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15 プレイヤースキル

 

 決闘の賭け事の胴元が冒険者ギルド。

 八百長とか大丈夫なのかなこれ。


「では、これより決闘を行います。両者とも、これよりルールを説明しますので聞いてください」


 おっと、ここでようやくルール説明か。


「あなた方はこれより、あの決闘の女神様に宣誓を行い、無事宣誓が承認されれば、神により与えられる決闘の駒が現れます」


 うん、ゲームでは知らないアイテムだし、知らないシステム。

 PVPをするときは普通に決闘申請をして、そして決闘方法を選ぶだけ。

 ライフを全部使う、オール。

 ライフが半分切ったら負けの、ハーフ。

 攻撃がクリーンヒットしたら負けの、ワンヒット。


 この三択だった。


「かならず決闘の駒はつけてもらいます。現在装備しているアクセサリーを装備したままでも装備可能なので、そこは心配しないでください」


 しかし、ここで見も知らぬアイテムが出現するとは思わなかった。


「勝敗はこの決闘の駒が張る結界を破壊した者が勝者になります。結界はあなたたちの体に纏われるように展開され、急所に当たればその分結界が消費され最後に結界が無くなればそのまま駒が砕け散ります。そのあとに攻撃した者は決闘を汚した者として神罰が下るので注意してください」


 なるほど、こうやって怪我防止をしているから子供同士でも武器を持って決闘ができるわけね。

 おまけに死体蹴りは厳禁と。


 神が裁定を下すなら人間がとやかく言うこともないか。


「理解しましたね?」

「はい」

「わかってるよそんなこと!!早く始めろ!!」


 そしてこれは本当に一般的なことなんだろうな。

 ダッセは聞いたことがあることを聞いて、退屈そうにしている。


「規則なので、では、神に宣誓を」


 まずい、俺、神の宣誓の仕方なんて知らん。

 あれか?


 選手宣誓のようにやればいいのか?


「俺、ダッセはこの決闘に正々堂々挑むことを神に誓います!!」


 あ、本当に選手宣誓のような感じでいいのね。


「自分、リベルタは決闘に正々堂々と挑むことを神に誓います!」


 ゲームではやったことがないから少し恥ずかしいが、しっかりとやる。


 こうやってしっかりと戦う意志があることを確認することによって八百長も防いでいるのか。


 宣誓を中途半端にすれば、こうやって像の左手に持つ天秤から出てくる光がこっちにむかってはこないってわけか。


「……モアイ像?」


 光が俺の目の前で止まってそっと手を差し出すと、どこかの民芸品コーナーにありそうな革紐につるされた木彫りのモアイ像がそこにあった。


 首にぶら下げろというのはわかったがデザインセンスに関してはちょっとどうなんだろ?


 黙って、首にかけるとシュッと首が締まらない程度に調整され、そして俺の体に光の膜みたいのが纏われた。


 素直にすごい。

 こんなタイプのスキルはゲームになかったから、これ欲しい。


 どうにか今後の生活のために手に入らないだろうか?


「準備はいいですね?」


 おっと、それはひとまずこの決闘を終わらせてからにしようか。


 俺もダッセ何某も首にモアイ像みたいなものが垂れさがり、それを確認した受付嬢さんが神妙な顔で右手を振り上げる。


 俺は竹槍を背中から取り構え、ダッセは短剣を鞘から抜くと肩幅に足を開いて構えた。


「それでは、始め!」


 振り上げられた手が振り下ろされたと同時に、受付嬢さんはその場から飛びのく、それによって俺とダッセの間に隔たるモノが無くなった。


「すぐに終わらせてやる!!」


 猪突猛進。

 開始と同時にダッセが攻めてくる。


 足の速さはそこまで速くない。


 PVPで一番重要なのはスキル構成だと俺は思っている。

 どういう戦闘スタイルで戦うか、それによってどういう対応をすればいいかわかるからだ。


 ダッセの武器は短剣。

 本来であれば、その武器の間合いを考えて俊敏に動きヒットアンドウェイを基本にするのが王道。


「そんな竹でできた武器なんかこうしてやる!!」


 だけど、ダッセの動きは長剣や大剣を想定しているような動きだ。

 細かく連撃を稼ぐのではなく、一撃で粉砕を心掛けているかのような動き。


 槍の間合いが厄介なのを知っているのか、短剣で俺の竹槍の先端を破壊しようと走りながら振り上げている。


 レベル差的に、力比べをしたら間違いなく負ける。


 だったら。


「ほっ!」


 適度に脱力し、一歩だけ間合いを離し。


「はっ!」


 追いかけようとダッセの攻撃のタイミングがずれたタイミングで槍を突き出す。


 たったそれだけで、まっすぐ進むダッセの鳩尾に槍が突き刺さる。


「げぇ!?」


 そう言えばこれって痛みとかどうなってるんだろ。


 痛覚とかなかったら、普通にゾンビアタックとかできそう。

 だけど、普通にこれを食らったら痛いじゃ済まないし。


「赤くなった」


 槍を突き出して、攻撃を当てたら一発でダッセの表面が赤くなった。

 これってもしかして急所に当たったからもう結界が限界にきているってことかな?


「クソクソクソクソクソ!!」


 それだともう少しで、もしかして終わるかもと、近づけないように槍を細かく突き入れ。


 必死にダッセが竹槍の矛先を弾こうとしているけど、それよりも先に槍は引かれる。


「くっそぉ。なんで、なんで?」


 俺は遠い間合いからチクチクと竹槍で体力を削り、ダッセは汗をかき息を切らしている。


 ゲームで間合い、距離の管理は各武器ごとに必須のプレイヤースキルだ。


 近い距離で攻撃する剣であっても、間合いを取って攻撃する槍であっても、弓矢や魔法と言った遠距離であっても、この距離管理が勝敗を分ける。


 これを管理できていることでこうやってレベルの差などある程度は無視できる。


「さっきから遠くで攻撃しやがって!!ずるいぞ!!正々堂々勝負しろ!!」

「いや、槍ってこういう武器だし」


 一方的に攻撃されている所為で、ダッセが苛立っているけど、それこそ知ったこっちゃない。


 こうやって背中に堂々と竹槍を背負っていてどの武器を使うか明白なのにそれを卑怯と言われても困る。


「それになんだよその竹槍!!さっきから何回も切ってるのに、なんで壊れないんだよ!!」


 終いには俺の竹槍にもクレームが入る。


 うん、そこはこの武器のチートが機能しているだけなんだよね。

 スキル「不壊」は文字通り壊れない。


 竹と金属の短剣で打ち合えば、当然竹が負けるんだけど、この竹槍は弱者の証と合成されているから壊れないのだ。


「なんでだろうね?」

「ふざけんなよ!!」

「ふざけてない、自分の情報を渡すなんて愚かなマネをしたくないだけ」


 それに加えて、竹槍の間合い、さらに何千、何万と繰り返し強者たちとPVPしてきて鍛えられたプレイヤースキルがこの程度のレベル差を覆せないと思ったか。


 過去にゲーマー仲間で初期キャラでどれくらいのレベル差まで勝てるかを検証したこともある。

 お前よりも強い奴らでも、装備さえどうにかなればクラス2の中ごろまでは百回闘って一回は勝てるんだぞ!!


 そんな猛者たちとの戦いと比べてダッセとの戦いはぬるいのなんの。


「ほい、隙あり」

「あ」


 結界が相手のケガを防止してくれるならこっちが容赦する必要なし、体を突くふりをして短剣を握っている手にめがけて竹槍を突き出せば、見事に手首に直撃。


 衝撃で短剣は手放され、短剣が地面に転がってダッセが慌てて拾おうとしたけど。


「隙だらけ」


 俺がそれを待ってくれると思ったのか?

 しゃがんだダッセにめがけて思いっきり槍を突き出して、ダッセの首元に槍が突き立った途端、俺の手に強い衝撃が走り、そして弾かれた。


「なんだ!?」


 そのまま距離を取ったけど、ダッセも尻もちをついて驚いた顔をしているから彼が何かをしたわけではない。


「そこまで!!勝者リベルタ!!」


 しかし、決着はついたようだ。

 外野が負けたとか、ありえないとか敗者の叫びで覆われる中、不完全燃焼な俺はどうしたものかと首をかしげていると、首元が光ってモアイ像のペンダントが光になり天秤の方に戻っていってしまう。


 つい、手を伸ばして掴もうとしたけど光はするりとすり抜けてしまった。


 残念、欲しかったのに。


「なんでだよ!!なんで俺が負けるんだよ!!お前!何かズルしたな!!」


 手を握ったり開いたりと、すり抜けたアイテムを残念がっていると起き上がったダッセが俺に詰め寄ってくる。


「してないよ、俺はレベル無しのスキル無しだ。そんな俺に負けたんなら、君の実力不足って奴だろうさ」

「なんだと!!俺はゴブリンだって倒せたんだ!!レベル無しのお前に負けるはずがないんだぞ!!」

「いや、負けたじゃん」


 不正を疑われても困る、それに神様の監視の下での決闘であるなら俺が卑怯なことができていないのも承知のはず。


「負けてない!!さっきのは本気じゃなかったんだ!もうい、たたたたたたたたたた!?」

「え?何事?」


 どうやって、諦めさせようと考えていたらいきなりダッセが頭を抱えてうずくまった。


「心配いりませんよ。決闘を汚したペナルティですからしばらくすれば収まりますよ」

「ペナルティ?」


 いきなり頭を抱えてうずくまったから何かやばいことになっているのではと焦ったけど、受付嬢さんがダッセをひょいっとわきに抱えて問題ないという。


 美人なエルフさんが、痛い痛いよぉと泣き言を漏らす小太りの少年をわきに抱える絵はなかなかシュールだが、それよりもペナルティという言葉が気になる。


「さっきのダッセ君の言葉、本気じゃなかったって言葉です。決闘の前に正々堂々戦うと神に宣言してその結果負け、そして負けを認めずこうやって見苦しく再戦を挑もうとしたんです。それはすなわち、神にウソを言ったということになりますので、こうやって軽めのペナルティが科せられたんですよ」

「これで、軽いんですか?」

「ええ、身動きが取れない程度の頭痛が一時間ほど続くだけですから」


 ダッセの様子を見て、そして受付嬢さんの言葉を聞いて、それ、軽くないと心の中でツッコミを入れる。


 動くのも億劫になるほどの頭痛ってかなりきついと思うのは俺が日本の常識に縛られているからか?


「決闘は純粋に勝負することもありますけど、何かを賭けて勝負する人も大勢います。その時負けた人はこうやって言い訳することも多いんですよ、言い訳するくらいなら決闘なんてしなければいいのにと思いませんか?」

「そうですね」


 これで軽いのなら、これ以上に重いペナルティもあるということ。

 それを考えると思わず背筋がぞっと寒くなった。


 嫌ならしなければいい。


 受付嬢さんの言う通りだ。


「この子に関してはギルドの休憩室で休ませますので、あなたは気にせずそのまま帰って大丈夫ですよ。ここに残っても起きたこの子に絡まれるだけでしょうし、お連れの方も待っていますよ?」

「そうさせてもらいます」


 今回は厄介ごとに巻き込まれたけど、知らないことを知れてよかったと思って割り切ろう。


 神様という存在について、少し調べる必要があるな。


 教会があったはずだから、そこに行けば何か知ることができるかな?


「リベルタ!!」

「勝ったぞ」

「うん!こっちも勝ったよ!!」

「だろうね」


 ひとまずは、喧嘩を売られてご機嫌斜めになったお姫様がジャラジャラといい音を鳴らす袋を顔の横において笑顔になっている絵はスルーしよう。


「あとで半分こしよう!」

「え、いいよ。それ、ネルが勝った奴だし」

「だめ!リベルタも戦って勝ったおかげだから!」

「ちなみにいくら勝ったの?」


 遠くで五百ゼニ、日本円で五万円賭けたというのは聞こえていたが、オッズまでは聞き取れていなかった。


「ふふふ、四千ゼニになったよ」

「……前よりも稼いだなぁ」


 八倍かぁ、狸で稼いだ額をあっさりと上回ってしまってネルがギャンブルにはまらないか心配になる。


「ネル、商人になるなら時には賭けに出る必要があるのはわかるけど、やりすぎないようにね?」

「わかってるわよ。でもお父さんは絶対に勝てると思ったら躊躇うなって言ってたわ」

「そうなんだ」

「ええ、お父さんの言う通りだった。これならもう少し多めに賭けてもよさそうね」

「止めときなさい」


 もしかして、俺が勝つと信じてくれていたから賭けてくれたんだろうか?

 それなら嬉しいけど、なんかここでギャンブラーの片鱗を見せつつあるから少し、いや、かなり心配になる。


 この世界にもカジノはあったはず。

 もし、その街に行く時が来たら、本当に注意しよう。


「ええー」

「ええーじゃありません。寄り道しすぎて、時間もかかっちゃったんだから早く買い物に戻るよ」

「はーい」


 特に今の環境はまずい。

 敗北者たちが、ネルを恨みがましい目で見ている。

 早々にこの場から立ち去っておくべきだろう。


 いや、買い物を中断して家に帰った方がいいかもしれんな。



楽しんでいただけましたでしょうか?


楽しんでいただけたのなら幸いです。


そして誤字の指摘ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
決闘に付随する賭けの結果に逆恨みしようものなら排除されるかもしれないね 負けるのが嫌なら賭けなければいいだけなのに、自己管理もできない無能としてプロとして低く見られたり
オッズ8倍というのが非現実的な数字です。リベルタ君の勝利に8倍つくという事は、仮に「胴元に入る儲け0/賭け方はリベルタ勝ちor小太り君勝ちの2パターン/最低オッズ無し」だと仮定すると、小太り君勝利に賭…
>竹と金属の短剣で打ち合えば、当然竹が負けるんだけど、この竹槍は弱者の証と合成されているから壊れないのだ。 リアルでも絶対竹が勝ちます。ボロボロの腐りかけとかですら横から切るのには苦労しますので。な…
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