29 いい加減休ませろ!
累計総合ランキングに300位ですが入れました!!
皆様のご愛読に誠にありがとうございます!
もうやだ、さすがにここまでやったらもういいだろ。
試練終わらせて、そこから悪魔を狩りつくして、さらに山の中に邪神教会のテロリストの残党がいないか見回って、もう大丈夫ってなったのが一週間後って何よ。
実質10日間ぶっ続けで働いてたってことじゃねぇか。
「ゆっくり私の膝でお休みください、リベルタ様」
「あー、うん、もう、休めるならいいや」
クラス8のステータスを持ってても疲れるときは疲れるんだぞ?
おまけに、登山道の復旧も手伝ったから余計に疲れたよ。
そんな俺が帰還した途端に、疲れている表情を察して、素早い動きでイングリットに膝枕されて横にならされたよ。
どんな早業なんだよ。
俺も一瞬、イングリットの動きを見失ったぞ。
「報告をしようと思ったのですが、後日にした方がよろしいですか?」
「あー、イングリット、移動しないから、その肩に置いた手の力を緩めて」
街の方も襲撃を受けていると聞いて心配していたけど、とりあえず全員無事で一安心。
「このままの姿勢でいいか? 俺も伝えたいことあるし」
メイドに膝枕されているという、なかなか見ない光景になっているが、離れようとすると悲しげな目で見られるので、動こうにも動けない。
「ええ、構いませんわ」
なのでこのままの状態での報告と言うことで、まずは俺の方から、ふざけた三柱の神のおかげで何度も死にかけた試練のことと、山頂でのミモザとの出会いから発覚した邪神教会のテロ攻撃とその解決までの一連の経緯を教えると。
「「「「「……」」」」」
クローディアは目頭を押さえ、エスメラルダはそっと口元を扇で隠し、ネルとアミナはそっと視線を逸らした。
ただ一人、イングリットだけは優しい目で俺の頭を撫でてくれている。
「神よ、何故彼に苦難を与えるのでしょうか? これはいくら何でも」
そしてクローディアは祈りはじめ。
「リベルタ。今日はゆっくりと休んでください。神殿との交渉は私が済ませますわ」
エスメラルダは慈愛に満ちた目で俺を見つめ。
「大変だったわね。ちょっと、隣の部屋から毛布を取ってくるわ」
ネルもそっと目元を拭うような仕草をしてから、隣の部屋に行ってしまった。
「大丈夫、リベルタ? 子守歌を歌おうか?」
「いや、大丈夫だが?」
最近妙に母性に目覚めているアミナにまで労われるほどのことを俺はしたか?
したな。
こうやって漸くまともに横になってわかる。
だいぶ無茶をした。
体はそれほど疲れていないが、いや、脳みそも体の一部か。
その部分においては、試練以来ずっと神経をとがらせ続け、常に最善手を選び続けた結果、過回転していた思考が今になって鈍り、自分の疲労を軽視していたことに気付いた。
「本当に大丈夫? いつものリベルタの大丈夫と違う気がするわ」
その事を自覚したタイミングで、隣の部屋から毛布を持ってきたネルが戻ってきた。
そのまま俺の体にかけてくれると、まともに寝てよいと言われた気がして、体の奥底に溜まっていた疲労が湧き出て来た。
「うーん、気を張ってただけか」
それを感じたら、さすがに大丈夫と言うわけにもいかない。
肩の力を抜き、イングリットに体を預ける。
「眠るのでしたら私たちの報告は後にしますわ」
「いや、何だろうな。疲れているんだけど、まだ眠いってわけじゃないんだ。だから、エスメラルダたちの話も聞いておきたい」
「それなら」
そのまま眠りに入るかと俺も思ったがな、頭は妙に冴えている。
眠気がまだ来ていないので、エスメラルダからアレイヤの街の中で何が起きたかを聞く。
「なるほど、下水道を使ったテロか。そして邪神教会のそれぞれの派閥の協力体制による大神殿への襲撃。それを囮にしての本命が山頂の神殿への襲撃。これを加味すると、目的は間違いなく結界の巫女だろうな」
双子の落書き事件は目くらましなのは予想通り、そして俺の知る過去の事件に繋がっているのも予想通りだ。
違うのは結末だけか。
「捕まえた邪神教会の信徒は神殿が調べているのか?」
「はい。邪神教会のテロリストは捕まれば自害するケースが多いですが、その中で司祭クラスの立場の人間を捕まえられました。これを機に神殿の方では邪神教会の情報を得て、大規模な掃討作戦が実施されるでしょうね」
FBOでは、神殿側は被害が甚大すぎて反撃をする余裕もなかったはず。
しかし、現実では俺たちが介入したことで神殿に反撃する余裕が生まれた。
これによって南の大陸での邪神教会の活動が縮小する可能性が出て来た。
「神殿も今回の件は重く見たようですわ。当然ですわね。一歩間違えればこの街が陥落して、神山と大神殿に甚大な被害を受けていた可能性があったのですから」
神殿が本腰を入れて動くことは滅多にない。
基本的に専守防衛に徹する神殿騎士、それは世俗に関わらないという鉄則があるからだ。
だが、今回の件は神への信仰を邪神から守るためには攻めなければならないという規則に当てはまる。
エスメラルダもクローディアと一緒に話し合いの席に着いたのだろう。
そこら辺の事情を把握していて、神殿側の動きを追っていた。
「そういう動きになるだろうな」
実際、こうなったら神殿もそう動くだろうなという納得感はある。
「あとは、どれくらいの規模で攻勢を仕掛けるかだけど……」
問題はどれだけ迅速に神殿が動けるかだ。
「そうですわね、邪神教会は今回の件の失敗はすでに知っているはず。なので、あの組織のことですから痕跡という痕跡を消して、早々に姿を消して闇の中に消えると思われますわ」
「それを想定して、神殿の方でもできうる限り早く動こうとしています」
「時間との勝負だな」
邪神教会は長い年月を裏で活動してきた。
その点において、逃げる、隠れる、潜むなどのノウハウはかなり蓄積していて、隠れ家も多く確保している。
今回の騒動に関わった人員の関係者が捕まらないように手配して、これ以上の被害を出さないように動くのも当然の動きだ。
そうなってくると、神殿側の腰の重さがネックになる。
こんな甚大な被害をこうむりそうになったのだから、早々に反撃に出るべきだと考えるのが普通。
しかし、神のシステムの管理者として、むやみやたらに力を振るうこともできないという立場もある。
事を起こすには慎重にという神殿の立場、そこら辺を考えると、この千載一遇のチャンスを逃してしまうという可能性も十分にある。
被害を受けたと言っても致命的というわけではない。
「ちなみに、被害はどんな感じ?」
「一部区域で、下水道崩壊による被害があるのと、邪神教会のテロリストが暴れたことによる死傷者と怪我人が多数です」
「……動かないと神殿の信用問題になるな。さすがに反対派も動かないか」
被害の規模を考えれば、ここで慎重に行動すべきと発言するのは神の威信を損なうとして冷ややかな目を向けられるのが必至。
そうなってくると過去にないほど、神殿が迅速に動く可能性がでてくる。
「さて、と。それじゃあ。目を逸らしていた方向に目を向けるか」
ここまでは神殿の動きだ。
正直言えば、神殿に貸しを作れた俺たちにとって、彼らの行動は傍観できる分、気楽に見れる。
今回の騒動を防いだということで、協力を要請される可能性はあるが、そこは貸しを盾にして断固として拒否させてもらう。
「そうですね」
「ええ」
「問題?」
「私たちが、邪神教会のテロを防いじゃったことよ」
「え、やっちゃダメだったの!?」
それよりも、俺たちに今後降りかかるであろう現実の方と向き合わなければいけない。
真剣な顔を作るが、絶賛イングリットに膝枕されて毛布かけられているという真剣さからは縁遠い格好ではある。それでも思考は真剣だ。
「いや、アミナたちの行動は正解だ。間違いなく、やった方が良い行動をアミナたちはやっている。ただ、それは俺たちの都合と思想だ。邪神教会側からしたら、邪魔であり、恨むに値する行動だと言える」
「逆恨みってこと?」
「そういうこと。それも俺たちからすれば、って前置きが付くがな。向こうからしたら聖戦と言えるような戦いを邪魔した悪者って扱いだ」
今回の件で、間違いなく開拓村は邪神教会からは目を付けられた。
目を付けられたくないなら、テロを見過ごしたり一人で全力で逃走したりと方法は色々あったが、そんな外道には落ちたくはなかったので致し方ない。
そんな事情があったとはいえ、今後の対策として邪神教会も視野に入れていかないといけなくなった。
「と言うわけで、今後開拓村の邪神教会対策を真剣に考えないといけなくなった」
「私たちが介入した所為ですわよね?」
「何度も言うけど、エスメラルダたちの判断は間違ってないよ。相手がはた迷惑なだけ」
と言っても、邪神教会への対策ってそんなに難しくはない。
彼らは入れ墨を絶対に体の一部には施すのが慣習となっている。
それをしないと仲間として認められない上に、信用もしない。
「リベルタ君、どうするの?」
「ひとつは戸籍の徹底管理だな。スラム街を作らないようにして全住民を把握する。これだけで外と内を区別することができる」
入れ墨の確認さえできてしまえば、割と見分けがつく。
と言っても、全身を確認しないといけないから、普通はできない。
「そして外から入ってくる人に対する管理として、商業区と宿屋街、あとは行政区画かな。関係者以外立ち入り禁止エリアを設定して、人を管理する」
これから開拓村は大きくなる。
それは間違いない。
そして人の出入りも激しくなる。
「難しい話だけど、初期段階から徹底すればできるはずだよ。幸い、俺たちは今から人員も育成し、その常識を徹底することができる。そのための契約を結ぶための神殿の建設も目処が立った」
その管理の要となる契約をできる神殿建設の見通しが立った。
「神殿の方には今回の件で、大きい貸しもできましたから、神官の派遣に関しても協力的になるでしょうね」
「と言っても、こっちは神殿の管理を依頼して、しっかりと仕事をしてもらうことを徹底してもらえばそれでいいんですけどね。それ以上は望みませんし、何なら、生活の支援をしてもいいくらいですし」
ここで、余計なことを要求して関係を悪化させるよりは、対等な関係を築いて信頼関係を構築した方がいい。
金銭的には困っていないし、今後の村や町を建設するにあたっても神殿とは協力関係にあった方が良い。
神殿の方には神という監視がいるから、腐る心配はない。
「これで、ようやく学園を作ることができる」
今までは、人員補強に消極的だったのは人選が難しかったからだ。
ここからは学園という施設を作り、人員を補強できる。
「ですが、人が入るというのは邪神教会にとってもチャンスにはなるのではなくて?」
「そのチャンスを潰すために、色々と手は打ちますよ」
「それならいいんですけど」
「一番手っ取り早いのは、毎朝讃美歌でも歌うことですけど」
「……確かに邪神教会にとっては苦行ですね」
邪神教会は潜伏などの裏工作はかなり得意だけど、組織内に入るのは大抵が三次団体だ。
信仰が薄く、使い勝手のいい使い捨て要員だ。
その理由が、上に行けば行くほど信仰が強く、この世界の宗教的行事を生理的に受け付けなくなる。
「そういうこと。ヤバいところに目が行きがちだけど、邪神教会は弱点も多い。そこを的確につけば、やりようはいくらでもある」
警戒は必要、されど過剰に心配する必要はない。
邪神教会に意識を持っていかれて、好きなことをできないというのは嫌だからな。
「明日から、ちゃんと……ほぁ」
「眠いのですね」
「いや、うん、そうだけど。もう少し話さないと」
色々と考えていると、途端に眠気がやってきた。
中途半端にスイッチが切れかかっていたのが、一気にスイッチが入ったような眠気。
「大丈夫です。後はお任せください」
イングリットがすかさず頭を撫でてくるから、余計に眠気が増していく。
疲れって本当に厄介だ。
「そう、じゃあ、少しだけ眠ろうかな」
そうして俺は久しぶりに、まともに安心して眠りにつくのであった。




