21 立体都市
ドワーフたちが加わり、開拓村はさらに賑やかになった。
「おい!どこのどいつだこの材料を切った奴は!!一ミリズレてんぞおい!!」
「ああ!?そっちの木材はそうやって切った方が他の木材との組み合わせがいいんだよ!!」
いや、賑やかと言っていいかは甚だ疑問だが、喧嘩腰であっても、しっかりと意見を言い合う。
それがドワーフ流というモノだ。
モデルハウス建設を依頼してから、すでに三カ月という月日が過ぎている。
立体農地のほうも試験運用が上手くいき、次々に建設され農産物の生産が種類も量も順調に増える一方で、開拓村のその近くの敷地には次々とモデルハウスが建ち並んでいる。
このドワーフたちは、予算という枠組みから解放されたら水を得た魚と言わんばかりに、次から次へと家を建てまくっている。
二十人一組、合計十組の職人集団による大量住宅生産。
全てのデザインが異なるゆえに、仮設住宅で先住していた住人達も興味津々だ。
「いやぁ、たくさん建てろとは言ったけど、まさかここまでアイディアを持っていたとは」
用意した土地は四ヘクタール。すでに住宅街といっても過言じゃないほど住居を作り上げても、彼らの熱意は衰えることを知らない。
それぞれに分配した土地には次から次へと住居が建ち、そしてその住居は全て趣が違う。
南の建築様式は異世界ファンタジーではお約束の中世ヨーロッパ風の建築で、ある意味では見慣れたものだ。
東の建築様式は江戸時代の武家屋敷をイメージした建築で、なんとなく俺個人としてはこの見た目が一番なじみ深くて落ち着く。
西の建築様式は中東方面の住居みたいになかなかカラフルな見た目で目を楽しませてくれる。
北の建築様式は、実用性重視といえばいいのだろうか?ただ一言「堅そうな箱」、そんなイメージが付与されるような建築形式だった。
まずは手始めにと作られた住居たちに加えて、さらにそれぞれの地方の様式を混ぜ合わせたような住居も作りはじめたら止まらなくなった。
来場する見学者からすれば、そのどの建物にも良さがあり、そして物足りなさがある。
「見た目は好きなんだけど、台所が狭いわね」
「なるほど、なるほど、どれくらいあればいい?」
「そうねぇ、うちは家族が多いから、その部屋と同じくらいは欲しいわね」
試作はあくまで試作だ。
商店街から来た人や、エンターテイナーたちの家族、ゲンジロウたちの家族と、世帯ごとにもともと住んでいた家は違う。
それぞれの住居で個性が出て、そして不満が出る。
ドンたちドワーフの職人は、このモデルハウスの見学に来た住人たちの意見を聞いてフィードバックをしている。
しかし、ただ一人の意見を鵜呑みにするのではなく、あくまで一人の意見として参考程度に収め、今後の家の建築のアイディアとして反映させる。
「調子は良さそうだね、ドン」
「リベルタ様、はい、毎日楽しく仕事をさせてもらってます」
「楽しむのはいいけど、働き過ぎには気をつけてね。他の住人たちから聞いたけど、日が暮れても作業しているって聞いたよ」
「うっ」
その勤勉さは良いことだけど、熱中のし過ぎには注意が必要だ。
好きなことって確かに夢中になって時間を忘れてしまう。
「家に帰っても、作業計画の話し合いの怒鳴り声が近所に響いて眠れないって、騒音のクレームも来てるよ」
これは俺たちのようなゲーマーならあるあるだ。
それだけなら苦笑し、体調のことを考えて注意して今後の改善を促すだけで済んでいた。
「・・・・・申し訳ありません。以後、気を付けます」
しかし、さすがに周囲に迷惑をかけるのは良くない。
だから、俺も珍しく険しい顔で注意をしに来た。
周囲に寄り添うように努力はしているが、熱中すると視野が狭くなる。
今までが、治安維持という形で住民と触れる機会が多いゲンジロウたち御庭番衆やジュデス、シャリアたちのエンターテイナー。
客商売故に接客こそが命綱の商人、人付き合いのプロフェッショナルといえるジンクさんたち商店街組と、周囲に迷惑をかけないことを常に意識できていた集団故にこの手の問題は起きなかった。
「しかし、そうなると工作が遅くなりますが」
「うん、そこら辺は調整しようか。俺も、いつまでにどれくらいの家を建てて欲しいって細かいところをドンに任せてしまったからね」
これは配慮を促さなかった俺にも問題はあったし、ドワーフたちの住居は新参者だった故に俺の周りから離れている場所で、俺には騒音被害がなく気づくのが遅れた。
徐々に騒音のハードルが下がり、徐々に声が大きくなったというのもあるし、仲間だといったん受け入れたドワーフの近所の人たちも、人となりを知っているからこそいずれ収まると思って注意するまで時間がかかったということもあった。
実際、ドワーフたちが怒鳴り合うのは仲間同士の仕事の話だけ。
ご近所付き合いに関して言えば、彼らなりに親切にしようと努力し、仲間に加わろうという誠意は見えていた。
挨拶はしっかりとするし、女性陣が重い物を持ち運ぶときなどはドワーフ衆が率先して手伝っていたり、食事の時なども作ってくれる女性衆には感謝の言葉を欠かさない。
他の男衆の仕事の際には、雑用仕事を手伝えることはしっかりと手伝いに行っている。
なんなら、戦える職人たちは最近では夜間警備の仕事も手伝っている。
「っ!納期が早まるのですか?」
「いや、どっちかというともっと納期を遅らせてゆとりを作る感じかな」
「遅くなっても良いと?」
「そうそう、早く良質な物を作るのは大変だからね。早くやろうとするとドンたちも休む暇がないし、夜も怒鳴り合って仕事を進めないといけない」
ゲンジロウやエンターテイナーたちからは、クラリスが連れて来ていたドワーフの戦士たちを知っているからこそ、ズシッとした重心の低さから来る戦闘能力の高さを知っている故に評価が高い。
職人故に集中力も高く真面目。仕事には真剣に取り組むから、ジッと立ち続ける見張り番も苦にしないことで御庭番たちからの評判も良い。
最初は大丈夫だったんだけど、一軒増え二軒増えとモデルハウスを作るのが楽しくなって、もっと良い物をと熱意を持ってしまったゆえに暴走してしまった弊害だな。
実際、クレーム内容も「良い人たちなんだけど、もう少し夜は静かにできないか」というやんわりとした感じのものだった。
だから、反省しているような態度を見せたドンに俺は険しい顔を緩め。
「早く成果を上げたいっていう熱意はわかった。だけど、無理をして成果を出して体を壊したら元も子もないからね」
「わしらドワーフは、そんな簡単には壊れませんぜ」
「うん、でも、ゆとりがあった方がいいのは確かだよね?」
「それは・・・・・」
「良い物を作るには相応の時間がかかる。手間暇を惜しんで良作は作れず。それを俺はわかっているから」
「!」
その熱意の理由が、この場所で自分たちが役立つ存在だと認知させたいという欲求の空回りだというのを察して、優しく伝える。
「大丈夫、ここの人たちはそんなにすぐに成果を求めるような気の短い人たちじゃないから」
もともとドンたちは権力者と折り合いが悪かった。
その理由もクラリスから聞いている。
権力者たちは技術者たちが簡単に名作を作り出すように見え、それならもっとコストを下げ、短い納期で量産できるのではと考えた。
大規模工房であれば、多少は対応できる。
実際に対応して見せた。
しかしそれが、中小の工房にはできなかった。
同じ職人ならできるだろう、と一括りにみなされ、成果を出さないのなら評価を下げる。
よくあるワンマン経営で見られるブラックな判断だ。
俺がFBOのトラブルは大半が人災だというのはこういう連中が跳梁跋扈しているからだ。
ドンが日本人のように社畜気質であれば残業などで対応したりするのだが、できないものはできないとはっきりモノ申すドワーフ故に、上の印象が悪くなってしまった。
できないのは職人が悪いと決めつけての排斥、その結果の弱い立場。
ドンたちが結果を気にしているのはそういう経緯がある。
怒鳴り合うのも、結果を出そうと一生懸命になるから。夜中まで討論するのは、眠ろうとすると過去のトラウマが蘇るから。
クラリスがその辺を踏まえて、助けてくれないかと頼んできたときはどうしようかと悩んだが、結局のところドンたちは真面目だし、腕もいい。
そこら辺の事情を加味しても、彼らの人柄から、すぐに結果を出さないからと追い出す西の権力者のような気にはならなかった。
レベリングも、戦闘スキルを持たない職人ビルドや、半戦闘半職人ビルドで頑張ってくれている。
「大丈夫、焦らず行こう」
「・・・・・はい!リベルタ様!」
ドンたちは被害者だ。
信用することを恐れている。
クラリスという神託の英雄の少女の言葉でも半信半疑だったのだ。
出会ってそう時間のたたない俺のことを信用しようとしているが、実際成果を出さないと自分たちは信用されないと思っていた。
この絶妙な感情が空回りを引き起こしていたということだ。
その空回りの歯車を調整するのは、この町の責任者である俺の役目だ。
彼らのやる気が万全の力となった時は、今以上の力が発揮できる。
「さてと!暗い話はここまで!」
実際、注意が本題じゃなく、ここから話す内容が本題だ。
パンと手を叩き、少しでも空気を入れ替える。
そしてマジックバッグから、設計図を一枚取り出す。
「それは」
「うん、ドンたちが作ってくれた立体都市構想、良くできていたよ」
これはドンたちの努力の結晶。
俺の言葉を汲み、彼らの知識を総動員して作った町。
「全部で五階層に分かれた町。地下にライフライン、一階に軍事拠点及び緊急時の市民の避難施設、二階に俺が提案した鉄道網を使った物資及び人員の輸送線、三階層に工房が集まる工業区と商業区を併設、そして最上層に住宅区を作る」
一言で言えば、自給自足ができる巨大要塞といった感じか。
城壁で箱状に囲んで、さらにまだ建築物が少ない状況だからこそできる発想だ。
「立体農地に関しては出入り口を制限して、関係者以外は下層の軍施設とインフラ区画の方には入れないようにし、輸送区画から商業区画へは重点的に物資を搬入できるようにした設計」
色々と計算式が書き込まれ、本当に考えて考え抜いて作った構造なのだろう。
城壁をさらに高くしないといけなくなるが、その分だけ防衛設備としてはかなりの物になる。
階層移動手段では大型のスロープと、ファクトリーゴーレムについていた昇降機を大型化することで対応。動線もしっかりと考えられ、犯罪の温床になるようなスラムが作られそうな死角もない。
鉄道網を第二階層で独立させることにより、線路で他の移動が妨げられることもないし、列車事故を最小限に抑えることができる。
独立しているがゆえに、ダイヤの乱れも最小限に抑えられる。
将来的にはこの高さを基準にした高架橋鉄道網を構築することもできる。
密閉空間による閉塞感は、太陽石による光量の確保、サーモコントロールとエアクリーンによる温度管理と空調管理でカバー。
生活環境を一番開放的である屋上階に持っていくことで閉塞感を緩和。
強風対策は壁を作ったり、それ専用の魔道具を用意したりと対応策も書いてある。
「さらにそれに加えて、建築物に付属した魔道具やその他設備に対する整備プランとマニュアルも見させてもらった」
これらを全て実現するとなるととてつもない額になり、素材もとんでもない量になる。
だが。
「作ろうか、この町を」
俺は笑顔でこの計画にゴーサインを出した。




