表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

419/475

2 アルダゴン派

 

「それで、被害は落書きだけと」

「ええ、けが人なし、盗まれた物も無し、何かの儀式的要素も無し、とにかく広範囲に市街の建物の壁面に落書きをしていくだけなのですが、被害の拡大が止められず困っておりまして」

 

 詳しい話を聞くために大神殿の応接室に移動した。ナタルが背中に背負っていた呪い人形『ぐるむん』を懐に両腕で抱えてソファーに座り、テーブルを挟んで正面に俺とクローディア、左にネルとアミナ、右にエスメラルダ、そして俺の背後にゲンジロウとイングリットという位置に落ち着き、この落書き騒動の話を聞くことに。

 

 まず今回の事件の詳細についてだが、実行犯はあの小人族の2人で、他に協力者らしき人物は確認されていない。

 被害は落書きだけで、それ以外の被害らしい被害はない。

 

 住民にとっては迷惑な存在というだけで、彼らの動機も目的もわからない。

 

「落書き騒ぎを陽動にして何か犯罪を計画しているという可能性は? 神殿騎士を陽動で引き付けるだけで、かなり犯罪者は動きやすくなると思うのですが」

「そう思い、周囲を探らせましたが、それらしい組織は見つけられなかったのですよ」

 

 神殿の方もなにもしないというわけではなく、もちろん捜査もしている。

 人的被害は出ていなくとも、物的被害は現在進行形で出ているのだ。

 なら、積極的に事態を収拾し犯人を捕らえようとするのは当然だろう。

 

「愉快犯の可能性が濃厚というわけですか」

「はい。現状それしか考えられないというのが、僕を含め大神殿の大司教たちの見解です」

 

 神が用意したシステムを阻害しているわけではないが、神々の神殿を束ねる本山という、いわば神の拠点が被害にあっているからこそ、神殿側の人員を動かすことは容易。

 それなりの人員を動かして捜査をしてわかった結果をありのままに受け取ると、動機は不明だがあの小人族二名の計画的犯行であり、犯罪組織が背後にいる線は薄いということになる。

 

「・・・・・どう思いますか、リベルタ」

 

 王道の捜査は一通りやっている。

 となるとここからは、俺の知識に基づいた情報を求められるということだ。

 

 似たようなクエストがないか、あるいは類似していなくても何かに繋がるような情報はないか。

 

「儀式的要素がない、陽動作戦という方向でも動いている可能性もない・・・・・となるとだ」

 

 はっきりと言えば、明確に該当する情報はない。

 小人族の落書き事件なんて目立つような話は、サブクエストであっても記憶に残る。

 しかも特定の一部ではなく、街全体に被害を及ぼすような話だ。

 

「こっち側が諦めるのを待っているのかもな」

「諦める?」

 

 プレイヤー間で有名にならないわけがない要素が詰め込まれた話が、記憶に残らないわけがない。

 しかし、俺の記憶には該当する要素はない。

 課金し、追加ストーリーと言った物も購入していた俺が知らないのだ。

 

 なら、FBOにはなかった新しい物語と考えた方がいい。

 それを考慮し、何か動機があるということを前提とするなら、他のゲームやストーリーなら似たような話はいくつかある。

 

「そう、同じことを延々と繰り返し、被害が落書きしかないことをアピールする。そうすると人間っていうのは慣れてしまうんだ」

 

『オオカミ少年』のような状況を狙っているのだと俺は考える。

 陽動作戦と考えたまでは良かった。

 だけど、それが長期的な陽動だとは考えられなかったのは、少し迂闊だったかもしれない。

 

 一体何を言い始めるのか、ナタルは興味深いと言いたげに俺の方を見て、話を促す。

 その際、人形の目が動いたような気がしたが触れずに、そのまま話を進める。

 

「『ああ、またか。とにかく犯人を追いかけて捕まえよう。落書きの掃除は後回しでいい。どうせまた汚されるのだから』と、徐々に意識が被害の救済から事件の解決にと優先度を入れ替えていく」

 

 狼少年の話は、退屈な日常を変えるためにある少年が狼が出たと住民に嘘を言い続け、騒ぎを起こし続けた結果、本当に目の前に狼が出た時には誰にも信用されず、対処してもらえないまま命を落とすという結末だ。

 信頼を一時の快楽で失ったという戒めの話だが、今回の件はこの心理を利用した作戦だと俺は考える。

 

「汚されることに、街の住人が慣れるのを待っているということですか?」

「事実、仕事に支障が出始めたら『休みの日にまとめて掃除をしよう』と考える人が出る。そうなると数日、長ければ一カ月単位で落書きが放置されるパターンが出てくる。もっと言えば、人目の付かない場所の落書きは完全に放置される可能性もある」

 

 人間とは面倒を嫌う生き物で、さらに労力を最小限に抑えたがる種族でもある。

 毎日毎日、金にならない仕事を課せられる。

 そうなってくると不平不満は溜まり、それを解消するために手を抜くことを覚える。

 

「兵に当たる人も出始めるでしょうね。『なんで早く捕まえないんだ』とか『掃除を手伝え』とか言ってくる人もいるかもしれない。そうなってくると兵の士気にも影響が出始める」

 

 この犯罪の嫌なところは、犯人は逃げ回り落書きをするだけで目的を達成できる点だ。

 範囲はこの街全体。

 いかに屈強で数の多い神殿騎士や兵士がいたとしても、全域を常時カバーすることは難しい。

 

 さらに向こうは、警戒されている街の中に潜入する必要すらない。

 

「そうやって落書きに対する対応が後手に回り、モチベーションが下がって優先順位が落ち始めたころに、同じような騒ぎを起こしつつ本命の『問題の種』を植え付ける」

 

 自由に動き回れる外側から、一方的に落書きを続けるだけ。

 捕まるリスクもあるが、捕まらないようにスキルを構成すれば十分に逃げ切れる。

 

 さらに小人族というのが厄介だ。

 体格の差は、大きければ力やスタミナといった性能差として現れる。

 この世界ではレベルで身体能力が決まるから、そこまで気にする必要はないかもしれない。

 しかし、腕のリーチや歩幅という物理的な部分は影響してくる。

 

 そうなってくると一見、小人族にはメリットがないように思えるが、小柄こそ有利になる面もあるのだ。

 攻撃が当たりにくく、見失いやすい。これはかなりのメリットと言える。

 逃げるという面では、その小柄な肉体が役に立つことは多々あるのだ。

 

「こういう手合いの厄介なところは、心に余裕があって、早急な成果を求めないことが多いんですよ。目的を達成するまで功を焦らず、じっくりと挑み続ける。一見無駄に見えても、蛇のようにじっと獲物を待って、こちらが『大丈夫だ』と油断して見落とす機会を伺っている」

 

 俺もFBOでは、小人族ユニットを使った斥候をよく活用した。

 斥候系スキルと相性が良かったのもあるし、シンプルに機動力に振ればいいという育成の迷いの少なさも魅力的だった。

 

「そういうことをする組織に心当たりが?」

 

 そんな育成ができる小人族による落書き事件。普通に考えて、この大陸の神殿信仰の中心地と言っても過言ではない都市でしでかす悪戯としてはやりすぎている。

 神への冒涜と言ってもいいし、神罰が起きないギリギリのラインを狙っているとしか言いようのない悪質さだ。

 

「邪神教会しか、考えられないかなぁ」

 

 そんなことをしようと考えるのは、真正の馬鹿か、神殿に敵意を持っている輩しかいない。

 そして敵意を抱くような輩がどこにいるかと言えば、邪神教会しかいない。

 クローディアの問いかけにノータイムで答えられたのはそのためだ。

 

「邪神教会ですか」

「正直、ここを襲うような策を練る組織って、そこくらいしか思いつかないんだよね」

「そうでしょうね。ナタル、そこに関してあなたの意見は?」

「僕も同感です。この都市に破壊工作を仕掛ける組織はそれくらいしか思いつきません。これまでも何度も何らかの工作は仕掛けてきていましたから、今回の件を繋げるために情報部を動かしていたところですよ」

 

 その点に関してはクローディアもナタルもわかっていたようで、頷き、納得してくれる。

 問題は、邪神教会のどの派閥が手を出してきたかという話だ。

 邪神教会と言っても、一枚岩というわけではない。

 人が三人集まれば派閥ができるとはよく言ったもので、思想が集まれば当然そこに賛否が生まれる。

 

「南の主流派ではないですよね。動きが地味すぎる」

「リベルタさんは、邪神教会に関して知識が?」

「一応、知恵の女神の使徒ですので、そこら辺は履修済みです」

「なるほど、ケフェリ様の使徒様は聡明なのですね。確かにその通りです。この大陸の邪神教会のやり方は破壊が主流。暗躍なども使いますが、目的はすべて『壊すこと』に傾倒している。そのジュルド派がこのような落書き程度で済ませるとは考えにくい」

 

 当然のように、この世界の主流の神々を滅ぼす過程で意見が食い違う。

 邪神教会には過激思想を持つ者が多い分、その手の食い違いは身内同士でも過激になりがちだ。

 

「確かに。あの派閥ならモンスターを解き放ったり、魔法で建物を破壊したりと、何かを壊さないと気が済まない一派ですからね」

「危険という点で、幹部や構成員の指名手配が一番多い派閥ですよ」

 

 そんな邪神教会の中の派閥のひとつ、ジュルド派。

 こいつらは所謂、武闘派と呼ばれるような存在ではなく、破壊工作を主にするテロ組織的な派閥だ。

 魔法使いや魔道具使いが多く所属し、正面から戦うことを好まない。

 隠れて行うことこそ正道と言わんばかりに破壊工作を行う、迷惑な集団だ。

 その危険性ゆえに、構成員の顔が割れ次第、早急に指名手配がされるほどだ。

 キメラのタトゥーを胸に刻んでいるのが、ジュルド派の証だと言われている。

 

「他に活動している派閥の情報はありますか?」

「未確認の情報がいくつか。彼らにも縄張りというものがありますので、そうやすやすと他派閥がこの土地に足を踏み入れることはありませんが」

 

 しかし、そのジュルド派らしくない動きに、ナタルも「違うのでは」と薄々感じ取っているようだ。

 

「リベルタさんは、どこの派閥が裏にいるとお考えですか? クローディア先輩から聞いたあなたの見識をお借りしたいです」

 

 なので、邪神教会の中でも別派閥が南の大陸に入り込んでいるのではと考えた。

 一概に絶対とは言えないが、俺もその可能性は考えている。

 

「中央主流派のベンド派はないですね。奴らは見つかっても相手を倒して目撃者を消す武闘派ですから」

「そもそも、ベンド派は顔にキメラのタトゥーが描かれていますから一目でわかりますしね」

「となると、考えられるなかで一番可能性があるのは、邪神教会の中でも珍しい中道派閥のアルダゴン派ですかね」

 

 その中で一番確率が高いのは、アルダゴン派だ。

 奴らは邪神教会の中での縁の下の力持ちと言うべき、サポートに特化した集団だ。

 回復役やバッファー、物資輸送に情報収集と、サポート役に徹することが多い。

 

 しかしその思想は、「どんな手段を使っても神を殺す」という過激なものだ。

 ゆえに、神を殺すことを目的とする他派閥の破壊工作にも力を貸す。その行動が実績として積み重なり、派閥争いが過激な邪神教会の中ではバランサーの役割を果たして空中分解を防いでいる。

 

「アルダゴン派・・・・・彼らが表に出てきていると?」

「今回の犯行から推測するならば、アルダゴン派の下部組織、つまり使い捨ての人員をジュルド派に貸し出し、ジュルド派の思想とは相いれない行動を代行させていると考えた方がいいですよ。あそこの派閥は目的のために損得勘定を完全に無視して行動しますから」

 

 それはある意味で捨て身の献身と言うべき行動力。

 損得勘定を一切せず、献身的に行動するように派遣する工作員となる信者に宗教的洗脳を施し、すべては目的達成のためにと「我」を殺すことを信者に課す。

 アルダゴン派閥の人数はそこまで多くはないが、それでも邪神教会内の影響力は高い。

 幹部は表に出にくく、情報も拾いにくい。

 

「では、この事件は邪神教会の破壊工作で、ジュルド派を援護するためのアルダゴン派の支援、とリベルタさんは考えるので?」

「可能性が高いというだけですよ。でも」

「でも?」

 

 その派閥が動いているときの特徴に似ているのを感じているが、俺は言葉を濁して「絶対」という言葉を避けつつも、ナタルに警告を飛ばす。

 

「思考の隅に置いておいて損はない、と俺は思いますね」



楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。


もしよろしければ、ブックマークと評価の方もよろしくお願いいたします。


コミックスがついに発売日決定!!

さらに第2巻のカバーイラストも公開!

絵師であるもきゅ様に描いていただきました!!


今回はエスメラルダと背景に這竜を描いてもらいました!


挿絵(By みてみん)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ようやく知らないクエスト発生と思ったけどやっぱ原作や他ゲーの知識あると強いな。
正面から攻撃してくるよりも余程やっかいな連中
>「となると、考えられるなかで一番可能性があるのは、邪神教会の中でも珍しい中道派閥のアルダゴン派ですかね」 日本の中道だとのたまう片方の共同代表は、まだ上手いことやったみたいだがもうひとりの方は、完…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ