16 山崩し
ついに、ついに明日で一周年
皆様のおかげでここまでこられました!
正直に言えば、残り半年付近からは応援に元気づけられ、足りない分は気合と根性で走り抜けたという感じです(汗)
明日は皆さまに感謝して、一周年記念のSSを投稿します!
そちらも楽しんでくだされば幸いです
『安全な街は、安全な地盤があってこそだ!』とは俺のFBOでの友人の言葉だ。
いや、それ、家を作るときの話じゃないのって、あまりの規模の大きさに仲間内で苦笑した記憶がある。
だけど、現実化できるかはさておきしっかりと安定した地盤の上に町を建設すれば、確かに安全な町を作れるのは間違いない。
「監督!こっちの方掘り終えました!」
「よーし!次は西側の応援に行ってくれ」
「わかりましたぁ!」
安全第一と漢字で書かれた黄色のヘルメットを配布して、全員の作業員が特注の作業着で作業する中で、俺の視線はたった一ヶ月でできた大穴を見つめている。
人間、しっかりと教え込めば効率的に仕事ができるようになるものだ。
平面の面積で言えば、縦横ともに一キロとかなり広大な縦穴。
深さも二十メートルほどになっている。
そんな広大な穴をゴーレムというチートを使ったとしても、僅か一カ月で作り上げてしまうのは単純にモチベーションが高いからだろうな。
穴自体の掘削はそろそろ終わり、並行して補強作業も進めている。
まっさきに補強にとりかかったのは地面だ。
10メートルの厚さのブロックゴーレムでの地盤補強を入れ、地盤強化を図った。
ブロックゴーレムの素材には弱者の証を混ぜ込んでいるから、壊れない地盤が爆誕している。
いや、本当に弱者の証は便利だ。
精霊たちに頼んで大量に確保してもらっているうえに、王都や他の都市で売っている弱者の証を根こそぎ市場から回収している。
ほとんどが捨て値で販売しているし、場合によっては無料で回収できてほくほくよ。
未開の大地に新たな都市を建設するにあたってまず必要なのは、地震や豪雨などの災害に強い安定した地盤だ。壊れない地盤とか最強かよ。
加えて、周囲の壁面も厚さ5メートルのブロックゴーレムの壁を敷設している。
この地下空間は、町の地下に作る下水道を配置するための空間だ。
人間の生活には清潔な水が必須、そして汚水管理も必須になる。
汚水処理が万全じゃないと疫病の原因になるし、汚水を周囲の土地に垂れ流しにすると自然破壊になる。
なので、町の下にすべての汚水を管理できる施設を作るわけだ。
その地下施設の上に作る町を支えるための構造物を、弱者の証で造ったブロックゴーレムで形成する。
本当に持つべきものは建設業界出身の友人だな。
ゲームならではの発想でこんな都市開発システムを構築してしまうんだから。
FBOのゲーム内の町作りでよくアドバイスをもらっていて、その知識が活かせているよ。
「でも、このまま作業してもいいの?ゴーレムを作れば作るほど穴が大きくなっていくし、城壁も一緒に作ってるから穴を埋めきれるほどのゴーレムは作れないよ」
図面を見つつ、工事の進捗を確認する以外は割と暇なのだ。
ゴーレムの出し入れをする必要があるから、アミナは常に俺の隣にいるのでこうやって雑談をちょくちょく振ってくる。
護衛で御庭番衆が三人ほど俺とアミナの周りにいる。
ネルはコマンダーゴーレムを操作してこの穴を取り囲むための城壁作成に回っている。
クローディアとエスメラルダは、今日は公爵閣下への報告とドワーフの移民の受け入れの手続きために転移のペンデュラムを使って王都の方に出向いている。
イングリットは今日は村にいる女衆と一緒に、食事の支度や食料の配分についてまとめてくれている。
そろそろゲンジロウたちの一族が来るから、彼らの家の配置と配分を変えないといけないしな。
ドワーフの受け入れ態勢も整えないといけないから中々忙しいのだ。
それでも開拓は進めていかないといけない。
本当に開拓って大変だなと、一般的な開拓を知る人たちからはクレームが入りかねない大規模な開拓地の開発内容を思いつつアミナの疑問に答える。
「ああ、大丈夫。ゴーレムの素材は唸るほどあるから」
ブロックゴーレムの素材は掘り返した土や石だ。
それを錬金術で加工して一定の強度を持ったレンガに変えている。
その工程で圧縮加工も入るから、当然掘削し採取した土よりも体積的には小さくなってしまう。
さらに、この大穴をぐるっと囲うような形で巨大な城壁を構築しているのだから、埋める分の質量がない。
「ついでに平地もゲットできるから一石二鳥っていうやつだな」
「平地も?でも穴を掘ってるだけじゃ平地なんてできないよね」
となれば他所から新たな土を持ってくる必要があるのだが、普通にファクトリーゴーレムを使うと平らな部分は全て穴になってしまう。
「あるだろう、平らじゃない土地が」
「え、もしかして」
「そう、うちの領地の中で一番面積を取っているでっかい素材が」
しかし、幸いなことに俺が王様から強請った土地には、そこら辺の問題を解決してくれるものがたくさんある。
俺が指さした方向をアミナが見れば、目を何度か瞬かせたあとに俺を見て、視線で本当にやるのか?と聞いてくる。
「ああ、ここから先、町を作るにしても、国境線に沿って城壁も作るにしても素材はいくらあっても足りないんだ。ある物は有効活用しないとな」
若干、アミナの口元が引きつっているようにも見えたが気の所為だろう。
「幸い天気もいいし、ゲンジロウたちに頼んで手前の『山』の山頂までの道のりは確保できている。さっそく明日から取り掛かるぞ」
普通、常識人なら山を切り崩すどころか、山そのものをごっそりと無くすなんて発想は思い浮かばないだろうなぁ。
現状の開拓地では掘った分の土は全部城壁や地盤の補強に使っていて、そろそろ掘削できる土地も少なくなってきている。
まぁ、そんな常識を真っ向からぶっ壊すのがFBOプレイヤーだ。
空を見上げ、雨雲1つない快晴に満足しつつ、明日の遠足を待ち遠しく思うのだ。
そうして、その日の作業を終え、明日の予定を伝えた。
山を崩すというか、全て掘り上げると言ったら、愕然とされたけど、できるからやるだけなんだよな。
山の高さは中々の物、そしてモンスターもいたらとてもじゃないが進むことは難しいが、そこはきちんと対応している。
登山するだけで時間がかかるかもしれないが、クレーンゴーレムを利用すれば一気に作業員は輸送できる。
事前に山のモンスターたちは封印措置をしてあるからリポップする心配もない。
なので、あとは普通に山を削るだけだ。
ハーベスタゴーレム、ロードローラーゴーレム、そしてクレーンゴーレムも同時に出して、山体から切り出された素材を次々と運び出す。
この日のために三機のゴーレムのコンビネーションをとって一気に動かせるように作業員たちも訓練を積んでいて、その作業はスムーズだ。
さらに削られた山は次々にファクトリーゴーレムを使って、全てブロックゴーレムの素材に変えていく。
量産に次ぐ量産。
「圧巻だな」
俺たちが来た道のりをどんどんブロックゴーレムが下山していき、頂上から見える大穴の手前の広場に集結しどんどん城壁の素材へと変化していく。
「コマンダーゴーレムで複数のコマンダーゴーレムを操作すれば道中のブロックゴーレムの操作も簡単って言ってたけど、本当にできるんだね」
「実際どうだ?大変じゃないか?」
そんな景色を眺める俺の隣では少し形が違うコマンダーゴーレムでコマンダーゴーレムを操作しているアミナがいる。
「単純な動きだけだから、そんなに操作は難しくないよ」
「それならよかった」
アミナが指示を出しているのは、点在するコマンダーゴーレムに、それぞれがコントロールするブロックゴーレムがしっかりと自律で下山しブロックゴーレムの集積地まで移動することの指示だ。
「リベルタ!持ってきたわよ!」
「おお!四号機と七号機のコアが無くなりそうだからそっちに補充してくれ!!」
「わかったぁ!!」
そしてネルは今日は城壁作業ではなく、クレーンゴーレムを使って下からゴーレムコアを運んできている。
ただ彼女一人が乗っているわけでもなく、空中から軽やかに飛び降り俺のすぐそばに着地した。
「リベルタ様、昼食をお持ちしました」
「ありがとうイングリット」
「いえ、早速ですが準備いたします」
「うん、みんな!昼休憩にしようか!」
2人で過ごしたあの日から、本当に、ほんの少しだけど表情を見せるようになったイングリット。
今は持ってきた折り畳みのテーブルを開いて、その上にマジックバッグから取り出した弁当箱を並べる。
腹減ったと、笑う作業員たち。
その一人一人に弁当を渡しているときの表情は変わらず無表情である。
「はい、こちらはアミナ様の分です」
「ありがとう!」
「いえ、お茶のご用意もあるので」
ただ、仲間内に関しては少し変化が見れた。
本当に少しだけ、口元を緩め笑みを浮かべるイングリットに、ひまわりのような笑顔で答えるアミナ。
「こちらはネル様の分です」
「ありがとう!あ、私の好きな卵サンドね!」
「はい、テレサ様より聞いて多めに作らせていただきました」
好物が入っていると知り喜び尻尾を振るネルの姿を見て、目じりを少しだけ下げ優しげな表情をするイングリット。
自分の感情を表に出してもいいとわかってから、そうやって努力してくれている。
「リベルタ様」
「ありがとう、イングリットも一緒に食べよう」
「はい」
昼時になるとだいたい班ごとに分かれて食事をとることが多い。
なので、今日もパーティーメンバーで食事をとっているが。
「監督、ちょっといいですかい」
「ん?何かあった?」
休憩中に質問に人が来ることはよくある。
「はい、あっち側の作業なんですけど、ちょっと狭くて足場の確保が難しいんですよ」
今回来たのは6号機のファクトリーゴーレムを任せている班の班長だ。
名前はチョウ。
若く元は革細工の商品を扱っている商人だったけど、開拓作業員にコンバートしてくれた人だ。
目利きを鍛えたことによって、こういう細かいところにも気づいてくれるから安全管理も上手。
かなり重宝している人だ。
元から体格が良かったけど、こっちの作業員になってからは日焼けもして随分と健康的な小麦色の肌になった。
おかげでこげ茶の短髪ヘアーが似合う筋肉ナイスガイだ。
「ああ、それならこっち側から回り込んで削っていくと良いよ」
「ああ、なるほど!ありがとうございます!」
「いいよ、こうやって聞きに来てくれる方が助かるし」
「いやぁ、だいたいこういう工事だと聞きに行くと怒鳴られるのが普通だけど、監督は丁寧に教えてくれてやりやすいですよ」
見せられた作業用の地図を見て、危険がなさそうな方向から攻めてくれと指示を出せばよかったと笑顔を見せる。
報連相がしやすい環境を用意しないと事故の元になるからな。
最初は食事中に聞きにくることなんてなかったけど、質問を後回しにしていて困っていると聞いてからは、困ったことはすぐに聞いてくれと周知した。
見て覚えろというのが基本のこの世界では、常識外の行動だったようで、俺の発言はとても驚かれたのは覚えている。
「それに、もう少しで子供が生まれるからしっかりと稼がないといけないですし」
「うちの村で最初の子供だ。医療面でもサポートするから安心して仕事をしてね」
「ええ!本当にこっちに来てから生活がずいぶんと楽になったんですよ。女房も周りが助けてくれるから安心できるって言ってました」
福利厚生、そんな言葉はこの世界では存在しない。
だけど、やってはいけないというわけでもない。
後顧の憂いがあって、仕事に集中できないなんてことはしたくないからな。
俺にできる限りのことはしっかりとやらせてもらいますよ。
「そうか、それは良かった」
「ええ!あ、すんません。長々とお邪魔しました」
そして用事を済ませたら、班に戻っていく。
その先でも笑顔で話している光景を見て、なによりだと安心し、イングリットが作ってくれたサンドイッチを頬張るのであった。




