26 エリクサー
「これはっ!!」
「・・・・・エスメラルダから話は聞いていたが、ここまでの物とは」
立体農地についた2人の反応は分かれた。
知らないがゆえに驚くマデト、知っていて驚きが半減してなお目を見開き驚くエーデルガルド公爵。
「ここにあるのは全て、ポーションの素材になる薬草!いったいどうやって。この薬草の栽培には大量の魔石が必要なのに」
マデトは居ても立っても居られず薬草畑に向かって駆け出した。そして服が汚れ、手袋が土だらけになるのも厭わず、畑に膝をつき、手袋を脱ぎ去りその手で優しく薬草に触れた。
ポーションの素材となる薬草は、マデトがいう通り潤沢な魔力がある場所にしか自生しない。
だからダンジョンとか、山奥で魔力が豊富にあるような場所にしか生えていない。
一応栽培ができるが、それ専用の設備が必要だしコストもかかる。
だから、ポーションが高いのだ。
必然的にかかるコストとして、冒険者に頼んで薬草を採取してもらう人件費。
設備投資で費用がかさむ人工栽培。
このどちらにしても、素材費用がかさむからこそポーションは高額になる。
「こっちも!いや、これは上級ポーションの素材になる薬草まで!?人工栽培は成功していないはずなのに・・・・・」
だけど、この立体農地を作り薬草用に改造すれば意外と低コストで薬草を栽培できるようになる。
それこそ、マデトが驚き目を見開いている素材まで用意できてしまうのだ。
「一体どういうカラクリだ?」
「企業秘密です。契約もせず協力体制も敷けていない現状で教えるのはさすがに」
「・・・・・確かにな」
その種類も量も豊富な薬草の数々に、興奮が止まらないマデトを見つつ、公爵閣下が栽培方法を聞いてくるがこればっかりは簡単に教えるわけにはいかない。
「最低でもここにある薬草の提供はある程度はできるっていう証明と、今は受け取ってくれればいいですよ」
「それ以上は私たち次第ということか」
「そういうことです」
だけど、人命救助のために出し渋るつもりはない。
値段も必要経費分だけに抑えるし、こっちが利益を取るようなことはしない。
そんな薬草の安定供給ができるというだけで、マデトからしたら大助かりだろう。
もし仮に、この薬草の栽培方法を教えたとしても二人が薬草栽培用の土地を確保できるとも思えない。
「隣の農地には食料も生産しています。余剰分は渡すことができるんで、そっちも原価でいいですよ」
俺が紙を取り出して、公爵閣下に渡す。
そこには渡せる薬草と食料のリスト、そして値段を記載した。
これはジンクさんたち商店街組に頼んで値段を設定してもらっているから、本当に経費分しかとっていない。
なので、かなり安価な設定になっている。
「・・・・・助かる。不作ではないが、それでも広大な土地の民に渡すにはいくらあっても足りん。ましてや商人どもが足元を見て来ていてな」
それを流し見で確認しロータスさんに渡す。
値段交渉をしないということは、安価な設定というのに気付いて訂正しないようだな。
「といっても常時、この値段っていうわけじゃないですよ。今回は特別で緊急事態だからです。普段だったら品質からしてもっと高いですよ」
「わかっている。陛下にもその旨はしっかりと伝える。そしてこれは君への借りで安易に要求しないようにも言い聞かせておく」
「そうしてください。本当だったら貸し借りはしたくないんですけど、今回は本当に特別です」
なので今は、知識の伝達よりも現物を渡すというのを優先した方がいい。
ここで値段を釣り上げて、国庫の金の出し渋りで物資が届かないなんてことがあっては本末転倒だ。
「この農地は素晴らしい!これを王都で造ることができれば、安価なポーションを作りより多くの命を救うことができますよ」
そんな俺と公爵閣下のやり取りが落ち着いたタイミングでマデトが戻ってきた。
膝が泥まみれ、手も泥まみれ。
貴族らしからぬ土で汚れるということに対して嫌悪感がないのは良いことだが、興奮しすぎではないだろうか。
「もともと限定された環境で自給自足できるように想定した農地ですし、王都で作ろうと思えば作れますよ。まぁ、急激に作ることはお勧めしませんけど」
「そうだな、この農地を大量に用意してしまえば、薬草採取で金を稼いでいる冒険者の仕事を一つ奪うことになる。さらにポーションが大量に出回ればそれで稼いでいる職人もどれほど路頭に迷うかわかった物ではないな」
「残念ですが、将来的には作った方がいいのは確かです。ですが、今は」
このまま、農地の提供を強請られるかと思ったが、ロータスさんがスッとマデトにさっきの値段表リストを渡すとそれをざっと読み。
「多大なる支援感謝いたします。カーゼスの名に誓い、大勢の人を救うことを誓います」
その支援量に頬をほころばせ、安堵し、深々と頭を下げた。
「このお礼は必ず、といっても生憎我が家は医療支援で財政がそこまで余裕がないのです。あなたが満足できるようなものを用意できるか」
そして顔を上げて申し訳なさそうな表情を見せる。
「今回は人助けってことで、貸しにしておきます」
「しかし」
「本当に大丈夫です。あ、お金に関しては気にしなくていいですよ。しっかりと勉強して安くしておくんで。ただ公爵閣下にも言っておきましたけど、今回の値段は本当に特別という認識でお願いします。これができるなら今後も、なんていう貴族をしっかりと抑え込んでください。一応公爵閣下に陛下へ大きな釘を刺してもらいますんで、そこら辺は問題ないとは思ってますけど」
「あなたの良心に感謝します。そして約束します。もし、この支援物資に関して文句を言う輩がいるとしたら、医療支援の全停止を脅しに私の責任の名の下に止めに入ります」
善良だなぁと、他の貴族にこの人の爪の垢を煎じて飲ませたいと思いつつ、この人が協力してくれたら今後かなり楽になるのは間違いないと思う。
できれば、貴族を辞めて俺の領地に来てくれないかなと思うのだが、責任感がある彼が来てくれる可能性はかなり低い。
FBOで仲間にする方法は知っているが、彼は貴族を辞めていないので、彼を引き入れるともれなく貴族関係もセットでついてくる。
それさえなければ何が何でも、味方に引き入れたい人物だ。
エリクサーは、FBOのストーリー後半では必須と言えるほどの回復アイテムだ。
現実でも、ここまでは致命傷となるようなダメージを負わずに進んでこれたが、今後のダンジョンをノーダメージで攻略するのはほぼ無理だと思っている。
ここから先は段違いに危険になる。
クラス9のモンスター、アジダハーカの強さは本物だ。
たとえ同格になったとしても油断できない。
そして今後のダンジョンはアジダハーカが基準になるとまでは言わないが、それに近いステータスを保持するモンスターがゴロゴロといる環境になるのだ。
強靭なステータス、多彩なスキル。
いかに万全のレベリングをしていても、1つのミスが致命傷になりかねないのが今後の戦闘だ。
そういう環境に身を置くことになるという点で、回復アイテムというのはどれだけ用意しても充分ということはない。
ましてや完全回復薬と名高いエリクサーが大量にあれば、万が一の事故を防ぐことができる。
即死さえしなければ助かる。
それはどんな命綱にも勝る、命を保障するアイテムだと言える。
「しかし、それとあなたの善意に対する対価は別です。私にできることでしたらなんでもさせていただきます」
そんなアイテムを最高効率でできる可能性を秘めた人物からの感謝。
それを利用していいのかとわずかな葛藤がある。
「リベルタよ。ここで彼の言葉を無下にすることは貴族のプライドを傷つけることに繋がる。ここは彼の好意に応えた方が良い」
「・・・・・わかりました」
その葛藤を公爵閣下が取り払ってくれたので、俺の迷いが消えた。
「マデトさん」
「はい」
「俺と一緒にエリクサーを作ってくれませんか?」
なので、改めて向き合う。
公爵閣下が背中を押してくれたおかげで、なにか要求されると覚悟を決めたマデトさんは真剣なまなざしを俺に向けている。
が。
「え?」
その表情は俺の発言で、一気に崩れ鳩が豆鉄砲を食ったような顔に変貌した。
「リベルタ、エリクサーとおっしゃいましたか?」
そして俺と一緒にいる機会が多い所為か、俺の発言に耐性のあるエスメラルダ嬢が額を抑えてさっきの発言を確認してくる。
「ああ、うん。言った。エリクサーを一緒に作ってくれないかって」
「聞き間違いではなかったか」
「リベルタ様なので、冗談ではないとは思っておりましたが」
「はっ!?いま、エリクサーとおっしゃいましたか!?あの西の大陸で造られる回復薬の最高峰であるエリクサー!?」
続いて、公爵閣下が、その次にロータスさんが順次正気を取り戻し、一番耐性の少ないマデトは最後に復活した。
「はい、そのエリクサーです」
FBOでは日常使いが当たり前で、使いようによっては低レベルパワーレベリングもできてしまう一品。
そのエリクサーは作れる。
数多のゲームで希少なアイテムなんだけど、そこはそれ何でもありのFBOだ。
ガチ勢の調査能力でまずは西の大陸でのエリクサーのレシピを特定、そこから改良に改良を重ね、技術を獲得すればエリクサーを作れる環境を整えることができる。
現物があるのなら作れる過程が存在する。
それがモットーの解析班の執念の結果だ。
「ここで、エリクサーが作れるのですか?」
「いえ、今は作れません。設備も整っていない上に、専用のスキル構成をした人材もいない」
エリクサーの作り方は非常にシビアだ。
作るためにはそれ専用のスキルと道具、さらには状態を確認できる感覚が必要になる。
少なくとも、今の俺のスキル構成じゃ俺には絶対に作れない。
錬金術を持っているアミナでもできないだろうし、おそらく精霊界にいる精霊たちでもエリクサーを作ることは困難極まりないし、作れたとしても量産までは到底できないだろう。
「では、何故私を誘うのです?まるで私がいれば作れるような口ぶりですが」
「その通りですね。マデトさん、あなた、ギフテッドですよね?」
しかし、マデトならその長い年月を生きてきた精霊ができないことを成し遂げることができる。
その理由は彼が生まれた時から持っているユニークスキルが関係する。
全NPCの中で、彼しか持っていないギフテッドスキル。
「ええ、まぁ、そうですね。ですが、私のスキルは大したモノではないですよ?植物の状態をなんとなく把握できるというだけですから」
プラントセンシティブ。
スキルとしては、本当に植物の状態を把握できるだけのスキル。
いや、把握というよりは対話に近い。
よくある鑑定スキルと違い、ステータス表が表示され細かい数値がわかるのではない。
ただ何となく、植物の健康状態みたいなのがわかるだけのスキル。
さっき、この薬草畑に来た際にどの薬草の品質が良いとわかったのは日ごろの経験もあるが、彼がこのスキルを使っているからでもある。
このスキルの使い道は本当に品質確認くらいにしか使えないから、危険でもなく、彼も特段隠すことなく素直に頷いている。
「そのギフテッドスキルが、エリクサー製作には重要なんですよ」
「このスキルが?」
「信じられません?」
「正直に言えば、はい、その通りです」
イマイチ実感がない彼に俺はその気持ちもわかるという。
事実FBOでもこのスキルの使い道を理解するまで彼は少し優秀なポーションメイカーだった。
「ならば教えましょう、貴方にやってもらうことは」
しかしそれを激変させる行動を言って、はてさてマデトはいったいどんな反応をするのやら、少し楽しみになるのであった。




