30 EX 落ちた神 1
さて、時は少し遡る。
これは、神々の中でも非常に珍しい裁きの時だ。
神の世界にも裁判所のような組織は存在する。
使用頻度は少なく、尚且つ裁きを一方的に伝えるという理不尽な空間。
「だましたわね」
「結果だけ言えば、その通りである」
裁く者と裁かれる者。
今、被告として立場が明確にされ拘束具を装着された光の女神ライナが、悠々と参考人として召喚された観測の神ハーゼを睨みつけている。
「しかし吾輩は与えられた仕事を全うしただけとも言えるのである」
「私たちを騙すのが仕事ですかぁ。随分と、楽しそうな仕事ですねぇ」
その隣には同じように拘束具を身に着けた大地の女神ジュリの姿もある。
ライナは純粋な怒りの感情をむき出しにし、ジュリは凍てつくほどの冷めた視線をハーゼに向けている。
「裁きを受ける者は静粛に」
そんな冷め切った両者のやり取りに、割って入るように頭に響くような厳格な声が法廷に響く。
現れるのは十三の光の柱。
人型を取らず、ただの光の柱から膨大な力を感じ取れるその存在は古より存在する神々。
「「・・・・・」」
この存在を前にしては、ライナもジュリも沈黙するほかない。
「これより、光の女神ライナ、大地の女神ジュリの裁きを下す」
沈黙したことにより、話は進む。
神々の裁きに弁護人は存在しない。
あるのは事実のみ。
「その前に、観測の神ハーゼよ。その二柱の罪状を」
「かしこまりました」
この神の世界に、物的証拠は意味をなさない。
この神の世界に、状況証拠は意味をなさない。
この神の世界に、情状酌量というモノは意味をなさない。
「吾輩の権能である、観測によって法廷十三神には彼女たちの行動は見てもらいましたが、改めて説明させてもらうのである」
必要なのは、神々がそれぞれ実際に見たか、否か。
この事実のみが重要になる。
そして神々同士で嘘は通用しない。
それすなわち、いかに観測の神ハーゼが偽装工作をしても、神同士での会話でその偽装がバレてしまう。
「光の女神ライナ、大地の女神ジュリにより、吾輩はとある依頼を受けました。それは」
なので、この場での発言も正直に話す以外はない。
迷わず、そして神の記憶力を駆使し、正確にハーゼはここまであった出来事を全て包み隠さず話す。
依頼を受け、下界へ干渉する方法を提示し、それを対価にどのようなことをするかなど、ここ最近で起きた出来事を全て話す。
「・・・・・以上の話から、彼女たちは積極的に下界へ干渉する動機があり、行動を起こし、事実、下界干渉を行う一歩手前まで拒否する意思を見せませんでした」
準備段階で踏みとどまったのなら、まだ、見逃された。
しかし、実行段階になるまで止める気を一切見せなかった。
「ゆえに実行の最終確認をした後、実行を肯定されたため、吾輩の手で実行と見せかけ拘束を施した次第であります」
「うむ。我らが見て来たモノと違い無し」
さらには実行を促すような言葉も散見されれば、もはや疑いの余地はなかった。
「皆の衆、彼女たちが行った行動はこの世界の秩序を乱すモノである。これに裁きを下すことに関し決議を取る」
そしてこの場に呼び出された段階で、弁論の余地はない。
ただ呼び出され、ただ粛々と裁きが下される。
罠だ、自分たちは騙されたと彼女たちが訴えても、もはや手遅れ。
観測の神ハーゼは何一つ彼女たちに嘘は言っていない。
彼はできることをできると言い、協力できることを協力してきた。
ただ一つ、彼は自分が囮であることを黙り、そして彼自身が常に彼女たちの行動を観測しその観測した情報を報告しているだけだ。
バレていないという質問も確かにされていた。
その質問に対して、ハーゼはこう答えた。
『バレてはいない』と。
一見すればこれは嘘を言っているようにも聞こえるが、元々ハーゼは隠す気がないので、女神ライナと女神ジュリとのやり取りは隠し事に当たらない。
故に、バレていないという言葉は嘘にならない。
屁理屈かもしれない、いや、無理やりな言い訳かもしれない。
だが、神々にとっては、この屁理屈も理屈になる。
真面目な神であれば、下界に干渉するというルール違反をすることはない。
しかし、例外というのはいつの世も存在する。
ゆえに、ハーゼという理性を問う存在を配置し続けた。
その罠を長い年月続けていた故に、彼の行動は全て嘘ではなくなった。
『一の席、賛同する』
『二の席、同意する』
騙される方が悪いのではない。
悪いことをした奴が悪い。
ただそれだけのことを、ライナとジュリはした。
弟を救うためだけに暴走し、結果、世界の治安を乱そうとした。
これは神にとっては許しがたき大罪。
粛々と、光の柱が二柱の女神の罪を認め。
『全十三席の決議により、女神ライナ、女神ジュリの追放刑は決まった』
覆せない判決がここに決まる。
最悪は、神格の剥奪による消滅だったが、下界への追放も神にとっては最悪に近い裁き。
『解放は、我らが再び決議を出したその日。この会話の記憶は封印され思い出せぬであろうが、それが罰。そなたらが改心したと我々が確信するその日まで、人として人生を歩め』
粛々と裁きは進められ、閉廷が告げられる。
『これにて裁きは終わる。両女神を中央へ』
刑は即執行。
そのための準備は終えている。
男神によって、中央に運ばれる。
そこは光の柱の中央。
「「・・・・・」」
何も言うことを許されず、ただ光の柱を睨む二柱に光の柱は何も言うことなく。
『封印を』
『『『『『『『『封印を』』』』』』』』
代表の柱に続き、膨大な力が溢れその力がライナたちを包み込み。
何も言う間もなく、二柱の女神の身体は水晶の結晶に閉じ込められ身動きが取れなくなった。
そしてその水晶の中から光の粒が浮き出て来た。
その光の粒は、光の柱によって開かれた下界へのゲートを抜けてひとひらの雪のように下界へと落ちていく。
そして落ちていく女神の魂を見送り、水晶に包まれた女神の体は別の場所に転移される。
それを見送る神々は、ただ作業を終えたような平坦な声で。
『以上、解散』
裁きの時を終える。
『ハーゼよ』
「はい」
『観測を続けよ』
「承知したのである」
次々に消える光の柱。
最後に残った光の柱が、ハーゼに指示を残し消え去る。
「・・・・・」
落とされた神。
それは過去に何柱も存在し、下界で様々な人生を送っている。
天界に戻れた神もいれば、いまだ帰還できていない神もいる。
暴神がいい例だ。
あれは何度生まれ変わっても、悪辣で、暴れることしか能のない存在にしかなれていない。
改心するにも、改心する心を持っていない。
そのような存在が地上で何度も生まれ変わる。
「さて、吾輩も宮に戻るである」
そんな存在を見続ける。
それも、観測の神の務め。
ハーゼは感情を揺るがすことなく、裁きの部屋を出ていく。
光の粒の行く末は観測の神の権能で見続けている。
いくつも、それはそれはいくつも見続けていた視線の中に二つ加わるだけだ。
もし仮に、この二つの光の粒をリベルタが見ることが叶うのなら、どんな奇跡だとこの後の光景を見て愕然としただろう。
女神の幸運が成せることか、それとも悪運が強かっただけか。
光は夜空を舞い、風に乗り、そしてゆっくりと地上に落ちていく。
その落ちた先は、地方に領地を持つ小さな貴族の土地。
豊かとは言い難いが、貧しさで困窮しているわけでもない。
少し出生が特殊な双子の兄妹がいて、その周囲が不穏な以外は、どこにでもある貴族の土地に光は落ちていく。
それはまるで、運命に導かれるように双子の目だけに飛び込み、光の行方が気になった双子は、真っ直ぐに山の麓へと落ちていく光を追う。
いずれ、この領地を飛び出す。
そのための準備をしていた二人は土地勘があり、貴族らしからぬ知識を持ち、彼と彼女を心配する家の者は少なく。
夜更けに家を出ても、誰も気にしない。
勝手知ったる夜の道を、兄妹でそれぞれの武器を片手に進み、光を追う。
空から降ってきた光は、なんなのか。
兄妹は道中、疑問を口にするが真実を言い当てることはない。
新種のモンスターか、それとも精霊か。
あれだけはっきりと見えた光だというのに、騒ぎになっていないことに疑問を抱きつつ、幻ではなく、しっかりと目に映る光を追いかける。
走るよりもわずかに早く、されど石を放り投げた時よりもゆっくりと光は地上に落ちていく。
その光に追いついたとき、兄妹は目を見開いた。
「女の子?」
「でも、空から降って来たよね」
「ああ」
寡黙な兄は目を見開き、静かな兄よりもおしゃべりな妹は空を見て他に光がないかをもう一度確認した。
彼と彼女の眼前にいたのは、綺麗な金色の髪をした少女と、綺麗な亜麻色の髪をした少女。
「良かったねお兄ちゃん。モンスターじゃなさそうよ」
「ああ、では、精霊か?」
「うーん、本で読んだ見た目とは違うよね」
意識がないのかすやすやと眠る彼女たちにゆっくりと近づけば、だんだんと光が収まっていく。
そうすると辺り一帯は暗くなり、兄が持つランタンだけが光源になる。
その灯りをゆっくりと近づけてみれば、顔立ちの整った似た様子の少女たちの顔がランタンの焔の灯りに照らされる。
「・・・・・人だよな?」
「人だと思うよ。竜人みたいな角もなければ、獣人みたいな獣の体もない、エルフやドワーフみたいな耳もない」
登場の仕方があまりにも異常で、幻想的だったことから、兄は戸惑いつつも確認し、知識が豊富な妹に同意を求める。
「どうする?」
「家に報告したら大変なことになるよ。少なくともこの容姿だと、放っておくってことはないかな?」
肉体労働は兄、知恵は妹。
あの家で過ごし、生きて来た兄妹の役割分担。
されど決め事はしっかりと相談してから。
「連れていくか」
「まぁ、仕方ないね」
似た顔つきの二人の少女を見て、同じく似た顔つきの兄妹である二人は放っておけないと判断する。
「山小屋のおじいさんなら面倒を見てくれるよ」
「ああ」
ゆっくりと近づき、肩をゆするも目覚める気配がないことに兄は溜息を吐き、妹は苦笑する。
このままこの場に放置すれば、モンスターに襲われるか村の誰かに拾われ商人に売られる。
貧しい家は何をしでかすかわからない。
それを把握している兄妹は、信用できる人の元にひとまず連れていくことを決意する。
「重くない?」
「重いと言えば、蹴るだろ」
「そうさ、兄さんの体なら女の子はみんな軽いのだ」
小柄とはいえ、少女二人を抱えるのは中々大変だが、鍛えた体は軽々と持ち上げゆっくりと歩き出す。
周囲の警戒は妹がして、そのまま進んでいく。
不思議な経験だと兄妹たちは道中で語る。
目覚めたら聞かねばならぬことがあるとは思いつつ、雑談で道中を盛り上げながら目的地を目指す。
そしてそんな彼らの姿を、もしリベルタが見たのならこう言っただろう。
『主人公じゃん』と。
彼らの容姿は、FBOの主人公のデフォルトキャラデザの通り。
男性か女性か。
その差はあれど、リベルタなら見間違えることはない。
彼らのいる場所は、主人公の故郷だ。
ここ最近、大きな貴族の家が倒れたことによって、少し荒れたが、中央から離れすぎてさほど影響も出なかった場所でもある。
なぜ主人公が二人いるのか、なぜそんな場所に偶然にも封印された女神たちが降り立ったのか。
裁判の結果と、降り立つまでの過程、そして主人公たちとの出会いをリベルタが知ることができたら、『何のテンプレだよ』とツッコミを入れただろう。
あるいは、これがリベルタという少年がいたことによる、バタフライエフェクトなのかとも考えるかもしれない。
しかし、結果からすれば、FBOのマップ上では知っているが現実のこの世界では行ったことのない知らぬ場所で、リベルタの知るゲームの主人公たちがリベルタでも知らないゲーム外からの闖入キャラたちとの出会いをしている。
これがどういう影響を及ぼすかは神ですら知ることができないのである。




