28 外交
外交。領地を持って独立することを目指した段階から、それは考えていた。
現状、うちで外交担当というのは存在せず、俺が直接窓口を担当しているようなものだ。
「聞けば聞くほど、混沌と化していますね」
「全くだ。最初は生意気な平民の若造が未開の辺境に追い出された程度のことで見向きもしなかったのに、いざ利益が上がると分かると群がってくるか妨害を始めてくる。まったく、嫌になる」
いずれはこのポジションも別の誰かに明け渡したいのだが、そういった人材も育てていかなきゃならないという課題に直面するだけだ。
「お疲れ様です。こっちは今のところ貴族とか商人の妨害工作っぽいのは、盗賊みたいな連中だけですね」
「出たのか?」
「ええ、それらしい存在としか言いようがないですけど。こんな辺境で、ここしか村がないというのに人が住みつき洞窟に拠点を作ってましたよ。うちの戦力を送り付けて『話し合い』をした結果、どこかの貴族に雇われたならず者でしたよ。まぁ、雇った側もバカじゃないので、さすがに仲介を入れてどこの誰が雇ったかはわからないようにはしていましたけどね」
土地を所有し、人を養うって言うのはそういうことだろう。
『隣の芝は青い』という言葉通り、とんでもないことをし始めたら表裏の手段問わずこっちに接触し始めている。
「商人とかは来なかったか? あるいは貴族の使者が」
「道路整備もされていない悪路を越えてまで来る根性のある商人は、今のところいないですね。貴族に関しては、四回ほど使者が来まして、全員『王都にいるエーデルガルド公爵を通してください』と突っぱねています」
「閣下、おそらくジュジュ子爵たちかと」
「ああ、あやつらか。門前払いをされたとクレームが入ってきたな」
「貴族だからなんだって話ですよ。自分はそういう関わり合いが嫌なので、国王陛下に認めてもらって独立して自給自足しているんです」
裏はならず者や、素行の悪い冒険者、表は今のところ少ないが貴族の使者だけだ。
「その対応も、今後はそちらが取りまとめてくれそうで助かりますけど」
「ここに大使館を置いてつながりを強固にした結果、私のところに話が殺到する未来が見えたな」
「じゃぁ、別の人に任せて、自分と喧嘩させてみます? 自慢じゃないですけど、負ける気はしませんよ」
「仲良くするという未来はないのか?」
「こんな書状を見せつけられては、ねぇ?」
その少数の貴族もまともかといえば、まともじゃないと断言できる。
砦内にある応接室に移動し、エスメラルダ嬢が背後に控え、公爵閣下とマデトが向かいに座り、護衛とロータスさんが二人の背後に控えるという形での対談。
俺はそっとマジックバッグから書類を取り出し、一枚の書状をテーブルに置き閣下とマデトに見せる。
「全面降伏でも、もう少しまともな内容を用意されますよ」
「・・・・・ふぅ」
「奴隷契約と言われてもおかしくない内容ですな」
最初に公爵閣下、次にマデトと回し読みされ、まず初めに読んだ公爵閣下が大きなため息を吐き、次に読んだマデトが率直な感想を吐き出す。
「嫌らしいことに、その書状、印がないんです。そして書状を持ってきた使者もどこの貴族かわからないような格好していました」
「いざ、リベルタと争いになった際に責任転嫁する常套手段だな」
「ええ、『はめられた』とか『そんな使者は立てていない』と言い訳するための手段です。この書状すら捏造だと言い張るでしょうね」
そして貴族らしいやり方だと揃って眉間に皺を寄せる。
俺がまだ一つの町しか持っていない平民だと思われているからこそ、こんな強気に動けるのだろう。
俺の実力を正確に把握できている輩は少ない。
噂が独り歩きをして、信用できる情報が発信できていないというのと、この国の国王陛下が侮られているというのが主な原因だろう。
だからこそ、貴族という鉄板の力でどうにかなるという安易な発想で動くことができる。
こんな城壁をあっさりと作れる輩が普通じゃないとすぐにわかりそうだけど、過去どうにかできてきた実績がそのあたりの判断を曇らせる。
「ということで、ちょっかいが増え始めているので自分としてはその対応を一手に任せられて信頼できる公爵閣下に来ていただくことは全面的に賛成です。なんでしたら、ほんの気持ちですが物資支援とマデトさんの薬作成の支援以外に援助をしても良いと思うくらいには」
「ほう」
そういうこともあって、こっちとしてもそういったことを対応し、責任を持って再発を防止してくれる大使館を設置するのは賛成だ。
その賛成も信用と信頼ができる公爵閣下だからこそ賛成するのだが、それは公爵閣下もわかっている。
援助と聞いて、苦労の未来が待っている公爵閣下は少し前のめりになり話を聞く姿勢になった。
「将来的にはうちは孤児や社会的地位の低い人を引き取り、育成する環境を整えます。まずは教育者を育てるところから始めるんですけど、まぁ、そこら辺は何とかします」
「リベルタの知識を基準とした教育者か・・・・・末恐ろしいな」
「エリクサーの件を聞いた後では、王都にいるどの学者よりも教えてくれる内容が素晴らしいものだと思ってしまいますね」
そこまでたいそうなものではないとは、この世界の基準で考えるということはできない。
現実で考えるなら、公爵閣下とマデトの反応が正解なのだろう。
「戦闘関連や行政関連の育成は、適性試験、面談など複数の視点から検討してから教育を施すので一般開放できませんけど、鍛冶、農業、そして医学などの生産者方面でしたら留学生という枠を用意できます」
「なるほど、魅力的だ」
「・・・・・エーデルガルド公爵、この枠は」
「ああ、上手く使えば派閥をまとめる手段になるな」
この世界の水準を大きく上回る教育を受けることができる。
それはかなりのメリットになるのは間違いない。
貴族としては戦闘関連や行政関連、もっと言えば現在進行形でとんでもないスピードで発展してる開拓村を支える建築部門の知識も欲しているだろうけど、そっちはそう簡単に渡すわけにはいかない。
エーデルガルド公爵家の私兵もあれ以降は自力でレベリングをしてくれといってあるし、それは他の英雄たちも一緒だ。
身内だけはしっかりと育てるが、さすがに外様までは面倒は見れない。
そんな最中で、一部であるが俺が定期的に面倒を見る枠を作ると言ったのだ。
公爵閣下とマデトの眼の色が変わった。
「その手の用意があるので、ぜひとも大使館の人員は信用のおける人材で固めて欲しいですね。可能なら野心がなく、そして真面目に職務を全うできる人が好ましいです」
「任せておけ。最良の人材を用意しよう。イリスを筆頭に実務面でも優秀な人材を用意し万全を期す」
「エーデルガルド公爵、カーゼス家の方でも用立てます。ここは協力体制を敷きませんか?」
「医療方面で強い貴家に協力してもらえるなら心強い。だが、いいのか? 貴家は中立の立場、ここで我が家に近づくと周囲の眼もうるさくなるぞ」
「下に着かず、対等という関係でしたら問題はないかと。エリクサーの件を知ったエーデルガルド公爵でしたら、その辺の差配はしてくださると信じております」
「なるほど」
貴族の関係性は情もあれば利益で繋がっているパターンもある。
そのどちらも重要であるのがわかっているから、俺は目の前でのやり取りに割って入らない。
俺としても完全に貴族との関係を断ってしまうとそれはそれで、今後の活動に問題が出るので、必要な繋がりを維持するという面で留学生の受け入れはメリットがある。
さすがに箔をつけて威張り散らすような坊ちゃんを受け入れるのは勘弁してほしいし、矯正を依頼されるのも止めて欲しいとは思う。
そこら辺の匙加減を調整するために外交官という窓口を信頼できる二人に任せられるのは大きい。
そして筆頭公爵家のエーデルガルド公爵と、医療方面で信頼のおけるマデト・カーデス侯爵の二人のタッグであるなら他の貴族家にも対抗できるし、国王陛下もそう簡単に口を挟むことはできないだろう。
「あとは、当方の今後の方針ですけどひとまず、町の完成を目指します。その後は鉱山開発か、港湾開発のどちらかに指針を切り、そしてこの領土と国の境となる大城壁を作る予定です」
そんな2人に対して俺は情報を開示する。
留学の話で盛り上がっていた2人は、俺が話し出すと居住まいを正し話に集中し始める。
「大城壁・・・・・やはり国が攻め込んでくることを想定しているか?」
「その可能性も考慮してますね。どちらかというと違法移民の方に対しての対策ですよ。今は辺境ということで無理してこっちに来るということはないですけど、発展すればそういう思惑の人も来ます。なので物理的に壁で遮ってはっきりと国の境を示して、無理やり入ってきた奴を全員裁けるような環境を作りたいんです」
「貴族の誰もがやろうと思って、できないような話です。あなたならできそうな気がするのが何とも言い難い気持ちになりますが」
鉱山都市か港湾都市の建設、そして並行作業で国境城壁の作成。
城壁を作る理由としては防衛能力の拡大とモンスターへの保険と、そして何より貴族への対策だな。
この領地をこれ以上広げるのは、国との取り決めもあるし、住民の数的にも必要ないかもしれない。
だが神殿関係者に国境の制定をしてもらっても、そういった貴族連中は色々と言い訳してこの辺境の土地を乗っ取りそうな気がする。
それこそ、違法移民を使って勝手に土地に住まわせて開拓、その民はうちの領地の民、すなわちその開拓した土地はうちの領地なんてことを言い出しかねない。
「その理由を聞いてありえないと言えないのが悲しいな」
その辺の事情も語ると公爵閣下はそっと目を逸らした。
「ええ、私もその手段は聞いたことがあります。というより、一度私の一族が経営している薬草農園で同じことをやられそうになりました」
「ああ、そういえばあったな。その件で取り潰しになった家が」
本当にこの世界の貴族はやらかしごとが多すぎる。
一部を除いて、本当に害悪にしかならない。
「どうやって解決しました?」
「夜会で大々的にこういうことがあって大変ですと言いました。そうしたら、違法移民を先導したとある家が焦った顔で謝りに来ましたよ?」
「医療を敵に回したらまずいという典型的な例だな。力技が通用してしまうケースもあれば、そういうケースもあるというやつだ」
実際この2人はその手の相手と嫌というほど向き合ってきただろう。
だからこそ、わかると頷く公爵閣下にマデトは苦笑で返し、共感しあっているのであろう。
「なるほど、参考にします」
だからこそ、俺もその意見を参考にして今後の対応に使わせてもらおうと思ったのだが。
「リベルタ、本当に何かあったら迷いなく相談するのだぞ? 絶対だ、絶対だぞ?」
ぎゅっと前にのめり込むように公爵閣下が反応してきた。
その顔は真剣で、迷いがなかった。
「そうですね。私も微力ながらお力になります。なので、“貴族”関連のご相談があれば迷いなく私にもご相談を」
その動きにマデトまでが呼応した。
2人とも真剣で、背後に控えているロータスさんまで頷いている始末。
それはまるで俺に全力で対応させてはいけないと言わんばかりの反応。
「・・・・・ちゃんと手加減はしますよ?」
「お前は手加減のつもりでも、我々には過剰すぎるのだ」
しみじみと頷く公爵閣下の言葉に失礼なと顔をしかめそうになったが、常識を破壊して要塞を作っている俺にはいう資格はないのでは?と思いなおす。
「そうかな?」
「そうですわね、時と場合に依りますわ」
最後の確認でエスメラルダ嬢に振り返って聞いてみたら、笑顔で誤魔化されたのであった。




