27 品種調整
プラントセンシティブというスキルの使い道は、仲人。この一言に尽きる。
例えば同じ品種、同じ効果のある薬草の苗が2つあったとしよう。
片方は良く育ち、片方は育ちが悪い。
その薬草でそれぞれポーションを作った場合は、当然だが品質のいいポーションと品質の悪いポーションになる。
「ここまではいいですか?」
「ええ、まぁ、それはポーションを作るとしたらごく当たり前のことなので」
いきなり常識のことを語り始めた俺にマデトはもちろん、公爵閣下、ロータスさん、そしてエスメラルダ嬢に護衛となぜ基本的なことを?と首をかしげる。
「では、ここでマデトさんに質問です。悪い品質の薬草にいいところがあると思いますか?」
「良いところ・・・・・状態が悪いと言っても最低限のポーションは作れます。薬効が残るというところでしょうか」
「不正解ですね。もっと、状態が悪い、あるいは品質が悪いという状況のなかでこそ輝く良いところです」
最初の質問はあくまで、共通認識を得るためだけの確認だ。
本題はここからだ。
「状態が悪い、品質が悪い状態で輝くところ・・・・・すみません。わかりません」
悪くても良いところ、その矛盾しているような言葉の答えはでず、白旗を上げる彼に俺は頷き。
「答えは薬効が低いことです」
「薬効が低い?それは悪いことではありませんか?」
「普通に考えればそうですけど、過ぎたるは猶及ばざるが如しって言葉があります。薬というのはただ効き目が強ければいいっていうわけではないです。バランスよく、適度な薬効でこそ薬というのは適切な効果を発揮する。そうですね」
「確かに、その通りですが」
俺はデメリットこそがメリットだと答える。
「現状のポーション作成は、良質な薬草で一定のラインを超える効果を発揮する薬効を持つ物を作るのが常識です」
「ええ、そうです」
「では、もし仮に一定のラインよりも下回っても上回ってもいけないという条件を付けたらどうなります?」
「それは・・・・・確かに、薬効を下げる必要性がでます。ですが、エリクサーほどの代物なら良品質且つ薬効の良い物を揃える必要があるのではないのですか?」
「その考えがまず、落とし穴なんですよ」
エリクサーという最高峰の回復能力を持っている代物を作ると考えると、最高級の素材を選りすぐり、最高の品質で、最高の効果を持つ物をごった煮で混ぜれば作れる!!なんて発想になるのではないだろうか。
「落とし穴?」
「考えてみてください。エリクサーの材料は多岐にわたります。そんな中で超強力な素材、超高品質な素材、超効果的な素材、仮にそんな物同士を混ぜ合わせられてその効果を全て丸々発揮できると思いますか?」
「!そうか!効果の打ち消し合い、あるいは強力な効果同士が混ざり合っての変質か。高品質で揃えたとしても、各素材のバランスが均等でなければ他の素材の薬効を塗りつぶしてしまう」
俺も当初は思った。
そもそもゲームなんて、錬金作業でミリグラム単位で材料を混ぜるなんてことはしないし、薬草とか素材の品質にこだわるなんてケースも少ない。
せいぜいが材料を集めて、レシピ通りの数を用意できたらスキルでポンっと合成して完成!っていうのが既定路線だ。
そこまでのやり込み要素を適用してしまったら、ゲームとしては面倒過ぎるということでプレイヤー離れが加速してしまう。
なので普通ならそんなシステムは組み込まれない。
いや、そもそもそんなシステムまで組み込んでしまったら、サーバーの負荷が跳ね上がり、処理が追い付かなくなる。
まさに百害あって一利なしという要素だった。
だけど、FBOではやろうと思えばそれができた。
それができたからこそ、エリクサーの黄金レシピなんて代物が完成したのだ。
「そうか!品質の悪さを逆に利用して品質を調整し、全体でバランスの取れた素材を作る。足りないところは良化し、足りすぎているところは悪化させる。それを行うための私のスキルということですか!」
「大正解です」
しかし、バランスを取るなんて簡単に言うけど、言うは易く行うは難しというのがこの工程だ。
そもそもが素材同士のバランスは数値化されているものではない。
品質を目利きする能力がまず重要になってきて、目算というあやふやな感覚を研ぎ澄ます必要が出てくる。
「さらに言えば、貴方のスキルは植物限定ですけど素材同士の相性も把握できるはずです。そんな経験がありませんか?」
「たしかに、ポーションを作っているときもこの素材を入れたら通常よりも質が悪くなるという感覚がある時があります」
「エリクサーを作るときはその感覚こそ一番重要なんです。ただレシピ通りに作ってもエリクサーは作れません。設備、スキル、素材、技術、レシピこの五つを駆使して黄金比率で作ってこそエリクサーは生み出される」
その解答にいたり、レシピ化させた解析班の執念には脱帽するしかない。
俺も当時友人が解析班に所属していて、エリクサーの謎を解明するために素材採取の手伝いをしたり、魔法薬生成専門のキャラを作ったりもした。
この時に分かった、素材の品質数値というのはFBOでも指折りの大発見だと言える。
そしてその品質数値と相性を植物限定とはいえ、感覚でわかるマデトのスキルは当時のプレイヤーからしたら『実装してくれ!!』と切に願うスキルの一つであった。
マデトがエリクサー作成の第一人者になるとわかってからは、サポートキャラとしてしっかりと育ててマデトに薬草農園の管理とエリクサー製造を依頼してエリクサーの安定供給ができるようになって、いかにプレイヤーが楽になったか、この世界のマデトは知る由もないだろう。
「はっきりと言いますけど、ある一面ではエーデルガルド公爵よりもあなたとの協力関係の方が俺にとっては重要だと断言しますよ」
「はっきりと言うな」
「こと製薬に関して、閣下には彼の代役をできる人材がいますか?」
「エリクサーを作れると断言できるほど耄碌はしておらん。むしろこの話、他の貴族どころか陛下に聞かせるわけにもいかなくなったわ」
そんな事情もあって、俺のマデトに対する評価は彼が考えるよりも高い物になっている。
目の前で比べるのは失礼かもしれないが、貴族的地位ではなく製薬という面で言えば、彼の価値はエーデルガルド公爵を上回っている。
事実現実でもその点においてはエーデルガルド公爵も理解している。
なので気分を害したような雰囲気はない。
「・・・・・リベルタ殿、貴方の言葉を真に受けるのならこのスキルを持っていればエリクサーを作れると断言されているようにも聞こえるのですが」
「そのスキルだけでは作れませんね。でも自分はこのスキルと製薬のエキスパートであるマデトさんが組み合わさっているから作れると思っています」
「ずいぶんと私を買ってくださっている。本当に初対面ですか?」
そして、俺がマデトをおだてているのではなく、本気で語っていることにマデトの顔つきも変わり、真偽を問うような雰囲気を醸し出す。
貴族として、そして医療関係の先駆者としての彼を騙そうとする輩は後を絶たなかったのだろう。
「その膝、その手が物語っています。何より自分で努力していた人の動きなのはこの畑に来た時からわかっていました。決定的なのはその手です。研究を欠かさない作業者の手です」
そんなのと一緒にされたらたまらんので、俺がFBOと現実で比べた際にこの世界でもマデトが努力しているだろうと思える根拠を上げる。
貴族が迷わず膝をつくことはよほどのことがない限りありえない。
しかも挨拶に来る相手を前に服を汚すというのは礼儀知らずと言われても仕方ない行為だ。
それをやってしまうほど夢中になる畑ということももちろんだが、夢中になるほど知識と興味があるという裏付けにもなる。
さらにペンだこや剣だことは違う手の荒れ模様。
錬金術や魔法薬生成での作業中に、薬品に触れるようなところにできる手荒れ。
貴族らしからぬ手ではあるが、いかにも現場の研究者らしい手だ。
「なるほど、しっかりと見ているようだ」
その理由にマデトの警戒心はほころび、笑顔を見せる。
「そもそもエリクサーを作るとしたら、素材や設備には自分が出資しますんであなたからもらうのは作業時間ですよ」
エリクサーを作る基盤さえできてしまえば、マデトじゃなくてもエリクサーは作ることはできる。
だが、その基盤を作るまでにものすごい根気と手間がかかるのだ。
「純粋に腕を見込まれているということですか」
「はい」
「なるほど、エーデルガルド公爵。彼は本当に人たらしのようだ。私が欲しい言葉をこうも純粋に投げかけてくる。一瞬でも貴族の地位を返上しここに移住したいと思ってしまった」
「止めてくれ、そうなると紹介した私が陛下に怒られる」
その作業をできると思える人物が今のところマデトしかいないのだ。
流石の俺も、あのエリクサー生成基盤を用意するのは億劫な気持ちになる。
「ですな。まずは通すべき筋を通して万全の状態で彼に協力できるように根回しをする必要があるようだ」
「それでは」
「ええ、貴方の夢のような話に賭けさせていただきたい。さすがに現場を放置するわけにも行きませんし、北への支援もあります。すぐにとはいきませんが、必ずここにはせ参じることを約束します」
「そうなると外交ルートでの協力って言うことになりますね。しかしあなたなら信用できそうだ」
そんな大変な作業を理想の人物が手伝ってくれる。
その事に安堵し、今度は彼が来るためのルートが問題になる。
「公爵閣下の要件はそっち関連ですよね?エスメラルダから聞いていますよ」
「そうだ。エリクサーなどというとんでもない話を聞いて忘れそうになったが、そちらの方の話も進めたい」
この国全体に医療を広めたいというマデトにとって、権力としての貴族位にはまだ価値がある。
俺も無理してこの大陸を支配する気もないので、ここから医療を広げるのは難しい。
なので王国からの派遣要員としてこっちに来ることを確約してくれただけでも儲けものだ。
エリクサーの生成方法が外部に流出する懸念はあるが、そこはしっかりと事前に契約して情報漏洩を最小限に抑える。
まぁ、仮に漏れたとしてもあの国にあの設備を用意できるとは思わないが。
「外交官の話だが、うちの娘、イリスを筆頭として補佐を付け派遣したいと思っている」
「本気ですか?」
「ああ、本気だ。お前としてもイリスの方が何かとやりやすいだろうというのが建前だ」
「建前ですか。本音があるのはなんとなくわかってましたけど、彼女の周りがきな臭いのですか?」
「きな臭いどころの話ではない。お前と何が何でも繋がろうとしている貴族が毎日、手紙だけではなく面会に来ておる」
そんなエリクサー事情よりも先に対処しないといけない問題があるようだ。
元々外交官の話はこの土地を貰う際には派遣し合うという取り決めがあったが、思った以上に向こうは泥沼になっているようだ。
「でも大丈夫ですか?俺のところにイリス様まで派遣するって・・・・・俺との間に変な噂が立ちますよ?」
「エスメラルダがこちらにいるから問題はないだろう。姉の側で勉強をさせていると言えば表向きは問題ない。変な勘繰りをする輩もいるであろうが、そんな物好きには勝手に想像させておけ」
「さすがにこの件に関しては即答はできませんので、一旦場所を変えて腰を据えて話しましょう。マデトさんの件ももう少し話しておかないといけませんし」
まぁ、こんな町を作っていれば当然と言えば当然だよなぁ。




