22 神託
「これで!終わりです!!」
天空石のゴーレムは上手く型にはめ込めば、効率は悪いが物理攻撃だけで倒すことはできる。
翼を壊し、腕を減らして動きを封じる。そして魔法攻撃しかできないようにしてそれを防ぐ対策をしておけば、後はひたすら魔法に耐えながらアタッカーがHPを削るだけ。
と口にするのは簡単だが、失敗が許されない緊張感のもとでやるとなれば。
「つ、疲れた」
「ええ、本当に」
「攻撃できないのってこんなにも大変なのね」
普段なら、歌うという大好きな行為であれば長時間どころか日をまたいでも体力が続くアミナであっても、今回は天空石のゴーレムが消えた途端に歌うのを止めてその場にへたり込んだ。
エスメラルダ嬢も汗をハンカチで拭いほっと安堵しているが、少しやつれたようにも見える。
防御に専念していたネルは、あちこち傷んだ盾を見て眉間にしわを寄せている。
いつもなら攻勢に回り、こっちが流れを掴むことで戦いを有利に展開し能動的に安全を確保しているから、ストレスという意味ではかなり少ない。
だが今回の戦いは、守勢に回り相手のペースをつかみつつ、こっちのペースに引き込むという受け身の戦い方をさせられていた。
安全性を確保していたとはいえ、その分だけ普段の戦い以上に緊張感とストレスを感じている。
砕け散り、黒い灰となっていく天空石のゴーレム。
それを見てようやく安堵できたと言った感じだ。
「また赤い宝箱ね。それ以外に出ないのかしら?」
「出ないねぇ。今回の討伐は特殊な方法での挑戦だから、ユニークスキルのスクロール用の宝箱しか出ないんだよ」
そして天空石のゴーレムが消えた後に現れたのは、イングリットのパーフェクトクリーンの時にも見た赤色の宝箱。
そこにクローディアが近づいていくのを見送りつつ、俺はその場に胡坐で座って頬杖をついて今後のことを考える。
「んー、ネルにイングリット、クローディアさんのユニークスキルが揃ったから、先にクラス5のレベリングするのもありか?」
今回の天空石のゴーレムとの戦いで分かったが、やはり現状のレベルでこのクラスを攻略はできたが結構しんどかったし、型にはめ込めれば安全という点があったとしても、危険があるということだ。
綱渡りとまではいかないが、手すりの無い幅の狭い橋を渡っているような緊張感はあった。
ここでクラス5のレベリングをすれば、俺たち残る三人のユニークスキルの獲得は格段に簡単になる。
だったら、先にクラス5のレベリングをしろという話になるんだが・・・・・
「難しいの?」
「難しいというよりは、面倒だな。クラス5からのレベリングって、EXBPの獲得条件もそうなんだけど、ここからスキルスロットの獲得数と条件が変わるんだ。そこら辺も考えてレベリング方法を選定しないといけない」
この世界は普通にレベリングしても強くなれない。
意図してそうしているとしか思えないほど、レベリングには細心の注意を払わないといけないし、スキルスロットを一つでも見落とせば再取得するにはレベリングをやり直さないといけないという鬼畜仕様だ。
「なぁ、ネル。すっごくきついけどサクサクレベルが上がる方法と、時間はめちゃくちゃかかるけど簡単にレベルを上げる方法だったらどっちがいいと思う?」
そんなレベリングだからか、色々とレベリングの方法は構築され、実践されてきた。
今までのレベリングは俺たちの行動範囲でできる方法を選んできた。しかし運良く精霊界に入れたのだから、複数のレベリングの方法を選ぶことができる。
「どっちって、内容を聞かないとわからないわよ。内容を聞かず決断をするなんて商人としてやっちゃいけないことよ」
「そりゃそうだ」
あいまいな質問に、腰に手を当てて少し不機嫌になって眉間にしわを寄せるネルにごもっともだと思い頷き。
「リベルタ、無事にスキルスクロールを手に入れることができましたが、今後の予定について話しているのですね」
「はい、今回の戦いもギリギリじゃないけど、もう少し強くなってレベルに余裕を持ってからスキルを取った方が安全かなと思いまして」
そのタイミングでクローディアがスクロールを片手に戻ってきた。
立ち上がって、尻についた砂埃を払い。
差し出されたスクロールの内容を確認すれば間違いなく、天拳だった。
これで三つ目。半分が終わったということだ。
使ってもいいかと聞かれ、俺は頷くと彼女はそのままスクロールを使って天拳を取得して見せた。
「リベルタ、私見になりますが安全を取るというのは私もいいと思います。ですがユニークスキル取得のスケジュールはいいのですか?二カ月以内に全員取ることを目標に掲げていたのでは」
そしてステータスを表示してしっかりとスキルが取得できたいたことを確認し終えて、俺と向き合うとさっきの話に戻してきた。
「はっきりと言えば、ユニークスキルがあれば今後の戦闘が楽になるというだけで、必須かと言われればそうじゃなくなったというわけなんですよ」
「?どういうことですか?」
「次のクラス5に上がるレベリングからEXBPとスキルスロットをすべて獲得するための条件がかなり厳しくなります。方法はいくつかあるんですけど、その中でクラス5のダンジョンじゃなくてクラス6のダンジョンでレベリングするという方法があるんですよ」
その流れに乗って俺はレベリングの話に戻る。
「それって、強いモンスターのダンジョンに行くって言う話だよね。それって危なくないの?」
「そうですわね。安全を確保するためにレベルを上げるという話ですのに、さらに危険なことをしようとしているわけですし。矛盾しておりませんか?」
クラス5になると経験値テーブルは一気に跳ね上がり、同レベル帯の相手だと快適にレベリングができるという環境は用意できない。
モンスターを倒す速度も遅くなれば、相対的に獲得経験値の量も減り、レベルアップの速度は下がる。
ここでFBOをやっていて挫折する人が結構いる。
チュートリアルが終了して一気に難しくなるからだ。
「二人の言うことはもっともなんだ。これは狙っていたから言えることなんだけど、イングリットとクローディアさんのユニークスキルがあれば効率的にレベリングする方法があるんだ」
だからと言って、効率的にレベリングをしないと時間が浪費されてしまう。
そのために俺たちプレイヤーは色々と検証して、効率的にレベリングできる方法を確立したわけだ。
「ですが、リベルタ様。私のユニークスキルは格上相手には効果がありませんが」
「うん、確かにそうだけど、挑もうとしているダンジョンはクラス6の中では最下級の強さのダンジョンだ。総合的には、徘徊するモンスターなら俺たちがステータスでは勝ってるんだよ」
クラス6のダンジョンならボスモンスターはクラス7。
格上補正で取得経験値も上がれば、そもそもの経験値自体が美味しい。
クラス5でも効率的に経験値が確保できるというわけだ。
「すなわち、パーフェクトクリーンのスキル効果適応範囲内と言うことでしょうか?」
「そう言うこと。それに加えてボス戦は短期決戦ができるから、クローディアさんの天拳で一気に片を付けることができる」
「私が倒せるということは物理耐性が低いモンスターと言うことでしょうか?」
「そういうことですね。おまけにサンライトシリーズのおかげで魔法耐性はかなり高められているので、相手の攻撃も危険ではないんですよね」
「でしたら、普通に倒せばよろしいのでは?わざわざユニークスキルを取るのを待つ必要性を感じないのですが」
そんなダンジョンがあるのなら、なんで先にレベリングをやらなかったのかというエスメラルダ嬢の疑問はもっともだ。
サンライトシリーズで安全面が確保できているのなら、それができると思うのは仕方ない。
「今回狙っているダンジョンって、ヒーラーの聖地って言われる場所なんですよ」
「ヒーラーの聖地?聞いたことがありませんが」
しかし、ただ防御面が優れていても勝てないのだ、このダンジョンは。
攻撃力や殺傷力という方面では他の同格のダンジョンと比べるとだいぶ見劣りのするダンジョンなのだが。
「まぁ、そんな呼び方をするのは一部界隈ですよ。そのダンジョンにいるモンスターの名はプレイヤー」
代わりに、回復能力と防御性能はほかの同格ダンジョンと比べてずば抜けて高い。
倒せないのだ。純粋に硬くてさらに回復能力が高い。
なら俺の即死攻撃でどうにかできるかと思いきや、防御無視はできるが即死耐性が高すぎて一撃死ができない。
おまけにプレイヤーとは何とも皮肉の利いた名前だが、ゲームをする人ではなく、祈る人という意味だ。
「攻撃方法は光属性の初級魔法ライトボールだけですけど、他のスキル構成が回復スキルと結界スキルで構成された、回復と防御で無理やり遅滞戦術に持ち込んでこっちを疲労困憊にしてくるモンスターのダンジョンです」
その姿は女性型と男性型の二つに分かれ、女性型は回復スキルが多く、男性型は結界スキルが多い。
女性型と男性型に分かれているが、輪郭と服装からそう分けられているだけで、こいつらが人というわけではない。
祈った姿勢で移動し続ける蝋人形だ。
かといって、これがゴーレムというわけではなく、分類でいえばスライムに近い敵だと言える。
「だから、もし仮にこのダンジョンをイングリットとクローディアさんのユニークスキル無しで攻略するとしたら、エスメラルダさんにはポーションをがぶ飲みしてもらって広範囲魔法で殲滅しつつ、ボス戦はネルのゴールドスマッシュで倒すって言う流れになるんですけど・・・・・やります?」
「……遠慮しておきますわ」
「ちなみに、いくらくらいのゴールドスマッシュが必要なの?」
「最低、一回のボス戦で十万ゼニは必要かなぁ。確実を期すなら倍は欲しい」
「破産するわ・・・・・」
こいつらの厄介なところは、集団で襲ってきて初級魔法を撃ってくるのだが、味方が傷つくとモンスター同士で一気に回復して、さらに結界で防御してくるからマジで一体倒すのにも苦労するということ。
救いは蘇生魔法を使わないってこと。
「移動速度はそこまで速くはないから、群れを回避しつつ一体ずつを闇属性攻撃で集中砲火すれば倒せる。群れが来たらイングリットのパーフェクトクリーンで殲滅するか逃げるのを繰り返してレベリングして、時間が来たらボス戦。そこでエスメラルダさんとクローディアさんの火力でゴリ押す。これでなんとかなる」
取っててよかったユニークスキルというわけだ。
「経験値は美味しいし、攻撃への対応もそこまで難しくはない。倒せれば美味しいダンジョンって言うわけだ」
「破産覚悟で倒すのは、さすがに避けるべきね」
「私もポーションの飲み過ぎは嫌ですわ」
このダンジョンは、高火力を出せるスキルを一つ持っていて、さらに徘徊モンスターを殲滅することができれば、かなり美味しいダンジョンとして有名だった。
俺たちの場合は、高火力はクローディアの天拳、殲滅能力はイングリットのパーフェクトクリーンというわけだ。
「試してみる価値はありそうですね」
「無理そうなら、闇さんと雷三姉妹に頼んで一緒に来てもらってボスを討伐しましょう」
そうして、ひとまず今日は帰って休もうとしたのだが。
「闇さん?」
家の前で闇さんが佇んで待っていた。
今日はユニークスキルを取るから、誰にも会う約束はなかったはずだが、それなのにも関わらず彼が来たということは何かあったということ。
『む、帰ってきた』
「今日って会う約束してましたっけ?」
『いや、していない。だが、彼が君に用事があると言っていてな。内容が内容なので待たせてもらった』
「彼?」
ライブ関連で何かあったかと思っていたが、用事があったのは闇さんではなくその背後に隠れていたもう一人の精霊。
本を持ち、眼鏡をかけ、そしてローブを身に纏った精霊。
色合い的に地属性の精霊っぽいが、小柄で少年のような見た目の精霊だ。
『は、初めまして。いつもライブ楽しませてもらってます』
「あ、はい、どうも」
初対面のはず。そしてアミナのファンは極力通さないようにお願いしていたはずなのだが、その約束を違えてまで連れてきたと言う闇さんの意図がわからない。
「それで、用事とは?」
だが、ここで疲れているから追い返すなんてこともできないので用件を聞いてみたら。
『し』
「し?」
『神託をお伝えしに来ました!』
「「「「「神託!?」」」」」
何やらとんでもないことが起きた様子だ。
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