19 噂話
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「ハハハハハハ!!笑いが止まらんとはこのことだなぁ!!」
あっちを見ても精霊石、こっちを見ても精霊石。
ほとんどの精霊石がクラス1から3とランクは低いけど、その分種類と量は豊富だ。
地水火風全属性の精霊石が揃っていると宝石箱のように綺麗で思わず笑みが溢れてしまう。
「リベルタ!こっちの方も終わったよ!!」
「おー、アミナお疲れ様!」
なんだかんだあったが、いろいろな精霊が集まったおかげで全属性の精霊石をまとめて収集することができた。
これだけあれば、かなりの量の属性武具を作ることができる。
仲間全員での採掘作業と仕分け作業は大変だったけど、充実していたと言っていい。
時間をかけた分の成果も出ていることだしな。
「本当に助かったぞ、おかげで同胞たちの移動も楽になる」
これが終われば下山するだけだ。
「こっちとしても美味しい話だったので助かります」
結局その場に三日ほど留まり、その間ずっと精霊回廊の掃除という名の精霊石採掘をし続けて、見ての通り山盛りの精霊石が手に入った。
それを手配してくれた風の大精霊の偉丈夫に声をかけられ、頭を下げて感謝する。
この感謝は二重の意味がある。
一つは純粋に大量に精霊石を手に入れられたことだ。
クラスごと、属性ごとに分けてあり、希少性が高ければ高いほどとれる量も減るが、それでも精霊石の小山がいくつも出来上がっている。
「本当に人間はこのような邪魔物を欲しがるのだな、正直そなたらの気持ちがわからん」
「俺たちにとっては有用でも、精霊たちからしたら不要な物ですしね」
「然り、ああ、作業の手を止めて悪いな。私との話は作業しながらでよいぞ」
「そうですか?ではお言葉に甘えて」
王都に持ち帰って売り払ったら一体どれくらいの値段になるか想像すらできない量だ。
だが、これからのことを考えるとこれでも足りないと思ってしまうのはゲーマーの性だ。
風の大精霊のお言葉に甘えて、精霊石の整理をするが、とてもじゃないが全部を持って帰るのは不可能だ。
二つ目はこれだけの量の精霊石を持ち帰るとなると、マジックバッグ一個ではどうあがいても足りない俺たちにとってかなり助かる提案だった。
「それにしても、良いんですか?街中まで運んでもらうなんて。人里に下りるの嫌ですよね?」
「なに、こっそりと運ぶだけならどうにでもなる」
大精霊たちがどうにかしてくれると申し出てくれたのだ。
風の大精霊は笑顔で任せろと頷いてくれた。
大精霊が王都に降り立つと、かなりやばいことになりそうだけど、隠れることができると言うのであればお任せしよう。
ゲームでの設定では精霊は人の目につく場所に行くことを嫌うとあったが、用事があれば行くこともあるのだろうな。
俺たちからしても人目を避けて精霊石を運べるのなら申し分ない。
「そう言えばリベルタよ話が変わるのだが」
「なんですか?」
「そなたこの後はどこに行くつもりだ?」
「どこって、とりあえずノーリッジの街におりて、そのあとは王都に帰りますけど、もしかして次いつ来るかの確認ですか?」
精霊石の品定めをしつつ、クラス3の精霊石と、いくつか取ることができたクラス4の精霊石。
これだけはしっかりと、マジックバックの中に入れて自分で持って帰ろうと詰めていると、意図がわからない質問を投げかけられた。
思わず品定めの手を止めて振り返ってしまった。
「いや、そういうわけではない。私たちは人とは比べ物にならないほど長い年月を生きることができる。ゆったりと待つことくらいできる。私が心配しているのは別件でな」
一緒に遊んだのだから、次の遊ぶ約束を考えていてもおかしくはないと予想したが、また来てくれればそれでいいと風の大精霊は笑いながらその言葉を否定した。
「別件とは?」
「うむ、近頃精霊たちの間で噂になっておってな。東に大きな穀倉地帯があるであろう?そこに嫌な雰囲気が出ていると聞いてな。私はまだ見ていないが地のやつが嫌な予感がすると言っておってなぁ。もし君がそちらの方に行く用事があるのであれば、少し調べてはくれないかと思ってな、君であればその土地を見れば何かわかるのではとな」
まさかの大精霊からの相談事とは。
そしてなんてピンポイントの話題をおっしゃってくるのか。
「わかるというか、その土地の出来事なら知ってますよ」
「なんと?それはまことか!?」
「はい、その嫌な予感の正体は知っていますよ。しかし、精霊の間でも噂になっているんですね」
「ああ、我らは好んだ土地に住まう存在故な。その土地の変化にはどの存在よりも敏感なのだ。して、その変化の正体とはなんだ?」
「はい」
大精霊だけではなく、精霊の間に噂になっている東の穀倉地帯で感じる嫌な予感。
それは。
「その嫌な予感の正体はイナゴ将軍の出現前兆ですね」
「……なんといった?」
「ですからイナゴ将軍です。定期的に現れる害虫で、穀倉地帯の穀物を根こそぎ食べてしまうやべぇ奴です」
大量のイナゴをまとめ上げ、一軍にするイナゴ将軍と呼ばれるモンスター。
正確に言えば、ホッピングソルジャーと呼ばれるモンスターだ。
名前が読みにくいという理由だけで、俺たちプレイヤーはイナゴ将軍とかイナゴ戦士とあだ名をつけて呼んでいる。
バッタやイナゴといった昆虫を原型としたモンスターで、奴らは秋頃に大量に現れる季節限定のモンスターだ。
FBOでは秋と言えばこのモンスターと言うくらいの風物詩と化している定期イベントで、中には親の顔よりも見た顔と言うプレイヤーもいる。
「ただ、経験値も美味しいですし、そいつらが落とすドロップ品も中々優秀ですよ。ちょうど狩りに行こうかなと思っていたのでついでに解決してきますよ」
定期的に開催されているということはプレイヤー間でも人気のイベントということ。
「渡りに船ということか?」
「そういうことです、精霊たちが困ってるなら俺としても放っておけないですし」
具体的にどこら辺が人気かといえば、こいつらを討伐して得られる報酬が汎用性が高くて、定期的にイベント開催してくれと熱烈なメッセージが運営に送られるくらいにだ。
困り顔の大精霊に貸しを作っておくという下心もあると言えばあるが。
「その土地が荒れて精霊が離れたら凶作待ったなしです。餓死はダメ絶対」
「確かにな、精霊の恩恵を受けなくなった田畑は悲惨の一言ですまないな。そう簡単に精霊が土地を手放すということはないが、それでも絶対ではない。危ない土地に居座らないのは精霊も人も一緒だ」
とある設定というか忠告で、イベントで大敗を期すとイナゴ戦士たちにその土地は根こそぎ食い荒らされてしまい、そこから精霊が離れるというイベントが発生する。
そうすると凶作というバッドイベントが発生し、食料関係のアイテムドロップ率が軒並み低下、さらには食材販売系のNPCが閉店して買い物ができなくなるという負の連鎖が発生してしまう。
「それはわかります。なので全力で対応に当たらしてもらいますね」
「君の言葉なら信用できる。ぜひとも頼む」
それはゲームでなら頭を抱える程度で済むが、リアルでやられると致命傷なんだよ。
だから、俺たちの生活の危機を避けるべく、嘘や建前ではなく本気でこのイベントは勝ちに行く。
内容としては収穫間近の小麦畑に襲来する昆虫型モンスターから穀倉地帯を守れと言うレイドイベントだ。
「任せてください、と言っても俺もあいつらに用があるから都合がいいんですよ」
「そう言えばそんなことを言っていたな。災厄と呼ばれるモンスターにそんな下心を抱けるとは感心していいのやら悪いのやら」
「素直な心は大事ですよ」
「君の場合は素直な部分もあるが、それとは別の下心も混じっていることもしっかりと念頭に置かねばならないな」
「間違いないですね」
敵は二足歩行してくる蟲の戦士たちなのだが、こいつらの厄介なところはその足から繰り出される跳躍と突進だ。
「何分まだまだ成長途上ですので、そいつらが落とすスキルスクロールが欲しいんですよ」
まず一つ目の報酬というか、こいつらしか持っていないスキルスクロールが優秀すぎる。
「成長途上か、確かにその通りなのだが大丈夫なのか?地のやつが嫌な予感を感じるほどだ。相当の軍勢が待ち構えているのは間違いないぞ。言っておくが我らの助力を期待しても無駄だ」
敵が落とすスキルスクロールの一つが突進というまぁ安直なスキルで、これはぶっちゃけて言えばクローディアが持っている雷歩の下位互換。
直進的に進む際に、速度が上がり正面に攻撃判定を生み出すというスキルで、槍スキルを持っている俺とは相性がいいけど、欲しいのはそっちではない。
欲しいのはもう一つの空歩という、二段ジャンプができるようになるどころかスキルレベルを上げれば最大で十歩まで空中を高速で駆け抜けることができるという神スキルだ。
戦闘に於いて二次元的な動きだけよりも、三次元的な動きができるようにする方が強い。
「そこら辺は問題ないですよ。収穫時期までまだまだ時間があります。それに精霊石がこれだけありますし、風属性を付与した武器で戦えれば問題ないです。防具の方も地耐性のある沼竜の素材も結構集まってますから、将軍を倒すことも視野に入れられるレベルです」
そんな便利スキルを落としてくれるのがイベントボスではなく雑兵のイナゴ戦士なんだから美味しすぎる。
数が多いから、個体ごとにドロップ判定があるので倒せば倒すだけスキルスクロールが手に入る。
この時のプレイヤーたちは、間違いなく薩摩武士が憑依していると言っていい。
イナゴ戦士たちの首を搔っ切りながら、置いてけ、スクロールを置いてけと呟きつつ屠るのだ。
他にも、こいつらが落とす飛翔の蟲翅というアイテムがこれまた汎用性が高いのなんの。
こいつのドロップ率は、イナゴ戦士が昆虫型モンスターの中でも随一に高い。
そしてこいつが何に使えるかと言えば、ちょっと合成するだけで消耗品だけど風属性の魔法に化ける。
例えば飛翔の蟲翅と風の精霊石クラス1を合成するとウィンドエッジという魔法を使えるアイテムに化ける。
消耗品ではあるがリキャスト無し、魔力消費無し、連発可能で魔法が撃てるというのは想像以上に使い勝手がいいし、なんなら弱点属性である地属性の相手にウィンドエッジだけでも数を揃えればクラス4のボスくらいならレベル無しでも狩れる。
他にもクラス2の精霊石と街の土に飛翔の蟲翅を合成させると効果は限定的だけど、帰還アイテムになる。
他にも伝達の鈴という、対になっている鈴があって、その鈴は片方を鳴らすともう一つの鈴もなるというアイテムなのだが、これとクラス2の風の精霊石と飛翔の蟲翅を混ぜ込むと、消耗品だが対になっている羽に伝言を伝えることができるメッセージアイテムに化ける。
数を揃えられれば、かなり便利なアイテムが量産できてしまうし、ダンジョン内でも利便性が高いのでダンジョンの攻略必需品と言っていい。
「君が言うのならそうなのだろうが、気を付けることには越したことはないぞ」
「はい、ご忠告感謝します」
「なに、精霊回廊を清掃してくれる人間は貴重でな、それに遊びで負け越したままでいるのも嫌なのだ。私も練習しておくので早く再戦しようぞ」
発生するのは秋頃とは思っていたが、精霊のお墨付きがあるのならイベントは確実に発生する。
王都に戻ったらさっそく東に行く準備に取り掛からねば。
「羽子板とボールは置いていきますけど、コートはどうします?」
「そちらも私たちで管理しよう、同輩たちももっと遊びたがっているようだしな。次に会う時は君たちが勝てる精霊はいないかもしれぬぞ?」
「それは面白そうですね。挑戦者の方が楽しめますし」
「ククク、なるほどそういう考え方もできるか」
どっちにしろ、一度は下山してロータスさんと合流して公爵閣下に会ってからの話になる。
会話をしながらも精霊石をマジックバッグの中に入れて、ちょうどいいタイミングで整理も終わった。
「ではな、人の子、リベルタよ。次会う時は私に名を与えられるようになっていてくれ」
「その役目は俺じゃなくてアミナですよ」
精霊というのは名を持っていない。
ゆえに、ネームド精霊というのは過去に誰かと契約した精霊のことを指す。
自分は未契約の精霊だとアピールする風の大精霊には申し訳ないが、俺は精霊使いを目指す気はない。
それに初手の契約で大精霊は成長過程的に美味しくはない。
「む、だが、彼女は小精霊たちに興味を持ってるな」
マジックバッグを肩にかけ、そして立ち上がった時に見えた大精霊の顔は正しく、仲間にしてほしそうにこちらを見ているのだ。
「大丈夫ですよ」
「ん?」
「また、遊びに来ます。友達に会いに」
「!そうか、友か。そうだな、また遊ぼう友よ」
俺個人としてもこの出会いはなんだかうれしいので、また来ようと思った。
グッと握りこぶしを作って、笑顔で前に突き出すと、風の大精霊は一瞬何をと思ったがすぐに察して、こつんと拳をぶつけ合った。
だからこそ、再会を約束するのだ。
ここはゲームの世界じゃない。
ここはただ精霊石を集めるだけの場所ではない。
そんなことを再認識できる場所であった。
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