24 来客
新年あけましておめでとうございます!
本年もよろしくお願いいたします!
今日も今日とて安全に作業に入るか。と、黄色のヘルメットを持って出かける前にエスメラルダから話があると言われ、執務室の方に移動して切り出された話は来客のことだった。
「え?公爵閣下が来る?」
「はい、近いうちに会えないかと」
もうそろそろ山1つが消え去りそうになったころに、エスメラルダを通じて公爵閣下が会いたいとアポを求めて来た。エスメラルダに預けられた一通の手紙とともに。
はて、今回は一体どんな要件だろうか。
わざわざ俺のところに来るっていうことは、間違いなく厄介ごとなのだろう。
「んー、良いよ。とりあえず、工事の方は順調だし、ドンたちも落ち着いたみたいだ。公爵閣下の予定に合わせるよ。ただ、まだ迎賓館とかは用意できてないよ?もし泊るとしたらモデルハウスの中から自由に選んでもらうことになるけど」
このタイミングで話を持ってくるということは大まかに内容には予想がつく。
おそらく外交官の話か貴族関連の話のどちらかか、あるいは両方だろう。
「逆に、好きな家に泊ってくださいという方が珍しいと思いますわ」
「それもそうか」
最近俺にしては平和な日々が続いていたから、いずれは何か起きるよなと思いつつ、この申し出を断った時に俺の何も知らない状況で物事が進んでいる方が嫌なので、ひとまずは受け入れる。
エンターテイナーたちにそろそろ諜報活動もしてもらうか。その点も踏まえてシャリアたちと相談しないと。
そんなことを考えつつも、ひとまずは今回の来客のことについて考える。
来客用の建物も建築したいところだが、現在開拓村は鉄道路線の階層に着工したばかり。住宅区画の階層まではもうしばらくかかる。
なので、いまだ中途半端な環境が続いているのだ。
エーデルガルド公爵閣下は、本来であればしっかりと準備して出迎えないといけない。開発中の開拓村であっても屋敷くらいは建てないといけない相手だ。
「とりあえず、来るのは公爵閣下とロータスさん?護衛がどれくらい?」
「いえ、転移のペンデュラムで連れてくるので父含め五名ほどですわ。お父様、ロータス、護衛の2人、それと」
しかし、こんな未開の辺境に客が来るとしても勝手にきたそっちの責任だよねと、今のところは来客用の宿すら作っていない。
幸いドンたちがたくさん作ってくれたモデルハウスが大量に残っているのでそっちに泊ってもらおう。
俺たちが住むっていう案もあったけど、そうすると自由に見れないから、女性衆に頼んで掃除だけしてもらって、あとは見学を自由にしている。
普通の都市部で空き家を放置したら誰か勝手に住み着くなんてことがありそうだけど、ここの開拓村の住人はみんな顔見知りだし、いま建設している立体都市の住宅階層が完成すればそこに理想の一軒家を全員分用意するって約束しているから、わざわざモデルハウスに住み着くなんてこともない。
だから、来賓はそっちに回せばいいかなあと思っていたのだが。
「王家の方から1人同行者がいると聞いていますわ」
「・・・・・そっちの方かぁ」
今回の来客はちょっと面倒かなと思い、思わずため息を吐いてしまった。
アジダハーカ討伐の報酬交渉の際の国王陛下と宰相閣下の対応を見る限り、俺に執着があるのはわかっていた。
そして諦めないだろうなというのもわかっていた。
だからこそ、公爵閣下を支援して、壁になってもらっていたがその壁を乗り越えて来たか。
「誰が来るの?」
問題は誰が来るか、一番面倒なのはやはり国王陛下その人だ。
ないがしろにしたらしたで問題だし、かといって親しくしたらそれはそれで面倒だ。
会いたくないとバッサリと断ればいいんだろうけど、そうなると王国からの移民を勧誘する際に面倒なことになる。
そういうことを考えると、今の微妙な関係というのはかなり都合がいいのだ。
可能なら現状を維持したい。
それができるのが理想だけど、どう考えても都合よくその通りになるケースの方が少ない。
一縷の望みをかけて、誰が来るかという確認を取る。
「マデト・ガーゼス様ですわ」
「おお!神よ!感謝します!!」
「いきなり祈りますの?」
「あの人なら大歓迎!!むしろ盛大に歓待しないとな!!」
暗くなりかかった気分は来客の名前を聞いて一気にハイテンションに。ここでもネルの豪運が発揮されたかとあたりを見回したが、ネルとアミナは先に家を出ていたことを思い出して、工事現場の方角にある窓を向き祈りのポーズを取る。
「知り合いですの?」
「俺が一方的に知っているだけ。南の大陸で一番医療関係に力を入れている人でしょ?孤児院とかにも定期的に健康診断のお医者さんを派遣して、街の衛生管理にも力を入れている」
「ええ、その方ですわ。王宮での宮廷医務官を務めているお方ですわ。社交界など華やかな場所にはあまりお顔をだしませんが、多くの貴族がガーゼス様には一目を置いておりますわ。特に怪我が多く、体が資本の騎士団からの支持は厚いと」
FBO時代のNPCの中でも、かなり有能なヒーラーキャラだ。
好感度を上げるには度の合った眼鏡を進呈するといいという、珍しい眼鏡キャラ。
女性人気も高く、そして貴族の中ではかなり善良。
ノブレス・オブリージュをこの世界で体現している数少ない人物だ。
貴族という選ばれた地位にいるからには人を助けるべきだと、権力闘争はそこそこにして医療関係に全力を傾ける人物だ。
実際彼のストーリーを進めると、疫病とか土砂災害とか、そういった誰かを助けるために動くという話が多かった。
お酒に弱く、女性に初心、という仕事一筋の有能キャラの微笑ましい弱点も高得点だという評価だ。
「その人が来るということは、俺に医療関係の話を聞きに来るのかね?」
そんな彼に向けての俺たちFBOプレイヤーからの愛称は、エリクサー生産RTA男だ。
いろんなゲームでちょくちょくと出てくる、回復薬の最高峰エリクサー。
最高峰ということだけあって、その作成工程はかなり面倒だ。
西の大陸では一応生産されていて市場にも流れてはいるが、あれは非効率極まりない高品質の材料を使ってのごり押しだ。
技術もくそもない、そして西の大陸の砂漠化状態の理由がエリクサーなのだから笑えない。
そんなエリクサー生産を技術力で実現し、環境破壊なしで最短時間で製作できるようになる人物がこのマデト・ガーゼスという男だ。
「こちらに、手紙を預かっておりますわ」
「本人から?」
「その家紋はガーゼス侯爵家の物ですわ」
ゲームでは一から、それこそ無一文の何もなし状態でスタートしてもマデトは、エルフというエリクサーを作るにあたって特殊な環境を用意できる種族を差し置いて、ストーリーでは最速でエリクサーを造ることができるようになる人物だ。
そんなチートキャラとも言っていい人物からの手紙をワクワクしながら受け取り中身を読めば。
「・・・・・あー、なるほど」
先ほどまでのハイテンションが、すっと引いていくのを感じた。
手紙が妙に分厚く、そして重かったから内容が非常に多い物だというのは察せて、読んでみたら彼らしい嘆願だった。
滅亡したボルドリンデ一族の北の旧領地の荒廃により、医療物資、施設の不足が深刻化している。
それによって起きる疾病発生率の上昇、孤児の増加に打つ手がない。ボルドリンデの反乱の後始末は進んでいるが、住民の生活環境の改善はすぐにはどうにもできないという実情。
はっきりと、国の手が回りきっていないという実情を事細かく書き、さらに現状こういうことをしていると活動内容を書きと「え、これ俺が見ていいの?」と思うくらいに国家機密が書かれていた。
最後の締めに、国王と宰相の許可を得て書いていること、そういう現状で貴族として未熟で力が足りない恥を忍んで、子供たちの未来を救うためにどうか力を貸してくれないかと綴られ、面会した際にアドバイスだけでもいただけないかと締めくくられていた。
「さてさて、どうしたものか」
エーデルガルド公爵はこの手紙の内容を見ているはず、そして問題ないと判断しエスメラルダ嬢に渡したということ。
事実、貴族権益に関することではなく、一般市民に対する救援を要請する内容だ。
本来であればそれをどうにかするのが貴族の仕事だろというツッコミが入る。
一応俺は一般市民で、現在進行形で独力で辺境を開拓している状態で、他人を助ける余裕はないと思われないといけないのだけど。
「まぁ、ボルドリンデを追い詰めた責任の一端はあるか……」
しかし現実は、食糧の自給率はすでにこの開拓村住人を支える分くらいは確保し、さらに余剰分も生産し始めている。
薬草も栽培し始め、ポーション生産を始めようかとも思い始めている段階での申し出。
手助けくらいはしてもいいかと思えるくらいには余裕はある。
いざとなれば、孤児を引き取っても良い。
子供なら教育次第では信頼できる人材に育成できる可能性だってある。
「うん、ひとまず来客は了解。日程の調整をしようか」
「わかりましたわ」
あとは当人と会ってから考えるか。
俺の知るマデトと、現実のマデトでは違いがある。
ゲームのマデトと、生身のマデト、思想に違いがあれば協力する度合いを調整する必要がある。
会うことを決めた俺の顔を見て、申し訳なさそうな顔をするエスメラルダ。
まぁ、断っても俺に責任はないが、この話を持ち込まれた段階で断れば後悔が残る。
「エスメラルダ」
「はい!」
「忙しくなるよ。まぁ、忙しくない日なんてなかったけどね!」
そんな情に訴えかけるなんて手段は貴族なら常套手段だ。
エスメラルダもそのことを知っている。
故に俺の感情を利用しようとする方法に心を痛めているのだろう。
俺はそれを卑怯とは言わない。
いや、今回のやり方は卑怯とは思わない。
それを卑怯といってしまえば助けを求める声全てが卑怯ということになってしまう。
できないから誰か助けてくれと願う。
それは社会で生きる人間の当然の行為で、権利だ。
ましてや、全力で何かを成そうとしている人間が求める助けなら、それは本当に手の施しようがないのだろう。
それを感情を利用した卑怯なやり方だと言いたくはない。
まぁ、俺が助ける道理もないのも事実。
されど、見て見ぬ振りができない程度には俺にも善良な心はある。
ニヤッと笑って、エスメラルダを励まし、
これは俺が選んだことだと主張する。
「・・・・・ええ!そうですわね!」
だから気にするなというメッセージに気づき、暗い表情から一転、いつもの綺麗な笑顔を見せてくれ、動き出すエスメラルダ。
「スケジュール調整と、支援物資の貯蓄を始めないと。ジンクさんと相談しないとな」
「わかりました。そちらの方の手配は私がやりますわ」
「頼むよ」
「ええ、承りましたわ!!」
さてさて、いつも通りにトラブルを解決していきますよ。
ガチプレイヤーは普通をやらない。
災害復興をゲームの中で行うなんて普通のプレイヤーなら基本は考えない。
「あとは・・・・・孤児と、母子家庭とかそういう手合いの生活保護が必要な家庭を受け入れる準備をしないとな」
「ええ、わかりましたわ」
「ひとまず、ドンたちに立体都市の建設を一時中断させて、避難民を受け入れる準備をするように指示をだして」
だけど、普通じゃないことを楽しむのが俺たち廃人プレイヤーなのだ。
ガチでやるからこそ、それが楽しくなる。
全力で向き合うからこそ、時間が溶ける。
「他にやることは・・・・・」
今回はたまたまその全力投球の先が人助けというだけのことだ。
そしてやると決めたのなら全力でやるのが俺のモットー。
「やるか、あれを」
馬鹿話に全力で取り組んできたからこそ、俺たちの手札は孔雀の尾羽のように大きく広がり、色々な彩りを見せられる。
ちょうどエリクサーの製作に向いた人材と縁ができるのだ。
ついでにここでのエリクサー生産手段も確立するとするかね。




