22 黄金ループ
総合評価3000pt突破!!ありがとうございます!!
皆様の評価のおかげでやる気アップです!!
リアルラックの持ち主というのは、日本で生活しているときもいた。
やたらくじ運がいい奴、よく聞くのは御神籤で大吉しか出ないという人のことだ。
宝くじを当てるやつ、推しのアイドルの抽選に当たるやつ、絶対に大事な日には晴れになるやつ。
「これが、運の格差か」
「あはははは、元気だしなよ。ネルっていっつも運がいいんだよ?」
そしてこっちの世界でも、いや、こっちの世界の方がリアルラックの差を如実に見せつけられた。
「えっへん!」
「なんだろ、すごいことをしているから威張っていいと思うんだが、素直に褒められない」
「仕方ないよ、うん、本当に仕方ないよ」
成長途上の胸を反らして、ネルが見せつけるのは黄金の餅の数々。
合計で九つ。
ドロップ率はかなり低確率のはずなのに、驚異のドロップ率九割。
ボス部屋前の安全エリアでドロップ品の確認をしていたが、当然のようにネルがトップを独走。
そして次点で、アミナが一個。
俺はゼロ。
へこむ、この結果はさすがにへこむ。
ふさふさで柔らかいアミナの羽毛の手で撫でられても歴戦のプレイヤーだと自負している俺の心がネルの物欲センサーに負けている事実に打ちのめされている。
しかし、いつまでもそうしているわけにはいかない。
手を地面について項垂れる俺はアミナの慰めによってどうにか復帰して。
「さて、いよいよボス戦だけど正直普通のカガミモチと強さ的には大差ない」
頑張る俺の姿をよしよしと頭を撫でてくれるアミナはとりあえずスルー。
男よりも女の子の方が成長が早いからまだアミナの方が身長高いんだよ。
最近ちょっとネルの方の身長も伸びてお姉さんだと言い張る雰囲気も醸し出し始めている。
この世界に来るまで栄養摂取していなかった体だから成長力は未知数、いまからの巻き返しで将来的にしっかりと身長を確保できるように努力するしかない現状。
嫌でもないから、このままでいいかと放置する。
「違いは黄金モチといっしょで金ぴかすぎて見づらいってことくらい」
これからボス戦だけど、いつも通り戦えば戦闘自体は問題ない。
「だからいつも通り戦えば問題はない」
しっかりと言い切るけど、アミナに撫でられているからいまいち締まらない。
「ただ、ボス戦よりも前にやっておくことはある」
黄金カガミモチと戦う時の注意点はたった一つ。
「これを使うのよね!」
「その通り」
ここまでの道中でドロップした黄金の餅。
これを使う。
ネルは床に並べた餅の一つを掴み見せつけるように持ち上げた。
「全部で九つも出たからな、ここは最大個数になるように使うか」
「はいはい!私使いたい!」
「あ、ずるい!僕も使いたい!!」
「一つずつ使うからネルとアミナで一個ずつな」
新しいアイテムを使うのはやはり楽しいんだろうな。
アミナも俺の頭から手をどかして黄金の餅を一個掴む。
俺は残った黄金の餅を忘れないように皮袋の中に放り込む。
「「はーい!」」
休憩はここまで、時間的にそろそろ帰らないとまずいからな。
二人を引き連れて、ボス部屋の前まで行くけど。
「扉も金ぴか」
「ゴクリ」
「ネル」
「はっ!涎なんて垂らしてないんだからね!!」
作りがシンプルでも金で作られていればさすがに豪華に見える。
ここまで来る道中すべて金色だから、ネルの目が金貨になるのではと思うくらいに目の色が変わっている。
一瞬、ネルが扉の蝶番の部分を見て壊せないかと自分が手に持つ竹槍を見て、アミナが呆れて声をかけていた。
「ネルったらもう。それでリベルタ君、これってどうやって使うの?」
「黄金の餅を扉に押し付けてくれ、それで使えるはず」
「扉に?」
それよりもアイテムを使う方が大事と、アミナが聞いてくれたので俺は使い方を教える。
「あっ、扉は開けるなよ。扉を開けたら使う意味がなくなるからな」
ゲーム時代では宝箱の個数判定は扉を開けた段階とボスモンスターを倒した段階の二回。
前者は超低確率で後者はそこそこの確率と分かれている。
黄金の餅は前者の確率に作用して宝箱を増やしてくれるアイテムだ。
「はーい、あ、消えちゃった」
俺の指示通りにアミナがグッと黄金の餅を押し付けるとスッと黄金の餅が扉に吸い込まれるように消えた。
「え!これ、どうやったの?」
「俺にもわからないよ。ダンジョンの不思議っていうしかない」
吸い込まれた扉をペタペタと不思議そうにアミナは触るけど、そこに餅がくっついているわけでもなくただの金の感触が彼女の手に伝わるだけ。
その理屈を聞かれても、俺にもわからない。
ただ、ダンジョン内に放置したアイテムは時間経過で消失するという現象と一定の条件下で使用されるというのを知っているだけだ。
「そうなの?これ本当に使われているの?」
「使われているはずだよ」
特別なエフェクトも発生せず、単純に扉に吸い込まれていく光景にネルが疑いの目を扉に向けている。
俺たちFBOプレイヤーは黄金の餅やほかのアイテムをダンジョンの好物だと思っており、勝手に献上品と呼んでいた。
好物をあげるから宝箱増やしてくださいと等価交換をお願いしているわけだ。
「ふーん」
商人ゆえの性か、ネルはさっきまで使う気満々だったけど、使うことに対して少し懐疑的になっている。
「えい!」
しかし、少し悩んだあとは気合とともに黄金の餅を扉に押し付けた。
「これで宝箱が増えてなかったら承知しないんだから!!」
そして扉に聞かせるようにビシッと指さして宣言している。
その態度に俺とアミナは思わず顔を見合わせて苦笑いをした。
「さぁ!行くわよ!!」
「ああ」
「うん」
黄金の餅を消費した分のリターンを期待して、気合十分なネルが扉に手をかける。
木よりは重いはずの金の扉はスーッと軽く開き、そして俺たちが入った後はばったんと重厚な音を響かせてネルの手によって閉じられた。
そして中央に鎮座する黄金の物体。
「あれが、ボス」
「本当に金色だぁ」
黄金カガミモチ。
天辺のモチが若干オレンジ色がかった金色になっている以外は全くの同じ。
「来るわよ!」
「うん!」
「おし!」
そして俺たちが入ってきたことによって、黄金カガミモチから戦闘の火ぶたが切られたのだが。
「え、弱い」
「見た目だけだったね」
「だから言っただろ、少し体力が増えただけだって」
結果は完勝。
余裕と言ってもいい。
俺が一番下の大きなモチを仕留めて、上のモチを転がす。
その隙を狙ってネルが一番上の司令塔を倒して、アミナが上から二番目のモチを仕留める。
最後に三人で三段目のモチを一斉攻撃すればあっという間に戦闘は終了。
武器威力と、今までさんざんカガミモチで慣らしていたから肩透かしというレベルで戦闘は終了してしまった。
ネルは物足りないと言わんばかりに不満顔。
アミナは緊張して損したと大きなため息。
新しいモンスターを見て期待してしまうのは無理ないよな。
「さてさて、お待ちかねの宝箱タイムだ」
「うん!ねぇアミナ!すっごいよね!」
「そうだね!金色の宝箱が五個も出るなんて!!」
完全に不完全燃焼だと言わんばかりの態度だったけど、ボスを倒した後に綺麗な光があふれ、金色の広場の中央に新たに現れた五つの金色の箱。
何度も見ている光景だけど、この光景だけは圧巻の一言。
長年プレイしてきた光景の中でも何度も興奮できる光景だ。
「じゃぁ、ネルが三つでアミナが二つな」
「「はーい!」」
しかし、その興奮に流されて俺が開けるなんて愚行は犯さない。
リアルラックが一番高いネルに全部開けてもらうのが最善だけど、アミナも開けたいとうずうずしている姿を見て、ネルが少しだけ多く開けられるように配分。
金色の宝箱に駆け寄っていく二人を歩いて追いかけ。
「「せーの!」」
俺がつくよりも先に仲良く宝箱を開け始める。
「あー、僕の方はお餅が一個かぁ」
アミナの方は最低保証の黄金の餅だけだ。
残念そうにぼやくアミナだが、それ一個売るだけで一万ゼニが確定するからな?
店売りでその価格でプレイヤー同士の売買なら最低でも五倍、最高で十倍以上の値段が付く。
それを知らないから外れだと思ってポンポンと片手でお手玉のように投げているんだろうな。
「ネルは……ネル?」
そしてもう片方のネルはと言えば宝箱の中に頭を突っ込んでさっきから出てこない。
残念そうな声から一変、心配そうにアミナはネルに声をかけると。
『ふ、ふふふふふふふ』
宝箱の中からくぐもりつつも響いてくるネルの声が聞こえ。
ガバッと勢いづけて宝箱の中から顔を引っ張り出したかと思うと。
「見なさい!!」
堂々と宝箱の中身を見せつけてきた。
「なっ!?」
ネルが見せつけてきたものを見て思わず戦慄く。
「ネルすごい!!」
小さな手に握られるのは黄金の鍵。
確率五パーセントの壁なんてネルにとってはあってないようなものなのか!?
アミナは純粋にすごいとネルに向けて称賛している。
パチパチパチと拍手も送っている。
「これでもう一周できるわね!!」
「あ、ああ」
もう、ネルのリアルラックに関してはネルだからということで納得しておこう。
「あ、それとこれも出たわよ」
おまけ感覚で確実に入っている黄金の餅を俺は黙って受け取るしかなかった。
そこでふと、彼女のリアルラックを考えるとこれで終わりなのか?と残りの三つの金色の宝箱を見て思ってしまった。
「さて、次行くわよ!!」
「おおー!!!」
意気揚々、腕まくりをして次の金色の宝箱に挑むネルとそれに同調して気合を入れるアミナ。
なんだろう。
良いことが起きるはずなのに、嫌な予感としか言いようのない胸騒ぎがする。
「もう一本出たわよ!!」
「ええー、僕は黄金の餅だけなのにー」
うん、確率って何なんだろうな。
彼女の手元に輝く二本の黄金の鍵。
そう言えば昔、ギャンブル好きの友人が言ってたな。
持ってるやつに確率は通用しないって。
これが悟りか。
自分が運がない代わりにネルが運を持っている。
うん、それでいいじゃないか。
「おめでとう」
「なんでそんな優しい顔で拍手してるの?」
「あー、ネルはわからないかぁ。でも、僕的にはリベルタ君の気持ちはわかるかなぁ」
これはいいこと、俺のプライドなんて欲しい物が出た事実の前にはゴミクズ同然だ。
アミナの同情の視線も、ネルの困惑している顔も今はすべてを受け入れる。
「気にしないでくれ、ほら、もう一周するにしても時間があまりないから残りの一箱も開けよう」
「え、ええ」
嫉妬はしてはいけない。
これはすべては自分の運の無さが原因なのだから、ネルを恨んではいけません。
そう心に言い聞かせて、自分の醜い気持ちを消し去ろうと無心になった結果がこの顔だ。
肉体年齢は同じくらいでも、精神年齢的にかなり年下の女の子に嫉妬するなんて大人として終わっている。
それはそれ、これはこれと割り切るのは生きていくうえで、いや、FBOをプレイしてきた中で学んできたじゃないか。
理不尽なんて色々経験してきた。
ドロップ品勝負で負けたことなんて数えるのがばからしくなるくらい、経験してきたじゃないか。
だから俺は、優しい目でネルを見送る。
最後の金の宝箱を開けようと手を伸ばしたネルの姿を。
「きゃぁ!?なに!?」
「え?いきなり宝箱が輝いて」
てぇ!?それはないでしょ!!
「まさか、昇格!?」
ネルが触れた瞬間に金の宝箱が七色の光を放った。
この演出は、間違いない。
昇格演出だ。
宝箱がごくまれに上のランクに昇格する演出。
最低でも銀の宝箱からしか起きない演出のはず。
昇格する確率は0.1パーセント。
こんなタイミングで起きるのか!?
「り、リベルタ、これ」
「虹の宝箱」
虹色の光を放ち、姿が金から白金に変わった宝箱をネルは指さした。
アミナは茫然とその姿を見て、ただじっと宝箱を見つめている。
「……昇格したんだ」
「昇格?」
「銀以上の宝箱はたまに、上の宝箱になることがあるんだ。それを昇格って呼んでいる。その時に宝箱の中身は再取得されて、一新されるって言われている。たぶんだけど、その宝箱からは……」
何が出るかわからないとは言わない。
黄金のモチダンジョンの虹色の箱。
最低保証はスキル昇段オーブ。
それ以外に出るアイテムももちろんある。
「俺たちにとっては、かなり価値のあるアイテムが出る」
黄金の鍵が二つ出ている段階でもうすでにやばいことになっているが、さらに虹の宝箱まで開けられるとは。
もし仮に、この虹の宝箱であれが出ればとてつもないことになる。
「わ、私が開けるの?」
「「……」」
それを期待して俺は頷き。
俺の言葉を聞いてか、アミナも同調した。
「あ、開けるわよ」
何が出るかわからない、ただ言えるのはすごく心臓の音がうるさいただそれだけであった。
楽しんでいただけましたでしょうか?
楽しんでいただけたのなら幸いです。
そして誤字の指摘ありがとうございます。




