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1 進路

新章突入!!


ここからはストックとの勝負になります!


できるだけ毎日投稿ができるように執筆を頑張る次第です。

 

 クレルモン伯爵の嘆きのクエストは俺たちにとってはかなり、有意義な物を与えてくれた。


「「♪~」」


 馬車の後ろで仲良く座り、歌っている少女達のご機嫌もいい塩梅で維持してくれている。

 あのクエスト攻略から気づけば二か月も時間が経っているが、ようやくネルとアミナのご希望の護衛付きの遠征ができた結果だ。


 あの後色々と事後処理もあって、デントさんがなかなか暇にならず時間がかかってしまった。


 馬車の御者はデントさん、そしてその脇に以前ギルドで会ったクマの獣人の冒険者ピッドさん、馬車の上空では鳥人のマイルさんが警戒しているという護衛としてはかなり豪勢な面々だ。


 だからこうやって俺は俺でご機嫌なネルとアミナの歌声をBGMにして手に入れたアイテムの使い道を考えられる。


 そのアイテムの質からデントさんがいろいろと不満顔を披露してくれたが、最初からそういう契約だ。

 諦めてもらうしかない。


「さてと、目的地に着くまでに考えられることは考えておかないといけないな」


 俺も人だ。

 忘れることもある。


 日本にいたころはいろいろとデータが残っているパソコンという便利ツールがあったけど、この世界にそんなものは存在しない。

 頼りになるのは俺の記憶だけ。


 忘れないように要所要所をつぶさに記録しないといざという時に忘れてしまう。


「と言っても、思い出そうとすれば思い出せるんだよな。これが若さか?」


 今回の収入で買った革製のリュックサックから少し質が悪いが、ノートのような紙束を取り出す。


 今のところ忘れるということがないから問題ないけど、こうやってメモを残すことには別の意味で重要な役割がある。


「さて、と。手に入れたアイテムはどうするか」


 ペラリとメモ帳をめくると、そこにはこの世界の文字ではなく、日本語でメモされたリストが書かれている。


 一応、というか気休めの防諜だ。

 この世界の文字とは当然日本語ではない。

 なのでこの世界には日本語というのが存在しないのだ。


 この世界では読めない謎の言葉として、暗号代わりに使っている。


 言語は何故か理解して、何故か日本語みたいに会話もできるけど、それは転生特典ということで割り切っておこう。

 メモに書かれているアイテムは全部で九つ。

 さらに金銭に関してはデントさんと俺、ネル、アミナの三人の二組で山分け。

 ギルドの成功報酬はデントさんの総取りだ。


『ミスリルインゴット×3

 転移のペンデュラム

 古の魔樹木エルダートレントの枝

 不壊のルーン×2

 フレイムカノンのスキルスクロール

 マジックエッジのスキルスクロール』


 換金アイテムもすべて回収して、それのおかげで今の俺たちの懐はかなり温かい。

 そしてさすが美味しい報酬として有名なゴミ屋敷クエストだ。


 ミスリルインゴットと古の魔樹木の枝はクラス5のクエストに入らないとまず手に入らないアイテムだ。

 その二つのアイテムでできた武器はクラス7のダンジョンまで通用するほど。

 こんな序盤で手に入れて良いアイテムじゃない。


 もっとおいしいのは不壊のルーンだ。

 これが手に入るのはクラス5以降のボス宝箱の低確率ドロップだ。


 これを合成できればどんな武器でも不壊スキルが付与できる。

 弱者の証みたいなデメリットもない破格中の破格アイテムだ。


 全部回収できたのはかなり美味しい。

 ゲーム時代じゃこれをすべて買いそろえるとなると五十万ゼニじゃ全く足りない。

 特に不壊のルーンなんて、安くても三百万ゼニはしたな。

 高いと三倍くらい吹っ掛けているのもあって、たまに売れてた。


 正直ぼろもうけだ。


「インゴットと枝は俺の武器で、ルーンはアミナ、スクロールの片方はネルのための交換でもう一つは正直俺が使いたい」


 使い道も決まっている。

 というか、決まっているからあんなきついことをしてまでゴミ屋敷クエストを達成したんだ。


 ミスリルインゴットと古の魔樹木の枝を使えば俺の欲しい武器が手に入る。

 ルーンを使えば、アミナのしたいことができるようになる。

 スクロールを使えばネルの夢に一歩近づける。


 だけど、このやり方だとネルの取り分が少なくなってしまう。

 後で巻き返せる自信はあるけど、今の段階だとどうやっても不公平が出てしまうのだ。


 なら、武器をネルに与えればいいのではと考えるけど、未来のネルのことを考えるとミスリル武装は相性が悪い。


 ネルの場合は軽いミスリルよりも重いアダマンタイトの方がいい。

 インゴットの量的にも彼女のための武器はおそらく作れない。


「むー、痛しかゆし」

「それってどういう意味?」

「ちょうどいい塩梅がわからないって。あれ?ネルどうした?アミナと一緒に歌ってたんじゃ?」


 ここら辺の配分をどうするかと悩んでいるとネルが俺の手元を覗き込むような形で隣に来た。


「またこの文字」


 そして日本語で書かれている文字を見て眉間に皺をよせ、耳をピクピクと動かす。


「アミナは外に飛び出しちゃった。街中じゃあまり飛べないし、外を飛ぶとモンスターに襲われるかもしれないから、ああやって大人がいる側なら自由に飛べるしね」

「ああ」

「それより、いつになったらこの文字教えてくれるの?」

「んー、いつかね」


 アミナは少し体を動かしたくなって馬車から飛び出し、警戒している鳥人マイルさんの横を飛んでいるらしい。


「またそう言って!!教えてよ!!」

「揺らすな~馬車に酔う~」


 日本語を教えてと、このメモ帳を買った後にそこに書いてある日本語を盗み見られてからこうやって催促されるようになった。


 肩をゆすって左右に振られる。

 子供だけど、狐の獣人のネルの腕力は普通の子供を凌駕している。


 少しずつ肉付きが良くなっているけど、細い印象は変わらない俺の体なんてあっさりと左右に揺られてしまう。


「おーい、坊主と嬢ちゃんイチャイチャするのは構わねぇけど、もうすぐ着くぞ」


 このまま揺られていると本気で酔ってしまう。

 そんな危惧する状態から、何とか脱出する手助けをしてくれたのはあきれ顔でため息を吐くデントさんであった。


 御者席から振り返って、何やってんだと言わんばかりの顔で目的地が近いことを教えてくれる。


「イチャついてない!!」

「嬢ちゃん、大人の俺からのアドバイスするぜ。ここで素直になっておかないとぽっと出の女に坊主をかっさらわれるぞ。言っちゃなんだが、坊主を見た後ほかのガキ見るとギャップがひどいぜ?」

「何言ってるんですか」

「坊主も、もう少し周りに目を向けろよ。じゃないと背中から刺されるぞ」

「なんでですか!?」


 からかい半分、そして年上からのアドバイス半分でネルに声をかけたと思うと、俺に向けては同情と心配が入り混じったような眼でアドバイスしてきた。


 叫ばずにはいられない。


 いや、話の流れから意味は理解できる。

 だけど、この歳で?


 ちらっとネルの顔を見たら顔をプイッと逸らされてしまった。


 顔立ちが整っていて、かわいらしくもあり、将来性も期待できる。


 しかし、精神年齢的に考えると。


「そういうとこだぜ?」

「は、はぁ」


 手を出したら逮捕。

 肉体年齢に引っ張られてもそれはだめだという理性は働く。


 意味を理解し、倫理的にダメだという葛藤。


 そんなタイミングで羽ばたく音が聞こえ。


「はぁ!やっぱり空を思いっきり飛ぶのは気持ちいいね!あれ?ネルどうしたの?顔が赤いよ?」

「なんでもない!!」


 馬車にアミナが着陸してきた。

 空を飛ぶことでストレスを発散したアミナが帰ってきたのだ。


「???」

「深く聞かない方がいいぞ」

「リベルタ君も変な顔して、本当に私が飛んでる間に何があったの?」


 全ての原因はデントさんにあるとアミナに答えたかったが、それよりも先に馬車が止まってしまった。


「ほれ!ついたぞ、先に野営の準備をするぞ!!」


 パンパンと手を叩いて俺たちに降りるように指示を出してきて、それを言うタイミングを逃してしまった。


「坊主は俺と一緒に近くで薪を拾いに行くぞ、ネルの嬢ちゃんはピッドとテントを張ってくれ、アミナの嬢ちゃんはマイルと一緒に川に行って水を汲んできてくれ」


 旅になれているからか、デントさんは野営の準備へ的確に指示を出していく。


 馬は近くの木に手綱を結んでいる。


「わかりました」

「わかったわ」

「はーい」


 リーダーは護衛のデントさんだ。

 ゲーム時代はこんな野営なんてすることなんてなかったし、キャンプ経験もない。

 だからこそ、経験者の指示には従っておいた方がいいだろう。


「それで坊主、なんでこんなところに連れてこいって言ったんだ?俺たちくらいの実力ならもっと難易度の高い場所でも良かったんだぞ?」


 三組に分かれ、俺はデントさんに乾いていてちょうどいい枝を集めろとだけ指示を受けてそれっぽい物を拾っては抱えてというのを繰り返していると。

 そこら辺にあった蔦で枝をくくったデントさんが目的地の選定理由を尋ねてきた。


 俺が普通の子供ならこんなことを聞かなかっただろう。

 ただ、子供のわがままだろうと割り切ってこんなことを聞くはずがないし。


「それで?ここにはどんな儲けがあるんだ?」


 こっそりと周りを見回して小声で話しかけてきたりはしない。


「ここに儲けなんかありませんよ」

「ちぇ、ねぇのかよ」

「あれからいくつか教えたじゃないですか。」

「ああ、おかげさまで儲けさせてもらったぜ」


 それもこれも、あのゴミ屋敷のクエストから今まで俺の知識の検証も兼ねて俺はデントさんの実力でもできそうで割のいいフリークエストをやってもらっていた。


 フリークエストは何度もできて、それでいて一定の成果を残せるクエストだ。

 実際にそのクエストがあるかという確認と。


「坊主が教えてくれたコツのおかげで、面倒だと思ってたクエストがあんなに楽になるとは思わなかった」


 一見すれば癖のあるクエストにプレイヤーたちが見つけてきた、ほかの裏ワザが通用するかという実験も兼ねている。


 安全マージンは取っているから失敗はないようにしている。

 知りたいのはクエストの有無と報酬の内容、そして知識が通用するかどうかだ。


「そこまで儲けておいて、子供の俺にさらにたかるんですか?」

「そう言うなって、坊主がわざわざ俺に頼んで向かいたい場所があるって聞いて気にするなっていうのが無理だろ?」

「それでわざわざ俺と二人で行動するような割り振りに?」

「そういうこと、あいつらに先を越されたくはないんでな」


 結果で言えばほぼ通用した。

 ほぼというのは想定していたクエストよりも結果が良い方にも悪い方にもブレがあったからだ。


 実際、クレルモン伯爵の嘆きに関してももっと余裕があったはずなのに結局はギリギリの結果で辛勝という結末だった。


 この結果から俺のゲーム知識は当てにはできるけど、過信は良くないというのがわかった。


「仲悪いんですか?」

「いや?酒を飲みながら好みの女の話を夜通しできるくらいには仲がいいぜ?」

「ピッドさんに、襟首掴まれて引き摺られていませんでしたっけ?」

「あれでも優しい対応だぜ?ピッドは嫌いな相手は容赦なく殴るやつだ」

「あれで、穏便なんですね」


 そんな実験に付き合ってもらっているとは露知らず、俺のことを儲け話を知っている子供と認定していて、さらにその秘密を知っているのが自分だけと認識している分俺への遠慮が無くなってきている。


 一瞬、今回引き連れてきたメンバーに対する信用がなくなりそうになったけど、そういう心配はなさそうでよかった。


「それで、本当のところどうなんだよ?」

「ないですって、今回は俺たちがレベル上げするためだけの場所なんですよ」

「レベル上げって……お前らまだレベル無しだったのか?」

「そうですよ、モチでレベル上げるのもいいんですけど、それだとね?」

「ああ、あれでレベルを上げると変な称号を与えられてしまうからな」


 今回の旅である程度のレベルを確保する予定なんだ。

 嫌な不安要素はないに越したことはない。


「そういうことです。それにここなら、デントさんに守られていればある程度は安全に狩れますし」

「そうだな、ここで負けるようだったら俺も冒険者を引退しないとまずいな。でもよ、さっきも言ったがここじゃなくてもっと難易度の高いところの方がレベルの上がりは早いぞ?手頃のやつだとゴブリンの森とかな。お前に前に絡んできた兵士隊のガキもあそこでレベル上げをしてるみたいだしな」

「ゴブリンじゃダメなんですよ。あそこはまた別の機会に行きますし」

「ふーん、そういうことを言うってことは、お前ここに何か目的があるんだな?」

「儲け話はありませんよ。そこは嘘をついていません。ここはレベルを上げるのに都合がいいっていうだけの話です」

「ふぅん、都合がいいねぇ。あんな奴が?」

「ええ、都合がいいです」


 そんな話をしていると、ごそごそと近くの草むらから音がしてそこから一匹のモンスターが現れた。


『ハニャー』


 ツルッとした光沢のある土色のボディー。

 右手を上に、左手を下にという奇妙なポーズ。

 動かないはずの短い足を器用に使って、地面を動くそのモンスターは。

 奇声を上げる埴輪だ。

 いや正確名称は埴輪じゃないけど、通称は埴輪で。


 正式名称は。


「明日からプチクレイゴーレム狩りを始めるぞ」

「ええ、そうですね」


 プチクレイゴーレム。

 小さな粘土人形。


 こいつの特性が、俺たちのレベリングに役立つのだ。



楽しんでいただけましたでしょうか?


楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
はにゃー、はにゃにゃー はにわー 鳴き声がかわいいなこの粘土人形
ハニャッ
レベル上げしちゃうのか クラス0で獲得できるスロットは2つだと思うけど、別の武器でボス倒してスキル獲得しなくていいのかな? スロット周りの認識間違ってるかなぁ ゲームの仕様を考えたら、他の大陸でも無…
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