19 職人
快挙!総合年間ランキング4位!!さらにはハイファンタジー年間部門で2位!ここまで本作を応援してくださった皆様に感謝を!!
一年前はここまでくるとは思っていませんでした
FBOプレイヤーの中にも職人気質という人は結構いた。
俗にいう、こだわりの強い人というやつだ。
ドワーフという種族は、多くの異世界ものの物語のイメージ柄そういう目で見られやすい存在だと俺は思っている。
実際プレイしていたゲーム内でも、酒と鍛冶に関してはこだわりが強い連中という印象が残っている。
なので、そのドワーフたちを出迎えるにあたって、色々と注文を付けられるかなぁと思い、事前に備えはしていた。
「「「「「「・・・・・」」」」」」
「あれ?足りなかった?」
開拓村に着いた当初は設備説明をしたが、驚きすぎた彼らが頭を整理するために、ひとまず宿舎である仮設住宅に案内した。
ここにいるドワーフは全員独身の男女ということで、男同士で雑魚寝を所望するドワーフもいれば、数少ない女性ドワーフは個室を所望したりと、ひとまず希望通りに住居を与えた後は、エールの入った樽を渡して「翌朝に仕事の話をしよう」ということで解散。
酒を飲んで次の日に二日酔いになっている奴がいないのは、さすがドワーフだ。
空になった樽は外に出しておいて欲しいと言っておいたら、全部外に出ていた。
ということは全部飲んだということだ。
なので、全員足りなかったのかと思って聞いてみたが、皆神妙な顔で黙りこくってしまった。
精霊たちが拵えたエールだ。
不味いってことはないと思う。
パターン的には、「何だあの酒は!?」と掴みかかる勢いで迫られるのを想定していたのだが・・・・・
「リベルタ様」
「お、なにかあった?」
そんな沈黙を破ったのは、ドワーフたちのまとめ役であるドンだ。
「わしらに、できることはあるのでしょうか?」
神妙な顔で、そして切実な願いとして答えを求めている表情は、濁した回答を返してはいけないということがわかる。
「昨日見せてもらった施設のどれもがわしらには思いつかぬものばかり。そしてリベルタ様のお持ちになっている武具を見れば、わしらでは到底作ることが叶わぬ一級品の品ばかり。こんな場所でわしらができることが本当にあるのですかい?」
やりすぎた。
ドンの言葉を聞いて、背中に冷や汗が流れた。
負けん気が強いドワーフたちだからこそ、この開拓村の物を見ればもっとやる気になるかなと、何も隠さず見せた結果、技術格差に気圧されてしまったようだ。
「ある!」
なれば、その自信を立て直すのが俺の役目であろう。
胸を張り、嘘を一切言わないと覚悟し、ドンの瞳を見つめる。
「この町には何もかも足りない。建築知識を持った人も少なければ、武具を作り出す鍛冶職人も足りない。家具を作る人も少なければ、農地を管理する人も少ない!」
ない、ない、ないと言っているだけで少し悲しくなるが、この町の実情なんてそんなものだ。
見た目だけは急速に発展しているように見えるが、住む家すらまだ仮設住宅だ。
「そんな中に、ドン、君たちが来てくれた。もの作りということに関して、君たち以上に適任者はいないと俺は思っている」
そんな折に、作ることに関して熱意を持てるドワーフたちがやってきたのだ。
おべっかでこんなことを言うわけがない。
俺はドンの肩に手を置いて、ニッと笑う。
「クラリスからの推薦ってだけじゃない。この町に来た時、ドンたちはこの町から必死に何かを学ぼうとしていた」
語るのは昨日の出来事。
「何も知らない土地で、未知の場所で、何かを成し遂げてやるっていう気合。あれはすごかった!」
物を知りたい、その技術を吸収したい。
今は、俺が出している知識による技術格差で気後れしてしまっているけど、元来の性格は最初に見せていたあのやる気だろう。
本音って、言葉が短くなっちゃうけど、その分だけ伝わりやすい。
じわっとドンの瞳に涙が浮かぶ。
「あの熱意に俺は期待しちゃってるんだ」
「リベルタ様」
「挑戦してみてくれ、失敗はとりあえず気にするな。なぁに、よほどのことが無ければいくらでも挽回は利く」
何かを成すのは努力をする人だ。
職人っていうのは、その努力を積み上げた先にいる存在だと俺は思う。
「うっす!精一杯やらせてもらいやす!」
「それでこそだ。なに、安心しろ、足りない部分はしっかりと学んで成長していけばいい」
しんみりした空気はここで終わり、パンと頬を叩き、気合を入れたドン。
その背後にいた面々も、各々自分の方法で気合を入れ直した。
「ひとまず、やってほしいことは町の建設だ。とにもかくにも住む場所が定まらないと何もできないからな」
「うっす!幸い、見たところこの場所には木材も石材も困ることはなさそうですので、作ることは難しくはないかと」
その目に宿るやる気に俺は深く頷き、プロの目付きとなった彼らに町作りの方針を伝える。
「そうだね、材料はある。そしてもう少しで下水工事も終わるから、建築も始められる。ただ問題が一点」
「問題?」
「デザインだ」
「「「「「!?」」」」」
町とはその人が生涯住むことになる拠点だ。
俺が効率重視で造ると、それはまぁ、見た目がシンプルな建物が並ぶ味気ない町が爆誕する。
それはそれで愛着が湧くかもしれないが、さすがにそれでは味気ないだろう。
砦は見た目よりも機能性優先でやれば機能美の極致みたいな見た目になるから妥協できる。
だけど、さすがに自分の家となるなら趣味を出して、「ここに住みたい!」っていう感じの家を建てたいじゃないか。
「一応、区画割りはできているんだ。住宅区画と工業区画は対になるように町の対角線に設置する」
「へい、さすがに工業区の騒音を住宅区に持ち込むわけにはいきませんな」
そういうデザインが出来なくはないんだけど、さすがに本職には劣る。
俺個人の趣味を全開にすることはできるけど、どうせなら全体の景観のバランスをとって、町全体が美しく一つの絵画のような光景になる、それを目指したい。
「緩衝地帯として、商業区を間に挟むことで騒音対策をしたいんだ」
「それが妥当ですね」
「あとは、犯罪を防止しやすいように死角を極力減らして」
「なるほど、町作りの段階から考える防犯という考え方ですか」
「そう、警備員の詰所の位置とかスラムができにくいようにしたりとか」
「あとは細かい道を作らないとか、他にも方法はありますぜ」
「なるほどな」
ドワーフたちが集まる場所にはあらかじめ大きな机を用意してあり、そこには町の図面が描かれた大きな模造紙が広げられている。
俺たちはその机を囲むように位置取り、模造紙の図面の上に次から次へとアイディアを盛り込み、町の区画を割り振っていく。
「歓楽街も作るんですかい」
「ああ、必要だろ?」
「たしかに、必要ですな。ですが、その分治安がわるくなる可能性も」
「そっちに関しては、うちの手勢を管理者にあてるからならず者がはびこる心配はないよ」
そんな折に、男なら大歓迎の歓楽街のことを書き込むと、意外と言わんばかりに見られた。
歓楽街は何も、娼婦とかの店がメインというわけではない。
酒を提供したり、劇場などの健全な娯楽を用意したりと、娯楽施設が集まる場所だと認識してほしい。
「ただ、しばらくはギャンブルは禁止だよ。公営のやつはいずれは用意するつもりだし、違法賭博は徹底的に取り締まっていく」
その中で一番取り扱いが難しいのがギャンブルだ。
中毒性もあるし、借金の温床になりやすい施設。
こればっかりは必要かどうかの判断が難しい。上手くやれば資金源にもなりえる存在だけど、俺は時期尚早だと思っている。
「その方がいいですぜ」
「意外だ。残念がると思ってたけど」
「あるかないかで言えばあった方が楽しめるとは思いますぜ。ただ、やっぱり、借金とかで首が回らなくなった奴も知ってるんで」
そのことに反対意見が出るかと思ったが、ドワーフたちは意外にもその意見に賛同してくれた。
「俺たちは酒が飲めればそこまでギャンブルにこだわりがないっていうのもあるんですがね」
「なるほど、今ブドウ畑と大麦畑を拡張しているから、いずれこの町で造った酒が飲めるよ」
「でしたら、酒蔵も拵えないといけませんな。それもうんとでかいやつを!」
「いいね、酒は売れる。うまい酒ならなおのこと売れる」
「「「違いねぇ!!」」」
それはドワーフの性格の問題だったかもしれない。
ドワーフたちはギャンブルにつぎ込む金があるなら、それで酒を飲む。
故にギャンブルに関しては消極的で、逆に酒に関しては積極的に発言している。
段々と本調子が出てきたのを見て、俺の口元にも笑みが浮かぶ。
ジンクさんとコンビを組ませたら、一大酒市場が爆誕しそうな予感を感じつつ。
「いずれは鉱山の町と港町も作るからな。売り物の種類は多いに越したことはないな」
「ほう、リベルタ様はそこまで見越しているので」
「伊達にこんな辺鄙な場所を狙って町を作ってないよ。鉱山の目星もついているし、港町の建設地の目星もついている」
「ほー!!!」
まだまだ作る物が多いと聞けば、ドワーフたちの熱意も上がる。
「こりゃぁ!十年先まで忙しくなりそうですぜ!」
「そうそう、だから落ち込んでいる暇なんてないよ。やることはいっぱいあるんだから」
「へへへ、そうですな!」
その熱意があれば、生産職育成ブートキャンプもしっかりとついてきてくれるだろう。
スキルビルド上、生産職は戦闘能力が格段に落ちてしまう。
その分もの作りという点に関しては、戦闘系ビルドが逆立ちしたって敵わないようなものをあっさりと作ってしまう。
手始めに、クラス5の生産ビルドチームを作り、その能力をもってして町を完成させる。
「区画分けはこんな感じで、良いとして」
百ヘクタールという広大な土地をどうやって使い分けるかは、俺が主導しているからスムーズに決まった。
人の動き、物流の動線、警備のしやすさ。まだまだ改善点は多いけど、それでも概要は決まったと言える。
「問題は街全体の景観イメージというやつで?」
「そうなんだよなぁ」
そしてさっきも触れた、町全体の統一感を出す景観デザインの方向性で俺は腕を組み悩む。
デザインとして考えていたのは王道のファンタジー風中世ヨーロッパの街並み。
これなら無難だし、受け入れやすい。
次点で、ゲンジロウたちの住んでいた東の大陸の街並み。江戸の町みたいな和風テイストと言えばいいだろうか。
効率重視で言うのなら、箱型の建物が均一に並ぶ街というのもありといえばありだ。
一回方向性を決めてしまえばあっという間に作ることが出来そうなのだが、一回作ってしまうと修正が効きづらいのがネック。
「リベルタ様ならてっきり決めているもんだと思ってたんですが」
「即断即決ってわけにも行かないでしょ」
「それでしたら、町民に聞くというのは?」
「それもやった。だけど、さすがに町を設計したことはないからみんななんとなくとしかイメージがわかないんだよ。まぁ、一人とんでもないアイディアを出した人もいたけど」
だからこそ、みんなの意見を聞こうと最初にやったけど、ネルやアミナは王都みたいなイメージ、イングリットとエスメラルダ嬢は貴族街みたいなイメージ、クローディアはいろいろな街並みを教えてくれていたけど、どこも似たり寄ったりだ。
テレサさんたち女衆からは、清潔感とあとは良い感じで、という何ともアバウトな意見を貰った。
「とんでもないアイディア?」
「そうそう、伝説の遺跡が元々の姿はこうじゃなかったのかっていう古代の町」
その中で一人、こんな町に住みたいってアイディアを出したのがシャリアだった。
冒険者として色々な遺跡を巡り、その際に知り合った仲間からもらった一枚の絵画。
その町は、なんと東京のような街並みだったのだ。




