5 教育者
穏便に脱出できたのなら御の字と言わんばかりに、あっさりとガトウを町から連れ出して俺たちの拠点に帰還。
「ホホホホ!確かにこれならワシの夢を叶えると大言を吐けるわけですな!」
見るからに「何と戦うつもりなの?」と言わんばかりの巨大な城壁に囲まれた元開拓村に連れてこられても、笑って受け入れられる胆力は大したものだ。
「それで、ワシは誰に何を教えればいいので?」
「経験を。その応用を教えられるだけのステータスは俺の方で用意しますし、必要な機材があれば用意します」
「ワシの技術そのものを欲しているというわけか」
「ええ、貴方の知識はありとあらゆる分野に良い影響を与える。戦闘職であれば視野の拡大や異変の察知、スキルではなく経験に基づく技術の塊をあなたは持っている」
城壁を越えた先の光景を見ても「ホウホウ」と観察し、新しい経験を蓄積していく。
学ぶことの面白さと重要性を理解している者の動きだ。
ガトウの教えられる分野は、冒険者関連では一通りと言った感じだ。
ただ、魔法分野はスキルの関係上取得していないが、それでもオールレンジで武器を扱え、さらに斥候として危機感知能力はずば抜けて高い。
周囲が引退していく中で、かなりの高齢になるまで前線で冒険者を続けられていたのはそういうカラクリがあるのだ。
そんなわけでガトウが教えられる分野は多岐にわたる。
剣術や体術と言った武技の教導、斥候としての経験に基づく偵察術、山岳地帯などの険しい環境で活動するためのノウハウ、薬草などの採取技術。
どれもスキルで身に着けることができるが、スキルスロットをあれもこれも使ってしまえばアンバランスな構成になってしまう。
だが、俺がスキルがないのに弓などの槍以外の武器を使えるように、この世界の住人でもスキル外の技術も身に着けることができる。
ガトウはその技術の宝庫なのだ。
「教え子は、基本的に孤児とかですね。他にも移民を受け入れますけど、北の領地の復興が進んでも孤児はいなくなりませんから。もちろん戦闘職に拘らず職業の選択に関してはきっちりと意志を確認しますし、強制もしません。手に職つけてしっかりと自立できるように生産職の方の育成にも力を入れます」
「なるほど、なるほど、だがさすがにワシだけで大勢の教え子を面倒見るのは難しいぞ?」
そんなガトウであっても、せいぜい1クラス面倒を見るのが限界だろう。
いきなり100人も面倒を見ろなんてことはできないし、やらせるつもりはない。
「他にも教師をスカウトしますよ。手始めというか、真っ先に確保したいと思ったのがガトウさんだったので」
「・・・・・それは光栄なことだ」
まだ校舎も完成していないし、教師も集まっていない。
そんな状態で生徒を募っても、この開拓村が混乱するだけだ。
「あとは、この設計図を見て意見を聞かせて欲しいんですよ」
「これは?」
「学校の設計図です。校舎、学生寮、食堂、訓練施設、図書館そのほか職業訓練所も設置する大規模施設です」
そしてガトウは年齢的にはかなり年上だ。
年下の俺が仕切るよりも年長者のガトウが取り仕切る方が、組織運営で良いこともある。
「職業訓練所?初めて聞くの」
「農業、鍛冶、裁縫、建築といった様々な職業の知識や技術を学ぶための施設ですよ。教師の人材は、引退したご高齢の方々を採用予定です。こっちも、口減らしでわりとシャレにならない人数が路頭に迷っているととある筋から聞いていて」
「ワシのように技術と経験を持っている老人を雇い、知識と技術を次代を担う子供たちに広めるのだな。悪いことではないが、資金は足りるのかの?こういう教育は芽が出て成果が実るまで時間がかかるものだが」
「そこら辺は問題ないですよ。自分、金持ちなので」
「ホホホホ!気前よく後進育成に金を払える人物が一体、どれほどいるか」
将来的には校長あたりのポジションに収まってくれないかなぁと画策しているが、今は黙っておこう。
「実際重要なんですよ。何でもかんでもやろうとしたら技術は必須。技術は人が使うものなので、そのための人の育成も必須。そしてそういうものは実になるのに時間がかかる。そうすると今できる人でどうにかするからと言って後回しにするなんて、ふざけているのかって話ですよ」
会社勤めをすれば分かるが、人材育成というのは本当に大変なのだ。
人を増やせば人件費で出費はかさむし、まともに仕事ができるまで教えながら自分の仕事をこなさないといけないから仕事量は増える。
それでいて絶対に役立つ人材になるかは定かではないという、先行投資のような不安定さがある。
「しかし、大丈夫かね?」
「なにがです?」
「君の話では、公に技術を教えるような口ぶりだ。ここで学んだ者たちがここで活かすとは限らないぞ」
「そこら辺はあまり心配していませんよ」
その不安の部分を指摘されるが。
「試験制で、上のことをさらに学ぶには人格面も考慮します。それで判定して危険な輩は進級させないようにしますんで」
「賄賂とかそういう優遇に関しては起きそうだが」
「そこはがっつりと契約で禁止します。違反、ダメ。ゼッタイ」
「徹底しておるのぉ」
「当然です」
一応対策はしている。
特に教員の買収対策は徹底する。
変な輩に技術が漏洩したらダメだしな。
授業内容の供与を禁止する契約もするから、他者に伝わる心配はないと思う。
そんな会話をしながらガトウを連れてきたのは、広大な土地。
「それで、ここが学校の建設予定地です。中央の第一城壁の外、第二城壁の中の一等地です」
「・・・・・どこからどこまでかな?」
「まだまだ用途が決まっていないので、やろうと思えば第二城壁内全てです。育成する職業ジャンルが多すぎて」
「すぅ、はぁ。国でも作る気かい?」
ここまで余裕だったガトウでも、さすがに開拓した広大な土地を見て一回空を仰ぎ見て、深呼吸したのちに苦笑を見せた。
「人の人生を豊かにするのは、一辺倒の職業育成だけじゃどうにもなりませんからねぇ。衣食住揃って人間はまともな心のゆとりを持てる。自給自足を目指すこの町の住人が不自由なく幸せな生活を送るためには多方面の分野の人材育成に力を入れないと」
「広げ過ぎたら大体の領地は金欠に陥るのだがね」
「そこは、自分が稼いで維持して、育成環境が波に乗れば収益は一気に黒字に転じるはずなので」
「ふぅ、ワシは思ったよりも重大な役目に飛び込んでしまったようだ」
ガトウが想像していたのはもっとこじんまりとした学習塾みたいな物だったのか、苦笑気味だった頬がさらに引きつった。
「他にも色々と人材は収集しますので、ご安心を。なんなら信用できる人とか紹介してくれれば大歓迎ですよ」
「ふむ、信用できる人物で、教育者になれそうな人・・・・・ああ」
「いるんですか?」
そんな重大な職務を一緒にやってくれる人に心当たりがないかと聞けば、ガトウは心当たりがありそうなリアクションを返してくれた。
「さて、ここ最近会っていないから息災にしているかはわからんが、こと教師という面に関してはかなり熱心な奴が1人」
「だれですか?」
「パーシーというやつなのだが」
「パーシー!?」
「おや、知っているのかい?」
そしてガトウの口から出てきた名前は、俺が思わずびっくりしてしまうくらいの人物だった。
ネームドの中でも、有数の錬金術師。魔道具作りに関しては、このキャラを仲間にしないのはあり得ないと言われるほどの技術巧者だ。
少々魔道具に対してマッドな部分があるが、教え方は丁寧だし、礼儀もわきまえている。
ただ。
「彼、大規模な工房の持ち主で弟子も大量にいるのでは?」
俺が彼を誘う優先度が低かった理由は、彼自身がすでに大規模工房の主であり、好き勝手出来る程度には稼ぎもあるということ。
教育者としての能力は優秀な弟子を大量に生み出していることから証明されているが、彼にはわざわざこっちに拠点を移すメリットがない。
その観点からスカウトリストの中では順位を下げていた。
「まぁ、確かに。だが、彼のやりたいことを考えれば、この広大な土地で好きな魔道具を作れると聞けば飛んで来るとワシは思う」
「さすがに汚染兵器みたいな物を作られたらまずいんですけど」
「だが、奴の工房ではできないことがここでは好きにできる。それに彼の弟子も一緒にスカウトできれば、技術者という面でも大勢の教育者を抱えることができる」
「信用できるかどうかのほうが重要なんですけど・・・・・そこら辺は?」
ただ、もし仮に仲間にできるというのなら、これ以上にないくらいに諸手を上げて勧誘したい人物だ。
今後、魔道具やゴーレムの製作を頼むとしたら、まず間違いなくパーシーがいれば格段に製作速度は跳ね上がる。
「彼が今も変わっていないのなら、なに、魔道具を作れる環境をしっかりと用意すれば筋を通す男だよ」
「なるほど、それなら会う価値はありますね」
「ワシが行けば門前払いをされることはないだろう」
「あとは美味いワインを持参すればいいわけですね」
「ホホホ、彼の好みがわかっていて何よりだ」
「ついでに、文官とかの書類仕事を教えられるような事務方の人で、知り合いにいません?」
「それならパーシーの奥方に頼むと良い。パーシーの工房が上手くいっているのは彼女のおかげだと言っても過言ではない。貴族相手に小難しい交渉や書類仕事を一手に引き受け、パーシーを魔道具制作に専念させている功労者だ」
そんな期待を抱いていた時に、ガトウから俺の知らない情報が入ってきた。
「え、結婚してたんですか?」
「なに?そっちの情報は知らんかったのか?」
俺の記憶にはFBOでの既婚キャラは網羅している。
俺の知っているパーシーであれば、結婚しているはずがなかった。
しかし、現実はパーシーは結婚しているという。
「ワシが会っていた時は子供もいたな。もう10年も前になるから、子供も大きくなっているだろうな。どちらの親に似ても才能豊かな子供に育っているだろうな」
「ほー」
おまけに子供までいる。
そんな事実は皆目知らない。
パーシーは魔道具を作りまくっていて、恋愛など二の次三の次とクリエイター廃人という名詞を地で行くキャラだったと俺は記憶している。
あのパーシーが?もしかして俺の知らない別のパーシーなのかもしれないが、魔道具の天才、工房の親方、弟子がたくさん、ワインが好きと、ここまで一緒で同名なのは確率的におかしくはないだろうか?
色々と原作ブレイクしている自覚はあったが、まさかそれよりも前に原作とは違う展開を迎えている人物がいるとは・・・・・
いや、もしかしたらFBOにはリソースの問題で登場しなかっただけで、実際は存在していた?
そういえば既婚者キャラはそこまで多くなかったし。
その可能性はあったか。
あるいはネルや、アミナ、イングリットのように実は存在していた人物だったとか。
「どっちかというと、奥さんの方を攻略した方がよさそうですね。どういう人です?」
「パーシーにぞっこんの仕事のできる女性だ。だからパーシーをないがしろにする輩には容赦はしない強い女性だね」
「き、肝に銘じておきます」
「そうした方が良いな」
知らない相手との交渉、これは少々骨が折れそうだ。
だけど、この交渉を成功させたときのリターンはでかい。
最悪敵対しないような立ち回りをすればリスクは最小限に抑えることができる。
「手土産、何にすればいいかなぁ」
「そこら辺はワシが教えよう」
「助かります」
「なに、久しぶりにパーシーに会える、それだけでもあの街にいたら叶えられない」
喜ぶガトウと一緒に、次のスカウト候補者の元に向かう準備に取り掛かるとしよう。




