27 喧嘩の安売り
さて、諸君。
唐突だが君たちには喧嘩を売ってはいけない相手というのはいるだろうか?
それは決して勝負を挑んではいけない相手であり、挑めば間違いなく手痛い敗北が待っている。
「まぁ、いい。小僧、そこをどけ」
それを本能的に察知して回避しないといけないはずなのに、この悪魔は俺を見た目で判断した。
お仲間であるはずの七つの大罪を冠した悪魔を倒した小僧が足元に立っているというのにな。
「いや、どかなくていいか」
手元に火炎玉を生成して、ニヤリと笑みを浮かべてそれを投げつける。
「ここで死ぬからなぁ!」
堕生の盃で得た傲慢の力に酔っているのがわかる。
周りの被害を一切顧みない力任せの戦法。
「威力から逆算するとクラス7の傲慢か。ま、クラス7の強欲よりは倒しやすいか」
そんな攻撃に当たってやる義理はないので、あっさりと回避。
木に直撃し、破裂し爆発。
周囲に炎をまき散らして、延焼が始まる。
このまま戦うとここら一帯から山火事が始まってしまう。
「ふん!」
そうならないようにモーニングスターで地面を吹き飛ばして土をかぶせることで鎮火。
これを毎度やるとなると、面倒極まりない。
ならば、速攻で倒すに限る。
傲慢の悪魔は、後衛型。
眷属を召喚することと、遠くから攻撃することに特化した悪魔だ。
もし前衛に、物理アタッカー特化の憤怒の悪魔と、さっき潰した相手のアイテムやスキルを簒奪する強欲の悪魔が揃っていたのなら、厄介な存在だったけど。
「お前だけなら、どうにでもなる」
大罪の悪魔はスタンドプレーが基本、例外は色欲の悪魔が仲を取り持ったその時だけ。
色欲の悪魔は、その特性上好感度を操作し相手を惑わす存在のように思われがちだが、奴の真価は潤滑剤。
我が強い悪魔たちの仲を取り持ち、その個性を生かし連携させることで何倍にもその戦力を高める。
その性質をもっている故に、個体としての性能はそこまで高くはない。
しかし、残せば厄介な存在だった。
その仲介役となる色欲の悪魔も潰して、最早連携の芽もない。
すなわち、今目の前にいる悪魔を屠れば、この戦いは概ね終了となる。
クラス7相当の悪魔を量産できる余力は、邪神教会にはない。
ただでさえ少ない信者を何百人も消費するか、村を襲って捕らえた住民を大勢生贄にしてしか作れない貴重な堕生の盃を大量導入したのだ。
予算カツカツで懐事情が寂しい邪神教会では、この作戦もかなり賭けに近い勝負だっただろうな。
モーニングスターで地面を爆ぜさせた時にできた土煙で視界を封じ、その隙に眷属たちを一体、また一体と屠る。
「こんにちは、そして」
正面突破で傲慢の悪魔の真正面に躍り出た。
「さようなら」
「な!?」
こっちは、ただでさえ試練で疲れているんだ。
善意でこの騒動の収拾をつけに来ているんだよ。
だから、コスパ優先、タイパ優先で処理して何が悪い。
いつの間に、と目を見開き、なにやらセリフを言いたげな表情を見せているが、残念ながらこれ以上お前に尺を使ってやる理由が欠片も見えない。
「ぐほぉ!?」
普通の漫画とかならここで熱い戦いが繰り広げられて盛り上がるかもしれないんだけどさ。
そんな展開を求めるには、FBOで鍛えられた俺にはお前は力不足だ。
「がは!?」
顔面フルスイングから、空歩で間合いを詰めての鳩尾蹴り、そこからの回し蹴り。
再び顔面にモーニングスターをフルスイング。
吹き飛んだら、空歩で先回りして上空に蹴り上げて、そこから横にスイング。
ちょうどいい木にぶつけて勢いを殺し。
「かは!?」
そこからさらに追撃で、足の裏に生やしたマジックエッジで肩の付け根付近を蹴りぬいて、大木の幹に縫い付ける。
マジックエッジで標的はしっかりと固定された。そこからはモーニングスターでフルボッコタイムだ。
これぞ、FBO対人戦でガチギレ者を続出させた打撃嵌め技だ。
良い子は真似しちゃだめだぞ、相手が外道の悪魔だから使うのを解禁したのだ。
ゴスゴスゴスと鈍い音をひたすら響かせて、悪魔の命を削る。
「ふぅ、終わりと」
傲慢の悪魔らしい、油断が招いた結末だわな。
前衛のいない傲慢の悪魔ほど狩りやすい悪魔はない。
これならさっきの強欲と色欲のコンビの方がまだ厄介だった。
召喚主である傲慢の悪魔が消え去れば、眷属も消える。
「いい汗かいた」
それを横目に、汗を拭いこれで終わりかと思って眷属たちが消える様を見届ける。
「・・・・・なんで残ってんの?」
のだが、なぜかそこに一体だけ眷属が残った。
『キー!』
「いや、きーじゃないよ。お前、どこの眷属?」
帰り忘れたということか?
いや、そんなことはない。それなら他の眷属たちはどうなる?
威嚇して、俺を少しでも怖がらせようとする努力は認める。
だけど。
「ええ、もしかして山の中に入っちゃった感じ?」
モーニングスターを一振りで眷属も倒す。
そして眷属が残っていた理由を推察すると、頭痛がしてくる。
さっきの眷属はおそらく別の悪魔の連絡係だ。そう考えると、邪神教会は頑張って予算をひねり出してきたということになる。
「ウソだろ、この山の中から潜伏した悪魔を探し出せと?」
邪神教会の予算的に、大罪クラスまで変化する堕生の盃は二個くらいが限界だと思っていた。
実際、雑魚レベルの悪魔をあそこまで大量に出して、そこからさらに絞りだしたとしてもそれくらいが限度だと踏んだんだが、予想が外れた。
「もしくは、ちょっと死んだふりをしている感じだったら楽なんだけど・・・・・」
念のため、傲慢が死んでいるのを確認し、ついでに色欲と強欲が死んでいるのも確認。
「そういうオチはないかぁ」
そして無事に仕留めていることが確認できて、目出度くまだ大罪の悪魔がいることが確定した。
「トレード司教の方で待ち伏せしている悪魔で最後であったら嬉しいなぁ」
こうやって潜伏している悪魔を仕留めたのは良いけど、まだいるということが確定した事実に軽い絶望が押し寄せてくる。
流石の俺でも山の中に潜伏したやつを簡単に見つける方法なんて知らない。
この結界で悪魔も弱体化しているはずだし、長期戦ができないことも把握している。
目印になるようにここら辺の木を数本へし折って、悪魔の死体の場所を目立つようにしてからトレード司教との合流地点に急ぐ。
「まさか、七つの大罪すべてが揃ってるとかないよな?」
三体の悪魔を倒して、そのどれもが別の大罪の悪魔だった。
その理由は、悪魔は同族嫌悪で同じ大罪を許さないからだ。
いかに仲介役として色欲がいたとしても、同じ大罪同士は組ませることができない。
下級悪魔ならいくらでも投入できるが、大罪クラスになると仲違いが起きてろくに運用ができない。
だから、一度に投入できる大罪の悪魔の限度は七体。
俺の予測の数が外れたということは、最悪のパターンで大罪の悪魔があと四体いることを想定した方がいい。
こういう時の不安は結構当たるから、シャレになってないんだよね。
暴食と憤怒は物理系の前衛、嫉妬はデバフ系統で、怠惰は悪魔系唯一のヒーラー。
この中で潜伏して一番面倒なのは怠惰だ。
あの悪魔は本当に低燃費でじっとしているから、動きがないと見つけるのが本当に面倒くさい。
その癖、中身は邪神教会の信徒だからテロ行為だけはしっかりとやる。
「最終手段はアミナを山頂まで連れてきて、聖歌の大合唱だな」
そんな悪魔を見つけ出すのは骨が折れる。
できればこれで最後であってほしいと思っていると、遠くで戦闘音が聞こえる。
「これで終わりでいてくれよ」
倒すよりも探す方が面倒だと思いつつ、速度を上げて戦闘音が響く戦場に飛び込めば。
「暴食か!」
妙に口がでかい悪魔が暴れて、トレード司教や騎士団と戦っている。
遠距離から弓矢を射かけられて体中に矢が生えているが、ダメージで倒れる様子がない。
「リベルタ殿!」
「前衛に入ります!そのまま援護を!顔や胸元は避けて!相手はどんなものでも食べる!狙うなら足元や、背中から!」
こいつはありとあらゆるものを捕食し回復する、厄介な脳筋タイプの物理前衛だ。
スキルも『悪魔の捕食』という、そのまんまのスキルだしな。
「わかりました!」
強さはクラス6くらいか。奴らの狙いはこの暴食で足止めして、さっき潜伏していた悪魔たちで奇襲を仕掛け、神殿戦力を壊滅させるつもりだったのか。
聖水を再びモーニングスターに滴らせて、光属性を付与。
「下がって!」
騎士の一人の槍が捕食された。
刃ですら無差別に捕食し、武器を失った騎士の元に暴食の悪魔の手が伸びる。
その手をモーニングスターで弾き飛ばし、取り合えず騎士が下がる時間を稼ぎ、安全を確保。
「放て!」
その隙にトレード司教が指揮を執って、遠距離から弓矢を射かけてくれる。
何本かは捕食されたが、腕や足、そして背中に刺さったものも見える。
「とりあえず、その自慢の歯を砕くか」
暴食の悪魔の面倒なところは、捕食を封じない限り回復し続けるというタフさだ。
攻撃は単調だし、遠距離攻撃もないから対処しやすいと言えばしやすいけど、とにかく倒すのに時間がかかる。
大罪悪魔のタンク役。
「そらよっと!」
そのタンクを沈めるには捕食を封じるのがセオリー。
なので、歯を砕くか、顎を砕くかの二択をこなさなければならない。
顎はちょっと面倒、だからわざわざ捕食しに顔を突き出してくれるタイミングを狙ってモーニングスターを振るう。
ガキンと、モーニングスターと暴食の歯が接触し火花が散る。
「さすが、主力武器。そう簡単には砕けないか。でもまぁ、罅は入ったな」
タフさに関して言えば、大罪悪魔の中で随一だ。
今までの強欲、色欲、傲慢と、前衛で戦うことを想定していない大罪たちを沈めて来た俺の一撃を、ダメージを負いつつも耐えた。
防御力と回復力が備わっている悪魔。
それが暴食。
そして一番の攻撃力を誇る歯は、さすがに頑丈だ。
しかし、俺の眼にはモーニングスターと打ち合った際にできた罅が明確に見えた。
「くそぉ!なんだお前!」
自慢の歯に罅を入れられ、後ずさりをする暴食の悪魔。
「さっさと寝たい、通りすがりの男だよ!」
俺は迷わず踏み込み、前進する。
「馬鹿め!俺の口は一つじゃない!」
その動きにニヤリと笑った暴食の悪魔。
腕を突き出すと、その手のひらから口が出現した。
よだれを垂らし、むき出しの歯で俺を喰らわんと突き出てくる。噛みつかれれば俺の体とてただでは済まない。
「知ってる」
だけど、それはあくまで知らなかった場合だ。
あっさりとその腕を躱して、すれ違いざまにその開いた口の中に一本の瓶を放り込んでおく。
「ギャアアアアアアアア!?」
口が多いことが有利だと思うかもしれないけどな。
普通に考えて、体内に入り込める出入り口が増えるというデメリットも抱えこむことになる。
聖水を放り込まれ悶絶する暴食に、振るわれるモーニングスター。
二発目で、暴食の前歯を砕いた。
聖水と、歯を砕かれた痛みのダブルパンチ。
歴戦の戦士であるなら、その痛みに耐えて冷静に動けるんだろうけど、なりたての悪魔なんて、そんな経験があるはずがない。
「逃げるなよ」
痛みに怯え、振り返って逃げようとする暴食の悪魔の背後から、思いっきり後頭部をモーニングスターで殴り飛ばし、地面に這わせる。
起き上がって振り返るその悪魔の顔には、恐怖が浮かんでいる。
「強欲!色欲!傲慢!まだ来ないのか!!」
もう勝てない。
そう判断した暴食の悪魔は、仲間に助けを乞うた。
だけど、その叫びに応える悪魔はいない。
「もう倒した」
そして代わりに俺がそれに答え、現実を突きつける。
「は?」
それを聞き、信じられないと目を見開く暴食の悪魔を殴り飛ばす。
「し、嫉妬!話が違うぞ!なんで、なんでこんな化け物がいるんだよ!!」
そして、俺を見てそんなことを言うのであった。




