがあった。
「ほう?」
だからこそ、必死に止めようとしている。
「ずいぶんと面白いことを書いているようだな。なになに。私に裸になって腹踊りをしてほしいと・・・・・なるほど」
そしてそれみろと言わんばかりに、下種を見る目で見下し一枚目を見せる。
何が面白いのかと言わんばかりの軽蔑した視線、そしてその音読された内容にメーテルとパッフルも蟲を見るかのような目になる。
そして神界でこの裁きの場面を離れた所から見ていて、自分の書いたことに心当たりがある面々の額から冷や汗が流れていく。
「ふむ、ではこの依頼は誰もいないところで、ババベにやってもらい私は依頼料を貰うとしよう」
「ちょっ!?」
「ああ、安心しろ。公演時間はしっかりと確保して神々には公演場所には害があると周知しておく。もしかしたら野次馬くらいは見に行くかもな」
「それ、一番芸人としてきつい奴!?ノーギャラってことだろ!?」
「そんなに元気なら、他にもいろいろとできそうだな。感謝するぞ、おかげで心ゆくまでガチャが回せそうだ」
他にも、女神にやらせるには下世話な内容を次々にババベにやらせることを決定させる。
ババベの肉体は細身、脱げばすごいとかではなく、本当に細いのだ。
そんな枯れ枝のような肉体が踊っている姿を誰が見たがるかと、ババベがケフェリにクレームを入れた結果、他にも色々と面白そうという理由だけで悪ふざけでされた依頼がすべてババベ一柱に降りかかることとなった。
「次にデンデン」
「は、はい」
何事も楽しむことができる神々と言う最強な三柱ではある。
しかし、それは少なくとも観客と言う第三者がいることが前提だ。
この三柱を全員一緒に行動させればそれぞれで楽しみ場を盛り上げることができる。
となれば、一柱で誰も見ていないところで無意味に活動させ、尚且つ無報酬という報われない行動をさせればいいと女神ケフェリは考えた。
「ああ、これがちょうどいいな。西の写真集を作るという話があったが、ふむ、西のは作りたいか?」
「断固として拒否します」
「ま、まさか」
「だ、そうだ。なら代わりにお前の写真集を作ってすべて売りさばけ。そうだな、うん、一万部いや、大盤振る舞いだ、十万部は売りさばけ。タダで配るのは禁止だぞ?そしてそれを終えるまでは他のことをするのは禁止だ。ああ、安心しろ。他の悪ふざけに協力をしていた神々に頼んでお前たちの仕事はしてもらうから世界の管理には支障はない」
「NOおおおおおおおおおおおお!?」
さらに行動制限をかけて、無理難題を吹っ掛ける。
絶叫を上げて、叫びのたうち回るミノムシ状態のデンデン。
その肉体はお祭り騒ぎが大好きすぎて、飲めや歌えやの日常の不摂生おかげででっぷりと腹が出ている。
その醜い肉体を晒した写真集を果たして買ってくれる神界の住人がいるか。
「ああ、安心しろ。お前にもしっかりと与えてやる」
そんな地獄をいつまで楽しめるだろうかとサディスティックな笑みを浮かべたまま、最後に残った神、道化の神クラウに目を向ける。
びくりと反応して、へらへらと媚びを売るような笑みを浮かべたクラウ。
「お前にちょうどいい、仕事があるんだ」
「へへへへ。どのような仕事でしょうか?」
「なぁに、ちょっとした職場の環境改善の依頼だ」
どんな依頼が飛び出てくるか、警戒していたが聞けば普通そうな内容で安心しかけたが、クラウは冷静に思いとどまる。
ここまで怒り心頭な知恵の女神ケフェリがそんな簡単そうな依頼で許すか?と。
「死後の魂を管理する部署の中で一番過酷な職場に勤務する天使たちの依頼だ。職場が暗い、息が詰まる、上司とコミュニケーションをとるのが命がけだと。職場を明るくしてくれる中間管理職が必要だと」
そしてケフェリがにっこりと綺麗な笑みを浮かべ、そのままスッと瞼を開けると笑っていない笑顔が誕生し、依頼書を見せてくれる。
そこにある名は神々の中でもっとも厳しく冷徹で、合理主義な神。
地獄と呼ばれる天界で最もブラックな部署を任される神で、罪人の魂を選別し、浄化することを役割としている存在。
冥府の神、地獄の裁判神。
「え、ええと。ヒューリーのところかな?」
「いいや、ゴードルーメのところだ」
「いやあああああああああああ!?」
せめてもの抵抗で、清廉な魂が送られる場所を管理するホワイトな職場かと聞き返すが、顔では笑っているが心が笑っていない冷めた笑みでケフェリは否定する。
道化を司るという存在には似合わないガチの悲鳴が上がるほどの、神界にある者が最も働きたくない職場ナンバー1への派遣が決まった。
「あそこだけは、アソコダケハイヤダァアアアアアアア!!」
「言っただろう?お前たちには殺す以外はなにをしても良いと許可を取っている。せいぜい真面目に働け、運が良ければ千年ほどで終わるかもな」
そうして、ケフェリは一本ずつ吊るしたロープを切るための魔法を展開する。
「「「ヤメロオオオオオオオオ!!!」」」
悲鳴を上げる三柱の真下に転移魔法陣を展開する。
「そのゲートは契約神の特別製だ。通れば契約は結ばれる。拒否もできず、なすべきことを成さねばならなくなる。嫌なら拒否してみせろ」
必死にもがく三柱の悲鳴など聞こえていないと、ケフェリはあっさりとロープを切断し、抵抗虚しく三柱はゲートに飲み込まれ、契約を結ばれその空間は静かになる。
「さて、静かになった。続きでも読むとするか」
そうして自分の定位置に戻ったケフェリは、恐ろしいものを見たという他の四柱の神々の視線を気にも留めず、謎を食す魔人と少女のコンビの物語を読み始めるのであった。




