26 ゴリ押し
ひとまず倒した悪魔の数は、十人。
これだけでも堕生の盃の希少性を考えれば異常な数だと言えるが、どれもクラス3くらいの悪魔ばかり。
「ふぅ、これでひとまず安心でしょうか」
「・・・・・」
キャンプ場に潜んでいた悪魔の討滅、それ自体は恙なく終わったと言える。
トレード司教がせっせと作った聖水を悪魔の口の中にぶち込むという簡単なお仕事なのだが、どうも違和感がある。
「簡単すぎる」
「悪魔をこれほどの数倒せたのです。いかに邪神教会と言えどさすがに戦力が底を突いたのでは?」
「台所のしつこい油汚れの十倍はしつこい邪神教会がこの程度で諦めると?」
「リベルタ殿の邪神教会への印象がなんとなくわかるような発言ですが、あれだけの堕生の盃をつかったのですよ?」
これだけの悪魔を倒したからには邪神教会の戦力も底を突いたと判断する気持ちもわかると言えばわかる。
しかし、俺の直感ではまだまだ戦力が潜んでいるような気がする。
「普通に考えればですけどね。トレード司教は邪神教会のやつらに常識と言う名の普通が適用されるとお思いで?」
「・・・・・そう言われますと」
信仰ばかりかやること成すこと狂っていることには定評がある邪神教会。
俺の返事にトレード司教は苦笑を返し、ではどのような懸念があるのかと俺に問いかける。
「特級の爆弾が眠っているような気がするんですよね。無駄に頭が切れてやる気が溢れているようなやつが」
「妙に具体的ですね。何か知っているのですか?」
コンコンとついさっきまで悪魔をぶちのめしていたモーニングスターを肩に担いで揺らしながら、何を見落としているかと考える。
トレード司教は俺を知恵の女神の使徒として認識しているから、その知識の出所は聞かない。
なので、そのまま話を進めるのだが。
「ちょっと揺れた?」
そのタイミングで、地面が揺れる。
「ええ、揺れましたな。加えて爆発音も聞こえました」
爆発音に関しては俺も聞こえた。
明らかに人為的な爆発音。
もっと具体的に言えば、魔法による爆発だ。
「報告します!山の中腹で爆発を確認しました!山道が崩壊し、下山が出来なくなりました!」
「なんと!?けが人は!?」
「現在確認中です。ですが、第三小隊との連絡が取れていません」
目的は麓と神山の交通を断つことか。
援軍さえなければ何とかなると踏んでの行動。
本命が来たとわかった。
「戦闘が始まっているか、あるいは別の事情があるか・・・・・どっちにしろ放置はできませんね」
「はい、第五、第六小隊はここの警備を、残りは現場に向かいます」
「「「「はっ!」」」」」
トレード司教の指示に従い、騎士団を分けて現場に向かう。
その判断は間違っていない。
「トレード司教は表から現場に向かって救援を、自分はちょっと別ルートから向かいます」
だが、素直に山道を登ってくるとは考えられない。
邪神教会の信徒はひねくれている程度の言い方では済まないほど歪んでいる性格の持ち主が多い。
その性格を加味すると敵の集団と正面から戦闘するとは考えにくい。
「何かお考えが?」
「ひねくれ者どもの横っ面を叩きのめすだけですよ」
「・・・・・わかりました。そちらの方はお任せします」
襲撃現場に怪我人を放置して、現場に急行した敵戦力が救助作業に入った所を強襲してさらに被害を増やす。
それくらいのことはする。
俺が別行動をとると言って、一瞬怪訝な表情をトレード司教は浮かべたがすぐに元に戻し、理解を示してくれる。
そして騎士たちを率いて下山ルートの山道へと向かっていく。
「さてと」
そして俺は何をするかと言えば、迷いなく山の中に入っていく。
けもの道もない、樹木の生い茂った山の中。
視界が利かないので方向感覚をミスったら遭難待ったなしの強行軍。
だけど、田舎のじいちゃんに鍛えられた方向感覚が正確に向かうべき方向を教えてくれる。
スキルを駆使し、静寂を維持しての山中行軍。
「見つけた」
そんな途中で、山道を見下ろせる位置で山の中に潜伏しているひときわ大きい影を見つける。
その存在は異形なり。
手が四本あり、足が六本あり、目が複眼。
見るからに凶悪そうな見た目の悪魔。
「ああー、強欲かよ」
その特徴を見て俺は思わずため息を吐く。
強欲の特徴は体が多腕多足になりやすい。
運営のキャラクターデザイナー曰く、何でもかんでも欲しがる悪魔というイメージらしい。
まったく、試練の時から思ってたけどここ最近の俺の運はどうなっているんだよ。
「まぁ、戦いますけどね」
おまけに悪魔の数は2体。
多腕多足の悪魔の陰に隠れるように潜む、小柄な存在。
一見すればそっちは雑魚のようにも見えるけど。
倒すなら、まずはそっちの小柄な方からだ。
「横から失礼しますってね!」
「「!?」」
隠密行動は暗殺者の基本中の基本。
相手に気づかれることなく静かに忍び寄って小柄な肉体にめがけてモーニングスターをフルスイング。
小さいゆえにその肉体はあっさりと吹き飛ばされて、その際に顔が顕わになるが。
「やっぱり、色欲かよ」
モーニングスターの直撃で顔の原型が歪んでしまっているが、その幼げな子供のような容姿に備わる桃色の瞳。
男性ユニットに突き刺さる魅惑の魔眼。
レベル差があればそこまで脅威にはならない魔眼ではあるが、効果としては相手に好感を抱かせる程度の代物。
人の精神を操るとかそういう効果はないけど、人質として演技をすれば好感度上昇の効果が重なっておいそれと手出しができなくなるという面倒極まりない性能を持っている。
「あっ色欲!?なんだ貴様!どこから!」
「森の中からだよ」
おまけに色欲の悪魔は演技派なケースが多い。
見た目も完全に子供に擬態したり、か弱い女性に変身したりと、ゲーム内では事情を知らないNPCに目撃されたりして、プレイヤーを社会的に抹殺してくるケースが多い。
直接戦闘よりも、デバッファーとしての立ち回りが多いから、早々に倒した方が吉な存在。
戦闘能力はお世辞にも高いわけではないから、こうやって奇襲で倒すと楽になる。
「ちぃ!なぜおれたちがここにいるとわかったんだ!!」
手応え的に、頭を潰しクリティカルヒットしたから色欲の悪魔は大ダメージを負った。
だが、一撃ではさすがに仕留め切れていない。
変形した顔を手で押さえて、起き上がった目には憎悪の感情が宿っている。
幼い見た目に合ったキーの高い声、しかし、放っている言葉は負の感情に染まっているのがわかる。
「お前たちみたいなねじ曲がった根性の輩は真正面からなんて考えないだろ。卑怯? 何それ美味しいの? って首をかしげるタイプの存在なんだからな」
「何言ってるんだお前」
このままラッシュで仕留めたかったが、強欲の悪魔がカバーに入って追撃に移れなかった。
「おい、まだ動けるな?」
「当たり前だ!」
強欲の悪魔の問いに憎悪交じりに返事を返す色欲の悪魔。
悪魔が二体、常人なら逃げるところだけど。
俺は迷わず持ってきた聖水をモーニングスターに振りかけて一時的に光属性を付与しながら戦闘態勢に入る。
色欲の悪魔の片目を潰せただけでも奇襲した甲斐はある。
そのまま真正面から走り出す。
「はっ!この俺に正面から挑むとか馬鹿か!!」
強欲の特性はその名が関する通り、全てを欲すること。
一見すれば増えた手足を駆使して戦う物理アタッカーのように見える。
だけど、その真髄は違う。
「悪魔の簒奪!」
強欲の悪魔の特性は奪うこと。
相手の装備を奪い、相手を弱体化させる。
クロスレンジに入り、モーニングスターの間合いに入り込んだ瞬間に発動されたスキル。
対象は俺の持っているモーニングスターなんだろうけど。
「影法師」
そのスキルの対象をずらすスキルを持っている俺からしたら意味のないことだ。
発動される前に、意識を影の方に移してしまえばスキルは不発。
「まずは一本」
奪った武器で反撃することを想定していた悪魔の動きに合わせて、すれ違いざまに前足の膝にモーニングスターを叩き込む。
「ぐぎゃ!?」
クラス8のステータスで叩き込む打撃の威力は、見事に強欲の悪魔の膝を粉砕して見せる。
「強欲!?クソ!俺の目を見ろ!」
「誰が見るか阿呆」
激痛に耐えつつも反撃をしてくる強欲をカバーしようと、色欲の悪魔がその小柄な体を駆使して俺の正面に回り瞳を覗こうとしてくるが、対魔眼用戦闘術を身に着けている俺は一気に俯瞰するように視界を広げる。
そうすると相手の目線に合うことなく、魔眼を回避できる。
こちとら何度お前みたいな悪魔と戦ってきたと思っているんだ。
適当に掴んだ土を全力で顔面に投げつけて、目潰しするくらい反射でできる。
「目がぁ!?」
「はい、ドーン」
「ぐほ!?」
目潰しからの、腹にモーニングスター。
これはセンター前ヒットくらいにはなる打撃を叩き込み。
「クソ!今度こそ!」
「ミラージュフェノメノン」
膝の怪我を他の足でカバーしながら襲い掛かってくる強欲に対して、こっちは四人分身して迎撃する。
「「「「はい、ご馳走様」」」」」
「グギャアアアアアア!?」
今度は一気に四つの膝を潰し、完全に機動力を奪う。
「からの」
膝を潰され、悶絶する強欲の悪魔。
吹き飛ばした色欲の悪魔が帰ってくるまで時間もかかる。
「ホームランスイング!」
痛みで前傾姿勢になってちょうどいい位置に来た強欲の顔面をモーニングスターでフルスイング。
背の高い敵は一度低くしてから吹き飛ばすのが鉄則。
ぐしゃりと手元で何かを潰す感触を感じ、白い破片が飛び散るのが視界に入る。
「この悪魔が!!」
「悪魔のお前が言うな」
強欲の悪魔がのけ反り白目を向き倒れるのと入れ替わるように、色欲の悪魔が飛び込み、鋭く伸びた爪で攻撃してくるがそんな直線的な動きで俺に勝てると思うな。
相手はモーニングスターに注意がいっていて、俺の足元は警戒していない。
「ぐほぉ!?」
飛び込んできた色欲の悪魔をサイドステップで避けて、そのまま膝を鳩尾に叩き込む。
その勢いでくの字に折れ曲がった色欲の悪魔を真上に蹴り飛ばす。
痛みでろくに動けない色欲の悪魔にめがけて、しっかりとスイングの姿勢を取る。
「バッター振りかぶってぇ」
ちょうどいい位置に来るのを待ち、ここぞというタイミングでしっかりと踏み込みからの腰の回転を加えた一撃を叩き込む。
「――打ちましたぁ!」
決定的な一撃。
潰してはいけない何かを潰し、ついでに首の骨もしっかりと折り、色欲の悪魔の命を狩り取る。
「し、色欲!?」
そのタイミングで、強欲の意識が戻る。
まったく、悪魔と言うのはやっぱり耐久値が高くて困る。
この後、爆発の原因である悪魔との戦闘も控えているんだ。
「はい、よそ見ありがとうございます」
「え」
空歩で一気に間合いを詰めて、いつの間にと驚いている強欲の悪魔の顔面に再びフルスイング。
ゴキッと首の骨が折れた音が響き、巨体は宙に浮きそのまま吹き飛ばされる。
「はい、終わりっと」
悪魔二体、推定クラスは6と言ったところか。
「さて次は」
その戦力を潰せたのは大きいけど、たぶんこいつらは本命じゃない。
強欲も色欲もデバッファー寄りの戦闘スタイル。
爆発を起こした張本人がいる。
魔法使い寄りの爆発の起こせる、罪と言えば。
「おっと」
誰が来るかと想像しているタイミングで迫る火の槍。
「避けるな小僧」
「無茶言うね、っていうか山で火を使うなよ。山火事になったらどうするんだよ」
「このような汚れた山がどうなろうと知ったことではないわ」
火の魔法であるフレイムランスだ。
魔法が放たれた方向を見れば、ぞろぞろと眷属を引き連れた一体の赤い肌を持つ悪魔が森の奥から出てくるのが見えた。
その口調、鍛え抜かれた体を逸らせて堂々と立つその姿は間違いない。
傲慢の悪魔が現れたのであった。




