25 訪問
エーデルガルド公爵の来訪日は思ったよりも早く、三日後に来るということでこっちもそれに合わせてスケジュールを調整。
公爵閣下の来訪日、エスメラルダ嬢に迎えに行ってもらい、そろそろ来るかなというタイミングで待機していると、前方から転移魔法の光が溢れ、数秒後にはそこに転移してきた面々が姿を現す。
連れて来たエスメラルダ嬢に、エーデルガルド公爵、ロータスさんに護衛が二人、さらにキョロキョロとあたりを見回すイケメンが一人。
「ふぅ・・・・・リベルタ久しぶりだな」
「はい、お久しぶりです閣下。ご壮健そうで何よりです」
「たった今意識が飛びかけたがな・・・・・エスメラルダから話を聞いていなかったら危なかったぞ」
彼らが転移してきた場所は、城壁に隣接して作った砦の屋上。
なんでこんな場所にって思うかもしれないが、砦の中身は一応機密情報の塊。
いかに信用している公爵閣下でも中身をおいそれと見せるわけにはいかない。
かといって何もかも見せないというのも不信感につながるので、城壁に囲まれた街を一望できるこの空間を用意したわけだ。
ただまぁ、その一望した景色というか、絶対に開拓一年目の村ではありえないような建築物群を見て公爵閣下が一瞬意識を飛ばしかけたが、気にしない。
「本当に砦を作っておられたのですね。それもこんな堅牢で巨大な・・・・・どこと戦争を始めるおつもりで?」
「またまたロータスさん冗談が上手いですね」
「いえ、割と本気なのですが」
次いで意識を取り戻したロータスさんが、本気でこの砦を作った理由を聞いてくるが、戦争なんて面倒なこと俺がするわけないだろ。
「防衛設備としては過剰と思うのですが?」
「アジダハーカとかそういうのと戦うとこの城壁と砦でも足りないくらいですよ」
俺が想定するのは、今もこの世界で徘徊するワールドモンスタークラスだ。
レイニーデビルみたいなモンスターが襲撃したら生半可な砦じゃ手も足も出ない。
滅多に、それこそ悪運の女神に微笑まれるようなことの無い限りは早々に出会うことはないし、ゲームと同様なら本来の手順で召喚しない限り戦う心配もないけど、アジダハーカ以上に危険なモンスターもワールドモンスターの中には存在するんだよね。
なので迎撃装置を設置して、準備万端にして、それを維持する構造を作るにはこれでも足りないくらいだ。
「リベルタ様が何と戦おうとしたかは把握いたしました」
「ご理解いただけて何よりです」
俺の過剰な警戒の対象を理解したロータスさんの笑みが引きつっているような気がするが、それは気にせず、護衛の陰に隠れるように立っている御仁に目を向ける。
「初めましてで、良いですよね?自分はリベルタです。この領地の責任者です」
「お初にお目にかかります、リベルタ殿。私はマデト。マデト・カーゼスです。宮廷医務官の職を拝命し、カーゼス侯爵家の当主でもあります」
それまで辺りをキョロキョロと見回していたが、俺が視線を向けると姿勢を正し綺麗に頭を下げ挨拶をする。
その態度に俺を蔑んだり、見下すような雰囲気は感じない。
むしろ敬意すら感じるくらいまっすぐに見つめられた。
「あなたのことはエーデルガルド公爵より聞いております。ぜひともあなたの知恵をお借りしたく参りました」
そっと右手を差し出され握手を求められる。
貴族の、それも侯爵という地位の当主が、貴族位を持たない少年に自分から握手を求める。
それはかなり異例の対応だ。
この行動は自分が下で、相手に敬意を持つという貴族の意思の表明に他ならない。
「ええ、話は聞いています。自分にできることでしたら可能な限り協力させてもらいます」
「っ!心強い!」
この人は本当に誰かのために動く人だというのは、事前にエーデルガルド公爵にも確認し、FBOとの齟齬がない医療による救済に人生を捧げた人だ。
誰かを助ける、そのことに全身全霊の力を注ぐ人からの協力要請を拒むことはできないし、したくない。
ぎゅっと俺の手を掴む力の強さは喜びの大きさが表れているのだろう。
「こんな場所で立ち話もなんですし、見せられる場所をお見せして、その後に話をするということでいいですかね?」
「それでよい」
「ええ、お願いします」
仲は良くても、公爵閣下にも見せられない場所はある。
といっても、機密になりそうな物って製作方法とかの情報だからそこら辺を気を付ければいい。
なにせ、この砦の素材はそこら辺の地面の土から作ったものだし、弱者の証を混ぜることを知っていれば同じ強度のレンガは作れる。
ファクトリーゴーレムを見られたらちょっと面倒だけど、現在進行形で山削りをしているからそれを見られる心配はない。
ブロックゴーレムは見られるけど、あれは王都にいる錬金術師でも作ろうと思えば作れるから見られても問題はない。
コマンダーゴーレムは現在進行形でこっちで作業しているけど、あれは一見すれば椅子のついたゴーレムにしか見えない。
早々に情報は抜かれない。
切り札はまだまだあるし、重要なものは精霊界に隠している。
ということで、建築中の開拓村の見学ツアーを開始。
「・・・・・まず、この動く床について聞いても良いか?」
まず真っ先にツッコミが入ったのは昇降機、エレベーターだった。
行き止まりの大きな箱の中に入り、スイッチを押すだけでゆっくりと動き出す。
これに護衛を含めて五人からどよめき声が漏れ、数秒後には公爵閣下とマデトはすぐにこの魔道具の価値を把握した。
「昇降機です、これがあれば物資の上げ下げに使う人員の削減に労力の減少、さらに効率化を図れますね」
「どれくらいの重量まで運べるのですか?」
「こいつは軍事用に作っているので、スペースも広く作って可能輸送重量は十トン、性能的な限界はもう少し上ですけど、安全面を考慮するとそれくらいが限度ですね」
「十トン!?それだけの物資をあれだけの高さまで簡単に運ぶことができるのですか!?」
「これだけだと、入れるのも出すのも大変なので、この昇降機に合わせて搬出搬入作業用のゴーレムとかも用意してますし、搬入用の規格コンテナやパレットも作って効率化を図ってます」
「すばらしい!これよりも小さくても医療施設に同じようなものが設置できれば建物の構造を上に伸ばし入院できる患者を増やすこともできる。足の不自由な人でも移動できる。それだけでも治療できる人も増やせる」
「建物に高さを出すなら地震などを考えるとしっかりと耐震構造の高層建築を考えないといけないですよ」
「そうですね、そこからの研究になりますか」
エレベーターを見て、活用方法が医療現場への導入というのがマデトらしいと思いつつ、説明できるところは説明する。
キラキラとした瞳で、施設を観察するのはある意味作り手として嬉しい視線なのだろうとは思う。
だが、その嬉しさに流されてついポロっと言葉をこぼしてしまうのはいただけない。
機密の部分はしっかりと抑えつつ、ついた階層に降りる。
「ここは、なんだ?」
「まだ工事段階のようですが」
「この町の特別な輸送機関ですね。まだまだ建設中で、一部しか稼働してませんけど」
降りた階層は第二階層。ここには交通網、線路を張り巡らし駅を作っている最中だ。
鉄道網とも言うが、さすがに初めての物だけあって、少し手間取っている。
「工事にドワーフを・・・・・話には聞いていたのですがこんなにも雇える財力、感服いたします」
「彼らは仲間ですし、手厚く報酬を払えば期待以上の結果を出してくれます。むしろ彼らの熱意と経験を考えると安いと感じますけどね」
だけど、その顔は困っているのではなく試行錯誤を楽しんでいるようにも見える。
何人か俺たちに気づき頭を下げ作業を中断してこっちに来ようとしたが、俺は手で止めて作業を続けてくれと指示を出す。
その指示に従った彼らは、そのあとはこっちがいようがいまいが関係なく作業に没頭する。
「そうですか、確かに経験は財産です。そのことを考えればそういう結論もでますか」
マデトは初めて見る物に驚き、次に感心し、貪欲に吸収しようとする。
この場に来たのは、この開拓村の角の方にまとめた立体農地まで移動するためだ。
「これも、ゴーレムか?しかし、見た目は箱だが・・・・・」
「ゴーレム列車、試作3号機ですよ。今は作業用の運搬車両として使ってますけど、こうやって客車を付ければ普通に人員輸送にも使えます。こと、開拓作業するにあたって物資の運搬っていうのが一番時間がかかりますしコストもかかる。その効率化のためですね」
まだ線路も試作段階で、完成品とは言い難いが実用に耐える程度の物は出来上がっている。
なので早速食料運搬用の線路を作っておいてあるのだ。
「どうします?客車に乗ります?それとも運転席に乗ります?乗り心地は運転席の方が悪いですけど」
「ぜひ!運転席に!これが王都に実用化できればそれだけで運送の歴史が変わる!!」
「そうであるな。カーゼス侯爵のいう通りだ、私もそちらに乗せてもらおう」
元々、見せる気であったし、彼らは迷いなく俺に続き運転席に入り込んでくる。
「中は意外と広いのですね」
「まだまだ試作機なんで今は削るよりも、機能を積みまくって利便性重視で作ってます。コストを削るのはいつでもできますけど、逆に拡張って言うのはそう簡単にはできませんので」
「なるほど」
俺と来客五名、そして静かについてきているエスメラルダ嬢の合計七名が乗ってもまだまだ余裕がある。
作業員であるドワーフや商店街の商人だった人たちも乗せないといけないから、見た目は少し小さい路面電車のようになっている。
俺が運転席につき、操作すればゆっくりとゴーレム列車は動き出す。
「馬車と比べて随分と揺れが少ないな」
「それに静かです。騒音という意味でもこれは素晴らしい乗り物ですよ」
線路という専用の通路を進むゴーレム列車の快適さに、感動している声が聞こえる。
「エスメラルダ、これはどうやって作っているか聞いても大丈夫な物か?」
「生憎と私は作っている現場を知りません。 ですが、仮に知っていたとしても教えることはできませんわ」
「・・・・・そうか」
そして親子であっても、しっかりと立場を明確にして線引きをし、理解する声も聞こえた。
「リベルタよ、これを王都に導入することはできるか?」
「利権関係を整理して、さらに管理体制を作って、あとは・・・・・技術漏洩とか、人身事故対策とか、資材の盗難対策とか、色々とやらないといけないことが多いですね。この列車一応設置型の施設なんで」
利便性を体感し、活用方法も容易に想像がつく、そうなってくるとやはり欲しくなるのが人という生き物だ。
ただ、交通インフラとしてこの設備を作れるのはこの開拓村を1から作っているからで、土地の利権問題とか一切気にしなくていいって言うのが正直一番大きいと思う。
「利権か・・・・・」
「この利便性を知りますと、色々と口出しが多そうですね」
その難関を知っているエーデルガルド公爵とカーゼス侯爵はそろって暗い顔になってしまった。
そこら辺は俺にはどうにもできない。
「その点に関してどうにかできるのでしたら、ある程度の技術供与はしますよ」
「・・・・・その時がくれば頼む」
「私もその際には協力します」
実際王都に鉄道網ができるか否かに関しては俺にはわからない。
将来的な話だし、関わると絶対に面倒なことになるのがわかっているからだ。
「っと、もうそろそろ着きますよ」
ゆっくりと走っても、人が歩くよりは断然早い。
そうこう会話しているうちに目的地である立体農地がある駅に着くのであった。




