1 門出
着実に出来上がっている俺たちの拠点。
最下層のインフラから作り、一層目の軍事拠点、二層目の交通網、三層目の工房や商業区画。
そして、ついに。
「やっと、住居に手が届くか」
「いままで私たちが住んでいた家よりも、三層のお店の方が豪華だったわね」
最上層の住居区画の建設が始まる。
この開拓村を建設し始めて、一年が過ぎようとしている。
季節が一巡する頃に、これだけの規模の建築物ができるのはあり得ないことだと言われるかもしれないが、俺の知識を総動員したらこのわずかな人員でこれだけの規模の物を作り出すことができた。
そして栄えある最初の住居建築が始まったわけだが。
「でかすぎない?」
「この町で一番偉いリベルタが住む家だからこれくらい普通じゃないかしら?」
「そうなの?公爵閣下に借りた別邸よりも大きいんだけど。俺たち含めても6人しか住まないんだよ?」
俺の家は最上層の一等地に建設されているのだが、その規模が大きい。
基礎工事だけでもその大きさがわかり、レベルも上がり職人としてのスキルも揃ったドワーフたちの建築速度はとんでもなく速く、早送り動画で見ているかのようにどんどん進んでいく。
完成図はまさに豪邸、部屋数だけでも住人の八倍はある屋敷の維持は大丈夫かと不安になりつつ、隣に立つ赤い毛色のおさげを揺らす狐の獣人であるネルに問いかければ大丈夫だと返事される。
「でも、色々と設備を加えたらこれくらいの部屋は必要だってなったよね。僕の歌のレッスン用の部屋とか」
「私を含めたトレーニングルームも作りましたね」
本当に必要かな?と思ったが、ネルとは反対側に立っていた日焼けした健康的な肌と栗色の毛並みの鳥人のアミナの言葉で、そういえばドワーフのドンに希望を聞かれて全部盛りにしたことを思い出す。
精霊たちに色々と精霊界の秘伝の薬草を貰って手入れされた綺麗な灰色の髪と鍛え抜かれた体、体に刻まれた傷を勲章として残してなお磨かれた健康美と言えばいいのだろうか。
引き締まった体をさらに鍛え抜くために屋内用のトレーニング施設を要求したクローディアのアイディアも組み込めばこれだけの広さになるか。
「あとは、キッチン周りもだいぶ気合を入れたよな」
「はい、私の希望を通していただきありがとうございます。これで、さらに美味しい料理を提供できます」
そして希望を聞くのなら平等に、女性陣には一人一部屋以外に屋敷の中に作ってほしい設備の要望にすべて答えた。
薄い青色の髪が風に揺れ、ここ最近俺たちパーティーメンバーには感情を表情で表すようになった、メイド服を今日も着るイングリットは、完成するキッチンを楽しみにしているのか口もとに笑みを浮かべていた。
「私監修の大浴場もぜひ期待してくださいまし!!」
「あれはすごかったなぁ。設計図を見ただけでも、すさまじい熱意を感じたよ」
「ええ!公衆浴場も悪くはありませんでしたが、やはり専用のお風呂は必要ですわ!」
高速で完成していく屋敷を見ているのはやはり楽しいのか、公爵家の令嬢という立場ながら自分で設計した豪華な風呂が楽しみでハイテンションな女性、エスメラルダ嬢は向日葵のような笑みを浮かべている。
今日もバッチリと決まった金髪の縦ロールが綺麗に揺れる。
「他にも、衣装室に、警備室、食糧庫に、馬小屋に・・・・・ほぼほぼ貴族の館ねこれ」
「質だけで言えば、お父様の屋敷よりも上質ですわ。使っている素材はダンジョンで手に入った物もありますし、設備に使っている魔道具は精霊たちが作ってくれている物・・・・・王家よりも良い家に住んでいますわ」
「完成したらとんでもない家になりそうだなぁ」
そんなパーティーメンバーに見守られながら俺たちの屋敷は着々と完成めがけて進んでいくが、ドン曰く、建物自体は一週間もかからないらしい。
細かいところで凝りたいと言っていたから完成まで合計で二週間と言っていたが、このペースだと三日くらいで完成するのでは?という勢いだ。
精密機械のような正確さで、ドワーフたちが高速で動き回れば屋敷の一つや二つはあっさりとできるよな。
「感慨深い、とはこのことですね」
「イングリットさん、これでもだいぶ早いんだよね?」
「はい、本来であれば未開の山岳地帯だったここら一帯を開拓するのであれば、一年という時間を費やしてもきっと人の住める土地を開拓しきれていたかどうか。大量にはびこっていたモンスターのことを考慮すれば間違いなく、この規模にはならなかったと思います」
クローディアの言葉に俺は頷き、アミナもこの建築速度は普通じゃないと思っていることに安堵する。
そもそもこの開拓村ともう呼べなくなった要塞が季節が一巡しただけの期間で出来上がる方がおかしい。
予算無し、人員は合計で四百人未満。
モンスターがはびこる土地を一から開拓して、こんなものを作れと言われたらどんな名大工でも匙を投げるだろうさ。
「そうですわね。公爵家の力を使ってもこの辺境でたった一年でここまでの規模の物を作るのは不可能ですわ」
「できるのはリベルタくらいですね」
「いや、さすがに俺でも一人じゃ無理ですよ」
ここまで来ると、あとは職人の腕に任せる他ないので、俺たちができることはそう多くない。
素直にプロの仕事に任せ、俺たちは別のことに従事できるようになるというわけだ。
「でも、リベルタならなんだかんだ言って一人ですごい物を作るでしょ?」
「いや、俺一人でこんなでかい建築物を作らないといけない状況になる方がヤバいんだけど・・・・・作るなら移動用で使えるゴーレムこさえて、そこに住居空間を用意するよ。それで事足りるし」
「さらっと、私の知らない物を言いますわね。ゴーレムに住居?」
「アイディア勝負っていうやつですよ」
食料生産用の立体農地、この都市部を支える水を生成するインフラ、防衛設備である砦と城壁、物資輸送の鉄道網、武器制作の工房に、外貨獲得を念頭にした商業区域。
活動拠点としては上等な物ができた。
だが、中央大陸に挑むにはまだ足りない。
「それで、リベルタ。今後の予定は話し合いの通りということでいいのですね?」
「そうだ。俺たちは人員の確保のためスカウトを始める」
拠点はできた、設備も必要最低限は用意できた。
だが、それでも中央大陸に殴り込みに行くにはまだまだ心もとない。
マデトと約束したエリクサー開発基盤もまだできていない。
北の領地の復興もやっている最中故に、マデトがここに来るまでにはまだ時間がかかる。
なのでその間に、こっちも人を確保する行動に移る。
そして今回は量よりも質、俺の知る限りでFBOのNPCで有能だと思われる人材を発掘する。
「有能な人材はこの世界中あちこちに散らばっている。その才能を活かし日の目を見ている人はいる。だけど、実情はいろいろな状況によって活躍できていない人材も数多くいる」
そう、ネームドを狙う。
今までの活動拠点は公爵閣下の別邸という、間借りをさせてもらっていた。
そこで大勢の人材を確保することは土台無理な話だ。
されど、今は自分たちだけの活動拠点の基盤が出来上がって、さらに安定した生活を保障できる。
移民をスカウトするという環境において、勝負できる基盤を得たと言っていい。
「その点に関しましては理解していますわ。ですが、そういう隠れた才能の保持者はそもそも才能がわかっていないから見つからなかったり、才能を表に出したくないという理由で隠している人もいますわ。それを見つけるのはかなり大変かと思いますけど」
「それでもやる。こっちで動くパターンもあるけど、しっかりとこっちで拾う準備も進めるよ」
「学校ですね。貴族以外の人材も受け入れるということで、建設することは決まっていますね」
その基盤の最たる物は学校だ。
この開拓村の城壁をさらに外にぐるりと覆う形で造った第二の城壁の中に作る予定の建設物。
この住宅街を作り終えたら建築予定だが、並行して肝心の人員も揃える。
活動拠点の未来を築くための基礎は教育だ。
このまま俺が与える側の存在であり続けるのは正直、活動を妨げる要因になりつつある。
「やる気と根性があればどうにでもするけど、さすがに教育者というのはそう簡単に育たないからな。ノウハウがある人を是が非でも確保したい」
「確かリベルタの希望は選民思想に染まっていない、教育熱心な人でしたね」
「そうそう、ここで貴族主義を掲げられても困る」
なので、ここいらでゲームで言うオートレベリング環境を整えて、いろいろな方面の人材を一気に確保しようと画策しているわけだ。
さすがにクラス7とかを量産するのは治安とか、警備面で色々と問題が出そうなので、クラス4までは義務教育的な感覚で育てられるようにして、それ以上は試験を突破してもらうという形式にする。
ゲーム時代のFBOと違ってこの世界は現実。
思想や人格がもろに生活に反映するからなぁ。
クローディアの言葉に俺は頷きつつ、苦笑する。
ネームドの中にもその手の輩はいるから、さすがにそういう手合いは受け入れられない。
受け入れたら大惨事になることがわかりきっているからねぇ。
「あとは兵力の確保だね。ゲンジロウに頼んで東の方から引っ張れそうな人を紹介してもらっているけど・・・・・問題はエンターテイナーたちの方なんだよね。情報部の方で働く人は信用第一だし、あの個性豊かになってしまった面々に適応できるかどうか。クローディアと、エスメラルダには頼んでいたけど、良さそうな人はいた?」
まぁ、追加の移民を受け入れた時のトラブル対策として戦力の確保もしているけど。
真っ先に目を付けたのはゲンジロウの知り合いだ。
彼はこれまで一緒に働いているところを見ていると本当に義理堅い。
そして何度も一緒に食事をしているときに聞く、東の大陸での彼らの境遇の悪さ。
それと同じような境遇の人物は多いらしく、腕は確かだが、くすぶっている輩は多いと聞く。
なれば、そこから引っ張ってこれないか、ゲンジロウから目星をつけてもらい、可能なら御庭番衆を東の大陸に派遣してスカウトして来てもらう。
ゲンジロウクラスの達人を引っ張ってこれれば、かなりおいしいという目算もある。
多方面で人材を集める予定だけど、しっかりと厳選しないといけないから手間がかかる。
ネームドであってもノーネームドであってもそこら辺は変わらない。
並行して人脈の多そうな2人にも声をかけ探してもらっている結果を聞くが。
「貴族関連はダメですわね。カーゼス侯爵のような人がいればいいのですけど、生憎そういう方は要職についておられますので」
「神殿の方はさすがに無理でしたが、旅で知り合った人に何人か心当たりがあったので何通か書き溜めて送っています。返事が来るかどうかは賭けになります」
エスメラルダ嬢の方はダメだと頭を横に振られ、クローディアはもしかしたらという程度の可能性か。
「わかった、ありがとう」
探してくれただけでもありがたい。
そのことに感謝する。
「リベルタは心当たりがいるのよね?」
「そうだね、居住地の完成の目途が立った時にスカウトの話をしていたし」
そして彼女たちやゲンジロウたちにまかせっきりでは俺の立つ瀬がない。
ネルとアミナの期待の眼差しを受け頷く。
「ああ、まずは1人この人は絶対に会いたいっていう人がいる」
ネームドを確保すると決めた時に真っ先に確保したいと思えるキャラは数多くいる。
だが、それは全てゲームというシステムに守られた環境という前提がついていた。
そのシステム保護が無くなってもなお来てほしいと願える人材は割と少ない。
そしてその中で俺が一番と推挙する人物。
「ガトウ、俺が知る限りこの大陸随一の知識者だ」
FBOでの愛称は『おじいちゃん先生』だ。




