3 メタ
正直、公爵家のメンツなどというものは、俺個人からしたらどうでもいい切り捨て案件だ。
だが、貴族の中では貴重な常識枠であるエーデルガルド家が衰退するのは、将来を見据えれば俺たちの生活の根幹を揺るがしかねないので避けたい。
なので、ここは知恵を振り絞るとしよう。
ロータスさんが持ってきてくれたのは報告書と地図だ。
「現在攻略してあるダンジョンの階層の地図とそこに至るまでの報告書だ。細かいモンスターの分布も記載してある」
「助かります」
その内容は現在進行形で行われているデュラハンダンジョンの攻略情報。
攻略W〇kiとかで載ってそうな内容だ。
貴族だからこそここまで詳細な情報を集めることができているのだろう。
解析班も納得の仕上がりだ。
「十五階層・・・・・ボス部屋まではまだ届いていないのですか」
「ああ、ドラゴンゾンビが思ったよりも多くてな」
「解呪のポーションでの攻略はどうですか?」
「もともと在庫がそこまで多くない上に、この前のスタンピードで大量に消費してしまった。錬金術師に言って生産をしているが材料がなくてな」
「量産ができていないと」
「芳しくないな」
その情報を公開してまでやらないといけないのか。
「それでどうだリベルタ」
「……デュラハンダンジョンのボス部屋までの攻略は問題なさそうですけど、ネックなのはその奥にある飛竜のダンジョンですね」
攻略状況、それこそ戦力まで詳細に書かれている物を見れば間違いなくデュラハンダンジョンを攻略できるだけの戦力は整っている。
EXBP無しだとしてもレベルも十分だと言えるような人材が参加している。
それで一番顕著なのがギルドマスターの参戦と騎士団からも精鋭が送り込まれていることだ。
突出した強さを誇るギルドマスターを平均レベルが高い騎士団が支えるというバランスが良い組み合わせ。
焦らずしっかりと進めれば問題なく攻略はできる。
「やはりか」
「欲をかかなければ平穏無事に終わる内容ですけど、必要なんですよね?」
「……ああ、ここでさらに功を重ねられれば他の公爵家の動きを牽制できる」
「なら」
それはあくまで今回のスタンピードに関連する一連の事案の解決のめどが立っているという保証に過ぎない。
と言うことは、それ以外の部分で問題が起きている。
FBOで巻き込まれる他の公爵家のクエストは、どれもが面倒極まりない悪辣な内容ばかり。
伊達にこの大陸に根を張り権力を維持してきたわけではない。
その根っこを引き抜くには相当な根気と努力が必要となる。
そして今後予想される被害が拡大するのを防ぐには、ゲームでは表向き悪役として表現されてきたエーデルガルド家の力が必要になる。
ここでこの公爵閣下の力を増しておけば、あとあと他の公爵三家への対応が楽になるか、最低でも原作通り一つの家で拮抗するまで持っていけるはず。
「手っ取り早いのはメタを張ることですね」
「メタを張る?どういう事だ?」
「その種族に属した系統に徹底的に対抗策を講じることです。今回の場合ですと、相手は飛竜と風竜ですので、風属性の竜種に特効の装備を用意するとかですね」
そのために必要なのは対風竜用の装備を用意することだ。
FBOでもそこら辺はよく用いられた。
というか後半のボスごとに特効装備を用意しないとステータスを鍛え上げたとしても苦戦は必至だった。
「そう簡単に言うな。竜殺しの武器など早々に用意できるものではない。王家の宝物庫に数本あるだけだぞ。娘から聞いたが、件の冒険者がお前の竹槍を竜殺しの武器だと信じ欲したのはその珍しさがある上に、王家主催のオークションだったからだ」
「そうなのですか?意外と簡単に作れますよ?まぁ、性能はそこそこで完成形には程遠いですが」
「リベルタ、あなたの常識は私たちにとっては非常識なのです。そんな簡単に言わないでください。公爵の胃に穴が開きますよ」
風竜相手なら地水火風の法則に従って、火属性の対竜効果を持った武器を作り、風特効を付与した防具で身を固めれば真正面からでも狩れるし、そこにブレス対策と飛行対策を用意すればいいだけのこと。
風竜の厄介なところは、広大なボスフィールドを縦横無尽に飛竜とともに飛び回り、高速移動でかく乱してくることだ。
おまけに足場を制限してくるから、こっちは逃げ回ることもできないという環境的不利も抱え込んでしまう。
「まぁ、竜殺しの武器がなくても呪毒を使った方法もありますけど、こっちの方が作るのが面倒なんですよねぇ。一本でも矢が当たれば後は持久戦に持ち込めば勝ち確の戦法なんですけど」
「まて、お前は竜をたった一本の矢で殺せるのか?」
「時間はかかりますけど、できますね。まぁ、それくらいの濃い呪毒を作るには果てしない時間がかかりますよ。設備が整って自力で材料を整えればコストゼロですけど、熟練者でも一か月、そこそこの腕で一年以上。風竜でそれくらいかかるんでコスパ悪いんでお勧めはしないです」
「そんな時間がかかってしまったら意味ないだろ」
「ですので、時間的にそこまでかからない竜殺しの装備を一式、六人分作れば十分かなぁと」
それを諸々考慮すると、メタ装備を作るのが一番妥当且つコスパがいい。
「お前は、そう易々と言うがな」
「ヒール、要りますか?」
「結構だ。それでリベルタ、私は何を用意すればいい?」
「公爵家お抱えの鍛冶師ってどれくらいのレベルですか?あと設備ですね。それによって用意する材料が変わるんで」
もう色々と俺の存在がやばい認定を食らっているので、遠慮なしで知識を開放していくとどんどん公爵とクローディアの顔色が悪くなっていく。
この程度で顔色を悪くしてたらこの後のことなんて泡を吹いて倒れちゃいますよ。
ため息も甘んじて受けますが、話を進めます。
「ロータス」
「はい、すぐに確認できるだけですと、王都に店を構える親方のレベルがクラス4のレベルが二十三です。設備に関しては詳細はわかりませんが、王都内でも最新の設備を擁していたはずです」
「足りるか?」
「・・・・・ギリギリ行けますね。ただ、材料は省略できないので完全素材で行かないとダメですね」
まぁ、そこら辺のことは後々のお楽しみで言わないでおきますけど。
とりあえず今は風竜対策だ。
「最低限必要なのはタンク役が二人、武器は無くて良いので両手に持つ大盾が二つ、さらに予備があるといいですけど、この盾には風属性特効をつけて、あとは注意を引けるようにヘイトスキルがあるといいです。全身鎧も着込んで風特効をつければ大盾と二重防御で、早々に落ちることはないですし、二人でダメージ管理をすればまず落ちません」
まず最初に絶対必須と言っていい、防御枠。
レベルが対等なら火力でごり押しっていうのもできるけど、レベルが足りていない状況ならダメージ管理役は絶対にいる。
所謂、タンク役という存在だ。
「最低でも鋼の鎧、理想は魔鋼以上の鎧ですね。大盾は絶対に魔鋼以上です。あ、魔銀はダメです。アレは魔防は高いですけど、物防が少し低いんで要求値を満たせません。そこは気を付けてください。あとは風属性耐性を限界までエンチャントしてやればタンク役は十分です」
「鎧は予備があるから準備はできる。大盾は・・・・・ロータス確かダマスカス鋼の大盾があったな」
「はい、リベルタ様ダマスカス鋼ならいかがでしょうか?」
「十分です。エンチャントも魔鋼よりも乗りますし、もう限界までエンチャントしちゃってください」
「かしこまりました。すぐに風属性耐性をつけるようにします」
さすがは公爵家、在庫ですぐに用意できるとは財力がうらやましすぎる。
「風の精霊石の在庫はあるか?」
「はい、潤沢と言うほどではありませんが一つのパーティー分でしたら十二分に」
「ならいい、リベルタ次は何を用意すればいい?」
「そうですね、ヒーラー、回復役ですけど、これも二人いります。この二人で立ち回ってタンクとアタッカーを生き残らせるんですけど真っ先に狙われる可能性があるんですよね」
「そうだな、風竜ほどになると知性も他のモンスターとは比べ物にならん」
そんな財力無双を見せつけられながらも、淡々と必要な装備を挙げていく。
「ヒーラーの有る無しの差でパーティーの持久力が変わりますから、できればアイテム頼りにはしたくないんですよね。無茶苦茶な理論ですけど、割とありな選択肢なのでタンク役の人に鋼製の棺桶を背負ってもらいましょう」
「……今何と言った?」
「ですから鋼製の棺桶を背負ってもらって、そこにヒーラーを入れて対応しようかなと、回復するときは棺桶に触れてもらえば普通に回復できますし」
「聞き間違いではなかったか。冗談ではないのだな?」
「冷静に考えて、レベルが足りていないヒーラーに風竜や飛竜の攻撃が耐えられると思いますか?装備を整えても段違いで防御力は低いですし」
「そのために棺桶か」
「はい、棺桶の風耐性を上げておけば並みの全身鎧よりも強固になりますし、タンク役の人が守ってくれるので被弾する恐れもありません。ちなみに理想形は巨人族のタンクの人に小人族のヒーラーのコンビです」
「常に攻撃にさらされ続けるという意味では危険なのではありませんか?タンク役は最前線で攻撃を受け続ける役目です」
「風竜と戦う場所は開けた断崖絶壁の広場で逃げ場ゼロです。そこで逃げ切ることができると豪語する回避自慢のヒーラーか、風竜の攻撃を何度も耐えることができると自信のある体力自慢がいればいいですけど、ステータス構成上どっちも現実的じゃないです。となれば、あとは風竜に狙われてジ・エンドです」
そもそもメタを張るというのが、それ専用のパーティー構成になるからやり方もそれに特化してしまう。
クローディアの疑問はもっともだけど、ボスフィールドのなかで一番安全なのってタンクのカバーエリアなんだよ。
「専用の棺桶を作るように指示を出す」
「あ、棺桶の中にはマナポーションを固定できる棚を作っておいてください。魔力切れだけは避けないといけないので」
「細かい指示書をあとで作ってくれ、それを基にする」
「わかりました。後ついでに棺桶の中で戦う方法も書いておきますね」
「ああ」
実際この戦法ってNPC護衛クエストでは結構重宝していた方法なんだよな。
頑丈な前衛系のNPCならよかったけど、魔法系のNPCって回復役攻撃役問わず防御力が紙なんだよ。
そういう奴に限って死んだら終わりというクエスト内容だから、それを防ぐための戦法が編み出された。
それが棺桶というわけだ。
正確には棺桶じゃなくてロッカーみたいな箱だけど。
「次にアタッカー、これは弓一択ですね。それも大弓がいいです。連射力は落ちますけど、威力と射程が格段に上がります。アタッカーも二人です」
「弓か、風竜相手なら当然の選択か」
「それもありますけど、大弓って空飛ぶ相手に特効付与できる武器なんですよ。そこに火属性と対竜効果を付与すると、対空、火属性、対竜の三乗効果で風竜とか飛竜相手にとんでもない火力を叩きだせます」
レイド戦で俺も何度かそれを体験しているけど、実際タンク役は常に回復役を背中に張り付けているから不沈艦のごとき耐久力を見せつけるし、背中に回復役がいるからヘイトも集まる。
理にかなったと言えなくはない行動なのだ。
そして風竜の命を消す役である重要なアタッカー。
空飛ぶ風竜を仕留めるとしたら弓一択。
槍や剣などの近接武器でも仕留められないことはないが、レベルが足りていないという状況が加わると遠距離武器の方が都合がいいのだ。
標的を空から叩き落とすという作業が減る分効率が良くなるからだ。
「ほう、それほどの強さを出せるのか」
「少なくとも風竜を空から落として大剣を叩きつける手間がかかる方法よりは効果は見込めますよ。その分材料はかなり求められますが。最低でも古の魔樹木の幹と火の精霊石、魔銀で大弓を作ってください。これで火属性の大弓は作れます。ロータスさん大丈夫ですか?」
「素材の在庫はありますので問題ないかと」
「だが、それでは火属性の大弓になるだけではないのか?対竜の名を冠するドラゴンスレイヤーの素材は?それと対空攻撃の付与は?」
「竜殺しのエンチャントを付与する方法は簡単です。完成した武器に思念の石を合成してそのまま他のモンスターを倒さず、ひたすら竜種を倒し続けるだけです」
距離とは最大の物理防御になりえる。
攻撃が届かなければそもそもダメージが通らないし、攻撃が届くまでに回避する余裕が生まれる。
それゆえの大弓。
魔法という手段もなくはないが、魔法の場合はスキルを育てないといけないという手間もある。
弓兵なら公爵家に腕のいい人はいるだろうし武器を持ち替えるだけだからスキル習熟を省けるという点では時間はかからない。
そして肝心の竜殺しの概念だが、これについてはそこまで難しいものではない。
アンデッド、それもゴースト系が落とすアイテムの中で思念の石というのがある。
これは○○殺しというそのモンスターに特効を付与するために必要なアイテムだ。
この系統のアイテムにもランクがあり、思念の石は最下級の効果だが、それでも種族特効は驚異の五十パーセント増しだ。
「ということは、作った大弓で竜種を倒し続ければいいということか?そんなことができるのか?」
「そこで対空付与という部分が生きてきます。こっちは空の欠片と隕石を合成したアイテム。空堕の欠片を付与します。そうすれば対空特効がついている物ができます。それで火力は十分かと、あとは風竜を倒すためのパーティー編成ですし立ち回りを間違わなければ飛竜を狩ることは十分にできるかと、幸い飛竜に関してはダンジョンの中に唸るほどいますし」
その特効を得るために、あらかじめ対空特効をつけるための素材を付与する。
「そちらの素材も少量ですがございます。大弓二本分でしたらご用意できるかと」
「うむ、なら、問題なのは飛竜を倒すことか」
空堕の欠片はその効果を付与するための最下級素材だ。
最下級でも空を飛ぶ敵に三十パーセントの増加ダメージを期待できる。
火属性の大弓と対空効果で火力を増せば、飛竜にも十分にダメージを通すことはできるはず。
タンクとヒーラーで時間稼ぎをしているうちに飛竜を倒すというスタイル。
「リベルタよ、大弓に竜殺しの特効をつけるにはどれくらいの飛竜を倒せばいいのだ?」
「ざっと、百くらいですかね」
ネックなのは風竜との戦いに備えるために合計して二百の飛竜を狩らないといけないことかな?
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