18 びっくりドワーフ
ここ最近は驚くほど時間の経過が早い。
ちょっと前までは暑かったのに、最近は少しずつ涼しくなりつつある。
「立体農地の建設も順調、水源用のため池も順調に開発が進んで・・・・・」
開拓村という名の仮設住宅地にある俺の部屋で黙々と書類確認。
最終ゴーサインは俺にしか出せないからそれは仕方ないことだが、書類で確認する毎に開発地とこっちの村とのギャップは日に日に大きくなっていくのが分かる。
町としての実働はまだまだ先の話だが、広大な町域を囲う城壁は着実に完成に近づき、開拓村と開発地、立体農地とさらにため池と、城壁内で自給自足ができるような環境を着実に囲いつつある。
目標は小田原城みたいな自給自足の城塞都市型の町だ。
そこにダンジョンを城塞都市内に展開して魔石資源やモンスター資源を確保できるようにすれば、鬼に金棒といった感じで生活環境が向上するが、あくまでこの目標も小目標で通過点に過ぎない。
用意している設計プランにはさらに拡大要素が盛り込まれていて、最終目標にたどり着くには一体いつになるのやら。
「試験運用の立体農地の報告書は・・・・・とりあえず、腹持ちのいい芋類からスタートして経過は順調っと。この経過が良ければ次は小麦と大麦、さらに野菜類か。それで結果がよければ次は鶏だな」
しかし、そんな目標があるから毎日が充実していると言っていい。
一カ月ほど前にゲンジロウたちの一族を迎え入れて、さらに人手が増えて作業の幅が広がったのが大きい。
うちの住民たちはみんな働き者だから、へんなトラブルもない。
衣食住の生活基盤がしっかりとしていて安心して住めるし、さらに娯楽としてこの前のゴーレム劇場を公開したら中々の好評ぶりだった。
演目によって老若男女の受けが変わってくるが、そこはそれ、観たことのない物語ということとゴーレムが演じるという新鮮さで、週一の楽しみとして定着している。
お酒を飲みながら、あるいは菓子を摘まみながら見れる舞台として住民たちの息抜きになっている。
面白半分に、友情、努力、勝利の要素を備えた某週刊漫画誌の有名どころの作品を公演したら、さすがと言うべきか一番人気に躍り出て、四作品でトップ争いをしている。
そういう感じで娯楽も提供しているから今のところ問題らしい問題は起きていない。
かといって、不平不満が全くないというわけではないだろうけど、細かいところを気にしすぎていたら身動きが取れなくなる。
この世界の常識を真っ向から否定するような日常を送ってはいるからか、仕事が多く忙しい住民たちも毎日刺激を受けられて楽しそうにしている。
全てはさすがに手が回らないとしても、できうる限りのことはするというやつだ。
「リベルタ!ドワーフさんたちが来たわよ」
「おっと、もうそんな時間か」
忙しないが、楽しいと思えると時間は湯水のように消えていく。
「ゲンジロウ、行こうか」
「はっ」
ネルが呼びに来たということは、すでに城門のほうにクラリスが紹介してくれたドワーフの集団がついたということになる。
さすがに直でここに来るということはできない。
手続きの関係もあるし、何名かは公爵閣下の方に分けないといけない。
なので西の港から王都に立ち寄り、そしてここに来るという経緯があるから到着が遅れたというわけだ。
俺に護衛が必要かはわからないが、いざというとき用にということで今日はゲンジロウがそば仕えとして一緒に行動してくれている。
エンターテイナーたちは工事作業員の護衛と周辺地域の調査の仕事をしているからそばには居ない。
最近密偵がちらほらと出始めているから、エンターテイナーたちの人員も補給したいんだけど・・・・・暗部は信頼第一だからなぁ。
中々増やせないんだよ。
「なにかトラブルとかあったか?」
「トラブルって言うほどのことかわからないけど、城壁を見て驚いていたわね」
ドワーフたちが来るからといって総出で出迎えるわけでもない。
静かに背後に付き従うゲンジロウと、来訪を知らせる伝令役になってくれていたネル、それに加えて俺がドワーフ一行を迎える面々だ。
開拓村の作業を止めると後日の予定にも支障が出るので、現在進行形で工事は進んでいる。
アミナはゴーレム作業の要だから、今日も現場に行っているし、サポートでイングリットも向かっている。
クローディアは今日は神殿を誘致するために総本山の方に出向いているから、今はこの村にはいない。
エスメラルダは試験運用している立体農地の視察に行って、農地管理人と今後の作物の打ち合わせをしている。
「そうだろうそうだろう!渾身の力作だからな!」
なので、ドワーフたちの出迎えは俺がするというわけだ。
道中の護衛で御庭番衆を向かわせているから、何も問題なく来れているだろうけど、予想外というのはどこにでもある。
この開拓村(?)がいい例だ。
どどん!と効果音がつきそうなほど巨大な城壁で出迎えたら、驚きの一つや二つは出てくる。
そこで、アドバンテージを得ようとは思わない。
さりとて自慢したいという気持ちもあるにはあるのだよ。
そんな気持ちを心の中に秘めて、進む足取りは軽い。
互いに事前情報があるから、スムーズに話は進むだろうなと俺は気楽に城門となった場所に向かったのだが。
「何事?」
そこにはまさかの光景が展開していた。
ガヤガヤと騒がしい城門。
そりゃ、200人近くの人間がいればその一帯は騒がしくなってもおかしくはない。
問題なのはその騒がしさが、城門の前じゃなくて城壁のすぐそばで聞こえることだ。
本来であれば城門の外を見ればそこにドワーフの集団が待っているはず。だけど、そこにはドワーフの集団はおらず、城門から外に出て左の方に方向転換するとようやく視界に入ってきた。
「なんじゃこれは、話は聞いておったがまさかここまで発展しているとは・・・・・」
「クラリス様からとんでもない方だと聞いてはいたが、すでに城壁が完成しているとは・・・・・」
「いや、護衛の話を聞いておらんかったのか?これでもまだ未完成だと。となると、これ以上の物が出来上がるということか?」
「うーむ、この継ぎ目のない綺麗な城壁、登るには梯子が必要だが・・・・・」
「高さだけでも30メートルはあるぞ、横は・・・・・果てがかろうじて見える程度か」
城壁にへばりつき、城壁その物を観察し続けるドワーフの集団。
ぺたぺたと触るのはまだ優しい方で、ノミを取り出して削ろうとする輩もいる。
なかにはスコップを取り出して地面を掘り返そうとしている奴もいる。
さすがに後ろ二つのそれは護衛の人が止めてはいるが、俺が来たのにも気づかず観察を続けるのは、前に会ったドワーフの戦士とは違い職人だと思わせられる光景だ。
「おい!御屋形様が来られたぞ!!」
ゲンジロウの代わりにこのドワーフの集団の護衛をしていた御庭番衆のまとめ役が、ゲンジロウの視線に気づき慌ててドワーフのまとめ役の肩を叩き注意をする。
「おお!この城壁の主か!ちょうどいいところに!!」
このドワーフ、俺が雇い主ということを忘れていないだろうか?
キラキラとした興奮した目つきは、職人らしいといえば職人らしいが、彼らの背後であわあわと慌てる御庭番衆と、俺の背後で俺に失礼を働こうとしているドワーフに向けて眼光を鋭くし始めるゲンジロウ。
「まずは挨拶から。初めまして、この開拓村という名の、将来街になる領地の長をやっているリベルタだ。あなたたちが、クラリスの紹介できたドワーフたちで間違いないか?」
とりあえず、二人に大丈夫だと頷いて見せて、落ち着かせてから目線をドワーフの職人衆のまとめ役、仮称親方にむけると、『あっ』と声を漏らし、慌てて姿勢を正している。
「し、失礼しやした。わしが、このドワーフ衆のまとめ役のドン・ドルトンっていいますわ」
「ドンと呼んでも?」
「へい、構いません。こちら、クラリス様からの書状です」
よほど失礼があってはいけないと言われていたのだろう、俺の挨拶でハッとなってからは冷や汗をだらだらと流しながら、慌てて姿勢を正し、大事に持っていた鞄から綺麗な箱を取り出し、前に差し出した。
「御屋形様、問題ありませぬ」
「ありがとう」
本当だったら俺が直接受け取りたいところだけど、まだ身内じゃないということでゲンジロウがその箱を受けとり安全を確認。そして箱を開け、その中身を取れるように差し出してきた。
綺麗な封筒に、クラリスの氏族の紋章が描かれた封蝋。
それをペーパーナイフで切って開けて中身を見れば、季節の挨拶に始まり、社交の言葉が繋がっている。
要約すれば『お元気ですか、自分は俺から学んだことで元気にやっています』ということになる。
まぁ、色々と老人たちとドンパチやっていて元気といえるのなら何よりだ。
そして次の話題は、このドワーフ衆ということで、選抜基準は腕よりも人格的信頼性に重きを置いたようだ。
下手に政治面で関わってきたドワーフというより、その政治面から距離を置いて冷遇されていたドワーフたちを集めたとのこと。
さっきの城壁への興味、そしてそこからどうすれば造れるかと考察する姿勢。クラリス自ら面談し、新天地で真面目に仕事をこなせるドワーフを集めたという書状の文言からも、ドンたちドワーフ衆が仕事に関しては真面目だろうというのは間違いない。
性格面で少々すり合わせは必要だろうが、きちんとわきまえる部分はあるということはわかった。
実際、親方が俺に対応し始めてから慌てて後ろの方に整列し始めていることから、ここで真面目に働きたいという意志は感じ取れた。
なので、俺が手紙を読み終えて、びくびくと少し怯えている親方ことドンに向けて笑顔を向けて。
「うん、遠路はるばるご苦労様。俺たちは貴方たちを歓迎するよ」
歓迎の言葉を投げかける。
それだけで、ほっと安堵して肩を叩き合うドワーフたち。
俺はこういう職人気質の人たちは正直に言えば好きだ。
真剣になる方角が鋭すぎて、他のことがないがしろになりがちだけど、逆を返せばそのことに関しては人生を賭けているということだ。
彼らの情熱を大切にすれば、彼らも俺の期待に応えてくれる。
信頼関係を構築するにあたっては、作りやすい人たちだと俺は思う。
「まずはゆっくりと休めと言いたいところだけど、城壁やその中が気になって落ち着いて休めないだろ?」
「あははは、はい」
実際、長旅の疲れで休みたいという気持ちよりも先に、早くこの城壁を調べたり中でどんなことをしているか気になって仕方ないという気持ちが見え隠れしている。
「なら、ぜひとも俺たちが作っている町を見てくれ。そっちの方が後々仕事に関しても話し合いがしやすいだろう」
「よろしいんで?」
「ああ、今はインフラの整備をしている最中だからな、それに関しても意見が聞きたい」
なればこそ、ここで無理に休ませるより、しっかりと見せてから休ませた方がいいだろう。
護衛の御庭番衆たちには悪いが、このままドワーフ一行を引き連れて建設途中の工事現場へ移動を開始する。
そこからは彼らは驚きっぱなしだ。
まずは城壁を超えた先にある広大な、開拓された土地に驚き、次に驚いたのは山の方から下りてくるブロックゴーレムたち。
さらに立体農地の運営の仕方に驚き、最後に現在進行形で進んでいる地下の下水処理施設に目を見開いて驚いた。
驚きの連続に疲れるかと思いきや、驚くたびに真剣に自分たちは何ができるかを話し始めた。
それこそがドワーフの職人だと言わんばかりに積極的に意見を交わす姿を見て、俺はこの先の工事がさらに良いモノになると確信するのであった。




