3 ミミックアーマー
ミミックは宝箱を模倣した姿でダンジョンに潜み、蓋を開こうと近づいてきた人間を補食するモンスターとして物語やゲームに登場することが多い。
宝箱とか壺に成り代わっている姿が印象に残っているゲーマーは多いだろう。
FBOでは徘徊するリビングアーマーとして登場するモンスターだ。
「本当にモンスターね」
狼とミミックアーマーとの戦いに乱入して横殴りによって一気に掃討したネルが黒い霧となるミミックアーマーを見て驚いている。
「たまに人間だと思って近づいて、攻撃されて死傷者を出すモンスターですが、そうとわかっていれば対処はしやすいです」
「装備も古いし、動きもどこかぎこちない。最下級のミミックアーマーなら見分けやすいぞ」
俺とクローディアでミミックアーマーの怖さと対処方法を教えるとネルはなるほどとうなずく。
ミミックアーマーには模倣という固有スキルがあり、人の形のフルプレートアーマーを模倣した外殻にミミックの本体を隠して徘徊する。
模倣というスキルはミミックアーマーの種族固有スキルでプレイヤーが持つことができないスキルだ。
ステータスはそこそこ高いし、クラス4とレベルも高い。
しかし、ミミックアーマーはこの模倣スキルしかない。
「スキル攻撃とかしてこないの?」
「してくるぞ。俺たちが使った攻撃スキルやアクティブスキルを模倣するからな」
その単一スキルゆえに、このスキルはかなり強力なスキルとなっている。
コピーのスキルだから劣化するかと思いきや、そのままの威力で模倣してくるからかなり厄介だ。
「え!?僕の歌も!?」
「当然。ただミミックが歌っているところは見たことないな」
まぁ、装備の関係上使えないスキルもあるし、模倣しても意味のないスキルは結構ある。
アミナの歌とか踊り系のスキルは当然模倣できる。
「安心しろ。パッシブスキルまではさすがに模倣できないから威力は俺たちに劣るよ」
欠点は表立っていないスキルまでは模倣できないから、しっかりと育成した俺たちのスキルと比べて威力も効果も落ちるという点だ。
「そうなんだ」
「それでリベルタ。ミミックアーマーが古代の武具を落とすのよね?」
「んや、今の状態じゃミミックアーマーは古代の武具を落とさない。とあるギミックを使わないといけないんだ」
「ギミック?」
ここに来る際にもいったが、この古代遺跡マダルダは複数の種族のモンスターが徘徊しているエリアだ。
目的のモンスターはミミックアーマーであることは間違いないのだが、こいつを普通に倒しても魔石か鍵しか落とさない美味しくないモンスターだ。
鍵が出ればかなり美味しいかと思うかもしれないが、その鍵もこの遺跡がないと意味がないのだ。
「そう、古代遺跡マダルダ発掘クエストって言ったよな?その発掘要素がここで一番重要なギミックなんだ」
その不味さを解消する方法こそが、発掘ギミックというわけだ。
FBOではとあるNPCにマダルダの噂を聞いて、必要なアイテムを揃えて発掘ポイントに足を運ぶと定期的にそこのポイントで発掘モーションを取ることができる。
NPCに話しかけなくても一応発掘ポイント自体は常設されているから発掘はできるけど、必要な道具が無ければそれを見つけることはできないのだ。
ひとまずここからは俺は馬車に乗っていると何もできないから、御者席から降りる。
「道具はこれを使う!!」
「L字に曲げた鉄の棒ですか?」
そして発掘ポイントを発見する道具をマジックバッグから自慢するように取り出す。
「そうダウジングだ!!」
「それはどのような道具ですか?生憎と見たことがありませんが」
「詳しい説明をすると長くなるが、この道具があればなんかよくわからないエネルギーを感知して発掘をすべき場所を見つけることができるようになる」
「「「「「・・・・・」」」」」
「あ、信じてないな?」
「むしろ、その説明で信じる方が難しいわよ」
イングリットに説明を求められたが、生憎とダウジングの原理を聞かれてもこのロッドダウジングに不可思議な力を感知させて反応させるという説明しかできない。
女性陣から怪しげな物を見るような視線を向けられるが。
「論より証拠!!実際にやって見せるからネルとクローディアさんは俺の護衛を!!イングリットは御者を頼む。アミナとエスメラルダさんは馬車の上から周囲の警戒を」
本当にこれでこの遺跡で必要な物を発見できるのだから、そうとしか言いようがない。
馬車に乗っている状態じゃさすがにダウジングをすることはできないからここからは徒歩、そして馬車を放置するわけにもいかないから背後からゆっくりと追いかけてもらう。
普通に鉄の棒を折り曲げたように見えるアイテムだが、これは魔道具屋でしっかりと売っている魔道具なのだ。
お値段なんと三百五十ゼニ。
日本円で三万五千円。
普通に見ればぼったくりか!?と思うような値段だが、一応エンチャントで探知が付与されている道具だ。
見た目はしょぼいがしっかりと正式な店で買った品物。
反応しなかったら女性陣の視線が痛くなるが、信じて俺はロッドダウジングを両手に持ってゆっくりと歩き出す。
「何を探すおつもりですの?」
「メモリーストーンって言う思い出の塊」
「なんですのそれは?」
「一説には、この街に大昔住んでいた人たちの残留思念的な物が土地にしみ込んでいてそれが魔力によって結晶化した物らしい。幽霊とかのアンデッドみたいなものじゃなくて、本当に遺された記憶の一部とかが漏れ出てそれが結晶化したような代物です」
歩くペースはそこまで早くない。
普通の速度の三分の二くらいの速さで歩いているから進む速度は自然と遅くなり、俺を囲むように陣形が敷かれる。
前にネル、右にクローディア、左に御者席に乗るイングリット、その後ろに馬車の屋根に乗ったアミナとエスメラルダ嬢という並びだ。
「そんなものがありますの」
「そのメモリーストーン自体は掘り出されると長持ちする物じゃないので、採掘してから二日以内に使わないと消滅しますしね。知らないのも無理はありませんよ」
エスメラルダ嬢の感心する声を聞きつつ歩き続けること十分。
道路はあちこち傷み、歩きにくいことこの上ないが、山道よりましという感じで探索していると、スーッとロッドダウジングが横に開き水平になった。
「ここか」
「????何もないよ?」
そこはただの道。
左右には崩れた家屋があり、本当に特別な物はないありふれた場所だ。
「まぁ、見ててくれ」
反応があったということはここで間違いない。
ロッドダウジングを腰に差し、次に取り出すのは。
「それなに?」
「なにって発掘道具だけど」
「どう見ても発掘道具に見えないのよね。それ、木の杖よね?」
「まごうことなき木の杖だな」
取り出したるはただの木の棒と言われてもおかしくはない代物だ。
ぶっちゃけて言えばモチ狩りをしていた時にアミナが使っていた木の杖と一緒だ。
メイドインガンジさんの木の杖だ。
沼竜装備を取りに行った際にずいぶんとへそを曲げてしまって、もう仕事を請け負ってくれないかと思ったが、追加で沼竜の素材を渡してエスメラルダ嬢の分を作ってくれと頼んだら態度が豹変して、あっという間に作ってくれた。
発掘というのは文字通り地面を掘り下げることをする作業だ。
石畳が残るこの道を掘るとしたら普通ならつるはしが必要になる。
スコップでもいいかもしれないが、それだと時間がかかる。
「これは穴掘りのスキルが付与された杖なんだよ。こっちは浮遊のスキルが付与された杖。この二つを使うとあっという間に発掘ができるんだよ」
FBOは攻略する要素の多いゲームだから、効率的に進めるには時間短縮をいかにして考えるかがキモになる。
作業試行回数が多いのなら、その作業時間をいかにして少なくするのかが重要になる。
この発掘作業も普通にやったらとてつもない時間がかかるのだけど。
「まずはこっちの浮遊スキルを付与した杖で石畳を軽く叩きます」
浮遊スキルという一見すれば浮かせるだけのネタスキルかと思わせるようなスキルだが、ステータスが足りているのなら石畳を一枚持ち上げるくらいは簡単にできる。
「あ、浮いた」
「すごいですわね」
馬車の上からだからよく見えたのだろう。
かなりの範囲の石畳がいっきに持ち上がり、そのまま脇にどかす。
「浮かせた石畳はこっちに置いて、次に穴掘りスキルを付与した杖でロッドダウジングで反応のあった地面を叩くとあら不思議、簡単に穴が掘れます」
そして地面の土が顕わになったが、石畳の重量で押し固められているからスコップで掘ることも大変そうだ。
だけど安心してくれ。この穴掘りスキルを付与した杖があればあっという間に穴なんて掘ることができる。
「そして、見つけたのはこの七色に輝くメモリーストーンだ」
「綺麗ね」
「この土地に眠っていた記憶が魔力によって固まった結晶だ。それだけここには多くの人が住んでいたっていう証拠になるかもな」
小指の先程度の小さな石。
七色に光る特徴が無ければ見逃してしまいそうなほど小さなそれが古代の武具集めには重要な代物になる。
「たまに二個とか三個いっぺんに見つかるときもあるけどな。あとはこれの繰り返しだ」
ゲーム時代は勝手に地面が修復されていたけど、さすがに現実世界でそんな摩訶不思議な現象が起きるはずもなく、俺は浮遊のスキルを付与した杖で掘った砂を穴に放り込みその上に石畳を乗せることで簡単に原状回復させる。
「ひとまずはこれで良しとして、次に問題になるのが」
「……このモンスターたちの対処というわけですわね」
その作業をしている間に、だんだんと周囲が騒がしくなってきた。
マダルダへの人間の侵入。
そこは今までならモンスターたちの闘技場であったはずの空間。
異物混入には人一倍敏感なモンスターたちが、協力はせずとも俺たちの排除に移行した。
「数が多いですわね」
「うわぁ、空にも一杯」
馬車の上にいる二人にはまだ攻撃をしかけていないが、いつ攻撃をしてもおかしくないような姿勢を見せるモンスターたちに表情を引き締めた。
「このマダルダの街中にある湧き地点はミミックアーマーだけだ。他のモンスターは街の外から侵入してきているから、倒せば補充されるまでに時間がかかる。今集まっているのは今まで溜まりに溜まっていたモンスターってわけだな」
「どうされますか?」
「倒すよ。そのために準備をしてきたんだし。クローディアさんは馬を守ってください。エスメラルダさんは周囲の警戒をしつつ俺の指示したところに範囲攻撃魔法を撃ちこんでください。最前線のモンスターの対応は俺たちでやります」
イングリットの確認に、俺は背中に収めていた槍の柄に手を伸ばすことで答える。
「数は多いが問題はない」
クローディアとエスメラルダ嬢はレベリングの最中な上に、スキル育成も中途半端。
なのでサポートに回すが、ネルとアミナ、そしてイングリットはクラス4カンスト勢だ。
ステータス的に言えば過剰戦力と言ってもいい。
「猿と鳥の遠距離攻撃に注意!あと、大きな体の個体がいたらそれは上位モンスターだ」
この道端で四方を囲まれるのは少し面倒だ。
「アミナ!精霊召喚とアングラーを召喚だ!」
「待ってました!!さぁ!みんな来て!!」
だけどこういうのはレイド戦で何度も経験している上に、こういう環境では無類の強さを誇る人物が俺たちのパーティーにいる。
精霊たちの熱狂のライブイベントの報酬で精霊術と召喚術を身に着けた駆け出しのアイドルが、その真価を発揮する。
アミナの呼びかけに馬車を中心として六つの魔法陣が展開され、現れるのは〝三体〟のアングラーと三体の小さな精霊たち。
「フーちゃん!ミーちゃん!ピーちゃん!」
召喚された風、水、光の小精霊たちが一斉にアミナに抱き着きそれをアミナは受け止める。
「さぁ!始めよう!!」
ここから先は一方的な蹂躙になるかもなぁ。
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